ヘボン式の 変種

あらまし

パスポート・道路標識・地図・駅名標には ローマ字が つかわれています。これらの ローマ字は すべて ヘボン式を もとに した 書きかたです。これらを ヘボン式の 変種として まとめています。


ヘボン式の 変種は それぞれ 書きかたが ことなります。すべて ヘボン式から 派生 した 書きかたで よく にており,「ローマ字表」も おなじですが,そのほかの こまかい ところに ちがいが あります。そのため,おなじ 地名なのに 道路標識の ローマ字と 駅名標の ローマ字が ちがう ことも あり,いったい どっちが ただしいのかという 質問も よく あります。その こたえは かんたんで,どちらも まちがいです。

ふつう,日本の 人名・地名・駅名は 日本語です。そして,「ローマ字のつづり方」は 日本語を ローマ字で 書く ときに もちいる 方式を 訓令式と さだめています。これが ルールです。きびしい いいかたを すれば,日ごろ よく 目に する ヘボン式の 変種は すべて ルール違反の 書きかたです。

パスポートの ローマ字

「パスポート式」

書きかた


パスポート

パスポートの 名前を 書く ローマ字は 「英語式」を もとに して 外務省が つくった 独自方式です。外務省は これを ヘボン式と よんでいますが,一般には「外務省ヘボン式」と よぶ ことも あります。この サイトは「パスポート式」と よんでいます[1]

いま すぐに 名前の 書きかたを しらべたい 人は「お名前の ローマ字 変換」または「ふりがなの ローマ字 変換」を おつかい ください。

「パスポート式」は つぎの ような 書きかたです。

  1. 「ローマ字表」は ヘボン式と おなじです。
  2. 撥音(ん)は n で あらわします。ただし,b, m, p の 前の 撥音は m に します。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときも くぎりの 記号を 書きません。
  3. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。ただし,ch の 前の 促音は t に します。
  4. 長音(ー)は 長音符号を 書きません。ただし,イ段の 長音は ii で あらわします。
  5. いくつかの 特殊音が つけくわえられています。くわしくは「「パスポート式」の 特殊音」を お読み ください。

FUKUSHIMA(福島)
CHIBA(千葉)
TSUJI(辻)
KANDA(神田)
NAMBARA(南原)
KENICHI(健一)
KIKKAWA(吉川)
BEPPU(別府)
HOTCHI(堀地)
ONO(大野)
SATO(佐藤)
MUKODA(向田)
YUKO(優子)
SHUHEI(修平)
NIIYAMA(新山)
SENOO(妹尾)
OOKA(大岡)
YOKOOJI(横大路)


インターネットで「ヘボン式」を 検索 すると パスポート センターの ウェブサイトが たくさん ヒット します。しかし,そこで 解説 されている ヘボン式は 外務省が ヘボン式と よんでいる 書きかたで あって,もともとの ヘボン式では ありません。学校の「国語」で おしえている ただしい ローマ字では なく,「英語」で おしえている 書きかたでも ありません。

インターネットには ふりがなを ローマ字に 変換 する ツールが たくさん 公開 されています。パスポートの ローマ字を しらべようと して これらの ツールを つかう 人も いますが,ふりがなを 完全に 自動で ローマ字に 変換 する ことは できません。これらの ツールは ときどき 変換に 失敗 して,まちがった 結果を 出力 します。くわしくは「なぜ ふりがなでは ダメなのか?」を お読み ください[2]

「パスポート式」の つくりかた


「パスポート式」の つくりかた

右が ただしい つくりかたで,左は まちがいです。

「パスポート式」の つくりかたは「長音の o, u は 書かない。」と 説明 される ことが あります。けれども,これは まちがいです。ただしい つくりかたは「ヘボン式の 記号を はぶく。」です。

たとえば,「大野優子」だったら,まず ヘボン式Ōno Yūko と 書いて,そこから 記号を はぶいて Ono Yuko に します。

ローマ字の 書きかたを よく しらない 人でも わかる ように,わざと「嘘も方便」的な 説明を しているのかも しれません。しかし,ローマ字の 書きかたは 小学校で おしえているのですから,それを もとに して 説明 する べきです[3]

つけたし

ローマ字は 日本語の 表記法の ひとつで,日本語を ABC表記に する 書きかたです。つまり,ローマ字は 日本語の 一部です。日本語の 基礎知識なので,小学校の「国語」で おしえています。ところが,パスポートの 名前の 書きかたは 特別で,これには 法律(旅券法)で さだめられた 特別ルールが あります。こまった ことに,この ルールが ただしい ローマ字を 採用 していません。「パスポート式」は 外務省が つくった 独自仕様の ローマ字です。この ことが さまざまな 混乱と 不便の もとに なっており,日本に はかりしれない わざわいを もたらしています[4]

名前を 書く ときは,パスポートと おなじに しなければ ならない ばあいは 別と して,ただしい ローマ字で 書いて ください。自分の 名前を ただしい つづりで 書けなかったら 国際社会で 恥を かきます。


あとで くわしく のべますが,パスポートの ローマ字は かならず「パスポート式」に しなければ ならない わけでは ありません。名前は アイデンティティーに かかわる 大切な ものですから,パスポートの 名前も ある 程度は 本人の かんがえが 尊重 される べきです。それで,最近は 常識の 範囲内で つづりを 本人が えらべる ように なっています。ときどき,パスポートの ローマ字は 書きかたが きまっていると いいはる 人が います。しかし,それは 昔の はなしで,いまは がちがちに きまっている わけでは ありません。


パスポートの ローマ字では 長音符号つき文字û, ô など)が つかえません。そのため,佐藤さんや 優香さんの ように,名前に 長音が はいっている 人は ただしい ローマ字で 書けないと あきらめているかも しれません。しかし,あとで 説明 する「パスポートむけ訓令式」に すれば,ただしい ローマ字で 書けます。

