意志の介在
第1話 陰る肝試し
夏休み明けの九月七日の月曜日。
少なくとも未成年が怯えて塹壕に篭り、あるいは生き埋め覚悟でシェルターに逃げ込む必要はない。いまだにニュースで「大和軍の生き埋めの犠牲者」という見出しのそれで、泥やコンクリが不自然に盛り上がったところや、マンホールの下から裡辺人の死体が見つかった、という報道がなされる。幸いといえることではないが、彼ら彼女らの親はとっくに死んでおり、悲しむ者が、場合によっては兄弟姉妹、あるいはその周囲で済んでいるのがなんとも言えない、悲惨な『それでも見つかってよかった』といえるものだ。けれど、そんな行いをした本土の者へ対する風当たりは、加速度的に強くなっている。それは愛国心と国民の結束にも現れる一方で、妖怪や、半妖以外の──純粋な人間思想を持つ大和人を排斥しようという過激な思想にも繋がっていた。
軍でもそういった、シビリアンコントロールがきいていない、俗にいう『タカ派』が徐々に台頭していると、なるべく穏便にことを進めたい中立の父が頭を抱えている。
けれど、それでも子供が普通に学校に通えるくらいには復興が進んでいるのは事実だった。もちろん、地域によっては未だインフラ整備さえも整っておらず、空爆された廃墟などが痛々しい傷跡をさらしていたり、そこで野生化した式神が徘徊する様子も見られる。式神はよほど舐めた真似をしなければ襲わないが、けれど位の高いものはプライドもあるために、『舐められた』という基準が少々異なる点がある。そのせいで下手に刺激し、被害に遭うこともある。
嫌な時代だ、と愚痴りたい。戦時中に比べればマシとはいえ、しかし如何ともしがたい、陰湿な嫌味っぽい時代だなと感じることが日に日に見受けられた。高校生にもなれば、普通はそういう不安とも戦うし、近い将来参加することになる政治の場における興味関心も、当然持つ。
父は「お前らが政治に興味を失えるくらいに平和にしたかった」と、一度だけ燈真に弱音を吐いた。きっとそれは、嘘偽りのない、軍人である父の本音なのだろう。悲惨な場を数々見て、吐き気を──実際に吐瀉物と涙と血を流したからこそ出てしまったものだ。
そんな、戦後半世紀の晩夏で、初秋。ひぐらしの鳴き声がどこからか木霊する。
涼しいといえる時期だろうが、それでも九月上旬は例年通り、未だに暑い日が続く。夜はなんとか扇風機で乗り切っているが、欲を言えば冷房を入れたいというのが本音だった。けれど電気エネルギーはもちろん、余裕があろうとなかろうと何事も無駄遣いが禁じられた家で育ち、それが普通である燈真には羽目を外すべきときと財布の口を閉める時のメリハリをつける癖がしっかりとあった。この辺りはお金の価値を重く受け取っている軍属の父と、
そんな中迎えた新学期から数日。燈真は夏休みの終わりになぜか神社で倒れていて、警察の厄介になるというそこそこの騒ぎを起こしていた。といっても誰かを傷つけたとかではなく、むしろ燈真が被害者としてのものだ。
基地にいた父からは「お前は高校生にもなって何してたんだ。まかり間違っても弱いものいじめなんてするんじゃないぞ」と静かだが厳しく言われて、心配性な姉からは「ほんとなにしてんのよ、この馬鹿は」と呆れ果てられて、母からは「全くもうこのやんちゃ坊主は……いつになっても目を離せないんだから」と安心のため息混じりに軽く頭を叩かれた。三人して似たようなことを言うあたり、やはり親子なのだろう。燈真自身も、我ながらなぜ神社で寝るという罰当たりなことをしたのかわからない。寺社仏閣の歴史には詳しくないが、それでも神社で馬鹿みたいに眠るというのがいかに失礼なのかくらいはわかる。
一体何があったのか……そう警察と家族から聞かれた際、変なものを見たような気がしたが、なぜかそれをいってはならない気がして黙っていた。巡査部長と名乗った三十代後半くらいの、現場で叩き上げられてきたタイプの刑事からは「それは本当だな?」と疑うように言われたが、知らないと言い張った。実際、本当にただの勘違いである可能性もあるのだ。
