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【短編版】Sランクパーティの器用貧乏な俺は追放され、念願だった国家錬金術師となり、田舎で店を開きたい

作者:茨木野

連載候補の短編です。


「アルス。悪いがおれらのパーティから抜けてくれ」


 それは冒険から帰ってきたある日。

 王都にある酒場のとある一画にて。


 俺……アルス・マグナはパーティリーダーであるブレカスから追放を言い渡された。


 ブレカス。金髪に厳つい顔つき。職業ジョブは勇者で、国内随一の剣の使い手として名高い。


 Sランク冒険者パーティ【黄昏の竜】のリーダーだ。


 そんな突然の追放宣言に……俺は驚きはすれど、戸惑いはなかった。


 一方で同席した【彼女】は何か言いたげだった。俺は目線を送り、首を振る。


「訳を聞こうか」

「わかってるだろ……おまえがパーティ内で、一番必要じゃないからだ」


「必要じゃない……? それはおかしい。きちんと貢献しているはずだぞ」


「ふん! 何が貢献してるだ。アルス……おまえ、パーティ内で、何してるよ? え?」


 ブレカスからの問いかけに俺は答える。


「道具の管理、マッピング、戦闘支援、回復、回復補助、斥候補助、魔法補助それから……」


 俺がこのパーティでやっていることを、数えだしたらきりが無い。


 だがブレカスは小馬鹿にするように鼻を鳴らして言う。


「どれも全部補助じゃねえか。いらないんだよ、おまえなんて」


 いいか、とブレカスが言う。


「戦闘は勇者のおれと、聖騎士のパラディ。斥候は盗賊のレンジア、回復は聖女のクラリス。後衛は魔法使いのマギィ、とそれぞれスペシャリストがいる」


 確かに、うちのパーティの前衛後衛はトップクラスの実力を持つ。


「だからこそ、中衛で、前衛と後衛の補助を行ってきたつもりだが?」


「けっ! てめえの活躍なんざ目立たなくて、何やってるのかわからねえよ。ノラ錬金術師の、アルスくん?」


 ノラ錬金術師……耳が痛い言葉だ。

 この世界において、錬金術師とは国家資格を持った専門職のことを指す。


 正式に錬金術師として魔道具、ポーション等を作成し、売るためには資格が居る。


 しかし俺は……平民の出身。しかも……。


「おまえの職業ジョブ……なんだっけ?」


「ない」


「そうだよな。おまえ、誰もが職業ジョブをもらえる世界で、無職ノージョブだもんな」


 この世界では誰でも、女神様から、職業ジョブと呼ばれる特別な力を授かる。


 勇者の職業ジョブを手に入れれば、凄い剣術と魔法が使えるようになる。聖女の職業ジョブは回復術を……。


 とまあ、こんな具合で職業ジョブの恩恵を受けることで、将来が決まるような世界なのだ。


 そんななかで、俺は職業をもらえなかった……いわゆる、無職ノージョブだ。


「たしかに俺は無職だ。だが、師匠から錬金術を学んだ。おまえらの戦闘が有利になるように立ち回っていた。これは事実だ。そうだろう、みんな?」


 だがブレカス以下、聖騎士パラディも、盗賊レンジア魔法使い(マギィ)もみな、首を振る。


 そんななか、ただ一人、聖女のクラリスだけが何か言いたげな顔でいた。彼女は気が弱いから、発言できないでいるようだが。


「とにかくだ。おまえのようなパーティに何も貢献してない人間を、これ以上いれておくわけにはいかない。出て行け……そして、二度とクラリスに関わるな」


 ……なるほど。


 俺はその発言だけで、なんとなく、なぜ追放されたのか理解してしまった。


 聖女クラリス。このパーティ唯一の女。さらさらした金髪に、豊満なバスト。シミ一つない真っ白な肌に、愁いを帯びた青い瞳。


 まあ、美しい女だ。前々からブレカスはクラリスに惚れているのが、同じパーティにいてひしひしと伝わってきた。


 クラリスと俺が仲良くしているのが、気にくわなかったのだろう。まあ、別に俺はクラリスと個人的な付き合いはあれど、男女の仲ってわけではなかったのだが……。


    ★



「あの……発言いいでしょうか」


 聖女クラリスが手を上げて言う。


「どうしたんだい、クラリス」


 俺の向ける険しい視線から一転、勇者ブレカスはクラリスに優しいまなざしを向ける。だがその瞳にはどことなく性欲が見え隠れしている。


 具体的に言えば、クラリスの豊満なバストにロックオンされていた。勇者だけでない、パーティメンバーたちの視線が皆、彼女の胸へと集まるのだ。彼女は嫌がるそぶりを見せる。だが、言う。


「アルスさんがパーティを抜けるの、反対です。だって……彼はパーティにものすごく貢献してくれてるじゃないですか」


 このパーティで俺の価値を認めてくれるのはクラリスただ一人だ。


 他の連中は、彼女が俺を持ち上げるとみな嫌な顔になり、舌打ちまでする始末。


「クラリス。このパーティにおいて彼は最も要らない存在だ」


「そんなことありません、ブレカスさん。アルスさんはいつも、わたしたちにはできない細かい仕事をしてくれてます。道具の調達や武器の調整、戦闘面でも補助を……」


「クラリス。それは、雑用っていうんだ。雑用係なんてうちにはいらない。誰だってできることだから」


 ……まあ、確かにブレカスの言うとおりではある。俺のやってるのは所詮雑用で、誰でもやろうと思えばできることだ。手間を惜しんでやろうとおもえばな。


「でも……」

「もういいだろクラリス。彼をなぜそこまでかばう?」


「そ、それは……」


 クラリスとは個人的な付き合いがある。彼女は俺の友達だから、かばってくれているのだろう。


「ちっ……」「……くたばれよ」「…………」


 盗賊レンジア、魔法使い、聖騎士の三人が俺をにらんでくる。


「なあパラディ。あんたも俺の追放に賛成なのか?」


 パラディはこのパーティの最年長者だ。

 聖騎士で堅物の彼も……?


