元々、日本人は「キレやすい」という国民性がある

 これにもいろいろな意見があるだろうが、筆者は日本人の「キレやすい」という国民性が大きく影響をしているのではないかと考えている。

 親の虐待死事件やスポーツの体罰事件などを調べていくと、頭にカッと血がのぼって手を上げて、気がついたらグッタリして死んでいましたというケースが少なくない。教師の体罰も「感情になってしまった」という理由が多いという調査結果がある。すぐに手を上げるのは、すぐにキレてしまうからなのだ。

 と聞くと、「日本人ほど温厚で気の長い国民はいないぞ、中国人などと違って、行列などにもちゃんと真面目に並ぶじゃないか」と反論される人も多いだろう。

 しかし、日本人がそういうセルフイメージを抱くようになったのは、せいぜいこの20〜30年前からの話だ。バブル期や高度経済成長期などは、日本人といえば、「せっかち」で「キレやすい」というイメージの方が一般的だった。「カミナリ親父」という言葉があったように、キレたら手がつけれないほど厳しく叱責するような大人がそこらじゅうにいたのである。そっちの方が伝統的な日本人の姿だった。実際、戦前の日本人は自他共に認める「短気な国民」だった。

 例えば、1918年に出版された石橋朝花氏の『紅き血の渦巻』(別所万善堂)のなかには、日本が大好きだというある外国人のこんな言葉が掲載されている。

「されど悲しい哉、日本人に一の欠点あり、それは短気なる事なり、日本人は短気な国民なり」

 また、1938年に出版された『青年将校と共に国家を語る』(赤松寛美/春陽堂)には、「勤勉」「忍耐」「正直」といった日本人の美点が並べた最後にこう結んでいる。

「我国民は、斯の如き幾多の美質を有するのであるが、若し其欠点を挙げれば、即ち短気なことである」

 こういう日本人の「短気」については、科学的にも説明できるかもしれない。「不安遺伝子」だ(参照)。

 人が不安を感じることに影響を及ぼす、セロトニンという神経伝達物質がある。この分泌量を左右するのが、「セロトニントランスポーター遺伝子」で、これが「不安遺伝子」と呼ばれるものだ。

 セロトニン分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」の2種類があって、これらを組み合わせた「SS型」「SL型」「LL型」という形で分類される。「SS型」の遺伝子が多いと不安を感じやすいと言われており、LL型の遺伝子が多いと楽観的になって、SL型はちょうどその中間である。

 この不安遺伝子を調べたところ、なんと日本人の遺伝子はSS型が65%と圧倒的に多かったという結果が出ている。SL型は32%で、楽観的なLL型はたった3.2%しかいなかった。ちなみに、アメリカ人の場合はSS型が19%で、SL型が49%、LL型が32%だったという。

 このような結果から、脳科学者の中野信子氏もこう仰っている。

「セロトニン・トランスポーターの数は遺伝的に決まっているのですが、この数が少ない人の割合が日本人は約97%と、世界的に見ても非常に高い。つまり、世界で一番不安になりやすい民族なのです」(お金のキャンパス 2019年3月22日)

「弱い犬ほどよく吠える」という言葉があるが、怒りっぽい人というのは実は何かに怯えていたり、不安を抱えていたりして、その弱さをごまかすために過度に攻撃的になっているケースが多々ある。

 ということは、日本人が暴力的でキレやすいというのは、「世界一不安になりやすい民族」ということも関係している可能性もゼロではないのではないか。