「子どもへの体罰は時に正しい」と考える人が依然として多い

 いろいろな考察があるが、ひとつには、日本人の「体罰は時に正しい」という伝統的な価値観が影響していると考えられる。

 実はアメリカでもウィル・スミスさんの騒動に関しては多種多様な意見があって、そのバラつきはその人のバックグラウンドによって左右されることが、世論調査会社ブルー・ローズ・リサーチによって明らかになっている。

 例えば、低所得者になればなるほど、ウィル・スミスさんは悪くないという考えをする人が増えていく。また、高齢者ほどウィル・スミスさんが悪いと考えるような傾向があるという。

 その中で注目すべきは、「子どもに対する体罰を肯定するか否か」である。なんと、子どもへの体罰を強く支持する人は、コメディアン側が悪いと考える割合が圧倒的に多いのだ。

 これは日本人にもピッタリとあてはまる。実は日本は「子どもに暴力を振るってはいけない」という先進国での常識に、かたくなに背を向けている国なのだ。

 表向きは、親の体罰を禁じた改正児童虐待防止法が20年4月に施行され、世界で59番目の「体罰全面禁止」を支持する国になった。しかし、これは完全に形骸化していて、施行後の20年度の全国の児童相談所が受けた児童虐待相談は、なんと20万5044件と過去最多だ。その中でも身体的虐待は4分の1を占める約5万件もある。

 なぜこんな典型的な「ザル法」になってしまったかというと、一部の日本人にとって体罰とは「正しい暴力」だからだ。

 2021年7月、国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが全国約2万人を対象に、体罰を容認するかと調査をしたところ、容認派がなんと41.3%もいた。2017年の56.7%よりも減ったとはいえ、「体罰全面禁止」という法律をガン無視する形で4割も体罰を支持しているのだ。

 子どもへの体罰というのは「正しい暴力」であって、「法律」などで規制されるような類のものではない、人として当たり前のことだと考えている日本人がかなりいるということだ。

 これこそ筆者が、在日ロシア人への誹謗中傷や嫌がらせが、この先もなくならないと考える根拠のひとつだ。

 在日ロシア人を「死ね」「ロシアへ帰れ」などと攻撃する人たちの頭の中で、これはプーチンを追いつめるための「正しい暴力」である。ウクライナを取り戻し、国際社会の秩序を守るためにやらなくてはいけない…という人として当たり前のアクションなのだ。だから、政府や他人から注意されても馬の耳に念仏である。

「体罰は正しい」と信じ、ウィル・スミスをヒーローと称賛する一部の日本人にとって、これはヘイトクライムなどではなく、「正義の戦い」なのだ。

 さて、そこで次に気になるのは、なぜ我々日本人は「暴力は良くないけど正しい暴力もある」というダブルスタンダード的な価値観が当たり前になったのか。