「ああ。ワタシは君は出て行くべきだと思う」


 ……そうか。この人もクラリスにぞっこんという訳か。


「これでアルス追放に賛成4。反対1。悪いがアルス出て行ってくれ」


「そんな! 酷いです! アルスさんは……」


「クラリス。もういい。かばってくれてありがとう」


 俺はブレカス以下、パーティメンバーたちを見渡す。


「世話になったな。だが……俺の出て行った後は大丈夫なのか?」


「ふん、問題ない。優秀な付与術士エンチャンターを一人、サポート役としてスカウトしてきた」


 ブレカスが得意げに言う。


「付与術士……か」


「そうさ。物体に魔法を付与したり、我らの力を向上させる能力を持った優秀なサポーターだ。道具を使わないと、補助すらできないどこぞの無能とちがってなぁ」


 ……その通りだ。俺のやってることはスキルや魔法で代替できるもの。付与術士が入ってくるのならなおのこと、俺は不要だろう。


「了解だ。じゃあなブレカス。達者でな」


「ああ、アルス。今までご苦労さん。二度とその面見せるんじゃねえぞ」


 最後の最後まで、なんて言い草だ。まあもう俺に取っちゃどうでもいい。


 追放されたのなら良い機会だ。俺は……俺のやりたいことを始めるとしよう。


    ★



 追放された後、Sランクパーティ【黄昏の竜】の所属するギルドハウスにて。


「ぽよ!」

「おー、ぷにちゃん。ただいま」


 足下に半透明の流動体がいて、こちらにやってくる。

 この子は一見すると赤いスライムに見える。だが彼女は人工生命体ホムンクルス


 師匠のもとで修行しているとき、俺が初めて作り出した生命体だ。


 ぴょん、とぷにちゃんがジャンプすると、俺の手のひらの上に乗っかる。


 冷たくてぷにぷにしてて気持ちが良い。


「ぷにちゃん、引っ越すことになった」

「ぽ?」


 なんで、と首をかしげる。


「まあ色々あってな。部屋の中のもの、全部吸収よろしく」

「ぽよー!」


 彼女は命があり、知性がある。そして特別な機能を俺が組み込んである。


「すぅ……こぉーーーーーーーーー!」


 ぷにちゃんが大きく口を開くと、ごぉお! とものが吸い込まれていく。


 テーブル、本棚、大量の資料。

 それらが手のひらサイズのぷにちゃんのなかに入っていく。


 彼女の体の中は異界化させている。端的に言えば質量を無視して物を出し入れ可能ということだ。


「けぷ」

「よしよし、よくやったぞぷにちゃん」


 彼女のおかげで、引っ越しは楽々だ。

 雑多に散らばっていた物があっという間に片付いた。


「やっぱりぷにちゃんは最高の助手だぜ」

「ぽよ~♡ ぽ? ぽぽい!」


 ぴょん、とぷにちゃんが俺の手のひらから飛び降りて、扉に張り付く。


 ん? なんだ……。

 こんこん。


「どうぞ」

「失礼します……きゃ♪ ぷにちゃん」

「ぽーよー!」


 入ってきたのは聖女のクラリスだった。

 ぷにちゃんはクラリスの豊満な胸に、頬ずりしている。


「きゃっ。ぷにちゃん今日もぷにぷにで気持ちいいですね~♡」

「ぽーよぽーよ♡」


 ふたりは結構仲良しなのだ。

 毎晩彼女は俺の元……というより、ぷにちゃんに会いにやってきてる。


「今日も来たのか」

「ええ……その、ぷ、ぷにちゃんともう会えなくなりますし、最後の挨拶にと思って……け、決してその、逢い引きにきたわけじゃないのであしからず……」


「? わかってるけど」

「……そですか」


 ……勇者ブレカスのやつ、俺を追放した理由ってもしかしてこれじゃないか?


 クラリスは毎晩、ぷにちゃんに会いに俺のところに来てる。だが事情を知らぬブレカスからすれば、俺に会いに毎晩部屋に来てるって誤解してしまったのかも知れない。


 実情を知らないから、まあ仕方ないっちゃ仕方ないが。


「ぽよ!」

「はいはい、ぷにちゃん。今日もクッキー作ってきましたよ♡」


「ぽーよぽーよ♡」


 クラリスがポケットからクッキーを取り出し、ぷにちゃんに差し出す。

 しゃくしゃく、とぷにちゃんはご機嫌にクッキーを食べていく。


 この子は保存と消化を使い分けられるのだ。

 ぷにちゃんはクラリスお手製クッキーを楽しみに、一方でクラリスは……


「はあ~♡ このぷにぷにが、たまりません……♡」


 とぷにちゃんのぷにぷにの感触を味わっている。利害が一致してるといえばいいか。まあそうでなくとも彼女たちは仲が良い。


「あの……アルスさん」

「なんだ?」


 クラリスが目を伏せて言う。


「ほんとうに……行ってしまうのですか?」


「そうだな。もう引っ越しの準備は終わったし……それに、ここに留まる理由もついさっき無くなったわけだから」


「……そうですか。……夢を、追い求めるんですね、やっぱり」


 俺はベッドに腰を下ろす。

 クラリスが、俺の真横に座った。


 ……まあ家具などは他に撤去したから、そこにしかすわれないが。しかし妙に近くないか、距離が?


