日英戦闘機の協力

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※この記事は「日英エンジン実証機の正体」の執筆後に得られた情報を基に加筆修正したものです。更新箇所には(new!)表記しているので、既に以前の記事をお読みになった方はそちらを参照してみて下さい。



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目次

第0部《日英協力の全体像》
・要旨
・用語解説
・経緯
・重要な事前情報
・今回の発表
・当面の作業

第1部《エンジン実証機》
・エンジン実証機の謎
・エンジン実証機の正体
・実証機のまとめ

第2部《F-Xとテンペストの共通化》
・日英エンジンの比較
・エンジンでの協力
・その他の共通化
・今後の作業
・結論 
・まとめ
・おわりに
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第0部《日英協力の全体像》

この部では先日締結された日英F-Xの協力協定について全体像を示し、詳細説明に至る前の大まかなイメージや前提情報を提示する。

【要旨】

 

次世代機のサブシステム協力について検討してきた日英両国は、先日、共同でのエンジン実証機の開発に合意した。IHIとロールスロイス(RR)が共同で開発する。また日英当局間で他の搭載品も含め共通化の程度を検討していくと発表された。[1]
 この記事では日英協力の事実関係とエンジン実証機等について、管理人の意見を交えながら整理していく。

【用語解説】


F-X:F-2後継機のこと。
テンペスト:タイフーン後継機のこと。
サブシステム:エンジンやレーダといった機体の主要構成品(搭載品)。
E2SG:エンジン内装型スタータージェネレータ(Embed Electrical starter Generator)。テンペストの発電/電力/熱管理システムの包括的な実証作業の意味も含む。
[2]
コアエンジン:ターボファンエンジンでの高圧系(圧縮機、燃焼器、高圧タービン)から構成される。
EET:技術評価試験。リスクの大きい航空機エンジンに於いて、事前に基本的な特性を把握するための試験。[3]
PFRT:予備定格飛行試験。量産エンジンの開発や試作機の飛行前に所要の地上試験を行い、エンジンの信頼性を確認する。[3]
QT:認定試験。量産機の搭載に向けた耐久試験等を実施する。[3]
EETエンジン:EET用のエンジン。新技術の実証も行うことが多い。後述のPFRTエンジンは、手間やリスクの関係からコアエンジン等をEETエンジンから流用する場合が多い。XF9-1もこれに該当する。[3]
PFRTエンジン:PFRT用のエンジン。スペックや構成は量産型エンジンに準ずる。機体構成品の中でも先行して開発され、試作機の飛行試験前にPFRTを完了する。コアエンジン等はEETエンジンがベースとなりやすい。[3]
QTエンジン:QT用のエンジン。PFRTエンジンの部品や艤装等を量産仕様にしたもの。量産型エンジンに準ずる。[3]
OFP:Operation Flight Program。計算機等にインストールされたアビオニクスの動作ソフトウェア。
システム設計(構想設計):運用側の仕様書を満足する性能や規模の概略を示す。戦闘機は多数のサブシステムから構成されるが、これらも設計の対象となる。
[4]
基本設計:システム設計で整理された要求を満たす、構成品内の大パーツの要求性能や基本形状を示す。[4]
詳細設計:基本設計に基づき、更に細部の性能・機能の設定や製造図面の作成を行う。[4]

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EETからQTまでの立ち位置new!)



【経緯】

 
 
以下に日英両国の協力やエンジン開発に関連する経緯をまとめる。

日本 

➀機体

20年12月-全体設計の支援候補としてロッキード社が選定される。リスクとコスト低減から、サブシステムは国際協力を検討していく方針が発表される。[5]
21年1月-国内8社による設計チームが次期戦闘機の構想設計を開始した。
[6]
21年7月-エンジンに主眼を置きつつ日英でサブシステムの協力検討を推進していくことを確認した。[7]
21年9月-日英の官民でサブシステムの協力に係る具体的な協議を実施[25]new!)

➁エンジン
18年12月-日英共同でエンジン評価手法を検討し、将来のエンジン開発の効率化を目指すことを合意した。[8]
09年〜現在-EETエンジンとしてXF9-1の開発試験を実施した。現在は機体のシステム設計で、PFRTエンジンの目標推力等を設定していると思われる。同時に燃焼器や補機の改良、推力偏向ノズルの開発試験を実施している。21年1月から基本設計、22年度(23年3月)までに詳細設計に移行する。[9][10][11][12]


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次期戦闘機


英国

➀機体
21年8月-国と設計チームが契約を交わし構想設計を開始した。[13]


➁エンジン
14年-E2SGのフェーズ1としてエンジン内装式・高圧軸接続の始動発電機を試作した。[2]
17年-E2SGのフェーズ2として低圧軸接続の発電機の開発と、高圧軸の始動発電機との協調動作試験を実施した。また電力管理、電力貯蔵、熱管理といった機体管理システムを試作した。[2]
18年-テンペストの発表に伴いエンジン構想図を公表
20年1月-上記の機体管理システムを含む、フルスケールのエンジン実証機を近く公表することを示した。[2]
20年6月-Team TempestのHPでエンジンの3Dモデルを公表[14]

21年9月-エンジン中心に日本と協力を協議している他、議論は途上だがレーダや電子戦まで協力範囲が広がる可能性に言及[24](new!)
21年11月-開発中のエンジンがタイフーンの10倍の発電力や2000℃級の燃焼器を備えることを公表[15]

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テンペスト

その他

18年12月-RRの副社長が「現時点で内容は不明だが、エンジン開発で日本との連携は否定しない」と発言
[16]
19年12月-RRの防衛担当部門が「テンペストのコアエンジンの小型化などで日本の技術は魅力的」と発言[17]
21年-日英官民協議の一環でRRの担当者が来日し日本の素材技術に注目していると表明[18](new!)


