「けさの“聞きたい”」、テーマは「ウクライナ侵攻、子どもにどう伝えるか」です。連日入ってくるウクライナの状況。中には、大人でも目を背けたくなるようなこともありますが、子どもたちに対して、大人は、何を、どのように伝えていけばいいのでしょうか。2人の子どもの母親で、ジェンダー問題に詳しいジャーナリスト、治部れんげさんに伺います。(聞き手・阿部渉キャスター)
【出演者】
治部:治部れんげさん(ジャーナリスト、東京工業大学准教授)
「けさの“聞きたい”」、テーマは「ウクライナ侵攻、子どもにどう伝えるか」です。連日入ってくるウクライナの状況。中には、大人でも目を背けたくなるようなこともありますが、子どもたちに対して、大人は、何を、どのように伝えていけばいいのでしょうか。2人の子どもの母親で、ジェンダー問題に詳しいジャーナリスト、治部れんげさんに伺います。(聞き手・阿部渉キャスター)
【出演者】
治部:治部れんげさん(ジャーナリスト、東京工業大学准教授)
――治部さんご自身も、小学生と中学生の2人の子どもの保護者として向き合っているテーマです。専門家としてどのように受け止め、どのような対応をしているのか伺います。まず、治部さん、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、2人のお子さんは、どんなふうに受け止めている様子でしたか。
治部: | はい。うちでは、主にニュースは朝の新聞から入ってきます。朝、ごはんを食べながら、なんとなく私が新聞を広げ、仕事で見ていると、子どもたちがそれについて、大体、漫画から読むことが多いんですけれども、関心があるものがあれば、「どうして?」「何、これ?」とか「ちょっと見せて」という、そういった感じがベースにあります。実は軍事侵攻が始まった2月24日、その日というよりも、それよりも前に、「侵攻があるかもしれない」という報道はかなり前からありましたよね。 |
---|
――ありましたね。
治部: | ですので国際面を開くたびに、2月の初めか1月の終わりぐらいからだったと思うのですが、ロシアが軍事侵攻をしそうであるというニュースを見るたびに、子どもから「ロシアはどうしてそういうことするの?」ということを聞かれることはありました。 |
---|
――実際、あるかどうかという段階から、ロシアが攻め込んだわけですね。それについて、お子さんたちはどんな反応だったでしょうか。
治部: | やっぱり、びっくりしています。ちょっとこれは大人とあまり変わらないなと思うのは、うちの子どもは小学校高学年の娘と中学生の息子ですので、基本的には、息子は新聞の記事も読みますし、娘も、ものによっては読むというぐらいなので、たぶん大人の方と反応としては変わらないかと。「えっ!」という感じですね。まず、大人もなんか言葉が出ないという感じだったと思うんですけど、「えっ、どうしてそんなことするの?」という反応ではありました。 |
---|
――驚きと、「なぜなんだろう?」という気持ちですかね。
治部: | そうですね。 |
---|
――そのようなお子さんの反応に対して、治部さんはどのようなお答え、反応をされたのでしょうか。
治部: | 聞いていらっしゃる多くの方と同じで、私もこの件について専門的に知っているわけではないので、基本的に、報道を見て自分が知りえることを、できるだけわかりやすく伝える、ということになります。 例えば、もともと(ウクライナの)東のほうを、ロシアが自分たちのものだというふうに言っていたという事実を伝えるとか、これは皆さんもやってらっしゃるかもしれませんが、家に世界地図とか地球儀があるので、大体どの辺にウクライナが位置しているかとか、いわゆる世界の穀倉地帯というふうに言われて小麦がたくさんとれるんだよという、そもそもどこにある国でどういうことがあって……という話をするようなところからしか、ちょっと私もできなかったなと思っています。 |
---|
――歴史的な経緯ですとか、地政学的な意味ですね。そういう事実関係をお話しになったと。
治部: | そうですね、そうだと思います。私も子どもに聞かれて自分がちょっと答えられないというのが、2月の初め、1月の終わりくらいだったので、実は本を買いました。 1つは、今たぶんすごく売れているというか、多くの人が読んでいる、中公新書の『物語 ウクライナの歴史』という、元大使の方がお書きになった本ですね。これは歴史のことがすごくよくわかるので、息子とかには主にそういったところから話しました。 もう1つ、重要だと思ったのは、侵攻があるかないかという段階では、国際報道のロシアに関するものが、とにかく悪い話ばかりであったというところがありましたので、ロシアというものを全否定するようになると、子どもにとってはよくないかなと思いましたので、ロシアの文化とかすごいものもあるので、昔話の子ども向けのロシアの本を買ってきて、そういうちょっと違う方向からロシアというものに触れるとか、それは大事かなというふうに思って、意識的にやったことです。 |
---|
――なるほど。どう対応するか、のちほど詳しく伺いますが、治部さんのお子さん、先ほど新聞をご覧になるというお話がありましたが、例えばテレビの映像で、街の様子などをお子さんが目にすることはあったんでしょうか。
治部: | これはですね、私はちょっと意図的にそういうものは見せないようにしています。今、例えば見逃し配信みたいなものもあって、いろいろなものをインターネットでも見られる状況にはあるんですけど、基本的には、そういう状況を動画では子どもには見せないようにというのは、注意をしています。それがいいかどうかは、ちょっとわからないんですけれども。 |
---|
――それはどういうお気持ちからですか。
