「エミア・ローラン! 貴様、エクレシアに嫉妬して私の見えないところで散々『イジメて』いたそうだな。 お前のような女と婚約する訳にはいかない! 婚約は破棄させてもらう!」
王宮で行われたパーティーの最中、ギルフォード王子は私の目の前で聖女エクレシアを擁護ながら、鋭く睨みつけ言葉を吐いた。
ギルフォード王子は私との婚約を破棄し、新たに聖女エクレシアと婚約を締結するらしい。
分かっていた通りの光景だ。
いや、記憶通りと言うべきか。
二度目のことなので、前回のように動揺はしない。私はただギルフォード王子と目を潤ませて彼に寄り添うカミリアをじっと眺める。
「エクレシアが涙ながらに教えてくれたんだ。 お前に階段から突き落とされたり、取り巻きを引き連れて暴言を吐き、平手打ちれたりしたと……。 聖女であるエクレシアにそのような外道な行いをするなど、断じて許されることではない。 二度とエクレシアに近づくな!」
王子は淡々と言い募り、なかなか私に発言を許してくれない。
私の答えはすでに決まっているというのに。
「わかりました。 婚約破棄謹んでお受けいたします。 エクレシア様にも近づきません。 お二人とも、どうぞお幸せに」
私がにっこり微笑んでそう言うと、王子もエクレシアも、周りの人たちもぽかんとした顔でこちらを見ていた。彼らに向かって頭を下げると、急いで会場を後にした。
こんな所に長居している場合じゃない。
私には会いに行かなければならない人がいるのだ。
王宮の廊下をひたすら走るのだが、ドレスを着ているせいで速く走れないのがもどかしい。
早く行かなければ!
本当に会えるのだろうか。本当にここにいるのだろうか。心臓が痛いほど音を増し加速している。
「お嬢様! どうしたのですか!?」
廊下の向こうから、執事服を着た若い紳士の男性が私を呼んでいた。懐かしいその姿に、息が止まりそうになる。
「グレイ!!」
足がもつれそうになるのにも構わず駆け足で近づいて、思い切り彼の胸に飛び込んだ。
「お、お嬢様? 急に何を……」
「グレイ! 会いたかったわ!」
動揺するグレイに構わず、もう二度と離さないよう力を込めて抱きしめる。
|(グレイの声、なんて懐かしいんだろう)
流れそうな涙を必死に我慢して堪えていた。
「お嬢様 一体どうしたんですか! 私のような者に抱きついてはいけませんよ!」
「いいじゃない。 久しぶりなんですから」
「久しぶり……? 今朝だってお屋敷で顔を合わせたではありませんか?」
抱き着いたまま見上げると、明らかにグレイは困り顔をしている。私は何も言わず頬を緩めて彼に視線を送った。
「エミアお嬢様、婚約破棄されたのがそこまで混乱なさるほどショックだったのですね。 ギルフォード王子め! 無実のお嬢様に言いがかりをつけて公衆の面前で婚約破棄するなどとても許せません……!」
グレイは唇を噛みしめて悔しそうに言った。私は笑顔で首を横に振り否定する。
「いいえ。 婚約破棄のことなんて全然気にしてないの。 私はもう絶対に間違えない!」
「しかし……」
「せっかくやり直すチャンスをもらったんだから、婚約者に捨てられたことも、冤罪をかけられたのも、全て気にしないことにするわ 私 今度の人生ではあなたを幸せにするために生きるから!」
「えええ……?」
グレイは目をぱちくりして呆然としている。私はそんな彼の表情を見られることすら嬉しくて、ただ笑顔でグレイに誓いを捧げていた。
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