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「私は『くら寿司』をパワハラで提訴する」従業員から悲痛告発が続々

「週刊文春」編集部

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「10年以上勤めてきて、数々のパワハラを受けてきました。『死にたい』『消えたい』と思ったこともある。それでも会社に変わってほしくて交渉をしてきました。しかし結局、何一つ変わらなかった。私はくら寿司を提訴します」

 こう語るのは、大手寿司チェーン・くら寿司の現役従業員である。

 4月1日、山梨県甲府市にある「無添くら寿司」で店長を務めていた中村良介さん(仮名・享年39)が店の駐車場で焼身自殺するという事件が起こった。

中村店長が乗っていた車

 小誌はこれまで2度にわたり、死の背景に上司のパワハラがあったこと、生前の中村さんが〈死ぬことばかり考えて仕事してる〉などとツイートしていたこと、くら寿司社員が遺族を「文春さんとかに喋るんやったら訴えますよ」と恫喝したことなどを報じてきた。

生前に投稿していたツイート

 くら寿司は東証プライムに上場する回転寿司業界の最大手企業だ。国内外の店舗数は567、従業員数は社員・パート・アルバイトを合わせると、1万8524名にのぼる(2021年10月末時点)。

 中村さんの焼身自殺は、くら寿司の従業員、元従業員たちに衝撃を与えた。

「私もパワハラを受けました」。小誌編集部には今、こうした告発が続々と寄せられている。

「小突かれることなんか日常茶飯事。ミスをすれば暴言を吐かれたり、無視されたりもします」

 こう語るのは、元社員のAさんだ。2009年に新卒で入社。東日本エリアの店舗で勤務していた。

 Aさんが振り返る。

「10年頃、千葉県にある店舗で働いていた時のことです。オープン直後で本社の偉い人が大勢来ていました。その中で役職が最も高いシニアマネージャーが、店が“やられている”ことに激怒し始めたのです」

 “やられている”とは、くら寿司の社内用語で「50件以上の注文が15分以上続いて客を待たせている状態」(同前)を指す。シニアマネージャーは部下のマネージャー二人を「何やってんだ、アホ! なんとかしろ!」と叱責。すると、

「マネージャーの一人が、盛りつけの汚い寿司を手に取って『なんでこんなのを握らせてんだ!』と、皿ごと私に投げつけてきたのです。くら寿司の社員は、自分のすぐ下の部下を暴言で追い詰める。その部下はさらに下の人間を責める。こうしてパワハラが連鎖していくのです」(同前)

 11年、Aさんは埼玉県の店舗で店長に就任。そこでもパワハラに苦しんだ。

「上司のスーパーバイザー(SV)に『殺すぞ』と頻繁に言われていました。私は新人店長で業務に慣れていなかった。ある時、SVを怒らせてしまった。罵声を浴びせられ、襟首を掴まれてバックヤードの裏口まで引きずられました」(同前)

 Aさんは長野県の店舗に異動したが、結局、17年末に退職を決意する。

「当時は『外食業界はパワハラが多い』と思って耐えていました。感覚が麻痺していたのです。精神を病んでいたと思います」(同前)

 Bさんは高校時代にくら寿司でアルバイトを始め、その後、正社員となった。19年に退職するまで西日本エリアで計6年間勤務したが、上司のパワハラに悩まされ続けたと語る。

「宮崎県の店舗に副店長として勤務していた17年のことです。バイトの不手際でボヤが発生しました。たまたま店長は不在。私が責任者としてお客様を避難させ、消防に通報しました」

 店長に電話で状況を説明すると、

「テメエ、何してんだよ! 死ねやカスが!」

 と罵声を浴びせられた。

「適切に対応したつもりでした。でも、店長は店の運営に支障が出たことにキレていた。その後、店長は店に来て、消火剤が撒かれた店内を見て『お前どうするんやこれ? 責任取れや』と怒鳴られました」(同前)

 18年にBさんは福岡県の店舗に店長として赴任することになった。

「19年、県内の別店舗に応援で出勤していた時のことです。その店舗の店長は経験が浅く、私も20代の店長。そこに上司のSVがやってきました」(同前)

 店舗は忙しく“やられている”状態。それを見たSVは「いい加減にせえや。どうにかしろ!」と作業台を叩いて激高。そして、

「ハサミを私に投げつけてきたのです。作業台に磁石で貼り付けてあるケースごと投げてきたのですが、刃は剥き出し。従業員を大事にしない会社に未来はないと思い、その年のうちに退職しました」(同前)

「殺すぞ」は脅迫罪の可能性も

 訴訟を準備している人物もいる。

「私にパワハラをしてきた上司個人とくら寿司本社の二者を被告として、夏までに数100万円の損害賠償を求める訴状を出す予定です」

 こう明かすのは、冒頭の現役従業員Cさんだ。勤続11年目。くら寿司の埼玉事務所に勤務するパートの事務スタッフである。

訴訟を準備中のCさんが勤務する埼玉事務所

 弁護士同席のもとで取材に応じたCさんが語る。

「私は入社当初から『勤務時間を延ばして社会保険に加入させてほしい』と訴えてきました。しかし、ずっとその要望は放置されたままなのです」

 くら寿司の場合、パートの社会保険加入は「週20時間以上の勤務」等が条件。埼玉事務所の採用サイトにも〈希望すれば加入できる〉と明記されている。Cさんより後に採用されたパートの多くも加入している。なぜ自分だけ加入できないのか。Cさんが上司に聞くと、

「社会保険には“枠”があるんだ。今それが一杯だから、あなたを加入させることはできない」

 と一蹴されたという。Cさんが語る。

「納得がいかなかったので、18年に労務を管理する部署に問い合わせたところ、『社会保険の枠などありません』と説明されました。上司は私を加入させないために、ありもしない理由を述べていたんです」

 問い合わせをした日の帰り道、Cさんは上司に「ふざけんなよ、クソ!」と怒鳴られたという。

「なぜ私だけ加入させてもらえないのか。以前、同僚の暴言等に悩んで労基署に相談したことがあったので“要注意人物”としてマークされていたのかもしれません。私について複数の社員が『辞めるように仕向ける形でいいですよね』と話しているのを聞いたこともあります」(同前)

 Cさんは一時期、心療内科に通うほど追い詰められたという。その後、上司は異動し、別の人物がCさんの上司になったが、

「今の上司も『(前の上司と)やり方を変えるつもりはない』と明言しています。もう待遇改善は見込めないので、訴訟に踏み切ることにしました」(同前)

 元従業員や従業員が受けた数々のパワハラ被害についてくら寿司本社に聞くと、

〈ご照会の事項には、既に当社と係争中の案件に関するものも含まれておりますので、ご回答は差し控えさせていただきます〉

 などと回答した。

 ブラック企業に詳しい働き方改革総合研究所代表の新田龍氏はこう指摘する。

「部下を罵倒したり、物を投げつけるのは悪質なパワハラです。特に『殺すぞ』や『死ね』といった発言は脅迫罪として刑事罰に問われる可能性もある。また、従業員が希望しているにもかかわらず社会保険に加入させないというのは、上場企業として言語道断です。

 従業員が安心して職務遂行できる職場環境とは到底言えません。ブラック企業の特徴にいくつも当てはまっています」

 小誌には、今もなお被害を訴える声が届いている。

 

source : 週刊文春 2022年5月19日号

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