PENTAX K-3 Mark III 写真家インタビュー
私が一眼レフ“も”使う理由…藤里一郎さんの場合
自分の眼・手の延長として機能 官能的な存在感が心地よい
2021年4月23日 07:00
隆盛を誇ったデジタル一眼レフカメラですが、いまや新製品も数少なくなり、ミラーレスカメラにその座を譲ったかに見えます。デジタルカメラの原理や構造を考えると、当然の帰結だったのかもしれません。一方で光学ファインダーとクイックリターンミラーを備えた一眼レフカメラには、ミラーレスカメラが失った抒情的な何かが残されているように思えます。
リコーイメージングが発売する「PENTAX K-3 Mark III」(以下K-3 Mark III)は、この時勢において純然たるデジタル一眼レフカメラとして登場しました。その魅力を4名の写真家に聞くのがこの連載です。
今回登場するのはポートレート写真家の藤里一郎さん。K-3 Mark IIIにお気に入りのレンズをつけて撮影いただきました。独自の世界をモデルとともに作りだす藤里さんにとって、K-3 Mark IIIはどのようなカメラなのでしょうか。(編集部)
1969年生まれ。男っぷりのよい写真、色香あふれる写真を撮る当世一”Hip”な写真家。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業後、大倉舜二氏に師事、96年独立。以降フリー。アーティスト“May J.”のコンサートツアー・オフィシャルフォトグラファーとして活動するほか、人気作家・“伊坂幸太郎”の「死神」シリーズのカバー写真をてがける。2018年度、カメラ雑誌「月刊カメラマン」40周年記念年の表紙を1年間担当し、また、2017~2018にかけてラジオパーソナリティとしての経験も持つ。書籍として日本写真企画刊「ポートレイトノススメ」も出版している。また女優・鎌滝恵利、アートディレクター・三村漢との10年間毎年写真展を開催するプロジェクトも進行中。年間10本もの個展を開催しリピーターの多い写真展として認知される。2019年写真展「おんな」をシリーズとして始動、新たに「おんな」というジャンルにも挑戦をはじめる。
私が一眼レフ“も”使う理由 記事一覧(Sponsored)
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/interview/k3m3/
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約2,000枚の撮影も楽しかったことを思い出して探せば簡単
——撮影枚数が多いようですが、撮影もセレクトも大変ではないですか。
今回で2,000枚くらいです。お昼ご飯食べてから、夕方17時くらいまでの撮影でした。途中で、おやつを食べたりもしましたが、それ以外はずっとシャッターを切っているような状態ですね。ただ、K-3 Mark IIIでは、バッテリー切れになるようなことはありませんでした。一眼レフということもあって、燃費はよいです。一応、充電できるようにモバイルバッテリーも持っていっていたのですが、使わずに済んだのはよかったです。
モデル撮影というと、「ハイいきますよー」って言って、ポージングの指示をして、モデルさんもそれに合わせて構えて、撮っていくというスタイルの人も多いですが、僕はちょっと違うんです。「やろうか」みたいなことも言わずに、ふわーっと入っていきます。そこでパシャパシャ撮っていきます。モデルさんは「なんか凄い撮ってるじゃん、表情作るの大変!」って思うわけですが、諦めて飾らなくていいんだ、作らなくていいやって思ってくれたら、僕の仕事です。そうなると撮りたい表情が出てくるんです。そうでなければ僕の絵(作品)になりませんから。ここに座ってみたいなのは言いますが、あまりこういうポーズをしてとは頼みません。場所も特に予定などは決めずにブラブラしながら撮っていきます。一緒にデートするような感じですね。
被写体に対して、可愛いだったり綺麗だったりと思う感情は必要ですよね。可愛いって思っている以上はシャッターを切ります。「可愛いよ」って、いっぱい言いながら撮ります。モデルさんは言われ慣れているはずですが、それでも「一生分言われたかも」なんて言われるんです。やっぱりちゃんと可愛いとか綺麗とかってのは声に出さないと。言わないのは男の怠慢ですよね。
そうして撮っていくと、あのとき「楽しかったな」って記憶が残っていますから、セレクトしていくというよりも、その写真を探していく作業になりますから、大変というほどではありません。
——撮影機材によってモデルさんとの関係は変わりますか?
