バンフィールド領防衛戦その5
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バンフィールド家本星にあるリアムの屋敷。
そこでクラウスから報告を受けるのは、当主代行であるロゼッタだった。
「敵の本隊が攻め寄せている?」
『はっ。防衛拠点のいくつかが突破されています。敵艦隊の進路予想ですが、バンフィールド家の本星で間違いありません』
参謀本部が予想した敵の目標は、バンフィールド家の本星で間違いなかった。
「数は本当に三百万なのですか?」
『最低でも三百万隻を予想しております。増援が到着したようで、本隊の数は当初よりも増えています』
淡々と報告してくるクラウスだが、普段よりも緊張している様子だった。
クラウスの様子から、厳しい戦いになると予想したロゼッタは俯いてから顔を上げる。
「単刀直入に聞きます。――勝てますか?」
ロゼッタの問い掛けは、気持ちや意気込みを聞くものではなかった。
クラウスもそれを察しており、正直に答える。
『勝てれば奇跡でしょう。ロゼッタ様には脱出を進言します』
ロゼッタはそれを聞いて覚悟を決める。
「――ダーリンとはまだ連絡がつきませんか?」
『はい。ですが、リアム様が敗れたという情報はどこからも聞こえてきません。敗北したならば、敵が宣伝するでしょうから』
リアムとは連絡が取れない状況にあった。
この場合、脱出を決断するのはロゼッタの仕事である。
ただ、ロゼッタは脱出できない事情がある。
「敵軍からダーリンを討ち取ったという情報が流れてきています」
征伐軍からは、戦場を動き回るリアムを討ち取ったという情報が流れていた。
クラウスはそれを否定する。
『虚偽です。リアム様が敗北すれば、帝国にて大々的に発表されます。それをしていない時点で、嘘でしょう』
リアムを討ち取ったとなれば、それは今の帝国では偉業だ。
大々的に発表し、クレオを称えるだろう。
それをしないのは、本当にリアムを討ち取っていないからだ。
発表した後で嘘だと判明すれば、帝国の信用が落ちてしまう。
そのため、確実な証拠がない限りは帝国で発表されない。
「問題は領民たちの間で、悪い噂が出回っていることです。実際に本星では事実を求めるため、政庁にひっきりなしに安否確認の問い合わせが殺到しているの」
クラウスが苦々しい表情をする。
ロゼッタが何をいいたのか察したのだろう。
『――それでも、バンフィールド家の騎士として申し上げます。ロゼッタ様とエドワード様さえご存命ならば、バンフィールド家は何度でも再興できます』
筆頭騎士であるクラウスの言葉に、ロゼッタは悲しそうに微笑する。
「わたくしが本星を離れれば、領民が騒いでしまうわ。それは軍も望まないでしょう?」
『ですが』
守るべき本星で領民たちが騒ぎ出せば、その影響は軍にまで及ぶ。
クラウスの立場からは、それを望めなかった。
ロゼッタが決定を伝える。
「わたくしはこのまま本星に残って民を安心させます。ただ、エドワードだけは脱出の準備を進めるわ。いざという時はお願いするわね」
クラウスが破れれば、ロゼッタは本星と運命を共にすることになる。
ロゼッタの決意を聞き、クラウスも覚悟を決めた。
『――はっ』
◇
通信を終えたクラウスは、周囲に侍る騎士や軍人たちに声をかける。
「帝国軍本隊を迎え撃つ」
誰にも表情を見せないで呟くと、周囲もクラウスの覚悟を察して返事をする。
「はっ!」
最低でも三百万規模の大艦隊を迎え撃つのだが、バンフィールド家本星の守りは六十万隻だ。
ティアが守る惑星に予備艦隊を派遣しており、本来の数よりも少なくなっている。
クラウスは自分が出来る事を考える。
(私にできるのは司令官として周囲を不安にさせないことだ。優秀な者たちに防衛設備の配備は任せた。艦隊の配置も、指揮官も私の部下で頼りになる者たちに任せている。これで駄目なら、全て私の責任だな)
やるべき事は全てやった。
