99式

あらまし

99式(きゅうきゅうしき)は「日本ローマ字会」が 提案 した あたらしい 方式です。その 名前は 1999年に 発表 された ことに ちなんでいます。

99式は 訓令式と ほぼ おなじ 書きかたですが,長音符号つき文字û, ô など)を つかわないで 長音を 書く ところが ちがいます。そのため,キーボードで 入力 しやすく「文字ばけ」の 心配が ありません。また,特殊音(ティ・ファ・チェ など)の 書きかたを さだめています。ローマ字入力の ローマ字に よく にているので,ローマ字入力を つかっている 人には おぼえやすく,すぐに つかいこなせる やさしい 方式です。

ただし,一般人が 書く ローマ字に よく みられる まちがいの「ワープロ式」にも にています。

okaasan(お母さん)【99式
otousan(お父さん)【99式

99式の「ローマ字表」

99式の「ローマ字表」を 下に しめします。

直音
aiueo
kakikukeko
gagigugego
sasisuseso
zazizuzezo
tatituteto
dazi / [di]zu / [du]dedo
naninuneno
hahihuheho
babibubebo
papipupepo
mamimumemo
イィイェ
yayiyuyeyo
rarirurero
wawiweo / [wo]
拗音
キャキィキュキェキョ
kyakyikyukyekyo
ギャギィギュギェギョ
gyagyigyugyegyo
シャシィシュシェショ
syasyisyusyesyo
ジャジィジュジェジョ
zyazyizyuzyezyo
チャチィチュチェチョ
tyatyityutyetyo
ヂャヂィヂュヂェヂョ
zya / [dya]zyi / [dyi]zyu / [dyu]zye / [dye]zyo / [dyo]
テャティテュテェテョ
tjatjitjutjetjo
デャディデュデェデョ
djadjidjudjedjo
ニャニィニュニェニョ
nyanyinyunyenyo
ヒャヒィヒュヒェヒョ
hyahyihyuhyehyo
ビャビィビュビェビョ
byabyibyubyebyo
ピャピィピュピェピョ
pyapyipyupyepyo
フャフュフョ
fyafyufyo
ヴャヴュヴョ
vyavyuvyo
ミャミィミュミェミョ
myamyimyumyemyo
リャリィリュリェリョ
ryaryiryuryeryo
ウァウィウゥウェウォ
wawiwuwewo
ヴァヴィヴェヴォ
vavivuvevo
クァクィクゥクェクォ
kwakwikwukwekwo
グァグィグゥグェグォ
gwagwigwugwegwo
スァスィスゥスェスォ
swaswiswusweswo
ズァズィズゥズェズォ
zwazwizwuzwezwo
ツァツィツゥツェツォ
tsatsitsutsetso
ヅァヅィヅゥヅェヅォ
zwa / [dza]zwi / [dzi]zwu / [dzu]zwe / [dze]zwo / [dzo]
トァトィトゥトェトォ
twatwitwutwetwo
ドァドィドゥドェドォ
dwadwidwudwedwo
ヌァヌィヌゥヌェヌォ
nwanwinwunwenwo
ファフィフゥフェフォ
fafifufefo
ブァブィブゥブェブォ
bwabwibwubwebwo
プァプィプゥプェプォ
pwapwipwupwepwo
ホァホィホゥホェホォ
hwahwihwuhwehwo
ムァムィムゥムェムォ
mwamwimwumwemwo
ルァルィルゥルェルォ
rwarwirwurwerwo

※ カタカナは かな文字表記を しめしています。たとえば,ふりがなが「ヴュ」だったら,それを どう 発音 するかに かかわらず,ローマ字は vyu と 書くという 意味です。

※ [ ]は 厳密な 字訳(翻字)を する ときに つかいます。

99式の きまり

  1. 撥音(ん)は n で あらわします。撥音の つぎに 母音字 または y, w が ある ときは きる印(')で くぎります。
  2. 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。
  3. 長音(ー)は かな文字の とおりに 書きます。カタカナ語 などの「ー」は その 前の 母音字を かさねます。

onsen(温泉) sinbun(新聞) hon'ya(本屋)
kitte(切手) zassi(雑誌) itti(一致)
Toukyou(東京) Yamada Tarou(山田太郎)
otousan(お父さん) okaasan(お母さん)
oniisan(お兄さん) oneesan(お姉さん)
eiga(映画) kuukou(空港)
ookii(大きい) toori(通り)
hourensou(ほうれん草) tyuurippu(チューリップ)
firumu(フィルム) tyesu(チェス) tjii(ティー)
booru(ボール) bouru(ボウル) baree(バレエ)
Mukasi mukasi, aru tokoro ni oziisan to obaasan ga imasita.

