東京都は、保健所を持たない多摩地域と島しょ部の市町村に対し、希望に応じて感染者の個人情報を提供する方針に転換した。都個人情報保護条例を踏まえ、これまで提供してこなかったが、夏場の感染者激増を「災害級」ととらえ、条例の目的外提供が許容される事態だと判断した。主に自宅療養者の見守りや迅速な食糧支援のため、市町村と協力して取り組む。
都内の保健所は、23区と八王子市と町田市が自前で運営するほかは、都の管轄だ。感染者の爆発的な増加で特に自宅療養者への保健所の目配りが追いつかなくなり、問題となっていた。多摩地域の多くの自治体が食料配布など独自支援に乗り出したものの、個人情報がないため、申請を待っての提供しかできなかった。
都の方針転換は、7日にあった都議会の特別委員会で明らかにされた。吉村憲彦福祉保健局長は「自宅療養者が急増し、きめ細かな支援が必要。地域の力を活用することも重要だ」と答弁。市町村への意向調査を踏まえ、療養者の個人情報共有をはかると説明した。
都防疫・情報管理課によると、感染者の個人情報は「最もセンシティブ」なもの。だが今夏の感染者激増を受け、個人情報保護条例の部署と提供可能かを検討してきたという。国も8月下旬以降、都道府県に通知を出して市町村との連携を促してきた。目的外提供には原則、感染者個々の許可が必要だが、それがなくても可能な状況と判断した。「スピード感を持ちつつ、できるところからやりたい」(同課長)という。
当面は目的外提供で対応するが、いずれは、先行事例の神奈川県のように市町村と個人情報の取り扱いについて覚書を交わすなど、環境を整える方針だ。
◇
都の方針転換を、多摩地域の自治体はどうみているのか。9月から「自宅療養者支援センター」を立ち上げ、支援態勢を拡充した武蔵野市の今井隆文・安全対策課長は「療養者に向けて個別にサービス周知が可能になる」と歓迎する。意向調査には、名前や住所、連絡先などに加え、発熱した日や療養開始日、PCR検査を受けた医療機関の情報提供を希望した。「かかりつけ医のない自宅療養者と地域の医療機関をつなぐことが重要」と話す。
課題もある。1日あたりの市内の感染者数は現在10人前後に減ってきたが、ピーク時には70人を超えていた。今井課長は「冬にまた増えることも想定される。態勢を含め、対策を講じておかないと」と話す。
調布市の長友貴樹市長は「市内での感染状況を把握したり、必要な生活支援につなげたりできる。具体的な活用方法については、今後、保健所と調整を図りながら検討していく」とコメントした。(井上恵一朗)
新型コロナウイルス最新情報
最新ニュースや感染状況、地域別ニュース、予防方法などの生活情報はこちらから。[記事一覧へ]