「どけ、バカ野郎! 死ね! 殺すぞ!」
料理長の通り道にいただけでこんな言葉を投げつけられた――。そう証言するのは、しゃぶしゃぶでお馴染み「木曽路」の従業員だ。
木曽路は焼き肉屋・居酒屋も展開。グループ全体で300億円超の売上高を誇る飲食チェーンだ。全国に163店舗を出店し、正社員は約1200人を数える。
東証プライムにも上場。「行動憲章」には〈社員の人権、人格、個性を尊重する〉とある。だが……。
小誌は同社労働組合が昨年6〜7月に従業員約1100人を対象に行った「従業員意識調査」を入手した。同じものは会長・社長にも届いているという。
それによると「パワハラ・いじめ」が「ある」と答えた人は実に23%。また、18年の同調査より3ポイント増えており、近年悪化していることが分かる。
内容も過激で、「蹴る、殴る、胸ぐらをつかむ、物にあたるなどの暴力行為」と訴えた人が16%。「人前で大声で怒鳴る、ねちねちと陰湿な叱責をする」に至っては74%が「ある」。
内部資料に「蹴る、殴る」の文字が
パワハラが約20%から約23%に
実は木曽路では、2017年3月に西宮市の店舗で、22歳の従業員が自殺している。
「パワハラを受けており、ミスをした際、2人の上司に2度強く殴られた。情緒が不安定になり、出勤時にマンションから飛び降りてしまいました」(従業員の友人)
遺族は木曽路を提訴。会社側は自殺と労働環境との因果関係はないとしたが、上司の暴力は認めて、和解金を支払っている。
労働時間も過酷だ。
「昨年末には残業が月160時間を超え、300時間働いた人もいる」(別の従業員)
パートやアルバイトを含む従業員の総労働時間が記された内部資料によると、昨年12月、残業時間が45時間超の従業員は約1000人、100時間超が39人いた。だが、そのタイムカードの打刻時間より、実労働時間は長いという。
「繁忙期、調理担当は朝6時半頃に出勤しても、上司がまとめて9時に打刻する。タイムカード上は昼に2、3時間休憩したことにしていますが、実際は昼食後にすぐ仕事。21時半に終わって打刻しても、帰宅は深夜になる」(同前)
前出の「意識調査」では、実労働時間で打刻できていないとの回答が42%。「サービス残業の強要」が34%。調査には従業員の意見も載っているが、〈サービス残業が60〜80時間以上ある〉〈働き過ぎで同期が身体こわして辞めた〉など悲痛な叫びもある。
残業代未払いも各地である。20年8月には埼玉の新座店に労基署が調査に入り、是正勧告が出された。
「未払いの残業代を請求した人も複数人おり、マスコミや第3者に漏らさないことを条件に、解決金が支払われている」(元従業員)
旬報法律事務所の佐々木亮弁護士が指摘する。
「『意識調査』によりパワハラの存在を経営側が認識している上で、精神疾患になるような従業員が出た場合、安全配慮義務違反で過失責任が問われる可能性があります。また、残業時間が45時間を超える月が年7回以上ある場合や、100時間以上の月がある場合、時間外労働の上限規制に違反します。企業や店舗の店長や労務管理担当責任者は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります」
経営者はこの実情をどう考えているのか。吉江源之会長を直撃した。
――店舗で「殴る、蹴る」の暴行もあると聞いた。
「事実であれば大問題。でも軽くやったことも関係性が良くないと、パワハラと言われちゃいますよね」
――36協定を超えるような残業もあるようですが。
「今はそういう事はない」
――サービス残業もある。
「残業時間をオーバーしてもきちんとつけてくれ、人件費として払うのは当然だからと会議で伝えています」
――残業代未払いで請求があった方には支払いをしている。
「この業界ではよくあること。うろ覚えですが、最近はないと思います」
改めて会社に質問すると、概ね次のように回答した。
「(昨年末に残業が増えたのは)12月は社員の時間外労働が一時的に増加しました。直近では減少しました。(休憩時間中にも労働しているのは)客観的な事実は確認できておりません」
“よくあること”で終わらせてはならない。
source : 週刊文春 2022年5月5日・12日号