北京オリンピック開催中の2008年8月7日、南オセチアにおいて、グルジア軍と南オセチア軍が軍事衝突。翌8日にロシアが軍事介入したことで、世界の注目が集まりました。グルジアとはどういう国なのか、どのような人々が暮らし、どのような歴史を持った国なのかを解説します。
■グルジアとは
グルジアは、コーカサス地方と呼ばれる黒海とカスピ海に挟まれた地域にある国です。面積は日本の1/5ほど。主な民族はグルジア語系グルジア人で、紀元前からこの土地で暮らしている民族です。宗教は主にキリスト教(グルジア正教)で、グルジアはアルメニアに次いで2番目にキリスト教を国教とした国です。グルジアという国名は、キリスト教の聖人「Georgius(ゲオルギウス)」に由来していると言われています。
■他民族からの支配の歴史とソ連解体による独立
黒海とカスピ海に挟まれた交通の要所に位置するグルジアは、つねに他民族から侵略を受け続けてきた歴史を持つ国でもあります。6世紀には西はビザンツ帝国、東はペルシアに征服されました。7世紀にはアラブ、その後数次にわたる外敵の侵入を経て、16世紀にはオスマン朝とサファヴィー朝により東西に分割。19世紀になるとロシア帝国に併合され、1922年ソ連邦結成に参加。91年にソ連邦が崩壊すると、共和国として独立しました。
■グルジアの実効支配の及ばない地域
グルジア国内には、ロシア国境に接して南オセチア自治州とアブハジア自治共和国という地域があります。どちらもグルジアからの独立を求めており、グルジアの実効支配が及んでいません。オセチアは、1920年代前半に南北オセチアに分割され、ソ連に吸収された後、ソ連崩壊時に、北オセチアは北オセチア共和国としてロシアを構成する連邦構成主体の一つとなり、南オセチアはグルジアの自治州となりました。
■北オセチアとの併合を望む南オセチア
今回の紛争の火種となった南オセチアには、イラン系民族で、キリスト教徒であるオセット人が多数住んでおり、同じオセット人が多く住む北オセチアへの併合を求める声もあります。その他の民族としては、グルジア人、ロシア人などが住んでいます。住民の多くはロシア国籍とパスポートを持っているロシア国民でもあります。1989年には、南オセチアの独立を認めないグルジアとの間で紛争に発展し、1992年、南オセチアは、国家独立法を採択します。その後、停戦合意(ソチ合意)が行われ、この合意に基づき、南オセチアに、ロシア、グルジア及びオセチアの平和維持部隊の派兵をすることになりました。
■南オセチアとアブハジアの連携
南オセチアと同じく、グルジアからの独立を求めているアブハジア自治共和国には、アブハズ人が多く住んでおり、その他にはグルジア人、アルメニア人、ロシア人などが住んでいます。南オセチアで軍事衝突が起こった際、アブハジアは、南オセチアとの相互援助合意に従い「断固とした措置」を講ずることを決定し、コドリ渓谷(アブハジア内のグルジア支配地域)奪還の構えを見せます。こうして戦火は南オセチアを越え、アブハジア及び両紛争地域以外のグルジア領内にも拡大しました。
■ロシアとグルジアの緊張関係
2004年にグルジアの大統領に就任したサーカシヴェリ大統領は、米国留学の経験もあり、グルジアのNATO加盟実現を目指し、親欧米政策を進めてきました。これに対し、CIS(独立国家共同体:ソ連から独立した国々の共同体)各国をロシア外交の最優先地域と位置づけているロシアとは、こうしたグルジアによるNATO加盟を求める動きに加え、以前よりアブハジアおよび南オセチア問題を巡り、緊張関係にありました。
■エネルギー資源をロシアに依存するグルジアの経済
グルジアの主要輸入品は、燃料、自動車、機械および部品、穀物、その他食料品となっており、輸入元はロシア、トルコ、ドイツ等です。主要輸出産品はくず鉄、ワイン、ミネラル・ウォーター、鉱石等で、主要貿易相手国はトルコ、アゼルバイジャン、ロシアなどの周辺国です。グルジアはロシアにワインとミネラル・ウォーターを輸出し、エネルギー資源の多くをロシアから輸入しています。このため、2006年3月にロシアがグルジア産ワイン、ミネラル・ウォーター、柑橘類の輸入を禁止したことにより、関連産業は深刻な打撃を受けました。
■欧州にとって重要なパイプラインが通るグルジア
グルジアは黒海を通じて欧州にアクセスがあり、トルコや北コーカサス地域にも隣接しています。グルジアの首都トビリシは、アゼルバイジャンからトルコにつなぐパイプラインの中継地であり、ロシアを通らずにカスピ海の石油やガスを、アジア、中東から欧州に輸送することができるため、欧州諸国にとって重要な拠点となっています(図1参照)
■日本とグルジアの関係
日本は、地政学的にもエネルギー安全保障の観点からもグルジアの安定的な発展を重視し、これまでもグルジアの市場経済化、民主化を通じた国造りを支援してきました。2007年2月には、在日グルジア大使館が開設され、09年には在グルジア日本大使館の開設も予定されています。今後、ますます様々な分野で交流を増やし、関係を深めていくことが期待されています。
■平和的解決を求める日本
今回の軍事衝突発生当時より、日本は、当事者が直ちに暴力を停止して話し合いを始める必要があり、グルジア領土の一体性は尊重されなければならないとの立場を表明しています。また、和平合意成立後は、合意を歓迎し、確実な実行を求めました。ロシアによる南オセチア、アブハジアの独立承認に対しては、国際社会の平和解決努力と相容れないとして遺憾の意を表明しました。
■日本は百万ドルの緊急支援
UNHCRによると 、この紛争によって、グルジア国内に10万人の避難民が発生。また、ロシアにも南オセチアから数万人に上る避難民が移動し、ロシア側の支援を受けています。日本はUNHCRを通じて、総額100万ドルの緊急無償資金協力を行うことを表明し、テントや毛布などの供与を実施しています。