「ああ。俺は夢を追い求めるよ」

「……国家錬金術師、になるでしたね」


「その通り。正確に言えば、国家錬金術師になって、自分の工房……店を持つことだ」


    ★



 俺の部屋にて、クラリスが最後の挨拶に来た。


 俺は自分の夢、自分だけの店を作る夢を語る。


「そもそも……お店を開くのに、どうして資格が必要なんです? やりたいなら勝手に、店舗でも借りてやればいいのに?」


 聖女クラリスは、夢の内容を知って入るけど、錬金術師の事情は知らないようだ。


「この世界じゃ、錬金術を商売にするんだったら、国家資格が必要なんだよ。ほら、錬金術って錬成……石を金にしたりするだろ? 経済を混乱に招きかねない。だから、国が資格を発行することになったんだ。錬金術師として看板を出すなら、国に認められる必要がある」


 国王名義の錬金術師国家資格がないと、違法ということでしょっ引かれる世の中なのである。


「では、最初からなぜ国家資格を取ろうとしなかったのですか? 冒険者なんてやらずに」


「でも資格をとるにゃ、金がいるからさ。まず大学に入って数年間、勉強する。で、錬金術師国家試験をパスして、初めて国家資格がゲットできる」


「なるほど……大学に通うのも、お金がかかりますものね」


「そういうことだ。俺は平民出身で、親も早くに死んじまった。金もコネもない。そんな状態で、受験費用を稼ぐとなると、大金を稼ぐ手段は、冒険者しかなかったってわけだよ」


