SCE平井氏・トレットン氏に続くEngadget&JoystiqインタビューはXbox 360の顔ピーター・ムーア氏。EAへの電撃移籍が話題となったムーア氏ですが、今回のインタビューはマイクロソフトのコーポレートVPとして最後のひとつとなります。話題は猛迫するWii およびHDゲーム機として同一タイトルも多いPS3との競争、噂の絶えない値下げや新型の話題、ゲーム史上最高になるというXbox 360の年末ラインナップ、そしてゲーム史上最悪の10億ドル対応となった欠陥騒ぎについて。


Engadget:
今年は新しいタトゥーなし?

ムーア:
ないね。もう入れる腕がない。先日は君もいたと思うが――

Engadget:
胸は?脚だってあるじゃないですか。

ムーア:
いや、たぶん広報マネージャが――まあわたしは何でも乗り気なんだが、かれらが「いや、それは良い考えとは言えませんね」というんだ。

Engadget:
前腕も残ってるし、背中だって......

ムーア:
次はいわゆる"tramp stamp"というやつになるんじゃないか(笑い)

Engadget:
ではピーター・ムーアの腰にタトゥーなしと。残念ながら。さて、前回お話ししたのは去年、まだライバルが発売されていないときでした。最初にゲートをくぐった会社というユニークな立場だったわけです。Xbox 360にはすでに第二波のタイトルが多数登場しています。昨年のE3ではたしかにWii現象がおきたとはいえ、Xboxもかなり人気がありました。あれから一年ちょっとが経過してライバルも発売されたいま、マイクロソフト自身のプレスカンファレンスで登場した数字によれば、大きな差ではないとはいえ、Wiiは360より売れています。



ムーア:
数字は嘘をつかないね!

Engadget:
競争という点で、Xbox 360はどんな位置にいると考えていますか。WiiはたしかにXbox 360より売れていて、プレイステーション3はもちろんXbox 360より下ですが、値下げのあとは売り上げが増えている。このなかで......

ムーア:
(PS3について) そういわれているね。独立した調査結果はひとつも見ていないが。

Engadget:
少なくともAmazonによれば。さて、360はどんな状況なんでしょう。

ムーア:
とても満足している。この業界で大事なのはゲームだと思うなら。ゲーム業界で大切なのはゲームだ――

Engadget:
たとえば、アクセサリの業界じゃなくて?

ムーア:
そうだね(笑い)。周辺機器だとか。プレスカンファレンスで伝えようとしたのは、この業界が急速に進化していること、ゲーム産業が発展していることだ。たしかにハードウェアはいまでも前面だし、ハードウェアの売り上げは主要な指標だが、現実はもっと複雑だ。さまざまな収益源があり、健全性をあらわす指標にもいろいろある。われわれの陣営のユーザはつねにネットとつながっているが、おかげでマイクロソフトもパートナー企業も、誰でも新しい試みにチャレンジできる。消費者にとってもリアルタイムでデモが手に入ったり、E3を家で体験したりと大いに役立っている。今週われわれが発表したことは全部360から見られるというのはいい例だ。

E3に招待された幸運な3000人のひとりでなくても、公開されたコンテンツは自宅のXbox 360ですぐにダウンロードできる。われわれが始めたトレンドだが、いまはライバルもおなじことを始めたようだ。Xbox 360の現状についてはとても満足しているし、お見せしたスライドでも数字をいじろうともしていない。数字はそのままで、Wiiに対してはとてもいい勝負をしているし、プレイステーション3に対しては2:1の売れ行きだ。

業界全体の健全性というもっと大きな点についても、わたしは好調だと思っている。市場にはいま三台のゲームコンソールがあり、どれも数字を出している。この業界で長く仕事をしてきて、いまの状態が普通とはいえないことを知っているからね。それぞれに市場を把握して、自分たちがなにものなのか、強みはどこにあるのか、価格はどうか、将来のゲームコンテンツそしてコネクテッド・エンタテインメントとはなにかについて考えている。われわれは非常に良い位置にいると思う。自分たちについてだけでなく、業界全体についてもわたしは強気だ。