「パスポート式」の 問題

「パスポート式」には おおきな 問題が ふたつ あります。パスポートは ものが もの だけに 管理 する 側の 都合で 特殊な ルールに なっても しかたが ないかも しれません。それでも,これらの 欠点は おおきすぎます。

問題 1:ヘボン式に した こと

外務省は ヘボン式に した 理由を つぎの ように 説明 しています。

外務省では、パスポートが外国において自国民である旅券名義人の身分を明らかにし、当該名義人の通行への便宜並びに事故等に遭遇した場合の保護及び援助を各国政府に要請する文書であることを踏まえ、その氏名の表音が国際的に最も広く通用する英語を母国語とする人々が発音するときに最も日本語の発音に近い表記であるべきとの観点から、従来よりヘボン式を採用しています。

英語風に 読んだ ときに 原音を 再現 しやすいからと いっている ようです。しかし,これは おかしな はなしです。パスポートを あつかう 業界には 日本人の 名前を 英語風に 読む きまりが あるのでしょうか。外務省は 英語の はなし手が ヘボン式を ただしい 発音で 読めると 本気で おもっているのでしょうか[5]

もし ヘボン式で なく 訓令式だったら どうでしょうか。石田さんと 内田さんが ISIDA, UTIDA と 書かれ,英語圏の 人が これらを〈イスィダ〉〈ウティダ〉と 読んで しまうかも しれません(じっさいは もっと 変な 発音に なるでしょう)。けれど,それで こまる ことは ありません。〈イスィダ〉〈ウティダ〉は 外国人の「なまり」です。すこしくらい 発音が おかしくても,石田さんと 内田さんだと わかります。別人と とりちがえる 心配も ないでしょう。

ふつう,日本人の 名前は 日本語です。これを 英語風の つづりに する 必要は まったく ありません。外国の 俳優・スポーツ選手 などに あやかって つけられた 名前も ありますが,これらも 非英語圏の 名前なら 英語風の つづりに する 必要は ありません。それなのに,外務省は これらを 英語風の つづりで 書かせようと しています。植民地でも ないのに こんな ことを している 国は 日本 だけです。これは 国際的にも はずかしい ことです[6]

問題 2:長音符号を 書かない こと


「人魚」と「人形」

長音が 書けないと,日本語は ただしく 記述 できません。

「パスポート式」では 太郎さんと 次郎さんが タロと ジロに なって しまいますが,ご本人に とっては わらえない はなしです。「パスポート式」の もっとも おおきな 欠点は 長音の 書きかたが まずい ことです。

どうしても 記号が つかえないのなら 記号を 書かないのも しかたが ありませんが,その 対処を 何も していない ため,ONO が 小野さんか 大野さんか わからなく なっています。これでは 個人の 識別という パスポートの 基本機能すら あぶなっかしいでは ありませんか。これは 深刻な 設計ミスで あり,重大な まちがいを ひきおこす おそれが あります。

この 問題は 大野さんを OONO と 書く だけで ほとんど 解決 できます。これは ローマ字の ルールで みとめられている ただしい 書きかたです。これなら 小野さんと 大野さんを きちんと 区別 できますし,日本人が みれば ほぼ ただしい 発音で 読めます。なぜ こういう ルールに しなかったのでしょうか。原音の 再現性は わすれていたのでしょうか[7]

この 欠点と くぎりの 記号が つかえない 欠点の せいで,パスポートの 名前は 日本人が みても まともに 読めません。たとえば,YUKO は おそらく〈ユーコ〉ですが,〈ユコ〉〈ユコー〉〈ユーコー〉の 可能性も あります。KENICHI は たぶん〈ケンイチ〉ですが,ひょっと すると〈ケニチ〉かも しれません。SHINYA は おそらく〈シンヤ〉ですが,〈シニャ〉で ないとは いいきれません。これらは 常識で おしはかる ことも できますが,ONO(小野? 大野?)や OHARA(小原? 大原?)は それすら できません。日本人の 名前を 外国人が みて ただしく 読めないのは あたりまえですが,日本人が みても 読めなかったら おかしいでしょう。日本人は 自分の 名前を 自分でも 読めない つづりで 書いている わけで,これでは 世界の わらいものです。

非ヘボン式

やぶれかぶれの 改善策?

「パスポート式」は 評判が よく なかったので,外務省は 2000年に ルールを みなおしました。この ルール変更で オ段の 長音に OU, OH が つかえる ように なりました。

SATOU(佐藤) OHTANI(大谷)

しかし,この ルール変更は 失敗でした。オ段の 長音 しか かんがえていないからです。隆二さんや 優香さんの ように,ウ段の 長音が はいった 名前も たくさん あるのに,なぜか それが かんがえに はいっておらず,雪さんと 夕貴さんは 区別 できない ままです。しかも,この 書きかたには ときどき おかしな 読みかたを される 欠点が あります。

OHE(大江,オヘ?)
OHHIRA(大平,オッヒラ?)
OHYAMA(大山,オヒャマ?)
MOURI(毛利,モウリ?)

オ段の 長音を ouoh に する 書きかたは ローマ字の ルールを さだめている「ローマ字のつづり方」に 違反 しています。ou は ローマ字と ローマ字入力を 混同 している 人が よく やる まちがいです。oh は スポーツ選手の ユニフォーム などで よく みる まちがいです。どちらも よく ある まちがいで,それぞれ「ワープロ式」「スポーツ選手式」という 名前が ついています。

この ルール変更は オ段の 長音を ふくむ お名前の 人から 歓迎 されたかも しれませんが,ローマ字の 理屈から いえば デタラメも いい ところです。ただしい ローマ字の ルールを 採用 すれば よかったのに,わざわざ まちがった 書きかたを とりいれて,解決 しなければ ならない 問題を 完全には 解決 できなかった だけで なく,あたらしい 問題を うみだして しまいました。じつに おろかな 失敗でした。