 もちろん師匠から金を借りる、ということもできた。だが【彼女】は流浪の人。今はどこで何をしてるかわからない。金を借りるわけにはいかないし、したくない。


「錬金術で、金を作って売るのは……?」


「それこそ、御法度だよ。許可もないのに金や人を作るのは違法なんだ」


「まあ……しがらみが多い職業なのですね」


 ちなみに国家錬金術師の指導のもと、人工生命体を作るのはアリだ。金もまたしかり。


「大学入試、そして6年間の学費。合計して金貨2000万枚」


「にせ……!? そ、そんなに……かかるものなのですか?」


 金貨1枚で、まあ単身者の一ヶ月の食事代

くらいだ。


「年間金貨250万枚。それが6年間。プラス大学入試にかかる500万枚。さらに国家資格を受験するときには、プラスして1000万枚。登録料に2000万枚」


「ご、合計で……金貨5000万枚」


 息をのむクラリス。


「金のかかる職業だろ、錬金術師って」


「そうですね……これじゃ、平民はなれないのではありませんか?」


「そりゃね。だから錬金術師は、貴族様の仕事ってのが相場だ。でも……あいつらは平民の人たちを、ないがしろにしやがる」


 ぷにちゃんを手招きする。

 彼女の頭をぐっ、と押す。フラスコに入った赤い液体が出てくる。


「これは回復ヒールポーションだ。飲めばたちまち体力が回復する優れもの。いくらだ?」


「確か……金貨1万枚」


「そう。こんなの実は、作るのに銅貨数十枚分でほんとなら作れるんだよ」


「なっ!? そ、そうなのですか……」


「ぼったくりだろ? だが……そうやって足下見てやがるのさ。貴族連中は、金儲けのためにな」


 軽食一食ぶんくらいの安い金で、回復ポーションは作れる。だというのに、あいつらはめちゃくちゃ高値で売るのだ。


 ぷにちゃんの頭を撫でる。

 今度は緑色のポーション。


「続いてこれは解毒ポーション。こいつは金貨10万枚。毒を直すだけでこれだ。……こんなの、おかしいだろ」


 知らず、フラスコを握る手が強くなる。


「俺は決めたんだ。国家錬金術師になって、平民に、安価に、ポーションを売るんだって。誰もが、簡単にこの素晴らし技術を、享受できるようにしたい」


「どうして、そうしたのです?」


 ……そういえばクラリスには言ってなかったな。


「……俺の村は、流行病でみんな死んじゃってよ」


 俺がまだ五歳の頃。

 村では謎の奇病が流行った。


 それを治す薬を買いに、俺は王都までやってきた。

 王都で売ってるポーションなら、直せるだろ……と。


「だが……あまりに、高かった。村の人たちが危ないんだってうったえても、錬金術師たちは……貴族連中は、売ってくれなかった。……結局全滅さ、俺以外」


「そんな……」


 母さん、父さん、弟……村のみんな、死んでしまった。


 ポーションが、高すぎたから。

 平民じゃ手が出せないから。


「だから決めたんだ。俺は……誰もが買える、安価で使いやすいポーションを作るんだって」


 あの日の後悔が、今の俺を動かしている。


 国家錬金術師になって、店を作りたいのも……。


 すべては、俺のような悲劇を繰り返さないため。この世界の、ポーションが高くて買えないような、貧しい人たちのために。


「俺は……錬金術師になりたいんだ」


    ★



「わかりました……アルスさんが、そこまで錬金術にこだわる理由が」