けれどあの白い狐──高嶺の花ゆえに浮いているような印象の少女が記憶にあって、それを思い浮かべようとするとなぜか腹が痛くなる。疼痛ともいうべきものだろう。なぜだろうか。空想の中の、昔読んだ小説の妖狐なのかもしれないし、奇妙な記憶も……多分本とか、そういうものだろうという気はするが。
「えーっと、今日の号令は……日直は、えー……ああそうだ、漆宮だな」
「えっ、ああ、はい。えっと、その……すみません、聞いてませんでした」
「どうした? お前がぼーっとするなんて珍しい」
周りも「どうしたの?」という顔をして、中には「風邪か?」という囁きがあった。担任が咳払いすると、静かになる。
「そういやお前、なんかぶっ倒れたって噂だが? それも神社で。神隠しじゃないだろうな」
帰りのホームルームで、担任の化け犬である男性教師が気遣うように、冗談混じりで緊張をほぐすように聞いてきた。燈真の神社昏倒事件は、クラスどころか学年でも知られていた。それこそ中学時代に家の周りでうるさかった不良グループ五人をたった一人で叩きのめした伝説……というか、今の燈真にしてみれば黒歴史でしかないそれは尾鰭を伴って知れ渡っているからだろう。そのせいで少し浮いていた春先は、どうクラスに馴染むかで大いに悩んだ。それは友人によって解決したので、今となっては問題でもないが、こうしてときどき噂が悪目立ちするのがちょっとだけ困り物だった。
漫画とかではこういう不良がもてはやされるものの、実際にはただただ肩身が狭いだけであるし、ああいった問題が起きた時に黙って通報する方が絶対に賢いだろうと身をもって学んだ。
「いやそれが……なんで俺が神社で寝てたのかわからないんです。……なんなんですかね、あれ。なんか……思い出せなくて」
「大丈夫かおい。まあいいや、漆宮、号令頼む」
「はい。起立、礼。さようなら」
クラスメイトが声をそろえ、さようなら、というと担任も丁寧に頭を下げる。
「アフターファイブは節度を持って楽しむように。あと、神社で寝ないように。お疲れさん、また明日。漆宮、お前はゆっくり風呂入ってしっかり寝ろ。いいな」
「はい……すみません、ほんと」
白衣を着た化学担当である担任が、無精髭を撫でながら出ていった。一見するとやる気がないように見えるが、ああ見えて生徒からは人望がある教師だ。かつて担任の父は軍医であり、彼自身も医師免許をとっている。その後何があって教師になったのかは知らないが、自分のペースで仕事をこなし、いざというときは生徒に親身に接する。
趣味は晩酌で、けれど一人でゆっくりと酒を飲むのが好きな公私共に落ち着いた男。ごく普通で親しみやすく、真面目でダンディズムかつユーモアがある──その上給料と待遇のいい公務員であるから、女性からはとにかく受けがいいし、生徒の中にも彼にアタックする者がいる始末だ。
燈真は本当になぜ神社で寝ていたのか疑問に思いながら、リュックを背負う。高校の入学祝いに姉が買ってくれたものだ。万能性が売りで、頑丈でスペースもあるが嵩張らない。それこそちょっとしたレジャーにも使える。その他のちょっとした贈り物も貰っていて、母からはウエストポーチとデジタル時計。父は「ほら、髭剃り。痛くねえぞ」と高価な電気シェーバーと保湿用のスチーム機器を買ってくれた。
ケチなくせに、こういう祝い事となると盛大にものを買う。いや、普段節約しているからこそ、祝い事の時にお金を使う余裕があるのだろうか。
「おい燈真、お前夢遊病だったか? なんだよ、神社で寝るって」
クラスメイトの一人、海外の血を引くハーフオークの少年が笑いかけてきた。十六歳にしては逞しい体つき。九〇キロ以上で、身長は既に一八〇センチ超え。平均的な体格である燈真と比べると、見るからに格闘家という見た目の柔道部員だ。一年でありながら夏の大会では大金星の活躍だったホープである。