TAROO(太郎)【ただしい ローマ字】[8]
× TAROU(太郎)【「ワープロ式」
× TAROH(太郎)【「スポーツ選手式」

非ヘボン式

2005年に 外務省は ふたたび ルールを あらためました。

近年、氏名、特に名について、国字の音訓及び慣用にとらわれない読み方の名や外来語又は外国風の名を子に付ける例が多くなる等、旅券申請において表記の例外を希望する申請者が増えていることから、その氏名での生活実態がある場合には、非ヘボン式ローマ字表記であっても、その使用を認めることとしました。

外国人風の 名前 などが ふえてきたから 非ヘボン式を みとめる ように したと いっていますが,おそらく それ だけが 理由では ないでしょう。とにかく,「パスポート式」から はずれた つづりでも,じっさいに それを つかって くらしているという「生活実態」を しめせば,それが みとめられる ように なりました。たとえば,理沙さんと 凛さんが 外国人風の LISA, LYNN を つかっていたら,これらの つづりで パスポートを つくれます。譲司さん・玲央さんが GEORGE, LEO でも よく,愛(らぶ)さんが LOVE でも かまいません。この ルール変更で「パスポート式」という しばりは 事実上 なく なったとも かんがえられます。

非ヘボン式では つぎの ような 書きかたが できます。

KATOU(加藤) KATOH(加藤)
KATOO(加藤) YUUKO(優子)
HUKUSIMA(福島)
TIDURU(千鶴)
KOH-YAMA(神山)
SHIN-ICHI(伸一)
KIM(金) MARY(真理)


非ヘボン式という よびかたには 気を つけて ください。ローマ字に 非ヘボン式という 方式は ありません。そんな 分類も ありません。これは 外務省が いう ところの ヘボン式に あてはまらない 書きかたが そう よばれている だけです。この よびかたが 意味を もつのは パスポートの はなしを する とき だけです。

非ヘボン式の 申請

非ヘボン式に したい ときは 申請 して みとめて もらわなければ なりませんが,あきらかに まちがっている つづりや ふざけた つづりで ない かぎり,その つづりが みとめられると おもわれます[10]

非ヘボン式の 申請では,じっさいに その つづりを つかって くらしているという「生活実態」を 証明 する 必要が あります。これは おおがかりな ことに おもえるかも しれませんが,そうでも ありません。目的の つづりに なっている クレジット カードが あれば 十分です。外国から きた 手紙の あて名や スポーツの ユニフォームに 書いてある 名前でも 証明 できます。そういう ものが なければ「事情説明書」を 提出 します。「訓令式に したい。」という かんがえも 理由に なります。

じっさいには なやましい 問題も あります。家族の 姓の つづりが おなじで ないと こまるかも しれません。家族で 外国に 旅行 する とき,姓の つづりが ばらばらだと ややこしいでしょう。パスポートを 申請 する ときに 家族の 姓の つづりを そろえる よう しつこく 説得 される ことも ある そうです。姓の つづりは 自分 だけの 問題では ありませんから よく かんがえて きめて ください。クレジット カードとの 整合性も 大事です。外国で 何かの 拍子に パスポートと クレジット カードで 名前の つづりが ちがう ことに 気づかれたら,どんな うたがいを かけられるか わかりません。


パスポートは とても 重要な ものですから,名前の ローマ字にも きびしい ルールが あります。非ヘボン式の 制度が あるからと いって,どんな つづりに しても いい わけでは ありません。「太郎」を HANAKO に したいと いっても むりでしょう。また,名前の ローマ字は いったん きめたら 変更 できません。昔「パスポート式」で つくった パスポートは 非ヘボン式で つくりなおせますが,非ヘボン式から 別の 非ヘボン式に かえる ことも,非ヘボン式から もとの「パスポート式」に もどす ことも できません[11]

ローマ字の ただしい 書きかたを しっている 人は あまり いません。反対に,名前の ローマ字を 芸能人の ニックネーム みたいな ファッション感覚で かんがえている 人は よく います。これでは ルールが きびしく なるのも しかたが ないでしょう。パスポートの 問題は ルールが おかしい ことで あって,ルールが きびしい ことでは ありません[12]

「パスポートむけ訓令式」

「非ヘボン式」の 制度を つかえば「パスポート式」の 問題を 解決 できます。この サイトは 訓令式を すこし 変形 した 書きかたを おすすめ しています。この「パスポートむけ訓令式」は つぎの ような 書きかたです。

  1. 「ローマ字表」は 訓令式と おなじです。
  2. 撥音(ん)は n で あらわします。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときは きる印(')で くぎります。
  3. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。
  4. 長音(ー)は 母音字かさね式の 代用表記に します。おなじ 母音字が 3個 以上 つづく ときは きる印(')で くぎります。

HUKUSIMA(福島)
TIBA(千葉)
TUZI(辻)
KANDA(神田)
NANBARA(南原)
KEN'ITI(健一)
KIKKAWA(吉川)
BEPPU(別府)
HOTTI(堀地)
OONO(大野)
SATOO(佐藤)
MUKOODA(向田)
YUUKO(優子)
SYUUHEI(修平)
NIIYAMA(新山)
SENOO(妹尾)
OO'OKA(大岡)
YOKO'OOZI(横大路)

これは「ローマ字のつづり方」が さだめている 訓令式の ルールに ほぼ 完全に のっとっています。日本語らしい つづりなので,国際的な 問題が ありません。まにあわせの 書きかたでは ありますが,長音を きちんと 書きあらわしているので,日本語が わかる 人なら ほぼ ただしい 発音で 読めます[13]

お名前を「パスポートむけ訓令式」に 変換 できる「お名前の ローマ字 変換」「ふりがなの ローマ字 変換」が あります。ご自由に おつかい ください。

道路標識の ローマ字

道路標識の ローマ字

書きかた


道路標識 (道路標識調査Weblog)

