名古屋市の河村たかし市長が「南京事件はなかったのではないか」と述べたことを巡り、発言を支持する大学教授らの意見広告の掲載を、中日新聞が拒否していたことがわかった。教授らが15日、中日側に掲載を求める仮処分を東京地裁に申請し、記者会見した。
申請したのは「河村発言を支持し『南京』の真実を究明する国民運動」(代表、渡部昇一・上智大名誉教授)という団体。2月に河村市長が「一般的な戦闘行為はあったが、南京事件というのはなかったのではないか」と発言して批判されたことに対し、疑念を抱いた学者らが立ち上げた。
会見によると、団体は東海地方で高いシェアを持つ中日新聞に意見広告を出すことを発案。「私たちは、河村たかし名古屋市長の『南京』発言を支持します!」「自由な議論で『南京』の真実究明を!」との内容で、呼びかけ人には石原慎太郎東京都知事や安倍晋三元首相、原口一博元総務相らが名を連ねていた。
3月下旬に広告会社を通じて中日側に掲載を申し込み、やりとりの末、4月19日に中日側の広告会社から「広告審査を通過」と掲載を認める回答があった。だが、掲載予定を3週間後に控えた5月2日、広告会社が「社論に合わないので掲載できない」と通告してきたという。
団体副代表の藤岡信勝・拓殖大学客員教授は「4月19日の時点で契約は成立している。一般論として新聞社に編集権があることは認めるが、この意見広告は広く議論を求めるもの。議論を拒否することは言論機関として問題」としている。
中日新聞は「団体との間に契約関係はなく、意見広告の掲載契約も成立したとは認識していない。弊社の広告掲載基準にしたがって掲載をお断りしたもの」とする吉川克也広告局次長名の談話を発表した。中日新聞は社説で「歴史認識はしっかりと」と述べるなど市長発言を批判していた。(佐々木学)
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河村たかし名古屋市長は15日、朝日新聞の取材に対し、「自分の発言の趣旨は、あくまで『議論をしましょう』というもの。メディア側に編集権があるといっても、意見広告による言論の自由も保障されるべきだと思う」と話した。