もちろん変わります。目の代わり、手の代わりになって、暗闇でも操作できるくらいになると、気持ちだけで撮影していけるようになります。カメラのせいでリズムが狂ったり、撮りたいけどうまくいかなかったりすると、楽しい気持ちも削がれますよね。
実は、この横浜での撮影でのK-3 Mark IIIは、手探りということもあって、最初はストレスが大きかったんです。いつもと違うのが伝わったのか、モデルさんもストレスに感じているようでした。
ただ、AF.S(シングルAF)で撮っていたのを、AF.C(コンティニュアスAF)に切り替えて、ジョイスティックで測距点を動かすようにしたら、いうことを効きだして、僕もカメラも機嫌がよくなってきました。
操作の面では、3つのダイヤルを、僕が思うところに機能を設定できるのがいいですね。前電子ダイヤルは絞りに、後電子ダイヤルはシャッター速度に、軍艦部にあるスマートファンクションダイヤルはISO感度に割り当てることで、僕の手の延長になります。こうしておくと、さっと露出を設定できます。そのほかのボタンも無理なく届くのもよかったです。
——ということは、露出はマニュアルですか?
はい。光の条件を見ながら、設定します。露出インジケーターもありますし。すごく外れることはありません。ただし、ミラーレスのようにファインダーでどのくらいで写るのか見られるわけじゃないですし、RAWでは撮らないので、安全確認はしっかりします。まず1枚撮って、露出が合っているかを背面モニターに再生して入念にチェックします。
——JPEGのみですか! あとで補正したりはしないのですか。
しません。仕事の撮影でTIFFで欲しいと言われていれば、RAWでも撮りますが、普段はJPEGのみです。RAWで撮ったところで、後でなんでも出来そうで、何もできないように思います。撮影する瞬間に目に入ってきた光は、家に帰って夜パソコンに向かっても思い出せません。家で想像してあれこれ作業するくらいなら、もっと多く女の子を撮っていたいと思っちゃいます。
今回は、アンバーっぽいのが好きなのでホワイトバランスを「日陰」にして、カスタムイメージを「ほのか」にして撮りました。こうした設定は、その日の一発目で決めたら、それで撮り続けます。これと決めたら色々変えないんです。
PENTAXの絵は好きです。泥臭いというか田舎くさいというか、洗練された感じではないのですが、それが日本の風土にあっているように思います。湿度とか気温とか、体温とか、カメラとの間の空気までが見えてくるように写ります。僕は、そうしたピントの合わせられないものを写したいって思っているんです。
触れたいとおもったところにピントを合わせる
——実際にはどこにピントを合わせるんですか?