道路標識(案内標識)に 書かれる 地名 などの ローマ字は 国土交通省が 「英語式」を もとに して つくった 独自方式です。つぎの ような 書きかたです。

  1. 「ローマ字表」は ヘボン式と おなじです。
  2. 撥音(ん)は n で あらわします。b, m, p の 前の 撥音でも m に しません。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときは つなぎ(-)で くぎります。
  3. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。ただし,ch の 前の 促音は t に します。
  4. 長音(ー)は 長音符号を 書きません。ただし,イ段の 長音は ii で あらわします。
  5. 基本的には ひとつづきに 書きますが,普通名詞の 部分(「市」「山」「橋」など)は きりはなして 英訳 します。ただし,それが 名前と 一体化 している ばあいは ひとつづきに 書いて 英訳を つけたします。
  6. 定着 している 表記が あれば それに したがいます。

Chiba(千葉)
Katsuura(勝浦)
Fukushima(福島)
Sendai(仙台)
Shinbashi(新橋)
Den-enchofu(田園調布)
Beppu(別府)
Sapporo(札幌)
Kutchan(倶知安)
Tokyo(東京)
Yuhigaoka(夕陽丘)
Niigata(新潟)
Tokyo Met.(東京都)
Aichi Pref.(愛知県)
Fukuoka City(福岡市)
Nakayama Town(中山町)
Shinano River(信濃川)
Arakawa River(荒川)
Atago Shrine(愛宕神社)
Toshogu Shrine(東照宮)
Chiyoda Bridge(千代田橋)
Togetsukyo Bridge(渡月橋)
Mt. Fuji(富士山)
Mt. Gassan(月山)


道路標識の ローマ字は,単純な 地名と「〇〇川」「〇〇市役所」「〇〇橋」の ような 地形・施設・建造物 などの 名前で 書きかたに ちがいが あります。「〇〇橋」の ばあい,それが 単純な 地名なら「橋」まで ふくめた 全体を ひとつづきに 書きますが,それが 橋の 名前なら「橋」を きりはなして 英訳 します。きりはなせない ものは ひとつづきに 書いた あとに 英訳を つけたします。そのため,地名の「飯田橋」は Iidabashi ですが,橋の「祝田橋」は Iwaida Bridge で,「二重橋」は Nijubashi Bridge です。このような 区別を する ことに どれだけの 意味が あるのか はなはだ 疑問です。特に Nijubashi Bridge の ような 書きかたを 奇妙に かんじる 人は おおい ようです。

もっと おおきな 問題も あります。それは「英語式」を つかっている ことです。「英語式」には 日本語を ただしく 記述 する 能力が ありません。はじめに かかげた 道路標識の 写真を よく みて ください。外国人が これを みたら おどろくのでは ないでしょうか。

つけたし

ローマ字の 書きかたには ルールが あり,日本語を ローマ字で 書く ときは 訓令式を もちいる ことに きまっています。しかし,1946年に GHQが 道路や 駅に その 名前を 英語で 掲示 する よう 命令 した ことが あり,そのときから 道路標識では ヘボン式が つかわれています。日本が 主権を とりもどした あとも それらが 訓令式に もどされる ことは なく,ヘボン式の ままに なっています。

しかも,道路標識の ローマ字には 昔から つづりの まちがいが おおく,分かち書きの ルールも ばらばらでした。ちかごろは ローマ字を ただしく 書ける 人が すくなく なった せいか,あたらしい 道路標識にも つづりの まちがいが ある ようで,ときどき SNSに 写真が 投稿 されています。


ローマ字が 書かれていない 道路標識も あります。ローマ字を 書いていなかった 期間が あるからです。1971(昭和46)年に 原則として ローマ字を 書かない ことに なり,1986(昭和61)年に 原則として「英語による表示」を する ことに なりました。この あいだに つくられた 道路標識の おおくは ローマ字が 書かれていません。ただし,高速道路では この 期間も ローマ字表記を つづけていた ようです。

ローマ字を やめた 理由は 視認性が わるいからだと されています。道路標識に 書きこむ 情報が ふえて ごちゃごちゃ してきた せいでしょうか。交通事故が 社会問題に なっていた 時代ですから,道路標識の 読みにくさが 問題に なったのかも しれません。また,占領期の 遺物と みなされていたからだとも いわれています。たしかに,占領軍の 都合で つくった ルールを ずっと あたためていたのだと すれば,バカげた はなしです。このころは すでに ローマ字を こころよく おもわない 人の 発言力が おおきく なっていましたが,それと かかわっていたかは わかりません。

「英語による表示」を はじめた 理由は 国際化です。しかし,国際化と 英語化は ちがいます。じっさい,英語を 書いても あまり 役に たちません。日本に すんでいる 外国人や 日本に やってくる 外国人は 中国語・韓国語・ポルトガル語を はなす 人が ほとんどで,英語が わかる 人は すくないからです。


最近,道路標識の ローマ字を 英語に 書きかえる 作業が すすめられています。上で 説明 した 書きかたを よく みれば わかる ように,これは ローマ字表記の 日本語では なく,英語です。1980年代に「英語による表示」と きめていた わけですから,それを 実行 している だけとも いえますが,特に 近年は 国際化を かたった 表示の 英語化が あらゆる 分野で おこなわれています。

しかし,地名の 表示を 国際化 する 方法は 英語化では ありません。地名は それ だけを 単独で 書く ことが おおいでしょう。道路標識の 地名も そうです。それなら 外国語に 翻訳 する 必要は ありません。地名を 翻訳 する 必要が あるのは 外国語の 文章に 書きこむ とき だけです。つぎに この 問題を くわしく 説明 します。

ローマ字から 英語へ?