「まさか。もしそうなら、家族が黙ってない。なんで寝てたんだろな。思い出せねえんだよ。ナルコプレシーってわけでもねえし」
もう一人の仲のいいクラスメイトが燈真の肩を優しく叩きながら、心配そうに声をかけてきた。
「もしかして狐に化かされたとか? いや、まさか。昔話の妖狐ならまだしも、今時の本物の妖狐にそんな悪さするやつなんていないしね……。僕はそれこそ、こう、先生が言ったみたいに神隠し的なのかなって思ってさ」
ずく、と腹が痛んだ。筋肉痛に近い。……なんでだろう。
彼は別の友人で、担任と同じ種族の化け犬だ。人懐っこい顔をしていて、誰とでも仲良くなるし、こう……するっと懐に入ってくる愛嬌がある。燈真もそれにやられたクチだ。学園祭では女装させてやろう、だなんて悪巧みがちらほらある、まあ、可愛い少年だ。
「どうしたの? なんか、悪いもの食べた?」
痛みが腹に走ったというのが顔に出たらしい。何かに化かされた──そんな言葉がいやに尾を引く。燈真は後頭部を掻いて、
「わかんねえ。なんか……でも、変なもん見たような……うーん、なんだっけ……」
思い出せそうで思い出せない。なんだったのだろうか、本当に。悩めば悩むほど
「でさ、それはいいんだって。お前ら、東にある
ハーフオーク──
「うん。独立戦争の時に建てられて、確か二十年くらい前に閉鎖された記念病院やつでしょ? それが?」
「いや、出るんだと。幽霊ってのが。野良の式神とかかもだけどさ、見てみないか?」
式神とは、何らかの手段で調伏した『妖怪に分類されない、何某かの
「やめとけって。住居だとかなんとかの不法侵入になる。警察にパクられるぞ、お前。勾留ってだけでもほんとに参るからやめとけって」
「経験者は語る、ってか?」
「うるっせえな。いいか、冗談じゃねえんだよ。スポーツの殴り合いと、相手を仕留めようっていう、そんなことを本能で思っちまう殺し合いは違う。レギュレーションなんてないんだぞ」
燈真がそうやって注意するも、勇治は「ばれねえようにするんだよ」などと言う。こいつは本当に頑なで強引だ。大人しく忠告を聞いた試しがない。呆れて放っておくかとも思ったが、数少ない友人を見捨てるわけにもいかない。燈真は少し悩んで、「わかったよ」と折れた。いざとなれば、それこそ半グレ程度なら燈真がどうにか追い払えばいい。
ただ本当に幽霊だったり、神社で見たような気がする、あんな奇妙な影であればどうすべきか。……具体的にそれをどうすべきか、という明確な答えはないが、燈真は最悪自分を犠牲にするくらいの覚悟はいるだろうと判断した。
その様子をクラスにいた少女が鋭い目つきで見ていた。生真面目だが普段からあまり喋らない、文学少女。背が高く、黒い髪を長く伸ばしていた。地味で、それこそ幽霊のような印象である。きっと、不真面目で不謹慎な燈真たちに嫌悪したに違いない。
そんなことに気づくこともなく燈真はリュックを背負い直し、友人と「じゃあ、六時くらいに集合な」というやりとりをして教室から出ていった。
×
「ゲーセン? まあいいけど。誰と?」
「勇治と安人と、あと安人の幼馴染の子。つまりいつもの面子で。晩飯は多分、その辺ですますけど……ちゃんと門限の十二時までには帰ってくる」
漆宮家では高校から門限はなし。けれど燈真は神社昏倒事件のおかげで九月中は日付が変わるまでに帰ってこいと言明されていた。それでもかなり甘い罰則だが、自主性と責任感を培うことこそが一番の学びだと言うのが父の一貫した教育方針だった。けれど、そういったペナルティが課せられたのは事実であり、そんな中廃墟へ肝試しに行くなんて言えば、絶対に止められる。燈真は嘘も方便……というのを曲解していると自覚しつつも、ゲームセンターに遊びに行くと言っておいた。
