「違反事例から見るコンプライアンス(法令等の遵守)の本質」

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筆者は長く政府のコンプライアンス委員を務め,農水省,厚労省,国交省,経産省,
文科省等でコンプライアンス研修講師として教壇に立っていた経験
から本テーマについて話したいと思います。 
2000年以降,世界中でコンプライアンス違反事件が相次いで起きたこ
とを記憶にとどめている方も多いと思います。エンロンの巨額の不正会計事
件を発端にワールドコムの不正会計事件が続き,日本でも西武鉄道,カネボ
ウ,日興コーディアルグループ,三洋電機等の不正会計が発覚しました。
こうした中で内部統制,リスクマネジメント,コンプライアンスの必要性
が叫ばれ,2006年に会社法と金融商品取引法が相次いで制定され上場企
業に内部統制を義務づける措置がとられました。これらの法律は投資家や
消費者に対して内部統制の確立によって透明性の確保と信頼性を高めること
を目的にしたものといえます。
 こうした企業不祥事は起こした企業トップがマスコミを前に,世間を騒が
せたという謝罪と再発防止策を公表し,事件に関わった人の処分を行って幕
引きを図るものの,その後も一向に事故や事件がなくならないのはどうして
なのでしょうか?
1つは「人に厳しく自分に甘いご都合主義体質」が経営者のみならず社員
全体に蔓延していることが挙げられます。部下には接待交際費を目的以外に
使うなと言っておきながら管理職の自分は部下や同僚との飲み代を交際費と
して処理するなど,不正を不正と思わない認識の甘さがあります。
 出張費や交通費の水増し請求は行っていないか?会社支給のスマホや携帯
電話を私用で使っていないか?売上の架空計上や仲のよい取引先と架空取引
を行っていないか?など,日頃からコンプライアンス意識を持って折り目正
しい行動を心掛ける必要があります。
筆者が顧客企業のために行っている人事制度改革(役割等級制度の導入)
 においても経営者自らがコンプライアンス違反を行うケースが見られます。
役割等級基準(知識,技能,経験,資格等に基づく等級序列)に適合しない
中途入社者の初任給や役職を独断で決定したり,昇格要件に合わない特別昇
格を行うことで不合理な昇格・昇給を行ったりする行為は人事権の濫用に当
たり,決して許される行為ではありません。これらの行為は人事制度改革実
施後に指導コンサルタントが関与できない運用面で行われていると聞きます。 
自分がコンプライアンス違反の中心人物でなくても上司が行っているコン
プラ違反を見て見ぬふりをせず,正々堂々と注意や警告を発することは企業
の組織的犯罪を未然に防ぐことになります。
 一方,コンプライアンス違反事件の約8割が内部告発によって顕在化して
いるという統計があります。内部告発は,社内における法令違反や不正行為,
反倫理的行為等のコンプライアンス違反やその恐れを知った社員が社内外の
通報相談窓口に通報する仕組みをいいます。
そして,2006年に施行された公益通報者保護法によって内部告発者の
地位が法的に保護されることにより企業の組織的犯罪を大幅に防止すること
ができるようなりました。
 他方筆者が政府のコンプライアンス研修講師を頻繁に行っていた2010
年代に考案したコンプラ違反を防止するための標語があります。
それは「MMWの法則」という名称の不正防止策です。
 人は誰でも進んで法律違反をしようとは思わないものです。しかし,周囲
の状況がM(誰も見ていない)時,M(みんながやっている)こと,W(この程
度のことはわからない)と思った時はどうでしょうか。
信号無視,タバコのポイ捨て,人の左側通行,自転車の傘さし通行,交通
 費の水増し請求など,今までにこれらのことを一度も行った経験がないと言
 い切れる人は何人いるでしょうか?
日常のこうした慢心が企業の組織的犯罪に発展していくのです。
つまり,どこまでがよくてどこからが問題になるという境界はどこにある
のでしょうか。実は,コンプライアンスに境界や限界などないのです。ある
とすれば,それは人の心が判断基準なのです。社会的に問題ないとされる行
為,社会倫理から見て許される範囲は自分が決めることです。自分が一番わ
かっていることなのです。ただ,自分ひとりではできないような行いが集団
心理で違反行為を犯すことが問題です。また,誰にも注意されないことが習
慣化して規範化する,いわゆる「悪しき慣習」が心の目を狂わせてしまいます。
一人ひとりがこの悪しき習慣を断ち切る勇気を持って行動することがコン
プライアンスに繋がるとともにCSR(企業の社会的責任)の根源なのです。

株式会社comodo
特別顧問 永島清敬

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