触りたいなって思ったところです。僕は目を触りたいとは思わないので、ミラーレスでも瞳AFはあまり使いません。インタビュー撮影など仕事では使いますが、作品撮りでは僕の合わせたいところに合わせるんです。まつ毛は触れてみたい、指より唇に触れたいなと、妄想に基づいてピントを合わせて撮影しています。K-3 Mark IIIで撮っていたら、より触れたくなる感じがしてきて、フィルム時代の一眼レフでの撮影を思い出しました。
瞳AFみたいなのをメーカーがやるからアマチュアは悩むのかもしれません。ポートレートは瞳に合わせなきゃ! って思ってしまうんじゃないかな。でも、そんなことはなくて、アウトフォーカスでもいいわけです。ちょっとくらいブレてたっていい。瞳AFのようにすべてをカメラ任せでピントを合わせるのであれば、吐息にピントを合わせるなんてことは絶対できないですよね。
——40mmと70mmの2本のLimitedレンズでの撮影ですね。
HD PENTAX-DA 40mmF2.8 Limitedは、つけているのか分からないくらい薄いのがいいですね。フジツボ型のフードも似合っています。人によるのでしょうが、カッコよすぎる感じじゃない、ちょっとダサい感じがいいです。可愛い後輩みたいな。HD PENTAX-DA 70mmF2.4 Limitedは持ちやすいのが良かったです。
どちらのレンズも、非常に工作が良かったですね。ヘリコイドを回したとき、軽いけどしっかり止まります。MFで使っても、しっかり応えてくれます。レンズ内モーターではないから、ギュイーンって音がするんですが、ガンバレ! って思っちゃいますよね。
K-3 Mark IIIのファインダーって、めちゃめちゃ良いですよね。最初に覗いたとき、びっくりしました。ミラーレスでも最近のファインダーは違和感がないくらいに良くなっていますが、K-3 Mark IIIのファインダーを覗くと、やっぱりミラーレスではモニターを見させられていたんだなと気づかされました。これだけ良いとなると、Limitedレンズとは、MFで撮りたい組み合わせです。
K-3 Mark IIIでは、測距点は広がっているものの、ミラーレスのようにどこでも合わせられるわけではありません。AFで撮るとなると、どうしても測距点の位置に絵作りが縛られてしまいますし、ピントを合わせてから構図を変えるためにカメラを振って撮るのは作法として美しくないと思っています。ビシっと決めたいところです。レンズの先がチラチラ動くと、モデルさんの気も散りますしね。
それなら、しっかりしたファインダーでMFで合わせたほうがいい。K-3 Mark IIIのファインダーは大きく隅までピントの山もつかみやすいので、この際、AFなしのMF専用機でもよかったのでは?と思えるほどです。Kマウントは歴史もあり良いレンズがいっぱいあります。古いレンズを付けて使ってみたいと思えます。ファインダー(写る部分)の画面内には色々表示できるのですが、測距点を残してすべてオフにできるのもK-3 Mark IIIのよいところです。
ミラーレスとの比較だと、シャッター音はやっぱりちょっと大きめですよね。シャッター音は、生理的に好き嫌いがあると思いますが、僕はこの丸い音が好きです。モデルさんからも「やさしい音ですね」と、印象が良かったです。昔、フィルムカメラで空シャッターを切って悦に入るなんてことをしてましたが、デジタルではすっかりやらなくなっていました。ただ、K-3 Mark IIIではそうしたこともしたくなってきます。
PENTAXの夢が詰まったカメラ
——普段の撮影でも露出はマニュアルで、MF(マニュアルフォーカス)が多いということですか?
そうですね。カメラはお作法というか、多少面倒なほうがいいとは思っています。面倒といっても、露出もピントも身体に染みついていますから、カメラに慣れていく感覚です。なんでもかんでも自動化され過ぎていると、使わされている感じがありませんか。僕は連写をしないんですが、カメラのタイミングでシャッターが切られてしまうと気持ちが動かないんです。
前述のようにK-3 Mark IIIのダイヤル操作もボタン配置も、そしてLimitedレンズのフォーカスリングの感覚も、手の延長になりえます。そういう、面倒くさくも撮れるカメラで、今のカメラの中では、割と上位くらいで楽しめます。小柄なボディは、バランスが良くて気軽に持ち出せますし。
操作感や感触など官能的で、K-3 Mark IIIはまごうことなくカメラですよね。どの世界を見せてくれるの? どこに連れて行ってくれるの、どんな未来を見せてくれるの? そんなことを期待させてくれます。
PENTAXは、現時点でミラーレスをやらないという宣言をしていますよね。今、一眼レフだけで商売をするのって勇気がいると思うんです。しかし、それもK-3 Mark IIIのファインダーを覗くと、すべて納得できます。PENTAXの夢が詰まっているカメラだなって思えて、応援したくなります。
制作協力:リコーイメージング株式会社
モデル:らん