両親は若者の火遊びにはある程度の理解がある一方、行為に及ぶ際には避妊をしっかりしろ、馬鹿げたことで手を挙げるな、人様に迷惑をかけるな、というのを徹底させていた。行為も何も恋人がいないんだよ、と父に噛み付いたら、電話口に大笑いされた。冗談抜きで引っ叩いて髭と髪の毛を全部むしり取ってやろうかと思ったのはここだけの話である。
姉が心配そうに視線を巡らせる。燈真はそれが鬱陶しくて、スニーカーを履きながら手で追い払った。
「もう十六なんだよ。いつまでも小学生扱いしないでくれ。姉貴こそ、俺の心配する前に自分の心配しろよ。もう二六なんだろ、結婚願望あるって言ってるじゃん。彼氏は?」
「ケツ蹴り回すぞ愚弟。……ったく。あのね、あんたが三十になっても四十になっても、私の弟ってことに変わりはないんだからね。……いい、ちゃんと帰ってきなよ。お父さんもお母さんも、口ではうるさくてもやっぱり我が子だし色々心配で──」
「うるっさいな。もういいってそういうの。いい加減うんざりだ。鬱陶しいんだよ。ほっといてくれよ。苛立つな。……いってきます」
いい加減姉の過保護にも腹が立つ。心配してくれるのは嬉しいし、ありがたいことだとは思う。けれど、はっきり言ってありがた迷惑だ。家族の老婆心は、反抗期であり思春期である燈真には耐え難いストレスだった。
こっちがまだ幼く、それこそ小学生相手ならまだしも、もう高校生だ。
十六歳と言うのは、お国柄にもよるが裡辺においては世間的には大人である。法的にはさておき、周りからはもう大人としてみられる年齢である。それこそ罪を犯せば警察によって刑事裁判で罰せられ、少年法とはいえ法的な処罰を受けるのである。
そうやってデメリットだけを大人レベルにしておきながら、大人として責任を持つ上での自由や楽しみ、時間の使い方だけは子どもとしてのそれに遵守させるのは大間違いもいいところであるというのが燈真の考えだった。無意味な責任感を押し付けられて、対価が得られない──それが身についてしまえば、働く義務だけで報酬がないと刷り込まれ、仕事に身が入らず気づけば就職浪人だなんて有様だ。
自由とは義務を責任をもって履行して果たしておいて、その上で権利を得て行使するものだ。燈真はそのように解釈している。
だからそれが破綻したものを押し付けられると、無性に腹が立つのだ。
そんなことを内心愚痴りつつ、まだ「いってらっしゃい」などと微笑む姉に背を向けた。家から母の「気をつけてね」という声が聞こえたがそれさえも腹立たしい。燈真は半ばやけくそ気味に家を出る。
今は、家族の優しさがあまりにもムカつく。無償の愛だとか、我が子への可愛さだとか、弟を大切にしたいだとか──馬鹿馬鹿しい。
二階建ての普通の家で、大きくも小さくもない。土地価格の安い桜花町にある一軒家。父の仕事を考えればもう少し立派な家を建てられたかもしれないが、両親はあまり派手好きではない。しつこいが親は、特に母が節制するタイプなのだ。両親二人の親が──燈真の祖父母は戦時中に生きていたからだろうから、その子供である父と母は当然、あの時代の厳しさを教えられていた。だから戦争をリアルタイムで経験した祖父母の孫である燈真も少しケチなのは同じだ。
というか、そもそも目立つのはそんなに好きではない。不良グループを一掃したのは、うるさくて寝られなかったというだけで、それ以上でも以下でもない。羽虫が集れば殺虫剤を撒く。夏になったら蚊取り線香を焚く。そういうことだ。そんな普通のことを武勇伝のように吹聴するつもりなど一切ない。その後の勾留期間の精神的拷問を思えば、あんなものを自慢げに語ることがいかに馬鹿げているかがわかる。身を守る技能としての体術は立派だが、他人を攻撃し傷つけるための体術などゲログソだ。
九月の午後五時半は、決して暗くはないが既に空は朱色。待ち合わせは徒歩二十分ほどのバス停だ。そこでバスに乗って東の