2013年,国土交通省は 観光地 などに ある 案内標識の ローマ字を やめて 英語に かえる 方針を しめしました。しかし,これは まちがった 政策です。表示を 国際化 する 方法は ローマ字化で あって 英語化では ありません。英語化 すると 不便に なります。公の 表示を 英語化 する ことには 国際的な 問題も あります。


まず,英語は 外国人に つうじません。英語で くらしている 人の 割合は 世界の 人口の 1割にも みたない ほど すくなく,ほとんどの 外国人は 英語が わかりません。かんたんな 英単語が わかる 人の 割合は もっと おおいでしょうが,それでも すべての 外国人に 英語が つうじると おもったら おおまちがいです。しかも,英語圏から 日本に やってくる 外国人は あまり いません。日本を おとずれる 外国人の 国・地域を しらべた 統計(2017年)によると,トップ3は 中国・韓国・台湾で,これらを あわせると 全体の 66.4%に なる 一方,英語圏の アメリカ・オーストラリア・英国・カナダを あわせても 8.7%に しか なりません。国土交通省は 旅行者の 利便性を 変更の 理由に していますが,まったく 理由に なっていません[14]

そして,外国人は 母語で 書かれた 旅行者むけの ガイドブック などを たよりに 行動 しますから,地名を 英語で 表示 する 必要は ありません。外国人が 目で みて 判別 できる ローマ字表記が ひとつ あれば 十分です。外国人は ローマ字を みても それを ただしい 発音では 読めませんし,普通名詞の 部分は その 意味も わかりません。けれど,それで こまる ことも ない わけです。そもそも,地名は 全体が ひとつの 固有名詞なので,ふつうは 翻訳 できません。「○○公園」「国会議事堂」などは 一部 または 全部を 翻訳 できますが,翻訳 しては いけません。外国人に 必要な 情報は,目で みて 判別 できる 文字列と おおよその 読みかたで あって,意味では ないからです。たとえば,「金閣寺」が 寺で ある ことや「代々木公園」が 公園で ある ことを しめす 必要は まったく ありません[15]

地名を 英訳 すると 不便に なります。外国人と 日本人が おなじ ものを ちがう 名前で よぶ ことに なるからです。日本語の 名前が わからない 外国人は 日本人に 道を たずねる ことが できません。外国人から The National Diet の 場所を たずねられても それが 何か わからない 日本人は 道案内が できません。外国人は 地名の おおよその 読みかたが わかれば 交通機関で ながれる 車内放送も なんとか ききとれます。しかし,地名を 英訳 すると 交通機関は 英語の 放送を しなければ なりません。こうして 観光地が 人情や 風情を うしなって しまいます。地名を ローマ字で 書いておけば,外国人と 日本人が おなじ 名前を つかうので はなしが つうじます。わざわざ 国際交流を さまたげて 観光地の ねうちを さげるのは やめる べきです。

観光地の 表示には それなりの センスが もとめられます。やたらに 外国語が 目に つくと,日本らしさを たのしみたい 外国人は がっかり します。交通機関は できるだけ ことばに たよらず,記号(ユニバーサル サイン,ピクトグラム)を くふう する べきです。もちろん,それとは 別に 多言語で 対応 できる 観光案内所 などは 必要です。スマートフォンが ゆきわたっている いまなら テクノロジーによる 解決策も あるでしょう。これらが 本当に のぞまれている ことです。特に 公の 表示は その 土地で くらしている 人の 言語で 書く べきです。公の しごとは 住民への サービスで あり,商売の 手だすけでは ないからです[16]

観光地 などでは 表示の 多言語化を すすめていかなければ なりませんが,翻訳 する 必要が あるのは 文章が 書かれる 掲示物や 普通名詞が 書かれる 案内板 だけです。固有名詞を 翻訳 しても 意味が なく,むりやり 翻訳 しても 不便に なる だけです。地名の 表示は 国内むけの かな文字表記と 国際的な ローマ字表記の ふたつが あれば 十分です(地名の 漢字表記は 地元の 人で ないと 読めない ことが あるので,なくても かまいません)[17]

世界一の 観光大国で ある フランスの 名所が 英語だらけに なっているか,かんがえてみて ください。日本は 観光地に かぎらず どこも 英語で あふれていますが,まるで 日本が 日本語を 大切に していない ような 言語景観を 外国人は 尊敬の 目で みていません。特に,公の 表示が 英語まみれに なっている ありさまは,その こと じたいが 国際社会に たいする 政治的な 意味を もつ メッセージに なって しまい,日本の 信用を そこね,日本語の 国際的な 地位を 傷つけています。

地図の ローマ字

地図の ローマ字

書きかた

地図(陸図)の 地名を 書く ローマ字は 国土交通省が 「英語式」を もとに して つくった 独自方式です。つぎの ような 書きかたです。

  1. 「ローマ字表」は ヘボン式と おなじです。
  2. 撥音(ん)は n で あらわします。ただし,b, m, p の 前の 撥音は m に します。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときは つなぎ(-)で くぎります。
  3. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。ただし,ch の 前の 促音は t に します。
  4. 長音(ー)は 長音符号を 書きません。ただし,イ段の 長音は ii で あらわします。
  5. 普通名詞の 部分(「山」「川」など)は きりはなして 書きます。普通名詞の 部分が 名前と 一体化 していて きりはなせない ばあいは ひとつづきに 書きます。
  6. 発音を きる 必要が ある ところは つなぎ(-)で くぎります。

Chiba(千葉)
Katsuura(勝浦)
Fukushima(福島)
Sendai(仙台)
Shimbashi(新橋)
Shin-okubo(新大久保)
Beppu(別府)
Sapporo(札幌)
Kutchan(倶知安)
Tokyo(東京)
Yuhigaoka(夕陽丘)
Niigata(新潟)
Aomori Ken(青森県)
Tokyo Wan(東京湾)
Fuji San(富士山)
Arakawa(荒川)
Kinokawa(紀ノ川)
Gassan(月山)
Shijo-kawaramachi(四条河原町)
Aki-takada Shi(安芸高田市)

道路標識の ローマ字と にていますが,普通名詞の 部分を 英訳 しない ところが ちがいます。つづりは 英語風ですが,英語では ありません。その 意味で,公の ローマ字に しては めずらしく,比較的 まっとうな ローマ字と いえます。


