『第69回NHK紅白歌合戦』の傾向は? “平成最後”の出場者から浮かぶ3つのキーワード

 最後のキーワードとしては、「歌詞」を挙げたい。

 やはりなにかと世間の注目が集まるのは、初出場組だ。いまふれたDAOKOもそうだが、ジャニーズから今年デビューし、CD売り上げも好調なKing & Prince、2018 NHKサッカーテーマ「VOLT-AGE」が話題になったSuchmos、念願の「紅白」出場となった男性ムード歌謡コーラスグループ・純烈、それにアニメ『進撃の巨人』のオープニングテーマで共演したYOSIKI feat. HYDEとバラエティに富む。また別枠ではあるが、企画コーナーで登場する2.5次元ミュージカルの刀剣男子と声優ユニット・Aqoursも近年「紅白」出演が続くアニメ・ゲームカルチャー関連の代表ということで、出演発表と同時にSNSでも早速大きな盛り上がりを見せていた。

 そうしたなか、異彩を放つ初出場組があいみょんだ。最新シングルが日本テレビ系ドラマ『獣になれない私たち』の主題歌に起用されたことでも話題を呼んだシンガーソングライターである。

 そんな彼女の音楽を語るうえで欠かせないのがフォークの影響だ。むき出しのストレートな感情を過激な比喩表現で綴った歌詞が放送自粛になったこともあったほどだが、それはまさにかつてのフォークにも共通する言葉への強いこだわりが彼女にあるからだ。インタビューなどでは、小学生の頃に見た映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の挿入歌「今日までそして明日から」を聞いて吉田拓郎が好きになったことを告白したりもしている。

 音楽受容の仕方が多様化し、誰もが知るヒット曲が少なくなったことはいまさら繰り返すまでもない。最近の「紅白」に対する不満も、「知っている曲がない」というようなものが多い。もちろんそれぞれの世代でヒットしたり話題になったりする曲はあるのだが、それ以上広がっていかない。

 先ほどふれた復活組の各世代に配慮したような顔ぶれには、そうした世代間のギャップを埋める意味合いがひとつあるだろう。だがもうひとつ、世代を問わず視聴者を惹きつけるために有効なのは歌詞の力ではなかろうか。

 ダンスパフォーマンスや最新テクノロジーを駆使した演出などの比重が増している最近の「紅白」。それは時代の趨勢であり、実際見応え十分でもある。しかし、すべてのひとに見てもらうことを目指すほぼ唯一の音楽番組となった「紅白」にとって、こころに響く歌詞を歌うアーティストもまた、世代間ギャップを超えるために必要不可欠だ。あいみょんはその可能性を秘めた存在だろう。彼女の歌声、そして歌詞が初めて聞く世代の視聴者にどう響くか、注目したい。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。



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