Engadget:
WiiにもPS3に触れる機会があったと思います。感想は?。360との関係に限らず、2機種それぞれについて。

ムーア:
Wiiについていえば、Wiiリモコンというイノベーションがある。典型的なコアゲーマー以外の人々、たとえば元ゲーマーやカジュアルゲーマー、あるいはゲームに一度も触れたことがない人々を引き寄せているのは、ゲーム産業全体にとってすばらしいことだと思う。Wiiで遊ぶのは好きだ。とてもユニークな体験ができる。きのうの(任天堂)プレスカンファレンスはすこしだけ覗いたが、フィットネスや健康、よりよい生活といったものに向かうのは分かりやすい動きだし、今後も注目している。任天堂に問われているのは、レジー(フィザメイ。NOAプレジデント)はそれに答えようとしていたようだが、この体験は今後も続くのか?ということだ。任天堂ではこれまでずっとそうだったようにファーストパーティが強いが、サードパーティーが大きく成功できる余地はあるか?という点もある。レジーはあると答えていたようだ。どうやらいつものやり方から離れて、これまではファーストパーティーだけのお祭りだったところにサードパーティーを受け入れようとしているように思える。

Wiiは遊んでみたし、楽しめた。わたしの子供たちもそうだ。うちの子たちはもう成人しているから、9歳や10歳、12歳の子供の親をしている同僚たちのようなアドバンテージはわたしにはないが、やはりみな楽しんでいるようだ。あきらかにその層を狙っている。PS3についてはあまり触っていない。カンファレンスは後ろのほうしか見られなかった。小島さんがメタルギアソリッドのトレーラーを見せているところで仕事に戻らなければならず、LittleBigPlanetやもちろんKillZoneも見ていない。だがいえるのは、ソニーにはともかく大作ゲームが必要ということだ。君たちメディアもいつもそう書いているし、消費者もおなじことを言っている。「これがやりたくてプレイステーション3を買った」といわれるようなタイトルが必要だ。もしかしたらKillZoneがそうなのかもしれないが、ほかにそんなタイトルがあるかどうか。メタルギア・ソリッ ―― は2008年。これからどうなるかは見守るしかないが、これでかれらも手を公開したわけだ。火曜の晩にもいったが、いまはわれわれも含め各社とも、テーブルのうえにカードを広げて消費者の判断を待っている状態だ。この年末商戦は非常に、ほんとうに重要なものになるだろう。

Engadget:
なるほど。ではゲーム産業全体が拡大傾向で、三機種のゲーム機を支えることができているという話について。セガ時代に経験されたように、いつもこうとは限らない状態です。先日マイクロソフトは前四半期の業績を発表しましたが、Xbox 360は1200万台の目標を達成できませんでした。しかも1200万というのは一度下方修正した数字です。結局は1160万台に留まりましたが、理由はなぜだと考えますか。

ムーア:
ご存じのとおり、予測は厳密な科学というわけじゃない。われわれは1200万になるだろうとおもっていたが。財務年度の終わりにかけてゲーム界を沸かせるに違いないと思っていたタイトルをいくつか動かすことになり、結局はそうならなかった。また今年のホリデーシーズンに大きな話題がいくつか控えていることも、かえって一部の人を待たせることになったという考え方もあるかもしれない。現在のゲーム界は、1億5000万から1億7500万台のハードを受け入れることが可能な世代だ。この世代のゲーム機はそこまで行けると本当に考えている。現在PS2という形であらわれている力をみれば、現行世代もこれから長い間に渡って売れ続けることは確信している。だから内部的な目標を何十万台という程度で外したことはまったく心配する理由にはならない。わが陣営のタイレシオは圧倒的だ(tie ratio。≒アタッチレート。一台あたりのソフト販売数)。このホリデーシーズンに登場するラインナップは――

Engadget:
タイレシオはいくつ?

ムーア:
5.9だ。 もちろん伸び続けているし、発売からこの時期のゲーム機としては前例がない。さきほど言おうとしていたのは、われわれは業界としてもっとタイレシオに注目すべきということだ。携帯電話会社が使うARPU、ユーザあたりの平均売り上げという考え方に着目する必要がある。現在そして将来を考えれば、高騰する開発費やgo-to-marketマーケティング費用(GTM)の増大で、ゲームを市場に出すには数千万ドル単位が必要になる。テレビCMキャンペーンという純粋なマーケティング費用だけでも数百万ドルだ。そしてゲーム産業にも、ゲームを製作する人々にも投資しなければならない。唯一の方法はさまざまなあたらしい収益源を見つけることだ。

