アップルのジョブズCEOが、Adobe Flashについて語る文章「Thoughts on Flash」 を公開しました。かつてDRMについて、また環境への取り組みについて語ったように公開書簡の体裁をとり、iPhone OSとFlashについて、アップルの立場と意見を表明する内容です。アップルとAdobeのかつての蜜月から始まり、iPhone OSのFlash排除について、6項目に渡ってAdobeへの反論と非対応の理由を述べています。全文はリンク先にありますが、ざっくりと要約すれば:

0. 前文

AdobeはFlashがオープン、アップルがクローズドだといい、iPhone OSのFlash非対応を技術ではなくビジネス上の判断だと主張する。これは正しくない。以下にAdobeがなぜ間違っているのか、そしてアップルが iPhoneでFlashを認めない理由について述べる。

1. 「オープン」について。

AdobeはFlashがオープンな技術であり、排除する iPhoneを閉じたシステムと呼ぶが、これは逆である。Flashは100%プロプライエタリな技術であり、将来どんな機能が含まれるか、また価格などはAdobeだけが決定する。ほぼあらゆる定義でFlashはクローズドな仕組みである。

対するアップルにもプロプラな製品は多い。しかし iPhone OSでは、ウェブについての標準はオープンであるべきだと強く信じている。このため、Flashではなくオープン規格のHTML5、CSS、JavaScript に対応してきた。どころか、今ではAndroidでもPalm でも採用するデファクト標準となったwebkit はアップルが開発した、オープン規格の描画エンジンである。

2. 「フルのウェブ体験」について。

Adobe はウェブ上の動画の75%はFlashベースであり、それが欠けているiPhone OSを不完全だと主張する。しかし実際には、そうした動画のほとんどすべてはH.264フォーマットでも用意されており、iPhone OSデバイスで再生できる。「ウェブ上の動画の40%を占める」(ジョブズ) YouTubeしかり、(すでに対応サイトやアプリを用意している) VimeoやNetflix、Facebook、メディア企業多数しかり。iPhone OSデバイスのユーザは見逃している動画はそうない。

またFlashゲームについては、iPhone OSで遊べないのは事実。しかしApp Store にはすでに5万本を超える「ゲームおよびエンターテインメントタイトル」があり、多くは無料である。

3. セキュリティと信頼性、性能について。

Flashにはセキュリティホールが多い。またMacがクラッシュする理由の一位はFlash。Adobeに協力してきたが、この状態は数年続いている。Flashを追加することでiPhone OSデバイスの信頼性・安全性を落としたくはない。

さらに、モバイル機器でのFlashはパフォーマンスが悪い。またスマートフォン向けFlashは延期を繰り返している。出荷されても性能がどうなるかは分からない。

(下に続きます)4. バッテリー駆動時間について。

iPhone OSデバイスはYouTubeやVimeoほか多数の企業が採用する先進技術 H.264に対応する。ハードウェアデコードにより低消費電力で再生できる。Flashも最近になってH.264対応を追加したが、ほとんどすべての Flashサイトは古いデコーダを要求するため、ハードウェアデコードが無効でバッテリーを浪費する。たとえばiPhoneでは、H.264なら最大10 時間に対して、ソフトウェアデコードでは5時間も保たない。

5. タッチ

Flash はマウス操作のPC時代に作られた技術。タッチ操作にはそぐわない。たとえば、多くのFlashサイトはマウスオーバー(ロールオーバー)を使うが、タッ チ操作にはこの概念がない。タッチ操作機器では、仮にFlashに対応したとしても、サイトがタッチ対応に書き換える必要がある。いずれにせよFlash サイトを書き換えるなら、FlashではなくHTML5 / CSS / JavaScpritにすれば良い。

6. もっとも重要な理由。

アップルはFlashからiPhone OSアプリへの変換も禁止した。なぜなら、iPhone などのプラットフォームと開発者のあいだに (Flashなど) 第三者によるレイヤーが挟まることになれば、アプリでなにができるかは、そのデバイスのメーカーではなく中間レイヤーの企業が決定することになってしまう から。またその中間レイヤーがクロスプラットフォームであった場合、特定のプラットフォームの特徴を活用するのではなく、複数のプラットフォームに共通す る最小機能セットしか使えないことになる。アップルの目的はただ、もっとも先進的なプラットフォームを開発者に提供することで、もっとも優れたアプリケー ションを開発して貰うことにある。どの機能が使えるのか、第三者に決定させるわけにはいかない。

結論

Flash はPCとマウス時代の技術。低消費電力・タッチ操作・オープンウェブ標準というモバイル時代には対応できていない。メディア企業が雪崩を打ってアップル製 品にコンテンツを提供しApp Storeに20万のリッチなアプリが揃っていることは、Flashがすでに必要とされていないことを証明している。Adobeはアップルが過去を捨てて前進することを非難するより、優れたHTML5用ツールの開発に力を向けてはどうか。
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以上、もっともな部分(例:FlashはプロプラでAdobe支配) と展開が危うい部分 (例:「ほとんどH.264対応 (...) ほとんど過去のデコーダ要求」「10時間 vs 5時間」)の落差が激しいものの、立場表明としては明解な文章です。もっとも重要な「自分たちのデバイスを第三者の中間プラットフォームに支配させたくないから」に至っては、率直すぎて「ビジネス上の判断ではなく技術的理由」との主張はなんだったのか分からなくなります。

ともあれ iPhone ユーザーの視点からすれば、次にFlash埋め込み動画が見られなかったとき、「PC時代」向けのページを進んでいたら肝心のところで青いブロックに阻まれたときなど、たとえ一時は不便であっても、ユーザーにとって将来的にはなにが最善かアップルがありがたくも選んでくださった結果だと思えば苛立ちも休まるのではないでしょうか。特に iPad は大画面でウェブがとても快適なだけに、本来のコンテンツが見えない唐突感は「しょせん携帯だし」で諦めがついた iPhone とはまた違った味わいです。