狛犬の分期――関東編

 

これは主に東京都内において私が実見したおよそ200対ほどの狛犬から推定した関東の狛犬の分期です。

 

◎Ⅰ期(1636~1740頃)――関東における参道狛犬の草創期

・身体全体のスタイルは2種類。

A:胴長・短足で、カエルのように這いつくばった姿のもの。

B:背筋・足台の上面・前足の3本のラインによって構成される三角形が前足のラインを短辺とした、正三角形に近い二等辺三角形になっているもの。

赤坂氷川神社(1675年)
Aタイプ

御田八幡神社(1696年)
Bタイプ
熊野十二社神社(1727年)
腹の下が彫り残されている。

・尻尾は「平尾」。背中に浮き彫りもしくは線刻で表現されていて、尻尾の先端が背中から離れて立ち上がっていない。

・前足と腹の間の石を彫り抜いていないものがある。

目黒不動尊(1654年)
平尾で、体に直接銘が入っている。
横浜市金沢区寺前の八幡神社(1703年)
この時期のものには珍しく縦尾で付随物がある。足台に銘が入っている。

・寄進者や寄進年月日を狛犬本体あるいは本体と一体成型の部分に刻んであるものがある。

・一部例外を除いて、付随物がない。

・顔を正面に向けているものがほとんどで、首を曲げていてもほんの僅か。

 

◎Ⅱ期(1740頃~1820頃)――江戸狛犬期

・Ⅰ期に比べて大型化。スタイル的には、胴長短足で背筋の寝たものと、前足が長く背筋の立ったものがある。時代的には、背筋の寝たものの方が古く、立ったものの方が新しいように思われます。背筋の立ったものには、首が長く背筋の伸びたものと、首が短く背筋の丸まったものがある。

音羽今宮神社(1754年)
背の寝たタイプ
平河天満宮(1801年?)
背の立ったタイプ
高田氷川神社(1807年)
背が丸いタイプ

・尻尾は「縦尾」。太い尻尾が直立している。

・阿像の頭上には玉(宝珠)がのり、吽像の頭上には角が生えている。角には枝角が多く見られる。

・下顎が発達し、角張った顔をしている。

・頭上の玉の他に、足下に付随物を持つ例は、ごく一部の例外を除いて存在していない。

 

◎Ⅲ期(1820頃~1960頃)――江戸唐獅子期

・関東で最も長い期間、広い範囲で流行。

・基本形は、工芸品や絵画に見られる「唐獅子」。

繁栄稲荷神社(?年)
横尾垂下り型
新宿花園神社(1936年)
横尾巻上げ型

・尻尾は「横尾」。尻尾を立てず、体の側面に流している。横尾には付け根からそのまま流す「垂れ下り型」と、一度巻き上げてから流す「巻上げ型」がある。

・顔には、縦長のものと扁平なものが見られる。

・角のない「獅子」のみで一対にすることが一般化する。

・足下の付随物が一般化する。付随物はほとんどが子獅子か玉(鞠)で、ごく例外的に花などが見られる。江戸時代のものは、おおむね阿吽ともに子獅子を連れている。明治から大正初期には、親獅子の連れている子獅子がさらに玉を持つという細工の凝ったものが見られる。それ以後は阿像が子獅子、吽像が玉を持ったものが主流となる。

利田神社(1905年)
両方で子獅子が4匹に玉2つ

品川神社(1884年)
唐獅子・子獅子・子獅子・牡丹
稲荷鬼王神社(1902年)
玉をくわえた子獅子が可愛い。台座にまで獅子がいる。

・狛犬だけではなく、台座についても様々な浮き彫りが施されるなど装飾性が増す。

 

◎Ⅳ期(1960頃~現在)――全国岡崎期

・現在、全国的に神社の社頭を席巻している狛犬がある。岡崎現代型と呼ばれている。新設される狛犬の主流の座を奪うのは、全国的に見ると1930~40年代にかけてのようだが、関東ではⅢ期の唐獅子型狛犬の浸透力が強かったので、完全に主流が切り替わるのは、1960年頃ということになる。

野見宿弥神社(1952年)
岡崎現代型。子と玉が江戸唐獅子と逆。

今戸神社(1974年)
岡崎古代型。これはどちらも雄になっている。

・尻尾は先端が三方向に分かれた独特の縦尾

・波打った形の非常に特徴的な耳をしている。

・阿吽ともに獅子。

・足元に付随物を持つものが多い。ごく稀な例外を除いて、阿像が玉(鞠)取り、吽像が子取り。これは、Ⅲ期の唐獅子型とは逆になっている。

・岡崎型にはもう1種、岡崎古代型があり、数では及ばないものの、岡崎現代型とほぼ同時期に、全国的に普及する。

・原形は滋賀県の大宝神社の鎌倉時代の神殿狛犬

・胴体が細みで、胸を張り出し、肋が表現されていることが多い。尻尾は縦尾。

・胸元に鈴があり、これが大きな特徴になっている。

阿吽ともに獅子

・付随物を持つ例は今のところ確認されていない。