スパコンのシミュレーションでもマスクの効果を確認

マスクの効果については、スーパーコンピュータ世界ランキング第一位に輝いた「富岳」を利用したシミュレーション研究[注6]も進行しています。

これは、理化学研究所チームリーダー/神戸大学教授の坪倉誠氏らによる「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」と題された研究で、感染者のマスク着用によるウイルス排出抑制効果と、非感染者のマスク着用によるウイルス吸入抑制効果が検討されています。

「感染者がマスクを着用した場合」のシミュレーション結果によると、綿相当の手作り布マスクは、飛沫(エアロゾルを含む)をキャッチする能力が他より劣りますが、不織布マスクと手作り布(ポリエステル相当)マスクの比較では、どちらも8割を捕集しており(捕集した全飛沫の体積に占める割合で計算)、布マスクでも、素材を選べばウイルス放出を抑制する効果を期待できることが示されました。ただし、より細かいエアロゾル粒子は、どちらのマスクでも全体の40~50%程度は漏れてしまうことが示唆されています。

続いて、「非感染者がマスクを着用した場合」のシミュレーション結果では、呼吸6秒後に体内に取り込まれる飛沫(エアロゾルを含む)粒子の数は、不織布マスクを着用すれば、マスク着用なしの場合の3分の1程度に抑えられる、としています。

ただし、20μm以下の飛沫(エアロゾルを含む)に対するマスクの効果は限定的で、マスクをしていない場合とほぼ同数の飛沫を喉の奥まで吸い込んでしまうことが示唆されました。したがって、ウイルスの侵入を抑制するためには、マスクをしていても換気を行い、周囲に存在するウイルスを含むエアロゾルを減らすことが重要であると結論づけています。

「コロナ慣れ」で迎える冬、加湿と換気も忘れずに

マネキンを用いた実験でも、スパコンによるシミュレーションでも、一般市民のマスク着用は感染拡大の予防において有用であること、それでも換気は必要であることが示されました。

これから冬に向かって気温と湿度が下がると、新型コロナウイルスが感染性を維持する時間が延び、ウイルスを含む飛沫が空気中を漂う時間が長くなります(参考記事:新型コロナウイルス 「夏に弱い」は本当か?)。なんとなく誰もが「コロナ慣れ」しつつある今日このごろですが、パンデミック当初の緊張感を取り戻し、マスクの着用と手洗いに加湿と換気を加えて、引き続き注意していきましょう。

[注6]坪倉誠. 室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策

[日経Gooday2020年11月6日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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