生活保護の患者さんの医療費について、充分な知識を補充。
◉大前提です。この記載は、生活保護を受給されている患者さんを差別するものではありません。あくまで、生活保護を受給されている患者さんの診療報酬請求についての記載ですので、誤解のないよう、お願いいたします。
先生、歯科医の先生方が恐れる厚生局の個別指導ですが、なぜ、恐れるのでしょうか?
1)診療報酬の返金要請があるから。
2)厚生局が納得しない場合、再指導という名の個別指導の連打を食らうから。
3)再指導を受けても、厚生局に適正な医療を行なっていると判断されなかった場合(厚生局が納得しない場合)、監査に発展するから。
4)厚生局は、「保険医療機関の指定を取り消す」という切り札を持っているから。
5)個別指導、監査は、平日に行われるので、診療業務に支障が生じるから。
6)一度、目をつけられると、検査、リハビリテーション、注射などの医療を萎縮せざるを得ない。常に、患者さん一人当たりの診療報酬平均点数を気にしながら診療をせねばならず、売り上げが落ちるから。
7)厚生局の個別指導、監査を繰り返し受けていると体裁が良くないから。
箇条書きにすると、このような背景があるので、厚生局には睨まれたくないはずです。
繰り返しになりますが、個別指導に呼び出される条件は、
⚫︎都道府県の診療科別、1人当たりの患者さんの平均診療報酬が、都道府県の平均の1.2倍、かつ、上位4%に入り、集団的個別指導に呼ばれること。
⚫︎それでも、2年以内に改善がない場合(経験的に2年と記載しています)、個別指導に呼ばれます。
「耳鼻科だし、内科の先生と比較して点数が低い」とか、「あんまり稼いでないのに」とか関係ないです。基準は、開業している診療科での患者さん1人あたりの診療報酬平均点数です。
厚生局は、国民健康保険組合、社会保険組合の診療報酬を漏らさずに把握しています。正に「天網恢恢疎にして漏らさず」。一見、抜けているように見えますが、抜けは殆ど無いです。(国民健康保険連合、社会保険組合の診療報酬をチェックしている人たちと、厚生局が密に連携しているからです。)
厚生局から提供される資料を細かく確認すると、月の一人当たりの診療報酬平均点数の評価は、国民健康保険、社会保険、前期高齢者、後期高齢者の患者さんの診療報酬平均点数を算出して、評価しています。
通常、患者さん一人当たりの平均診療報酬点数が最も高くなるのは、窓口の自己負担率の低く、持病や慢性疾患の多い、後期高齢者の患者さんです。
保険の種類別、前期、後期高齢者の患者さん、全ての平均点数を算出するのは大変ですので、クリニック全体での患者さん一人当たりの平均診療報酬点数と、後期高齢者の患者さんの一人当たりの診療報酬平均点数を算出して、都道府県の平均と比較しておくだけで充分です。
この作業だけで、先生の経営されるクリニック、病院が、集団的個別指導に呼ばれる可能性があるのか?充分に分かります。(ブラックは、現在、全患者さんの平均点数と、後期高齢者の患者さんの平均点数しか見ていません。)
では、生活保護を受給されている方の医療費に関しては、どうなっているのか?実は、結構、ご存知ない先生が多いです。
生活保護を受給されている患者さんは、医療費の自己負担が無いので、充分な医療を行うことができるという点は、よくご存じです。
その通りなのですが、厚生局と行政の違いや、個別指導の内容などを詳しく知れば知るほど、生活保護を受給されている患者さんへの充分な医療を提供できるようになると思います。
生活保護医療費を管轄している行政の内部事情、個別指導についてまとめてみます。
レセプトの審査は誰が行なっているのか?国民健康保険、社会保険、生活保護医療費について。
国民健康保険や、社会保険の患者さんの診療報酬請求の査定、返戻などの審査を行なっているのは、厚生局ではなく、国民健康保険の審査員、社会保険の審査員の先生方の合議制による定例審査会です。
国民健康保険も社会保険も、審査員の先生の数は地域によって違います。また、保険組合に勤務している職員さんが居られ、常にレセプトの受付、審査を含めた業務を行なっています。職員さんのチェックの段階で、「病名落ちの検査」、「適応病名抜けの薬処方」などがピックアップされ、定例審査会に出されるのが通例です。
地域差がありますが、この審査員の先生方の殆どは、地域の医師会から推薦を受けて審査員に就任しています。ただ、合議制での審査会ですから、知り合いの先生が居られても、「この先生は知っているから、なんとか通してくれ」っていうのが通用していたのは20年前くらいまでです。
ローカルルールと呼ばれて、絶対に査定、返戻の無いクリニック(医師会長のクリニックであったり、医師会の保険担当役員のクリニック)が存在していたのは間違いありません。
現に、ブラックが20歳代の頃、社会保険組合の審査員の先生から電話がかかってきて、「今回は通すから、来月から家族性高コレステロール血症の病名を入れといて」と言われた記憶は鮮明に残っています。
話を元に戻します。適応病名を無視して検査をしまくると、どうなるのでしょうか?