海図の ローマ字は 海上保安庁が さだめている 独自方式で,ヘボン式の 変種です。くわしい ルールは わかりません[18]

おぎない

上で 説明 した 書きかたは 地図の ための 特別ルールです。それ 以外で 地名を 書く ときは ルールに のっとった ただしい ローマ字を 書く ように して ください。地名は それだけを 単独で 書く ことが おおく,その ばあいは 日本語の ローマ字表記で 十分です。翻訳 する 必要は ありません。

たとえば,国際郵便の あて先や 外国の 通販サイトの システムに 入力 したり する 日本の 住所は ローマ字(訓令式)に すると いいでしょう。外国人は 漢字や かな文字を 読み書き できないかも しれませんし,外国の システムは 日本の 文字を あつかえないかも しれませんから,この 住所は ABC表記に する 必要が あります。けれども,この 住所が じっさいに 読まれるのは 日本国内ですから,それを 英訳 する 必要も 英語風の つづりに する 必要も ありません。

Huzisan(富士山)【ただしい ローマ字】
Kôti-ken(高知県)【ただしい ローマ字】

英訳 する 必要が ない ところで 英訳 されている 地名を みる ことは よく あります。特に 公の 表示で それが ひどい ようです。しかも,これらの 英訳には みすごせない 不具合が あります。「荒川」が Arakawa River に なっていて,つよい 違和感が ある ことです。感覚的な きもちわるさ だけなら,そのうち なれて しまって 解決 しますが,これは「モンブラン」を Mt. Mont Blanc に している ような ものですから,理屈が まちがっています。これでは 国際的にも はずかしいでしょう。

いきさつ

地図の ローマ字は 大正時代から 日本式を 採用 していて,訓令式が できてからは 訓令式でした。しかし,1999年に 海図が,2005年に 陸図が,ヘボン式に かえられました。


昔の 地図(陸図)

日本式HUZISAN, YAMANASI などが みえます。


昔の 海図

日本式YAMAGUTI, SIMO-NO-SEKI などが みえます。

地図の ローマ字を かえた 理由は 理念や 理論に もとづいた ものでは なく,訓令式より ヘボン式が おおく もちいられている 現状に あわせた だけでした。海図の ばあいも おおよそ 想像が つきそうです[19]

歴史を ふりかえると,1937(昭和12)年に 訓令式が できる きっかけに なったのは,万国地理学会議が 日本に 地名の ローマ字を 統一 して ほしいと いってきた ことでした。そして 専門家が 何年も 議論を かさね,理論的に みちびきだした 結論が 訓令式だった わけです。1954(昭和29)年に「ローマ字のつづり方」を つくった ときも,専門家が まとめた 原案の 段階では 地名を かならず 訓令式で 書く ことに していました。このような 歴史を わすれ,理念や 理論を ないがしろに して,ほとんどの 国民が しらない あいだに ルールを かえて しまったのですから,これは 文明国として はずかしい ことです。


道路標識の 地名は 英語化 されているのに,地図の 地名は 英語化を まぬがれています。この 理由と かんがえられるのは 国際連合地名標準化会議の 勧告です。これは 地名表記の 国際ルールに かかわる もので,地図に 書く 地名表記の ルールを きちんと さだめる よう 各国に もとめています。そして,普通名詞の 部分(「山」「川」など)は 翻訳 しないのが 原則に なっています。たとえば,「モンブラン」は Mont Blanc です。「富士山」が Fuji San に なっている 理由は これでは ないかと おもわれます。

地名の 国際的な 表記法

地名表記を 国際化 する 方法は 英語化では なく ローマ字化です。日本の 地名は 日本語ですが,固有名詞なので そのまま ローマ字で 書けば 世界に 通用 します。

ローマ字は 掲示物 などにも 適しています。いくつもの 外国語に 翻訳 して それらを ずらずら ならべなくて いいからです。ローマ字表記を ひとつ だけ 書く ように すれば,掲示物の 視認性も デザインも よく なります。翻訳 する 手間も コストも はぶけます。

Sinano Gawa(信濃川)
Arakawa(荒川)
Atago Zinzya(愛宕神社)
Tôsyôgu(東照宮)
Tiyoda Basi(千代田橋)
Togetukyô(渡月橋)
Huzisan(富士山)
Gassan(月山)


国際的な 表示では なく,読み手が 英語の はなし手 だけと わかっている ばあいは,ヘボン式「英語式」に しても かまいません。下は ヘボン式の 例です。

Shinano Gawa(信濃川)
Arakawa(荒川)
Atago Jinja(愛宕神社)
Tōshōgū(東照宮)
Chiyoda Bashi(千代田橋)
Togetsukyō(渡月橋)
Fujisan(富士山)
Gassan(月山)

地名を 翻訳 する ばあい

地名を 単独で 書くのでは なく 外国語の 文章の 中に 書きこむ ときは ローマ字表記では いけません。地名を 翻訳 する 必要が あります。観光施設で くばる パンフレットの 解説文に ふくまれている 地名 などが これに あたります。これらは いろいろな 言語の バージョンを つくる 必要が ありますから,地名も それぞれの 言語に 翻訳 しなければ なりません。

このとき,訳語を どう するかが 問題に なります。とりあえずは 日本人が つくった 訳語を 書いておく しか ありませんが,最終的には それぞれの 言語の はなし手が 訳語を きめます。たとえば,「荒川」を 英訳 する ばあい,Arakawa River に するか Ara River に するか Arakawa に するか,それは 最終的に 英語の はなし手が きめる ことです。

翻訳に あたって 気を つけなければ いけない 点は ほかにも あります。観光施設で くばる パンフレットの 解説文 などには,情報の 正確さ だけで なく,読み手の 心に ひびく うつくしい 文章が もとめられます。したがって,外国語バージョンを つくる 作業は しろうとの 手に おえません。これは かならず 翻訳の プロに まかせて ください。