 俺の部屋にて、聖女クラリスがうなずいて言う。どこか、諦めたような顔をしていた。


「お金の方は貯まったのですか?」


「ああ、なんとかな。貯まったのはつい先日だけど」


「金貨5000万枚……さぞ、ご苦労なさってでしょうに」


「ん。まあな。でも節約してなんとか手に入ったよ」


 Sランク冒険者パーティは、実入りがいいからな。と言ってもこの黄昏の竜、元々はDがそこらの中堅パーティだった。


 俺のポーションなどのおかげで……いや、まあそれはもうどうでもいいか。


「本当は……わたしも……アルスさんの……」


 クラリスが切な総なめで俺を見てくる。


「ん? どうした?」


「いえ……なんでもありません」


 すっ、とクラリスが祈りを捧げる。


「どうか、この先あなたに、幸せが訪れんことを」


 俺のこの先を案じてくれてるのか。

 確かに、平坦な道のりじゃない。


 まず大学入試がある。そこでふるいにかけられる。


 続いて六年間の大学生活。周りは貴族連中だ。そんななかで、平民は俺だけだろう。当然浮くだろうし、いじめにもあうだろうと思う。


 そこを理解してるから……クラリスは俺を案じてくれてるのだ。


「ありがとう。そうだ……餞別やるよ」

「餞別……?」


「ああ。ぷにちゃん」

「ぽよ!」


 ぐにぃ、とぷにちゃんの体が分裂する。


 本体よりは小さいが、赤い小さな球体になった。


「わぁ……! 綺麗……これは?」

「豆ぷにちゃん。ぷにちゃんの分身さ。これを通して、俺と会話できる」


「まぁ! すごいですね!」


 遠く離れてても、俺と会話できるようになる。もっとも離れれば離れるほど、必要となる魔力量はかかるんだが。


「あと豆ぷにちゃんにはサポート機能のほか、収納機能もある。いろいろポーションとか、アイテム入れておいたから活用してくれ」


「こんな……希少なもの、譲って頂いて……悪いです……」


 優しいやつだなこの子。


「いいさ。俺と……ぷにちゃんと仲良くしてくれたお礼だよ。悪かったな、俺のせいで、周りに誤解させてしまって」


「誤解……?」


「ブレカスのやつが、おまえのこと狙ってるんだよ。でもあいつ俺とクラリスが付き合ってるって、変に誤解してるみたいでさ」


「なるほど……」


 クラリスが浮かない顔になる。


「……わたし、苦手です。ブレカスさん」


「そうなのか?」


 パーティ内では、クラリスはブレカスはじめ、他の連中とも上手くやってるように見えた。


「……あの人、わたしの胸ばかり見てくるんです。あのいやらしい眼が……苦手で……他の人たちも……」


 まあ確かにクラリスは結構男受けする体をしているからな。野郎どもの考えもわからんでもない。


「でも……アルスさんは違いました。戦闘中も、プライベートでも、わたしに優しくしてくれて。だから……そんなあなたが……」


 ぎゅっ、自分の体を抱きしめるクラリス。俺を見上げて何かを言おうとして……でも、口を閉じた。


「……わたしのエゴで、あなたの夢を邪魔するわけにはいきません」


「ん? どうした?」


「いえ……頑張ってくださいね。夢……応援してます!」


 俺の夢を、馬鹿にしないで彼女は応援してくれる。錬金術師にみんななりたがる。だが話を聞くと、大抵、金のためにやってる連中が多い。


