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良い記事を書く3つのコツ『誰よりも、うまく書く』

良い記事を書くコツは3つある。

 ①読みたくなるようなタイトルにする
 ②最初の文を読んだら、次を読みたくなるように書く
 ③次を読んだら、もっと読みたくなるようにして、最後まで読んでもらう

そんなことは分かっている。知りたいのは、最後まで読んでもらうには、具体的に何をどう書けばよいのか?

その答えは、物書きのバイブルである本書にある。

『誰よりも、うまく書く 心をつかむプロの文章術』は、全世界で150万部売上げ、50年近く読み継がれてきたロング&ベストセラーの文章読本だ。ライター・記者・作家志望が必ず紐解くノンフィクション・ライティングの名著とされている。

一読すると、すぐに分かる。最後まで読んでもらう文章を書く上で、必須のこと、NGのこと、ネタの探し方、書き方、推敲の仕方、お手本がそろっている。

ブロガーの端くれとして、このテの本は、さんざん漁ってきたつもりだった。だが、それでも沢山の気づきが得られたので、いくつか紹介してみよう。

どんな立場から書くのか

これは、書き始める前に答えを決めておく必要がある。

ある題材を記事にするとして、それを、自分(=書き手)がどんな立場から語り掛けようとしているのか、という質問だ。

  • 記者としてか、その道のプロとしてか、あるいは、一般人としてか
  • どんな代名詞、時制を使うのか(≒無個性な報告調か、個性的でくだけたものか)
  • 題材に対してどういう態度をとるのか(深くかかわるのか、距離をおくのか、皮肉っぽくあしらうのか)

これらを練っていくと、「この記事は、誰に向けて書くのか」も一緒に考えることになる。知らない人向けに解説するのか、既知なのに意外な事実を暴露するのか、あるある話として共感を集めるのかを考える。

すると、文の調子や用語選び、一文とパラグラフの長さ、最終的には構成のアウトラインまで決まってくる。その題材を知らない人向けに紹介するのなら、なるべく興味を惹きそうなトピックを冒頭に持ってきたり、専門用語の後に例え話を添えるなど、文章そのものが変わってくる。

ほとんどの形容詞と副詞は不要

これマジ。わたしは開高健から「文は形容詞から腐る」と教わったが、本書でも釘を刺してくる。

文をリッチにするため、形容詞を加えたくなる気持ちはわかる。だが、やるほど逆効果になる。

例えば、「茶色い土」や「黄色いスイセン」など、よく知られた目的語の色をわざわざ書く必要は無い。文章が無駄に長くなるだけだから。

形容詞を使うことは、その目的語に書き手の価値判断を加えることだ。だから、書き手の価値判断が、読み手と似たようなものになるのなら、その形容詞は冗長になるだけだ。削れ。

その上で、名詞単独だと、自分の価値判断が伝わらないのであれば使えばいい。どうしてもスイセンを価値判断したいなら、「けばけばしい」のような形容詞を選ぶべきだ。

同じことは副詞にも言える。

動詞と似た意味の副詞を加えると、文章は乱雑になり、読者をうんざりさせる。「ラジオが喧しくがなり立てる」がダメなのは、「がなり立てる」の中に「喧しさ」が含まれているから。「歯をきつく噛みしめる」がダメなのは、「噛みしめる」中に、「きつく」が入っているから。

さらに、限定子も消せという。「いささか」「少しの」「一種の」「ある意味では」といった言葉だ(※)。書き手が見たこと、感じる、考えていることに条件を付けるこうした言葉は、文体を薄め、説得力を弱めてしまうという。

かっこ( )に括れ

では、どうすればよいか?

無駄なセンテンスを削って、読みやすい文章にするには、具体的にどうすれば良いか。本書には、沢山の方法が紹介されているが、わたしにとって白眉だったのは、かっこ( )に括る方法だ。

完全に削除するのは精神的にダメージがくる。だからいったん、役に立っていない構成要素を全て、かっこ( )に括る。

分かり切った形容詞「(高い)摩天楼」や、動詞と同じ意味を持つ副詞「(楽しそうに)微笑む」、文を薄める修飾語「(いささか)分かりにくい」、無意味なフレーズ「ある意味」を丸ごとかっこ( )に入れてしまう。

さらに、一文全体を括ることもあるという。前文のくり返しだったり、読者が知る必要のないことが書かれていると、丸ごとかっこに入れられる。

推敲前の第一稿は、だいたいの場合、半分に削っても情報や著者の声が失われることはない

本当か!? と思うかもしれない。でも本当だ。なぜそう断言できるかというと、わたし自身がそうしてきたから。

自分の文章が良くないことに気づく人はほとんどいない。過剰さや曖昧さがどれだけ自分の文体に忍び込み、どれだけ自分の伝えたいことを邪魔しているかを誰も教えてくれないからだ。

かっこに括るのは、なくても意味は通じることを、自分自身の目で確認するため。自分の文章を組み立てなおす前に、徹底的にそぎ落とし、縮めることをお薦めする。

また、お手本となるノンフィクションが大量に紹介されており、わたしの既読 or 積本リストに照らし合わせても、鉄板でお薦めしたい(以下ほんの一部をご紹介)。

  • ステ ィーヴン・ジェイ・グールド『パンダの親指』
  • オリヴァー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』
  • フランク・マコート『アンジェラの灰』
  • ウラジーミル・ナボコフ『ナボコフ自伝 記憶よ、語れ』

他にも、「ユーモアをいつ、どのように使うか」「上手な終わらせ方」「受動態の使いどころ」など、記事を書く上で役立つ手法が並んでいる。

わたしがよく使っている「面白いことに~」という前フリはダメだという。面白いことがあるなら、もったいぶらずに、さっさと書け、というわけ。

サマセット・モームは、「書くことには3つのルールがあるが、それが何なのか、誰も知らない」と言った。3つに限るなら、冒頭の①②③だ。増やしてもいいなら、本書をお薦めする。


※文中では、以下の英単語が並んでいる
a bit, a little, sort of, kind of, rather, quite, very, too, pretty much, in a sense

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