おぎない

基本原理

99式は つぎに しめす 3個の かんがえかたに もとづいて 書きかたを きめています。

  1. 翻字法としての ローマ字
    漢字かな交じりが つかわれている あいだの かな文字と 漢字を ラテン文字に 変換 する 方法として かんがえます。
  2. カナに したがう
    基本的には 発音に したがいながらも,最終的には かな文字で どのように 書かれているかに もとづいて かんがえます。
  3. ふりがな方式
    漢字の ことばや「ー」を ふくむ カタカナ語は ふりがなで かんがえます。

時代背景

99式が できたのは 1990年代です。ちょうど パソコンと インターネットが 一般に つかわれだした ころで,まだ û, ô などの 特殊な 文字を あつかうのが 技術的に むつかしかった 時代です。そのため,どうやって パソコンで ローマ字を つかえる ように するかが おおきな 問題でした。99式の 特徴は 長音の 書きかたですが,それは このような 時代背景が かかわっています。


「99式ローマ字テキスト」(日本ローマ字会)

「文字が 中心」の 例外

99式は 日本語の 音声を ABC表記に する ローマ字では なく,文字(ふりがな)を 中心に かんがえる 方式です。けれども,「ぢ」「づ」は zi, zu,助詞の「は」「へ」「を」は wa, e, o と 書くのが ふつうです。厳密な 字訳(翻字)を おこないたい とき だけ 「ぢ」「づ」を di, du,助詞の「は」「へ」「を」を ha, he, wo と 書きます。


「99式ローマ字テキスト」(日本ローマ字会)

ここでは〈フェ〉を hwe と 書いていますが,これは 日本式訓令式で よく つかわれる 書きかたです。99式も はじめは この 書きかたを していた ようです。

ローマ字の 統一

「国語」で ならう ローマ字と ローマ字入力で つかう ローマ字は ちがいます。これが ローマ字を ややこしく して,混乱の もとに なっています。そのため,ふたつの ローマ字を 統一 する べきだと おもっている 人は おおいでしょう。

それには ふたつの やりかたが かんがえられます。

  1. 「国語」の ローマ字を 変更 して,ローマ字入力の ローマ字に あわせる
  2. ローマ字入力の ローマ字を 変更 して,「国語」の ローマ字に あわせる

99式が ローマ字入力の ローマ字に にているのは ひとつめの やりかたを とりいれて 設計 したからだと かんがえられます。一般人が おもいつく アイデアも ふつうは ひとつめの やりかたです。

しかし,この やりかたは まちがっています。ふたつの ローマ字を 統一 するので あれば,ふたつめの やりかたに しないと いけません。くわしくは「ふたつの ローマ字を 統一 する」を お読み ください。

99式の 欠点

99式は あたらしい 方式ですが,欠点が ない わけでは ありません。まず,文字を 中心に かんがえる 方式なので,音声情報を 正確に つたえられません。読みかた だけ しっている ことばを 99式で 書けなかったり,99式で 書かれた ことばを ただしい 発音で 読めなかったり します。たとえば,「氷」を 99式で 書きたい ばあい,その ふりがなが「こうり」か「こおり」か しっている 人で なければ 書けません。99式の kouri を 読みたい ばあい,それが〈コウリ〉(小売り)か〈コーリ〉(高利)かを 文脈から 判断 できる 人で なければ 読めません[1]

氷 → kouri? koori?
kouri → 小売り? 高利?

また,おなじ 母音字が 3個 以上 つづく ときと oou, ouu に なる ときに 読みかたが わからなく なります。これを ふせぐには きる印(')が 必要です。

huuu(風雨,フウー?) → huu'u
koou(呼応,コーウ?) → ko'ou
kouu(降雨,コウー?) → kou'u

これらは 99式の 欠点と いうより 現代仮名遣いの 欠点です。99式は 現代仮名遣いの 欠点を そのまま ひきついで しまう わけです。ローマ字には 日本語の 表記システムを やさしく する 目的が あり,読み書きが やさしい ところに ローマ字の ねうちが あるのですから,これでは いけません。

99式を やさしいと かんじるのは 現代仮名遣いを しっている 人 だけです。したがって,99式を だれに とっても やさしい ローマ字と かんがえるのは あやまりです。ちいさい こどもや 外国人は 現代仮名遣いが わからないので,「王様」の ふりがなが「おおさま」か「おうさま」か「おーさま」か わかりません。しかも,現代仮名遣いは こどもでも わかる かんたんな 理屈で 説明 できない ところが あるので,すこしずつ なれて おぼえていく ほかは なく,習得に 時間が かかります。


99式は 文字を 中心に かんがえる 方式ですが,完全な 字訳(翻字)では ありません。和語と 漢語の 長音を 字訳(翻字)に している だけです。外来語の「ー」は かな文字の とおりに 書きません。「ぢ」「づ」も 助詞の「は」「へ」「を」も かな文字の とおりに 書きません。初心者には この あたりの 基準も わかりにくいでしょう。

こまかい はなしですが,特殊音の つづりかたが 英語の 影響を うけすぎているという 批判も あります[2]


99式の もっとも おおきな 欠点は 日本語の 音声を ラテン文字で 書く ローマ字の 原則から はずれている ことです。99式は 1990年代の 状況に あわせて 訓令式を すこし 変形 した ものと かんがえられます。合理的で 日本語らしい 書きかたを おいもとめて つくられたのでは なく,本当の ローマ字の 目的から はずれている ところが あります。

もし 現代仮名遣いが あらためられて ふりがなの 書きかたが じっさいの 読みかたに ちかづけば,99式は 自動的に ローマ字の 原則に ちかづいていきます。そんな 未来を ねがいつつ,ローマ字を 世の中に ひろめる ことが さしあたっての 目標に なっていたのでしょう。これは ローマ字運動の かんがえぬかれた 戦略で あったと おもわれます[3]