治部: | やはり見ることによってですね、過度に怖くなってしまうというか、日常生活自体が脅かされるのではないかと思うとか、あと、やはり背景や文脈を全く知らずに恐ろしい映像だけを見るということは、私の考えでは、ちょっとそれは、子どもに対しては垂れ流しにするべきではないというふうに思ったからです。 |
---|
――そして、ウクライナ侵攻、わりと初期の頃だったでしょうか。治部さん、お子さんと一緒に、ある行動をされたそうですね。
治部: | たぶん2月の一番末の土曜日だったと思うんですけれども、かなり侵攻が始まってから、いろいろツイッターであるとかネットでたくさんの情報が流れてきて、私もそれを見ていたんですけれども、ただ見ているだけではよくないなというふうに思いまして、土曜日の朝に、調べてみたら、ウクライナの大使館が寄付を募っていて、かなりわかりやすくツイートに書いてあったんです。ちょうど土曜日って、結構、娘とよく散歩をするので、散歩がてら駅前に行って、駅前のATMで10万円を振り込んできました。 |
---|
――ほお。
治部: | 振込用紙をSNSにアップしておいたら、友達も「私もUNHCRに寄付をした」みたいな連絡があったりしまして、まあ、なんていうんでしょうか……今起きていることに比べると、個人ができる寄付というのは微々たるものではあるんですけれども、単に見て、“恐ろしい状況について何もできない”というふうに思うよりは、“何かできることが少しはあるよ”ということを、私自身もやりたかったということと、子どもに対しては、“そういうことが可能なんだよ”ということは見せたいと思いました。 かつ、そのあともすごい多額の寄付をする方とか、いろんな海外の起業家が、技術的な援助をするとかいろんなことがあるので、恐ろしいことが起きている事実も伝えますけれども、同時に「世界中でいろいろな人が、個人のレベルで、できることをやっている」。「ロシアの中にも、戦争に反対して逮捕までされているような人がいる」と、そういうことは伝えるようにしてきました。 |
---|
――ここまで、治部さんご自身の経験をもとに伺いました。このあと、ジャーナリストとして感じたこと、伝えたいことについて伺います。「子どもにどう伝えるか」、治部さんがご自身なりにまとめられたポイントがあるそうですね。ご紹介いただけますか。
治部: | はい、ありがとうございます。私もいろいろちょっと迷う中で、国際NGO、セーブ・ザ・チルドレンが出している「子どもと戦争について話すときのポイント」ですとか、アメリカの公共放送、NPRという、NHKみたいなものがあるのですが、ここのラジオの放送で、戦争に限らず天災とかそういった怖いニュースを、子どもにどう伝えるかというテーマの番組等々、いろいろ見まして、自分なりにそしゃくしたところですと、3つ、考えています。 1つは、やはり「情報を、特に動画情報を、家の中では流しっぱなしにしない」ということがあります。 大人はもちろん、仕事上知っておくべきとか、大人として知っておくべきことはあると思うんですが、子どもが同じ空間にいるときに、できるだけ映像は消しておく。まあこれはラジオだから話せますけれども、そういうことは心がけています。 実際に子育て世代の働く人と話をしていたときに、「親は仕事で必要なのでテレビをつけてるんだけど、どうしても残虐な映像が出てきてしまうから困る」といったようなこともあるので、そこは大人が、ちょっとやはり意図的に、そういったものから子どもを、なんていうのか、守るというか切り離すということをやるようにしました。 |
---|
――「情報を垂れ流さない」が1つですね。2つ目はいかがでしょう。
治部: | 2つ目は、「子どもがどう思っているかを聞く」ということです。 子どもはですね、皆さんも近くにお子さんがいると、いろんなことを聞いてきますね。中にはちょっと誤解に基づくような質問もあるかと思うんです。小さいお子さんだとウクライナがどこにあるかわからないので、例えば戦争の映像を見ると、それが自分の町で起きてしまうんじゃないかと怖くなってしまうかもしれないんですけど、何か聞かれたら、まず大人が説明する前に、「どうしてそういうふうに思ったの?」とか「どこで誰から聞いてきたの?」みたいなことを、ちょっと確認して、子どもに話をしてもらうことはしています。学校や幼稚園、保育園とかで、お友達からちょっと聞きかじってきた断片情報で間違ったイメージを作ってしまうことはあるので、まずそこの事実確認をすることは大事かなと思います。 |
---|
――「子どもの気持ちを聞く」ということですね。そして3つ目。お願いします。
治部: | 3つ目は、これはとても大事だと思うのですが、「決めつけない」ということです。 どうしてもこういう状況ですと、「なになに人が悪い」、今回ですと、とにかくこれに絡んで、ロシアの人とか文化全体を攻撃するみたいなことまで起きてしまっているんですけれども、それはやはりよくないというふうに思っています。今、ウクライナの方が被害を受けているということ、これ自体は、事実として忘れてはいけないことであると思うんですけれども、ロシアに関することすべてが、加害者というような決めつけにならないようにということを意識するようにはしております。 |
---|
――いずれにしましても、大人がどう伝えるか。姿勢、責任が問われますね。
治部: | はい。 |
---|
――ありがとうございました。けさはジャーナリストで東京工業大学准教授の治部れんげさんに伺いました。
【放送】
2022/04/11 マイあさ! けさの“聞きたい” 「ウクライナ侵攻 子どもにどう伝えるか?」 治部れんげさん(ジャーナリスト、東京工業大学准教授)
この記事をシェアする