小誌が報じてきた芸能界の「性加害」。映画監督や俳優、プロデューサーからの被害を告発する女優たちに続き、ついにトップ女優も声をあげた。水原希子(31)が2時間にわたり、小誌の取材に答えた。初めて明かす敏腕プロデューサーからの不可解な要求とは。
小誌は4月7日発売号で映画プロデューサーの梅川治男氏(61)が女優に局部を撮影した写真を送るよう強要していたことを、そのメールとともに報じた。梅川氏は園子温監督(60)の「右腕的存在」とされ、「愛のむきだし」「ヒミズ」など世界的に高い評価を受けた作品に携わってきた。
その梅川氏がプロデュースしたのがネットフリックスで昨年4月から配信されている「彼女」だ。監督は廣木隆一氏。水原が主演で性的なシーンも多く含まれる作品だ。小誌が梅川氏の現場での言動について詳しく取材したうえで質問状を送ったことがきっかけとなり、水原は先週号に長文のコメントを寄せた(全文は「週刊文春 電子版」に掲載)。そして今回、初めてロングインタビューに応じた。まず「彼女」に出演した経緯をこう振り返る。
「知人から『この役、希子ちゃんに合うと思うんだけど』と紹介されました。原作(中村珍氏の漫画「羣青(ぐんじよう)」)にセクシャルなシーンがあるのは知っていて、映画にも性的描写が出てくるとは思っていました。ただ、今まで自分が表現したことのない領域を毎日模索していた中でいただいたオファーでしたし、チャレンジングな経験になると思って引き受けました」
梅川氏のオフィスに行き、監督の廣木氏らを交えて顔合わせをした。梅川氏とはその時が初対面だったが、「口数が多くなく、ずっとにこやかに笑っている感じ」だったという。
だがその後、ある演出をめぐり、不信感を抱くようになる。
「撮影が始まる直前、梅川氏から性的なシーンでアンダーヘアを出すようにと要求されました。オファーの段階ではそうした説明はなく、出演が決まってから突然話を持ち出された。アンダーヘアを出すことが出演の条件になるのなら、最初からオファーは受けていませんでした」
ヘアの露出を要求する梅川氏に対し、水原は拒否し続けた。
「多くの映画を見てきましたが、セクシャルなシーンでもヘアまで見えるものはほとんどありません。梅川氏は『アングルが規制されてしまい、監督の表現や伝えたいことを妨げてしまうから』と説明しました。でも、監督やカメラマンを交えた話し合いはなく、梅川氏一人が主張してきたんです。いくら説明を聞いても、この作品を作るうえでなぜアンダーヘアまで露出する必要があるのか、まったく理解できませんでした」
それでもヘアの露出を要求し続ける梅川氏。しまいには、拒み続ける水原にこう提案してきた。
「じゃあ毛を剃って、そこにウィッグを付けるのはどうか?」
水原が話す。
「頓珍漢な提案でした。地毛だろうがウィッグだろうが、ヘアと思われるものを見せること自体に抵抗があるという話をしているのに、まったく理解してもらえず、呆れました」
この過程で、梅川氏は水原のマネージャーにメールを送っている。そこには「ネットフリックス側のプロデューサーも、アンダーヘアの露出を望んでいる」という旨が明記されていた。
結局、問題は解決せず、その後、衣装合わせの場で“事件”は起きた。
水原が、他の共演者やスタッフがいる場で廣木監督に「私はヘアを見せたくないし、見せる必要がないと思うので出しません」と直訴したのだ。
「みんなの前で自分の意見を言わないと、梅川氏との押し問答が続くと思いました。その後、スタジオのカフェで梅川氏、監督、マネージャーやネットフリックスの方を交えて話し合いが行われ、最終的には監督が『アングルでどうにかする』と言ってくれました。前貼りもして、ヘアは見せないということで皆さんに了解してもらい、契約書にも明記しました」
水原は当時を「すごくつらかった」と思い起こす。
「アンダーヘアを見せる演出の意図や必要性について説明があれば検討しました。しかし、納得いく説明もなく、執拗にヘアの露出を要求されたため、私の芝居ではなく、私が初めてヘアを露出することを売り文句にしようとしているのではないかと感じました。今でも『彼女』という作品を私は観られません。すり減らされたものが余りに多すぎて……」
「生意気と思われてもいい」
実は同作には、水原の提案により日本で初めて「インティマシー・コーディネーター」が導入された。同職は性的なシーンを撮影する際の俳優と制作側の橋渡し役を務め、俳優の意に反した撮影の強要が行われないために設けられた。#MeToo以降、ハリウッドでは一般的になっている。水原がインティマシー・コーディネーターを導入したいと思った出来事があった。
「撮影前の食事会のときのことです。梅川氏がほかの出演女優の太ももに触れているのを目撃したのです。セクハラのような行為を目の当たりにして『この人は危険だ』と思いました。以前から、日本にもインティマシー・コーディネーターを導入すべきという思いは頭の片隅にはありましたが、この食事会の後、すぐにネットフリックス側に提案しました」
すると後日、梅川氏から「僕は下請け会社じゃない。直接やり取りをするのはやめてください」とのメールが送られてきた。
こうしてインティマシー・コーディネーターの浅田智穂氏が現場に入ることになったが、前述の通り、水原と梅川氏の対立は起きてしまった。なぜなら、梅川氏が浅田氏に対して「出しゃばらないでください」、「撮影をかき乱さないでください」などと夜中に何度もメールを送り、その業務を妨害しようとしたからだ。
「嫌がらせメールは知りませんでした。浅田さんからは『ごめんなさい。私はもっとやりたいのに、この現場だとプロデューサーがやらせてくれない。自分の力ではどうしようもない』と言われました。結果的に苦しい思いをさせてしまった」
ただ、初めてインティマシー・コーディネーターの存在を知った共演者の田中哲司らからは、好意的に受け止められたという。
「女性だけが被害に遭うわけではなく、むしろ男性の方がケアされないケースが多い。男性だって越えてほしくないラインはあるはずです。是枝裕和さんや西川美和さんなど日本を代表する監督たちが映画界を健全な場にするためにインティマシー・コーディネーターが必要と訴えてくれています。私としてはこのような職業があることを知ってもらっただけでも大きな前進だったと思っています」
ネットフリックスに「水原のアンダーヘア露出を望んでいたのか」と問うと「ご指摘のような事実はございません」と回答した。梅川氏からは回答がなかった。
水原は最後に若い女優たちにこう語りかけた。
「生意気と思われてもいいから譲れないところはしっかり守って欲しい。躊躇せずに声を上げられる環境を作っていくことが未来に繋がると信じています」
水原の覚悟の訴えを、映画界の人々はどう聞くのだろうか。
source : 週刊文春 2022年4月28日号