「弟が自殺してただでさえ辛いのに、彼らは私たち遺族を恫喝してきた。本当に許せません。すべてをお話しすることに決めました」
声を震わせてこう語るのは、4月1日に店の駐車場で焼身自殺を遂げた寿司チェーン「無添くら寿司」店長の実姉だ。
山梨県甲府市にある「無添くら寿司」で店長を務めていた中村良介さん(仮名・享年39)が亡くなったのは4月1日のこと。
「午前4時20分頃、店舗の駐車場に停められた車が内部から炎上。性別不明の遺体が発見されましたが、その後中村さんと判明。現場の状況から自殺と見られています」(社会部記者)
小誌は先週号で中村さんの死の背景に上司のスーパーバイザー(SV)・X氏のパワハラがあったことを報道。罵声と叱責に中村さんは追い詰められていた。
「Xは出勤しなくなりました。代わりにSⅤより立場が上のエリアマネージャーや取締役が出入りしています。この一件で従業員が次々と退職。人手不足ですが、店は通常通り営業しています」(現役従業員)
くら寿司は、東証プライムに上場する業界最大手の寿司チェーンだ。
「本社は大阪府堺市。創業者の田中邦彦氏が社長を務める典型的な同族経営企業です。コロナ禍でも業績は絶好調。2021年10月期(連結)の売上高は1476億円と過去最高を更新した」(経済誌記者)
そんな中、現役店長が焼身自殺するという衝撃的な事件が起きた。くら寿司本社は先週号で中村さんの死の理由について〈個人的な事情によるものであることが推定されております〉と業務との関連を否定した。
だが中村さんの姉はくら寿司の主張に首を傾げる。
「弟の部屋に遺されていたパソコンを持ち帰ったのです。開くと、ツイッターに自動ログインできた。非公開の鍵アカウントに、弟が仕事に苦しんでいる様子が綴られていたのです」
〈明日を生きる気力がない〉
投稿を確認すると、昨年11月24日に〈2〜3時間のサービス出勤の予定が12時間の本格的なサービス出勤になった死ね〉。12月6日には〈体を休めれば休めるほど体が重くなる 気が緩んだことで18連勤分の疲れが一気に来てる〉とツイートしている。
元従業員が明かす。
「店長はXが甲府にやって来る前から残業が続いて疲弊していたんです」
今年3月、Ⅹ氏が店舗に着任。繰り返されるパワハラに、仕事への不満が滲む投稿が続く。
〈割と精神と肉体がすり減ってる〉(3月15日)
〈ほとんど寝ていない〉(3月23日)
〈何も食べずに休日出勤してきた むろん休憩もなく水分も朝からなにも摂ってない 感謝されるどころか不満を言われたり怒られる環境〉(3月30日)
〈仕事のことを考えると吐き気がして胸が痛くなるまでになった〉(3月31日)
明確に「死」を意識したツイートもあった。
〈死ぬことばかり考えて仕事してる〉(3月30日)
〈灯油やら混合ガソリンやらホワイトガソリン等燃えやすそうなもん買ってきた〉(3月31日)
そして、4月1日未明。中村さんは、〈明日を生きる気力がない〉と投稿した後、こう呟いた。
〈皆さんさようなら〉
中村さんの姉が語る。
「我慢強かった弟がここまで追い詰められたのかと思うと本当にかわいそうで……両親は『良介のことをもっと気にかけてあげていたら』と憔悴しています」
遺族をさらに絶望の淵へと追い込んだのが、くら寿司の対応だった。
死から5日が経過した4月6日。くら寿司の幹部社員2人が中村さんの実家を訪れた。応対したのは父と母。姉は「社員たちの言動が不可解だった」と両親から聞かされた、と語る。
「まず『揉め事もなくよく仕事をやっていた』と言われたそうです。そして、弟の人間関係について根掘り葉掘り聞いてきた。『息子さんに恋人や親しい友人はいたか?』と取り調べるようにしつこく問い質されたようです」(同前)
その日、両親はくら寿司社員の車に乗せられて甲府に向かった。所轄の南甲府警察署で事件に関する説明を聞いたのち、4月9日に中村さんを荼毘に付した。
「母は『社員は2人とも遺骨を拾わなかった』と話していました」(同前)
火葬の日、両親は社員に連れられて甲府市内にある中村さんの部屋を訪れた。そこでも不可解な行動があったという。
「社員が『会社で必要なので』と弟の部屋にあった“何か”を持ち出したそうなんです。父と母は遺品の整理で手一杯でちゃんと見ていなかった。一体、何を持って行ったのか今も気になっています」(同前)
翌朝、姉はようやく甲府に到着。両親と合流するため、中村さんのアパートの前で待ち合わせた。
姉が明かす。
「両親は社員の運転する車に乗って来ました。アパートの前で、社員の一人が弟の遺骨を胸に抱く父に向かって『息子さん、宗教をやっていて、おかしくなったんちゃいますか?』と言いました。怒りで絶句しました。弟の趣味は寺社仏閣巡り。部屋にはお守りやお札、置物があった。社員はそれらを見た上で宗教と言ったのでしょうけれど、息子を喪った親に投げかける言葉でしょうか」
中村さんのアパートまで両親を連れてきたくら寿司の社員は、「もうこれでお会いすることはありませんね」と言い残し、先に帰っていったという。
ところが――。
「文春に喋ったら訴えますよ」
「明日、午前10時にご自宅に伺いますから」
中村さんの両親にくら寿司社員から突然電話がかかってきたのは4月20日夕刻のこと。同日正午、「週刊文春 電子版」が雑誌に先んじて中村さんの自死を報じる記事を配信していた。
姉が明かす。
「ネットの速報を見て連絡してきたのでしょう。社員の言動に両親は不信感を抱いていた。『また来て何を言われるのだろうか』と怯えた様子でした」
翌日、現れたのは前回と同じ社員2人。「わざわざ買ってきたんですよ」と持参した菓子折りを渡すなり、記事の内容について弁解を始めたという。
「30分ほどずっと『息子さんの死はウチとは無関係だ』という話をしていたそうです」(同前)
社員の話は徐々に熱を帯びていく。そして、威圧的な口調でこう言い放ったのだった。
「これ以上文春さんとかに喋るんやったら、あなた方のこと訴えますよ」
両親はただ俯くことしかできなかった。
「息子を喪い、恫喝までされて両親は深く傷ついています。くら寿司の社員にはもう電話をかけてきてほしくないし、顔も見たくない。2度と実家に来ないでほしいと思っています」(姉)
くら寿司本社に、社員が中村さんの両親に「息子さんは宗教をやっていておかしくなったのではないか」「文春に喋るんなら訴える」と発言したことは事実かどうかを確認すると、
〈事実ではございません〉
と回答した。
中村さんの姉は言う。
「前回の記事を受け、多くの人がSNSでくら寿司に憤ってくれた。本当に救われました。弟と同じ目に遭う人が出ないよう、もし被害を受けている人がいたら声をあげてほしいです」
小誌には今、全国のくら寿司従業員から続々と告発が寄せられている。
source : 週刊文春 2022年5月5日・12日号