売り上げは、かならずしも消費者から直接得る必要はないかもしれない。そのかわり、われわれの非常に優良なユーザ層を求めているコンシューマ企業から得るという方法もある。動的広告プラットフォームやスポンサーつきダウンロード、もちろんダウンロード・コンテンツを無料、あるいは広告つき、あるいは有料で提供することについても考えている。いまはゲーム業界にとって面白い時期といえるだろう。デジタルコンテンツ流通はわれわれがXbox Live Arcadeで先鞭をつけた分野だと思っているが、大きな可能性があると予測している。小売パートナーとのバランスを保つことはもちろんだが。この業界でこれまで目にしたことがない非常にたくさんのモデルがあらわれており、われわれはまだ可能性という氷山の一角しか目にしていないといえるだろう。


Engadget:
Xboxプラットフォーム上の新しい流通形態や収益モデルという話題でいえば、HD DVDについての言及がなかった理由は? HD DVDが市場でどうなのか、あるいはいまだに出てこないIPTV機能について。こういった点はプレゼンテーションでひとつも出てきませんでした。みな多少はこうした話題がでることを予期していたと思いますが。

ムーア:
なにも新しいニュースはない――HD DVDプレーヤはよく売れている。あらためて報告するようなことはなにもない。わたしが舞台に立ってあれは売れている、というのは当然のことだが、われわれにとっては、ソニーにとってBlu-rayがそうであるように決定的に不可欠というわけではない。ソニー・コンピュータエンタテインメントにとっては必ずしもそうでないのに、ソニー本体の戦略上BDが不可欠であるようにはね。わたしは自分たちのゲーム機を、HD映画戦争に勝つための鈍器かなにかのように考えてはいない。たしかにわれわれはHD DVDを強く支持しているし、HD DVDはいまもわれわれの期待するとおりのものだ。いわれている話や両陣営のPRマシンが延々と繰り返していることとは別に、市場ではひじょうに順調だ。スタンドアロンのプレーヤもよく売れているし、東芝はプレーヤを$299に値下げしてから特にうまくやっている。

結論をいえば、75分間という時間のなかで、わたしはゲームの話をしたかったということだ。E3はゲームのイベントだ。ハリウッドはすぐ近くでもあり、ディズニー映画については発表したが、それは報告するだけの大ニュースだったからだ。HD DVDについては特に新しいことはない。E3の外では毎日そんな話をしているが、これはゲームのコンベンションだ。われわれはゲームを提供することに全力で集中しており、HD映画を巡る争いと混同することはない。もちろんHD DVDについても集中している。これはもう何度も繰り返しているが、もし運よくああいうもの(HDテレビを示す)が家にあって、HD DVDを$199で見たいと思うなら、わたしもその一人だが、Xbox 360にただ接続するだけでできる。HD DVDプレーヤはわたしもとても気に入っている。

Engadget:
今回のE3プレスはマイクロソフトから開始ではありませんでしたね。ソニーがPS3の値下げを正式発表したのは月曜ですが、事実上は週末からニュースになりました。

ムーア:
「ある意味」値下げね! いまだに$499と$599なのかよく知らないが。

Engadget:
たしかに$100安くはなってます。そもそも高すぎるかどうかは別として。

ムーア:
指摘したいのは、PS3が100ドル安くなったとはいえないことだ。ソニーは消費者を混乱させている。客にとって値下げといえば、そのゲーム機を100ドル安く始められるということだろう。たしかに$599だったものが$499にはなったが、この世界ではエントリーの価格というものが非常に重要だ。プレイステーション3はエントリーモデルに500ドル出す必要がある。問題はPS3のストレージが不足していることじゃない。わたしはソニーの商売が今後もうまく行くことを心から願っているし、カプコンがPS3の更なる値下げを予期しているというニュースも今朝読んだが、ソニーのビジネスが拡大していない理由は、要はエントリーの価格が高すぎることだ。ビジネス畑の人間ならエントリー価格の重要性はよく理解している。おせっかいといわれたくはないが、これがわたしの見方だ。

Engadget:
その上で、値下げがある程度はプレイステーション3プラットフォームの成長を助けることに疑問の余地はないでしょう。マイクロソフトも内部目標を達成できなかったという話をすれば、Xbox 360はなんと600日以上も値下げをせずに来ていますが......

ムーア:
数えたことはなかったが、それはすばらしいね。

Engadget:
......プレイステーション、プレイステーション2、ドリームキャスト、180日程度で値下げした初代Xbox、そして今はプレイステーション3のどれよりも長い期間です。プレイステーション2は最初の値下げまで525日。PS2は非常な大成功を収めたプラットフォームですが、360はそれすら超えています。600日以上も値下げしなかった理由は? 値下げすれば目標台数は到達できたはずです。Shane Kimは値下げは準備中だと語っていますが。


(続きは後編にて。)