半世紀前の独立戦争の際に、傷痍軍人や戦災によって傷ついた人々を治すため建てられたと言われている。のちに終戦記念のために改築されるも、二十年ほど前に廃れて閉鎖されたというのがことの経緯である。閉鎖に至った主な理由としては森の中という立地の悪さゆえであるというのが有力な説だ。
戦時中は敵に見つかりにくいと言うメリットが大きかったが、戦争が終わるとアクセスの悪さから受診希望者が減り、また患者も交通の便が多い場所へ移ったのである。だが中には医者がサイコキラーだった、なんていう安っぽいホラー小説のような噂が閉鎖理由であると流布されているのも事実で、それと亡くなった軍人たちの怨念云々というものだ。恐らくはそれこそが幽霊騒ぎの原因だろう。
馬鹿馬鹿しいと一笑に伏すことは簡単だが、燈真には十日ほど前の神社の光景がフラッシュバックしてしまう。あの時確かに、何かを見たのだ。それが一体なんだったのか……それがもやのようなものに覆われていて思い出せない。けれど、関わってはならないものだという自覚はうっすらとだがあった。小説の内容であったかも……そんなバイアスが、なぜか薄らいでいく。まるで、何かが紐解かれていくように。
バス停のベンチに座っていると、「お、なんだかんだ言ってもお前が一番乗り気じゃん」と勇治が現れた。それから彼の後ろで安人が手を振った。安人の隣には、彼が幼馴染であると言っていた少女がいる。通っている高校は違うが、燈真たちの一年上で、化け猫の
「どうも。……乗り気も何も、お前らが誘ったんだろ。さっさと見に行って帰るぞ。今俺、日付変わる前に帰らないと親がうるさいし」
「ん、ああ……神社のな。どーせなんかの虫を見間違えたとか、そんなだろ? 幽霊とか、ありえねえって」
勇治はなんだかんだでリアリストだ。多分、彼の周り──柔道部でこう、変な噂が流れていてイラついて、それで売り言葉に買い言葉で確かめてきてやるみたいな流れになったに違いない。頑なな勇治の性格を考えれば、そうなった上で引き下がることなどすまい。燈真と安人を誘ったのは、恐らくは証言してくれる第三者が必要だから。燈真以上に武闘派の勇治が一人でいることにビビることなどまずありえない。
「でもさ、僕……こういうことって言うべきじゃないかもだけどさ……。嫌な予感がする時ってあるんだ。小さい頃から。それで、その……」
安人が口籠る。燈真は自分の顎を撫でて、
「いいから言えって。どうしたんだよ」
「……僕が中学二年の時、川辺を車で通って……そこを見た時僕、すごく嫌な予感がした。そしたらさ、家に帰ってテレビつけたら……僕らが通った後で小さい子が二人、あそこで流されて行方不明っていうニュースがやってた」
普段どちらかといえば気弱で、物静かな方である安人が急にこんなことを言うと、寒気がした。勇治がそんなことを言っても『どこのサイトだよ』とツッコミを入れて流していただろうが、なぜか安人の言葉は軽く受け流せない。
燈真は内心少し脅かされつつ、冷静を装う。それこそあの神社に立ち寄る前に、変な暑さがどうの、というメールをしてきたのも安人なのだから。
「あの……私も、気をつけたほうがいいかもって。安人もだけど、私も似たようなことがあって、それで今日のことを安人に相談してたの。まさか、本当に行く子がいるなんて思わなくて、それで無理やりついてきて……」
「え、ああ。でも……そんなの偶然だろ。ありえねえ。……あんなの、夢にきまってる」
「あんなのって、なんだよ」
「……いや、……なんでもない。見間違えだ」
決めつけとすら言える独白。遠くから響いてくるバスのエンジン音を聞いて、燈真はかぶりを振った。
「なんでもいいから、行くぞ。さっさと済ませて帰ろう」
そう言って、燈真を先頭に、四人の若者は停車したバスに乗り込んだ。
「どーでもいいけど、晩飯は言い出しっぺの馬鹿が奢れよ」
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