つけたし

基本的な 地名の 書きかたは「地名」で 説明 しています。具体的な 地名の リストが「地名の ローマ字」に,市町村の 名前の リストが「市町村の 名前」に あります。ご自由に おつかい ください。

駅名標の ローマ字

駅名標の ローマ字

書きかた


駅名標

駅名標(駅名の 表示板)・発車標 などの 駅名・路線名を 書く ローマ字は 鉄道会社 などが ヘボン式を もとに して つくった 独自方式です。つぎの ような 書きかたです。

  1. 「ローマ字表」は ヘボン式と おなじです。
  2. 撥音(ん)は n で あらわします。ただし,b, m, p の 前の 撥音は m に します。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときは つなぎ(-)で くぎります。
  3. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。ただし,ch の 前の 促音は t に します。
  4. 長音(ー)は のばす 音の 母音字に マクロン(¯)を のせます。ただし,イ段の 長音は ii で あらわします。
  5. 外来語は 原つづりで 書きます。

Chiba(千葉)
Katsuura(勝浦)
Fukushima(福島)
Sendai(仙台)
Shimbashi(新橋)
Shin-ichi(新市)
Beppu(別府)
Sapporo(札幌)
Etchūjima(越中島)
Tōkyō(東京)
Ōsaka(大阪)
Niigata(新潟)
Ōsakajōkōen
(大阪城公園)
Nasushiobara
(那須塩原)
Gala Yuzawa
(ガーラ湯沢)
Namegawa-Island(行川アイランド)

つけたし

昔の 鉄道省は 駅名標の ローマ字を ヘボン式で 書いていましたが,1937(昭和12)年に 訓令式が できたので,それを 訓令式に あらためました。しかし,1946年に GHQが 道路や 駅に その 名前を 英語で 掲示 する よう 命令 したので,そのときから 鉄道では ヘボン式が つかわれています。日本が 主権を とりもどした あとも それらが 訓令式に もどされる ことは なく,ヘボン式の ままに なっています。


駅名標の 図面 (1914)

駅名標の ローマ字は 戦後に できたと おもっている 人が います。しかし,じっさいは そうで なく,100年前から ありました。「鉄道法規類抄」付録の 工事図面より。


駅名の ローマ字表記は 重要です。外国人の 旅行者が おおい 観光地では 特に そうです。しかし,ローマ字の 方式を ヘボン式に する 理由は なく,訓令式で かまいません。駅名は 外国人が 目で みて 判別 できる 文字で 書いてあって,おおよその 読みかたが わかれば 十分だからです。外国人が みれば 訓令式ヘボン式も 外国語の つづりで あり,どちらも ただしい 読みかたは わかりません。英語を しらない 人が theatertheatre を みても ただしい 読みかたが わからないのと おなじです[20]

ホームの 発車標や 列車内の 表示器では,スペースの 都合で ローマ字の ながい つづりを 表示 しにくい ことが あります。そんな ときは,文字を ちいさく する よりも,ティッカー表示に する ほうが いいでしょう。


駅名標の ローマ字は 鉄道会社 などによる ちがいが おおきく,上で 説明 した 書きかたに なっていない ものが たくさん あります。つづりの きりはなしかた,つなぎ(-)の つかいかた,大文字・小文字の つかいわけ などは ばらばらで,統一の うごきも ありません。昔は(まちがって 書かれた)風がわりな つづりの ローマ字も たくさん ありました。ヘボン式で なく「英語式」に している ところも あります。

最近,駅名標の ローマ字が なく なってきています。ローマ字を やめて 英語に 書きかえる 作業が すすめられているからです。そのため,漢字を 読めない 人には 本当の(日本人が つかっている)駅名が わからない ことが あり,外国人の 旅行者を こまらせています。

よっつの 言語?


たまプラーザ駅の 駅名標

よっつの 言語で 書かれています。「プラーザ」は 本当は スペイン語の plaza(広場)です。中国語では「プラーザ」を「広場」と 翻訳 しています。

最近,簡体字と ハングルが つけくわえられて 4種類の 文字で 駅名を 書いた 駅名標を 目に する ことが おおく なりました。よく みると,4種類の 言語で 書かれている ことが わかります。これは 外国人の 旅行者 などを かんがえて,表記を 国際化 する ために おこなわれています。

外国人の 旅行者も 利用 する 交通機関で 案内や 注意書き などを 多言語化 するのは たいへん よい ことで,これは 観光地 などで 積極的に おしすすめて いかなければ ならない とりくみです。その際に,中国語と 韓国語を 優先 する 判断も まちがっていません。


しかし,駅名標の 多言語化は まちがった とりくみです。固有名詞で ある 駅名を 翻訳 する 必要は なく,ローマ字表記が ひとつ あれば 十分だからです。ローマ字の 目的は いくつか ありますが,その ひとつは 日本語を 世界に ひらかれた 文字で 書く ことです。外国人が 目で みて わかる 文字で 書く ことに 意味が あります。昔から 駅名標に ローマ字が 書かれていたのは そのためです。

駅名標に たくさんの 外国語を つめこむと,みた目が ごちゃごちゃ して 読みにくく なります。デザインも わるく なります。よっつの 表示が 時間を おいて きりかわる 発車標も ありますが,実用性が いちじるしく おとる ため,問題に なっています。苦情が おおいので,表示の しかたを かえた ところも ある そうです。このように,駅名を 多言語に 翻訳 して 表示 すると,さまざまな 問題が おこります。


この タイプの 駅名標には もっと おおきな 問題が あります。それは ローマ字を やめて 英語に 書きかえている ことです。地名を 翻訳 する ことが いけない 理由は 道路標識の ローマ字地図の ローマ字の ところで くりかえし のべた とおりです。それと おなじで,駅名も 翻訳 しては いけません。外国人に 必要な 情報は,目で みて 判別 できる 文字列と おおよその 読みかたで あって,意味では ないからです。たとえば,「〇〇病院」や「市役所前」の 駅名標に「病院」や「市役所」という 意味を 書く 必要は まったく ありません[21]