 俺が安価なポーションを、広めようという夢を語ると……たいてい、馬鹿にされる。なんでそんなもったいないことを、馬鹿じゃないのか……と。


 でも……この子は違う。事情を知った上で、それでも応援してくれた。俺は……そんな彼女が……。


 いや、駄目だ。


「おまえも、頑張れよ。聖女として、たくさんの人を救いたいんだろ?」


「……はい。がんばり、ます」


 俺たちは街の外まで一緒にやってきた。


「これから、どちらへ向かわれるのですか?」


 街の入り口にて、彼女が聞いてくる。


「学園都市を目指す」

「学園都市……たしか、南西にある、様々な大学の集まる都市でしたね」


「ああ。何かあったら、俺を訪ねてくれ。困ったことがあったらその豆ぷにちゃんを使ってくれ」


 クラリスは目を伏せて微笑む。


「……何から何まで、ありがとうございました」


「いや、こっちこそ。かばってくれてありがとな。それじゃ」


「ええ、それじゃあ」


 こうして、俺たちは別れる。彼女はパーティに残り、俺は一人、学園都市を目指す。


 街道を一人歩いていると……。


「ぽよ! ぽーよ!」


 肩に乗ってるぷにちゃんが、俺の頬をぐりぐりしてくる。


「え? クラリスをどうして誘わなかったのかって?」


「ぽ!」


 そうだ! とばかりに強くうなずくぷにちゃん。この子、クラリスと仲が良かったから、一緒に来て欲しかったのだろう。



「駄目だよ」

「ぽ?」


「俺の夢に……あいつを巻き込むわけにはいかない。あいつには、聖女としての……夢があるからさ」


 多くのけが人を救いたい、この聖女の力で。彼女がいつもそう言っていた。夢。


 貧しい人のために店を持ちたい俺と、確かにかぶる部分もある。だがそれでも、あいつと俺は別の夢を……道を歩いている。


「俺の道に巻き込むわけにゃいかないだろ?」


「ぽよぉ……」


 でも、それでも一緒にと言いたいらしい。


「まあ……俺も未練がないわけじゃない。でも……無理矢理、俺から誘うのは、やっぱりためらわれるよ」


 もし自分から、あの子が来てくれたら……俺は多分、受け容れると思う。


 でもまあ、それはないか。


「いこうぜぷにちゃん。錬成!」


 俺はぷにちゃんに手を向けて、錬金術を発動させる。


 ぱり……! と赤い錬成反応が起きると、ぷにちゃんの質量が増大し、形も変わっていく。


 あっという間に、ぷにちゃんは幌月馬車へと変化した。


 彼女は人工生命体ホムンクルス。

 その素材は、どんなものへも変質が可能という、チート性能の素材だ。


 錬金術……石を金に、水をポーションに。つまり質量を保ったまま、形態をいじる技術。

 石は、石の属性を持ったものに、水は、水の属性を持った物にしか変形できない、通常なら。


 だが俺の使う錬金術は少々特別で、水の属性を持つぷにちゃんを、馬と馬車に変えることもできる。


「さ、いこうぜ。目指すは学園都市」

「ぽよー!」


    ★



 アルスが出て行った、その日の夜。


 Sランクパーティ、黄昏の竜のメンバーたちは、酒場にて集まっていた。


「アルスの代わりのメンバーを紹介するぜ。付与術士エンチャンターの【ロエナ】だ」


「……どうもよろしく」


 ロエナは、真っ白なフードに、仮面をかぶった、背の高い人物だった。


 声の感じからして、女の子だろうかとクラリスは思う。


 うれしかった。やっとパーティに、自分以外の女性が入ってくれたことが!