自分の能力に不安があるクラウスだが、幸いにも部下には優秀な者たちがいる。
優秀な人間を指揮官に配置し、フォローするのが自分の仕事と割り切っていた。
すると、頼りになる部下たちから通信が入る。
空中に投影された小窓に映し出される顔ぶれは、これまでクラウスが戦場で何度も頼りにしてきた部下たちだ。
『閣下、ロゼッタ様の説得に失敗されましたね』
『何とも閣下らしくない』
『そこはロゼッタ様の気骨を褒めるところだな』
軽口を叩く部下たちは、それぞれ数万の艦隊を指揮する司令官たちだ。
リアムの無茶ぶりに何度も一緒に付き合わされ、その度に困難を乗り越えてきた頼りになる部下たちである。
「こんな時にも軽口とは、お前たちの度胸には感心するよ」
(いや、本当に凄いよ。君たちの方が総司令官向きだよ)
自分以上に能力を持つ部下たちを前に、クラウスは無理だと承知しながらも今からでも総司令官を代わって欲しかった。
まぁ、無理だと理解しているし、言えば混乱することくらい予想できる。
そのため絶対に口にしない。
『たかが三百万ですよ。こちらは地の利もあって防衛側です。加えて、閣下が我々の要望通りに鉄壁の守りを敷いてくれましたからね』
優秀な部下たちの意見を採用して防衛設備を配置しているため、彼らには戦いやすかった。
『五倍差だと思えば、十分に押し返せます。それに、二割から三割も削れば、敵は撤退するはずです』
この程度はどうということはない、という部下の言葉にクラウスは安堵する。
「頼もしい限りだ」
そして、最後の一人が眉根を寄せながら疑問を口にする。
『それにしても解せないのは、それだけの大軍勢を動かした帝国です。これでほぼ全ての艦隊が戦闘状態ですよ。帝国軍の補給線は、どうなっているのでしょうか?』
部下の疑問は、クラウスも気付いていた。
「それだけ補給線に自信があるのだろう。――リアム様が敵の補給基地を叩くと言われていたが、これは幾つも確保している可能性が出てきたな」
リアムが補給基地の一つを叩いたところで、この状況に大きな変化はないように思えた。
それでも、無意味ではないだろう。
しかし、クラウスには一つだけ言いたいことがあった。
「――本来であれば、本星で大人しく指揮を執って欲しかったのだが。何で前線に出るかな?」
クラウスの愚痴に、長年の付き合いである部下たちが同情した視線を向ける。
そもそも、総大将でありながら前線に出るリアムが悪い。
『心中お察しします』
『閣下を信頼している証ではありませんか?』
『口さがない連中は、閣下がリアム様をこき使っていると言っていますからね』
最後の一人の言葉に、クラウスが僅かに表情を歪ませる。
「酷い話だ」
(私だって全力で止めているのに、本人が大丈夫って言って押し切るから)
◇
その頃。
ティアが守る惑星にも動きがあった。
「帝国軍の攻勢が激しくなったな」
要塞から指揮を執るティアは、敵が攻勢を強めたのを肌で感じ取っていた。
実際にデータもそれを示している。
副官は気が気でないようだ。
「防衛設備や拠点のいくつかは、完全に使い物にならなくなりました。これ以上、敵の攻勢が強まれば危険です」
味方も敵の攻勢に弱気になっている。
しかし、ティアだけは違った。
口角を上げる。
「敵軍の司令官は、ハンプソン侯爵だったな?」
副官はティアの意図に気付けなかったが、その問いに事前に調べた情報を思い出しながら答えた。
「はい。帝国の国境を預かる侯爵家の当主です。実戦経験も豊富で、大規模な戦争に参加した経験も多いですね。ですが、ティア様もご存じでは?」
クツクツと笑い始めるティアは、ハンプソンの焦りを感じ取っていた。
「あいつの戦い方は頭に叩き込んでいるわよ。だから、この行動を怪しく思ったの」
「は?」
気付かない副官を無視して、ティアは命令を出す。
これまでよりも堂々と、余裕を持って告げる。
「ここを凌げば勝利が見えてくるわ。それまで耐えなさい!」