多言語の 対応を する ばあい,翻訳 する 必要が あるのは 文章が 書かれる 掲示物や 普通名詞が 書かれる 案内板 だけです。固有名詞を むりやり 翻訳 すると,日本人と 外国人が おなじ ものを ちがう 名前で よぶ ことに なるため,はなしが つうじなく なって,かえって 不便です。日本語の 発音には 外国語に ない 発音も あるため,外国語の つづりで 書きあらわせない ことも あります。駅名の 表示は 国内むけの かな文字表記と 国際的な ローマ字表記の ふたつが あれば 十分です(駅名の 漢字表記は 地元の 人で ないと 読めない ことが あるので,なくても かまいません)[22]


ときどき,地名が 駅名に なっている ものは ローマ字で いいけれども,その ちかくに ある 施設 などの 名前が 駅名に なっている ものは 英訳 した ほうが いいという 意見を みかけます。しかし,これは まちがいです。たとえば,「〇〇公園」の もより駅が おなじ 名前の「〇〇公園」だと すると,外国人は ガイドブック などで「〇〇公園」の ローマ字表記を しっているので,駅名も それと おなじ ローマ字表記に するのが もっとも 外国人に わかりやすい 親切な 表示だからです。

ところが,現実には「〇〇公園」自身が ただしい ローマ字表記を していません。ガイドブックも 外国人に わかりやすい ローマ字を 書かず,ほとんどの 外国人に 不親切な 英語の 名前を 書いています。それで 駅名標にも 英語の 名前が 書かれて しまい,外国人に 不親切な 表示に なっています。


おおくの 外国人は 日本の 駅名標を みて 不思議に おもっています。駅名標の 多言語化は 外国人の 役に たっていないからです。観光で 日本に やってきた 外国人が SNSに 駅名標の 写真を あげて 役に たたない 翻訳の 事例として 紹介 している ことも あります。駅名標の 多言語化は 日本の 未熟な 国際感覚を 世界に さらしていると いえるでしょう。道路標識の ローマ字と おなじ まちがいが 駅名標にも ひろがっている わけで,目が はなせません[23]

下に 外国の 駅名標を いくつか しめします。みた目が すっきり していて 視認性が よく,デザインも すぐれた ものが おおい ようです[24]


外国の 駅名標(ドイツ)

「オラニエンブルク通り」駅です。英語で street とは 書いてありません。


外国の 駅名標(フランス)

「パレロワイヤル ルーブル美術館」駅です。英語で museum とは 書いてありません。


外国の 駅名標(タイ)

「バーン スー」駅です。ラテン文字表記が つけたされています。

「新前橋」は Shim-Maebashi か?


新前橋の 駅名標

shinshim に かえて,つなぎ(-)を いれています。

駅名には「新」で はじまる ものが たくさん あります。「新橋」「新宿」などは 全体が ひとつの 名前なので,Shimbashi, Shinjuku の ように ひとつづきに 書かれます。これとは ちがい,「○○」の あとに できた 「新○○」は Shin-Xxx と 書かれる ことが おおい ようです。

ここで 問題に するのは,xxxb, m, p で はじまる ばあいに shinshim に かえている ことと,つなぎ(-)を いれている ことです。こんな 書きかたは やめる べきです。「新」の つづりは かえないで,「新」と「〇〇」を きりはなす 書きかたが いいでしょう。


複合語 などは,「雨」と「傘」が「雨傘」に なる ように,意識 できる レベルで 発音が かわっている ものを のぞいて,もとの ことばの つづりを たもつ べきです。「新」の 発音は 意識 できる レベルでは かわっていないので,その つづりも かえない ほうが いいでしょう。くわしくは「「あんパン」は ampan か?」を お読み ください。

地名 などの 前に「新」が つく ばあい,ローマ字の 書きかたに 公式の ルールは ありませんが,この サイトは New York(ニューヨーク)の ように きりはなす 書きかたを すすめています。英語の new は もともと 形容詞で「新」は もともと 接頭語なので,すこし ちがいは ある ものの,「ニューヨーク」も「新○○」も ふたつの 部分から できている 名前です。そして,名前が 複数の 部分から できている ばあい,それらを つなぎ(-)で つなぐ 必要は ありません。「山田花子」を Yamada Hanako と 書く ように,つづりを きりはなしても 全体の つながりは わかるからです。


「新」の つづりを かえなければ,「新○○」という 駅名を 検索 しやすく なります。shin だけ 検索 すれば いいからです。また,駅名を ABC順に ならべても 順序が おかしく なる ことが ありません[25]

「新」と「○○」を きりはなせば みた目が すっきり して 読みやすく なります。shinshim かで まよう ことも なく なります。「新○○」の「新」は 名前の 一部で あり,「千昌夫」の「千」と おなじです。これを Sem Masao とは 書かないでしょう。


「新○○」と おなじ ような 問題は ほかにも あります。いまは「外苑前」「海浜幕張」の 駅名標に Gaiemmae, Kaihimmakuhari と 書いてあります。羽越本線では Uzem-Mizusawa(羽前水沢)の つぎが Uzen-Ōyama(羽前大山)です。こんな 書きかたは やめた ほうが いいでしょう。Gaien Mae, Kaihin Makuhari, Uzen Mizusawa, Uzen Ōyama の ほうが ずっと 読みやすく わかりやすい はずです。

【読みもの】 難読地名の ローマ字


難読地名(大阪・京都)

道路標識(案内標識)の ラテン文字表記は,よく みると わかりますが,日本語の ローマ字表記では ありません。英語です。そのため,英語が わからない 人には まったく 役に たたない ように おもえます。けれども,そういう わけでも ありません。

漢字で 書かれた 地名には その 土地の 人で ないと 読めない ものが ありますが,そんな 難読地名でも ただしい 読みかたが わかるからです。はじめての 旅先で おもしろい 読みかたの 地名を みつけた 経験は ありませんか?