 アルス無き今、このパーティは彼女以外男ばかり。みんなクラリスの体を狙ってており……正直、居心地が悪かった。


 すっ、とロエナが自分の隣に座る。


「……よろしくお願いしますね、ロエナさん。仲良くしてくださるとうれしいです」


「……よろしくどうも」


 ロエナは素っ気なくそう言う。

 他のメンバーたちは、ロエナにさほど興味なさそうだった。


 それはそうだ。顔を仮面で隠している。体は、白いマントを頭からすっぽり隠していて、よくわからない。


 だがマント越しとはいえ、その起伏の少ない体つきは、どうやら男どものお気に召さなかったようだ。


 ロエナという女性メンバーが一人加わったところで、依然として、このパーティの花はクラリスと言えた。


「さてと。んじゃさっそく冒険に……」


 と、そこでロエナが手を上げる。


「……ちょっといいかしら」


「なんだ、ロエナ?」


 じっ、とロエナがパーティメンバーたちを見渡して言う。


「……あなたたち、本当にSランクパーティなの?」


「「「は?」」」


 ロエナの発言に、戸惑うブレカス一行。


「どういうことですか、ロエナさん?」


 クラリスの発言に、ロエナが言う。


「……先日のあなたたちと比べて、今のあなたたちは……とても弱体化してるように見えるわ」


「弱体化だぁ?」


 不快そうにブレカスが顔をしかめる。


 不機嫌さが声ににじんでいた。気の弱いクラリスは萎縮してしまう。


 だがロエナは堂々とブレカスを、仮面越しだがまっすぐに見て言う。


「……私にはわかるの。あなたたちの強さが……。どうみても、最初にあったときと比べて力が落ちてる」


 ロエナが自分の仮面にふれながら、パーティメンバーたちを見回す。

 その言葉には、やけに確信めいたものを覚えた。


 一方でブレカスはそんなロエナの発言が気に食わなかったらしい。


「はぁ? んだよそれ。そんなわけねえだろ、でたらめ言うな!」


 そうだそうだ、とブレカスたち、男たちはうなずく。


「……あら、そ」


 ロエナはそれきり黙りこくってしまう。

 クラリスは……不安になった。


「……あの、ロエナさん。弱体化って本当なのですか?」


 小声で耳打ちをする。ロエナはこくんとうなずいた。


「……明確なステータス下降が見られる。というか、今までが、ステータスにバフをかけたのかもしれないわ」


「バフ……」


「……誰かが彼らを強くしていたってことよ。でもあの様子じゃ、誰も気づいてないようだけど」


 ……クラリスには思い当たる節があった。


 アルスだ。

 彼は冒険の前に、みんなに手製のポーションを振る舞っていた。


 みんな苦いから嫌いだとは言っていたけど、体調が良くなるからと言って、しぶしぶ飲んでいた。


 もし……もしも、あのポーションが、みんなのステータスを上昇させていたとしたら?


 その彼が……居なくなってしまったとしたら?


「……アルスさん」


 彼女の右手の薬指には、赤い宝玉の収まった指輪がある。


 アルスが作ってくれた、豆ぷにを加工した指輪だ。


 思わず彼にすがりつきたくなる。……だが、やめた。


(アルスさんは、夢を追う第一歩を踏み出したばかり。わたしの事情で、彼の足を引っ張りたくない。……しばらくは、我慢しよう)


 だが……クラリスの不安は見事的中することになる。


 彼を理不尽に追い出したことが、大いなる禍となって返ってくることになるのだが……。


 それは、先の物語。

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