二人のレナリア
お待たせしましたー!
(これも調べなくてはな)
どうしても、レナリア・ダチェスの姿がちらつく。
ダチェス男爵家は、爵位も領地も返上している。レナリアはそれより前に勘当扱いでダチェス性はないが、二人のレナリアを分けるために便宜的に付ける。
レナリア・ダチェスの記憶は忌まわしい不快感と共にあった。
ジュリアスはあの媚びた甘ったるい視線と、ねっとりとした高音。薄っぺらい愛を囁きながら、見下している。可愛がられて、愛されて当然と思っている振る舞いが心底嫌いだった。愚鈍で驕慢で大嫌いなのだ。
こちらの白いレナリアは今のところ男に媚びる様子はない。
背丈はだいたい同じだが、声は違う。レナリア・ダチェスが声音を使い分ける器用さを持っているとは思えない。
だが、魔道具には声を変えたり姿を変えたりするものはある。
(だが、ダナティア伯爵がそこまでしてレナリアを庇護する理由なんてあるか?)
答えはNOだ。
使い道としては、重犯罪者の彼女を即刻突き出すことだろう。
二人の王子を始め、多くの令息たちに媚薬を盛った悪女である。たくさんの令嬢たちに酷い仕打ちをしたし、恨んでいる家は多い。
(レナリア・ダチェスのように白いレナリアも愛の妙薬のようなもので、貴族たちを誘惑しているのか?)
しかし、あれは飲食させなければいけないのでハードルは高い。
学園での騒ぎもあって、信用できない相手から渡されたものを口にするのをためらう貴族は多いのだ。
初日の様子からして、コンラッドはアルベルティーナと接触するために癒しの力を持ったレナリアを連れてきただけかもしれない。
そして、その力が信用あるものだと証明するために、自派閥の貴族たちに気前よく振るっているという可能性もある。癒しの魔法は軽傷の治癒ならともかく、重傷になると途端にできる者が減る。
攻撃魔法に比べて治癒魔法の使い手は少ない。
魔力持ち自体は潜在的なのも含め珍しくないが、魔法を発動できるレベルとなると五人に一人以下になる。そしてその大半は基本となる火・水・風・土の四大元素である。治癒魔法は光・聖属性の魔法と特殊魔法の間に位置する。
光と聖は近いもので、光は精霊や自然による魔法で、聖は神々の力を借りる魔法だ。
この二つは攻撃魔法もあるが、他の属性と比べて治癒魔法を使える可能性が格段に高い。
その性質上、信仰深い神殿出身者が扱えることが多いのも特徴の一つ。
貴族の中にはだらけた生活で虫歯や通風、肥満や運動不足などの無精からくるからくる慢性的な不調や、節々の痛みを患っている者も多くいる。中にはお布施貧乏という、治療のために神殿に貢ぎ過ぎて赤貧になっている貴族もいるくらいだ。
(そういえば、アルベル様も治癒魔法を使えたな。結界属性と言うより、複属性よりなのか?)
攻撃魔法はからっきしだが、それ以外はかなり器用にこなす御仁である。
ふと、気になった。
最近アルベルティーナが結界魔法を使うところを見ていない。最後に見たのは、謁見の間が襲撃された時だ。
ラティッチェ邸にいた時は、ちょっとした台替わりに作っていた。過去に脚立から落ちたことや、使用人に重たい脚立を取りに行かせるのを気にしてか、そういう使い方をすることが多かった。単にすぐ取りたかったのもあるだろう。
アルベルティーナは王宮図書館や、宮殿の書斎――と言うより図書室と言う域――に足を運ぶことがあった。極端な低身長ではないが、一般的よりやや小柄な女性であるアルベルティーナにとって、手の届かない列の棚だってある。
(……気のせいだろう。ヴァニア卿に魔法を禁止されているんだ。あれから大分経ったが、体調は芳しくないことも多かったし、王太女と言う身分もある。それらしく振る舞うようになっただけだ)
謁見の襲撃時、同時に複数の魔法を使って多くの魔力を総動員させていた。そのせいで、アルベルティーナの脳は破壊寸前で、精神を蝕む直前なほど行使されていた。
ジュリアスが強引にやめさせたから、紙一重で回避された。だが、そのダメージは致命傷を免れても、重傷であることには変わりない。
自分の腕の中で、くったりと力を失い血の気の引いた顔で目を真っ赤にしているアルベルティーナを思い出す。
泣きながらやめない、止めないと必死に訴えていた彼女に判断が鈍った。
絆されている自覚はあった。次があってはならないが、その情が命取りになる。アルベルティーナは自分に対して無頓着だ。普段、我が身が可愛い保守的なところが多くみられるが、土壇場では何においても愛する他者を優先させる。
(危うい……王の器ではない。だが、この国に彼女以外に相応しいと言える人間がいない)
そんなアルベルティーナを守るために、無理な願いと承知してフォルトゥナに口利きを頼んだのだ。
ジュリアスの望みは宰相になることだ。アルベルティーナが病気や体調不良などで、政を行なえない場合に摂政に指名されるのは王配だ。
徐々にジュリアスが仕事を全て引き受けるようにして、アルベルティーナの負担を無くしたい。
アルベルティーナは権力に固執しないし、やりたいと言うだけで――と、一瞬思ったが首を振る。譲りはしないだろう。ジュリアスの重責を気にして、きちんと自分でやろうとする。
ジュリアスが国を牛耳って乗っ取るなど、考えもしないだろう。
もしそうしても、余程の横暴を尽くしたり身内に被害を与えたりしなければ許容する気がする。
まあ、ジュリアスの目的はアルベルティーナのであり、そのおまけにどでかい権力が付いてくるような形である。
放置すれば、アルベルティーナがそのプレッシャーに潰れるのが目に見えている。なので、それを上手く立ち回れるようにジュリアスが動けばいい。
ジュリアスの共犯者二人も同じだ。
そんな三人を見るジブリールの視線は据わっている。伊達に十年以上拗らせた初恋を持つ兄や幼馴染を持っているわけではない。
時々、その目は息子がオイタをしないか監視しているラティーヌと同じものになる。
先日、ギチギチに絞られながら全てを吐かされたことを思い出し、ぞわりと背筋を悪寒が這いずった。
読んでいただきありがとうございました!
GW!! やることが多いけれど、多すぎて手が付けられず普通に過ごしているダメ人間。
ようやくちょっと落ち着いてきたので、更新。
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