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ナチスの教訓──「権力への監視」を止めれば危険
トインビー博士が、ヒトラーと会見した経験をもとに、この点に触れておられる。
──人間精神のどんな深層から、ナチスのように徹底した悪が、溶岩流のごとく噴き出したのか?
この二十世紀に、ヨーロッパの偉大な国民のひとつ(ドイツ人)が、どうして狂信者たちに屈服してしまったのか。
ゲーテを生んだ国が、なぜヒトラーに屈してしまったのか?
その原因を見極めずして、これから同様のことが他の国で起こらないと、だれが言えようか──と。
トインビー博士は、こう結論されている。
──「ナチスの教訓」は何か。
それは、文明社会というものは、どこでも、また、いつの時代も、決して安定したものではない、ということである。
文明は放っておいて、自然に安定していると思っては決してならない。
自覚的な「果てしのない監視」と「絶えまない精神的努力」とが必要なのである、と。
油断すれば、いつ狂気のような動きに足をすくわれるかわからない、との警告である。
宇宙と同じく、社会もまた「停滞は死」なのである。
常に、悪を監視する。権力を監視する。
そして「より良き社会」への理念を掲げ、絶えまなく、向上しようと努力する。
その精神的努力によって、はじめて安穏な社会に近づくのである。
今、日本の社会には、こうした「精神的努力」がなくなっているように思えてならない。
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