例えば、「慢性心不全の疑い」という疑い病名の場合には、胸部レントゲン検査や心電図検査を行わなければ、血液検査での心不全マーカー:NT-proBNP測定は保険が通りません。また、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎などの慢性肝炎の病名がなければ、肝繊維化マーカー:ヒアルロン酸は保険が通りません。
しかし、このようなルールを無視して、胸部レントゲン検査、心電図検査を行わずに、「慢性心不全の疑い」でNT-proBNPを測定しまくったり、慢性肝炎の病名がないのに、ヒアルロン酸を測定しまくっていると、国民健康保険組合、社会保険組合から、「連絡ハガキ」という名の「通告」が来ます。
「連絡ハガキ」:貴院での令和4年1月の診療報酬請求を見ますと、頻繁にヒアルロン酸が測定されています。ヒアルロン酸は、慢性肝炎などの慢性炎症性肝疾患の場合、肝繊維化の目安として保険適応があります。以後、お気をつけください。
この段階で厚生局にも情報が提供されているはずです。改善が見られない場合には、目をつけられると考えてください。「連絡ハガキ」が来た段階で、同じ間違い、適応のない検査を控えるようにお願いいたします。
以上が、国民健康保険、社会保険の場合のレセプト審査です。では、生活保護受給者の患者さんのレセプトは一体、誰が審査をしているのでしょうか?
行政地区によって差はありますが、こちらも医師会推薦の審査員が行っています。ブラックの地区では、たった1名の内科の先生が、ブラックの地区の全ての生活保護受給者の患者さんのレセプトをチェックしています。
生活保護医療のレセプトチェック:月4回出務 月額報酬 17万円
月4回、市役所に出向いて、人口8万人地区の生活保護医療のレセプトチェックを行なって、月17万円、もらえます。結構、美味しいのではないか?って思いました。
しかし、平日に出ていかなければいけませんし、毎週、出務して、紙媒体のレセプトを1人で何百枚も審査するのは激務です。
更に、行政と委託契約を結んだ審査員の先生のやる気によって、レセプトの厳しさが変わります。行政地区によっては、審査員の先生が4名〜5名、居られる地区もあります。
ブラックの地区は、1人の先生がチェックをしていますが、もう、審査が緩くて緩くて大変です。その緩い審査に付け込み、毎月、NT-proBNP、ヒアルロン酸、D-ダイマーなどの点数の高い検査を行なっている先生がおられます。
しかし、審査員の先生が通してしまうと、診療報酬を払うしかありません。では、一体、誰が生活保護受給者の方の医療費を支払うのでしょうか?
国民健康保険組合でもなく、社会保険組合でもありません。支払いのは行政です。報酬は、税金から捻出されます。
本来なら、税金から支払われるお金ですので、審査する先生は厳格に審査を行い、税金の無駄遣いを抑えなければいけないのですが、医師会から推薦された審査員の先生が、開業地区の同業者の審査を厳しくする方が難しいはずです。
結果、生活保護医療の高騰が続き、行政は頭を悩ませる、という構図が出来上がっています。
そこで、市役所、区役所などの行政が考え出したのが、厚生局の真似っこ、「個別指導」です。
決め手がないので、誰も言うことを聞きません。
1)過去に記載して繰り返しになりますが、まず、鬼の厚生局の個別指導です。
⚫︎敵:厚生局のスペック
・カルテを審査する医者:肩書き:厚生局指導監査課 指導医療官 厚生労働技官 2名
・明細書、領収書、院内掲示物、支払い内容などの審査:厚生局事務員
⚪︎中立:都道府県医師会 保険担当者 県、市町村の理事の先生 2〜3名
◉返金要請がある。再指導や監査がある。極め付け、「保険医療機関の指定を取り消す」伝家の宝刀がある。
2)生活保護法に基づく、個別指導の場合。
⚫︎敵:行政が委託し、医師会の推薦した医者 (都道府県医師会 保険担当歴のある高齢医師が多い)
⚪︎中立:保健福祉局 保護課 医療担当係長1名 担当員 2名
◉返金要請がない。再指導はあるが、監査はない。「生活保護診療を止める権限がない」伝家の宝刀がない。
厚生局の真似っこで、一線を退いた高齢の先生に個別指導を行ってもらい、録音し、指導の現場に同席していますが、所詮、返金要請がありません。更に、「生活保護法に則って医療を提供している」と言い張れば、何もできません。無力です。
そもそも、生活保護法という法律が、生活に困窮されている全ての方に必要な保護を行い、最低限度の補償を行うことですし、医療についても最低限度の需要を満たす医療を提供せねばなりません。
最低限度を決めることができませんし、生活保護法に基づく個別指導で呼び出される先生を選定している基準も、厚生局の真似っこ、生活保護医療費の地区上位の先生を順番に呼び出しているだけです。
この個別指導で医療費が圧縮できるはずがありません。むしろ、ブラックみたいにズルい医者に弱点をつかれ、ガンガンに高度な医療を提供されるだけです。
行政は、全く打つ手無しです。個別指導の真似っこをしている先生が悦に入る程度です。
そこで行政は、返金させたい、行政の指定を取り消したい、と願って動きましたが無理でした。
1)返金させたいが、返金させた場合、生活保護を受給されている患者さんの医療費の狙い撃ちになり、法的に正当性が保てない。
2)行政主導で指定取り消しを行うと、公平な医療を提供、最低限度の受給に応える医療機関を少なくするので、後が怖い。
3)生活保護を受給されている方を追い詰める、と認識されると、責任が取れない。
4)厚生局と連動しようと画策した形跡がありますが、厚生局からすると、お金の出所が違うので迷惑と解釈され、冷たく断られた模様。
以上の背景から、生活保護医療の審査の先生が相当に厳しく、保険医療のプロでない限り、生活保護受給者の医療費の抑制は不可能です。
そもそも、適正な医療を提供していれば、抑制する必要はなく(過剰な場合は除く)、そもそも、厚生局が厳しく医療費を抑制しているから、生活保護医療が目立っているだけ、と解釈もできます。
どのような医療を提供するかは先生方の自由です。ブラックは、自由に高度、良質な医療を提供して構わないと考える派です。
長々と申し訳ありません。(個別指導、行政指導につきましては、地域差が大きいことを十分にご理解ください)
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