1)「両者マスクなし」で25cm、50cm、100cmの距離に設置した場合

結果:距離が離れるにつれて吸入ウイルス量は減少しましたが、100cm離れていても感染性を持つウイルスの吸入は起こっていました。

以下の実験はすべて頭部間の距離を50cmに固定して、「両者マスクなし」だった場合に吸入側が吸入したウイルスの量(つまり、感染者と非感染者がマスクなしで向き合い、感染者が軽くせきをした場合に、非感染者が吸い込むウイルスの量)と比較しました。

2)「ウイルス吸入側のみマスク着用」の場合

結果:吸入側(非感染者)がマスクをすれば、吸入するウイルスの量は減少する傾向が見られました。つまり、非感染者の日常的なマスクの着用が、ある程度有効であることが示唆されました。N95というのは、医療現場で用いられる、フィルター性能の高いマスクのことです。

3)「ウイルス排出側のみマスク着用」の場合

結果:排出側(感染者)がマスクを着用すると、綿マスクであってもウイルスの吸入を有意に減らせることが明らかになりました。

4)「排出側がマスク(布マスク、またはサージカルマスク)を着用」し、「吸入側はマスクなしまたは各種マスクを着用」した場合

結果:両者がマスクをすれば、吸入されるウイルスの量が安定して減少することを示しました。

ウイルス量を増やしても吸入側のマスクの効果を確認

著者らはさらに、排出されるウイルス量を200倍または5分の1に変更して、「排出側はマスクなし、吸入側は各種マスクを着用した状態」で実験を行いました。その結果、ウイルス量が増えても吸入側のマスクの効果は引き続き認められました。

ウイルス量を減らした場合には、吸入されたウイルスのRNAは検出されたものの、吸入側の条件にかかわらず感染性を持つウイルスは検出できませんでした。現実の世界において実際の感染者から発せられる呼気に含まれているウイルスの濃度は明らかになっていないため、この程度の量を吸入した人がウイルスに感染するかどうか、また、発症するかどうかは不明です。

今回の研究では、個々の条件について3回しか実験を行っていないため、数値にはばらつきが見られました。加えて、「両者マスク着用なし」の場合を参照として比較しており、マスク間での比較は行われていないため、布マスク、サージカルマスク、N95マスクの間に見られた効果の差が統計学的に有意かどうかはわかりません。

それでも、綿製の布マスク、サージカルマスク、N95マスクはすべて、感染性のウイルスを含む飛沫/エアロゾルの伝播をある程度防ぐ効果を持つこと、感染者がマスクを着用すれば、周囲の人が吸い込むウイルスの量を減らすのに役立つこと、そして、周囲の人がマスクをすることでも、ウイルスの吸入を抑制できることが示されました。ただし、N95マスクを隙間なく装着したとしても、ウイルスの侵入を完全には防げておらず、マスクをしているからと安心せずに、換気などの追加の予防措置を取ることも重要だと考えられました。

サージカルマスクってどれのこと?

 実験に用いられた「サージカルマスク」ですが、厚生労働省は「日本では特に法的なサージカルマスクの呼称や性能に対する規定はない」としています[注5]。全国マスク工業会は、家庭用マスクをガーゼタイプと不織布タイプに分類し、医療用マスクはサージカルマスクと呼んでいるそうです。

 一方で、米国の医療用マスクの基準は、細菌ろ過率(BFE)や微粒子ろ過率(PFE)などが一定の基準を満たすもの、となっています。したがって、日本で一般に市販されている不織布マスクで、BFE、PFEが95%以上と表記されている製品であれば、フィルター機能においては、米国の基準に基づくサージカルマスクとほぼ同等と考えられます。

[注5]松村芳美. 日本における産業用防じんマスク、医療用マスク及び家庭用マスクの実態
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