◇
バンフィールド家本星では、政庁から緊急の発表が行われていた。
空中には大画面が投影され、領民たちが持つ端末に緊急放送として知らせが届いていた。
そこにはロゼッタの姿がある。
『本日、軍から帝国軍の本隊がこの惑星を目指して進軍しているという報告がありました。皆さんには、くれぐれも落ち着き、取り乱さないよう求めます』
それは大軍が本星を目指して押し寄せているという発表で、同時にみだりに騒いだりしないようにという内容だ。
その発表を受けて、領内は逆に慌ただしくなっている。
逃げ出そうとする領民も出始めているし、中には今こそ帝国に協力して自由を勝ち取ろうと運動を開始する者たちもいた。
どこかで見たような奴が、また騒いでいると思う領民が大半だった。
そして、酒場では落ち着いた様子のマスターと、常連客がカウンターで向かい合って話をしている。
「懐かしいな。もう百年以上も前だったか? こんなことがあった」
グラスを磨くマスターは、緊張した様子ではあったが普段通り落ち着いていた。
客も同様だが、こちらは笑っている。
「ゴアズ宇宙海賊団の頃だな。あの時はついに俺も死を覚悟して、お気に入りの酒を味わいもせずに飲み干して後悔したよ」
店の外を眺めると、慌てふためく領民たちの姿が見える。
そのほとんどが若く、当時を知らない者たちだ。
それを年配の大人たちがなだめている。
マスターはグラスを掲げて、店内の明りにかざして磨き残しがないかを見ていた。
「領主様は、相変わらず最前線らしい。あの時もそうだった」
「帝国では貴族様が一番に逃げ出すのに、あの人は本当に変わり者だよな」
「その代わりに、奥様が残っているんだろうさ」
「マスター、いつもの」
客は昼間からマスターに酒を注文する。
まだ開店前だが、マスターも酒を出してやる。
「はいよ」
受け取った客はそれを一気に飲み干すと、空になったグラスをカウンターテーブルに置いた。
「若い連中は何もわかってないね。余所から移住してきた連中も同じだ」
「そうだな」
マスターが相づちを打つと、客は顔を赤らめながら言う。
「百年前は今よりもっと酷かった。それでも領主様は敵を退けたんだ。だが、今はどうだ? クラウス様を筆頭に、頼りになる人たちが沢山いるじゃないか。もっとピンチになってから騒いで欲しいぜ」
マスターはそれを聞いて、困ったように笑いながら同意する。
「そうだったな。あんたの言う通りだ」
「そうだろ? 何しろあの領主様だぜ。この程度で負けるかよ」
昔からバンフィールド家の本星で暮らす領民たちにとって、リアムが不在であることも、帝国軍が敵に回ることも恐れてはいない。
問題があるとすれば――。
「でもさ、領主様はもっと落ち着いた方がいいって」
客が突っ伏しながらそう言うと、マスターも大笑いしながら同意する。
「違いない!」
若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です10巻】の表紙はアンジェリカちゃんよ! Web版にはないエピソードだから、一冊丸々書き下ろしみたいなものね! 【5月30日】発売だから、チェックしてね!」
ブライアン(´・ω・`)「五月と言えば、上旬に【コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 8巻】が発売となりますね。こちらもアンジェリカ嬢が表紙を飾っております。――おや? 偶然でしょうか?」
若木ちゃん( ゜д゜)「ミレーヌを表紙に推す一部のコアなファンがいるようだけど、それよりも先にあとがきのアイドルである苗木ちゃんを表紙にするべきだと思うの」
ブライアン(*´ω`*)「そんな表紙では売れませ――」
若木ちゃん○(#゜Д゜)=( #)≡○)Д`)・∴'ブライアン「辛い!!」
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