【重要な事前情報】
[25][26](new!)


 【経緯】で触れたように、21年9月には日英官民の担当者が具体的な協力の内容や枠組みについて協議した。同年7月の合意を受けた英国側が来日しての形となった。参加者は防衛省/MHI/IHI と 国防省/BAE/RRである。
 特に英国側はテンペスト用エンジンで基本設計から日本の協力を希望しているという。来日したRR担当者は日本の素材技術に注目していると繰り返し述べた。
 この協議に関連してか、日本は機体設計の一部(インテークとエンジン排気口付近)に英国を参画させると報じられた。エンジン協力と関連する部分に参画させることで合理化を図るという。


【今回の発表】
[1]


 
日英両国は先の協議も踏まえ、21年12月にサブシステム協力について以下の内容で合意した。

・日英共同で実物大のエンジン実証機の開発を行う。

・日英協力が技術的に成立するかを実証し、22年1月から設計を開始する。
・英国政府は計画/製造の初期投資に45億円、実証機の開発製造に303億円を投じる。
・エンジン実証機はRRの工場で製造される。

・実証機事業は、英国が今後4年間で国際協力関係に費やす3000億円の投資の一部である。
・エンジン含む他のサブシステムについて、日英当局間で共通化の程度を見極める。

・日英両国はこれら作業で必要となる当局間の取決めに署名した。
・この共通化の見極めは2022年末まで行われ、両国の技術追求に資するものである。



【当面の作業】

 
 先述の通り日英間でサブシステムの共通化の程度を見極める。
[1] エンジン共通化の程度についての結論はこの作業を待つ必要があるだろう。他の搭載品も同様である。
 さて、異機種開発において搭載品等を共通化してコスト低減を目指す形態は、我が国のP-1/C-2が記憶に新しい。この時は両機の構想設計段階において性能要件を確認し(大型機共通適用技術の研究)、共用化可能な箇所を洗い出した。[19]

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 これを踏まえると共通化の見極めとは、両機の構想/基本設計を比較しつつ共通化可能な部位を探すという、P/C-X同様の作業を経ると考えられる。実際に共通化検討作業は2022年末までであり、
F-Xのシステム設計の期間と合致する。[1][11]
 先の「英国は自国用エンジンへの日本の参加を希望」「日本は機体設計に英国を参加させる」という情報からも、分野によっては両国企業が相手方サブシステムの構想/基本設計に参加すると思われる。(new!)




第1部《エンジン実証機の正体》

先の部では経緯と今後の作業概要を明らかにした。しかし、
合意の目玉たる日英エンジン実証機の中身は不明なままである。この部では先に示した情報を基に、エンジン実証機の正体に迫る。


【エンジン実証機の謎】

 エンジン実証機の正体に触れる前に、Q&A方式で予想される疑問点を予め潰しておく。

Q1.新技術の共同研究が目的であり、実証機はPFRT用エンジンとは無関係ではないか?
A1
.新技術の共同研究はAGUARのように正式な研究として日本側の予算や内容が公表されると思うが、今回はその発表がされていない。この線も薄いと考える。
[20]
 また、22年度予算では概算要求の「エンジンの製造に着手」の文言が消えており、それに合わせて200億円ほど開発費が減額されている。PFRTエンジンの製造予算は実証機や設計結果を待つ必要があると判断された可能性が考えられる。[21][22]

Q2.新技術の適用如何に関わらず、この実証機は新規開発するのではないのか?
A2.新規エンジンの共同開発では両国の出資が想定されるが、先の通り日本側の出資が報じられていないため何かしらの設計を流用すると考える。その場合、両国のPFRTエンジンより開発が先行すると思われる。

Q3 .実証機が日英共通のPFRT用エンジン(orそのベース)ではないのか?
A3.共用化の程度や目標性能はシステム/基本設計の比較を待つ必要があり、22年1月から設計されるこれがPFRTエンジンとは言い難いだろう。

Q4.実証機が既存の設計を流用するならばXF9-1ベースではないか?
A4.その場合、日本の出資製造が考えられるが前述の通りそれが発表されていない。すると消去法で英国側の設計を用いると思われる。

 まとめると出資状況からPFRTエンジンの後を見据えた新技術の共同研究や、新規設計エンジンとは言い難い。XF9-1の設計を流用する可能性は低く、英国側の設計がベースとなるであろう。

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実証機の絞りこみ(new!)


【エンジン実証機の正体】


 共通化の見極めはこれからであり、実証機は両国共通のPFRTエンジンの開発を意味しない。では、このエンジン実証機の正体とは何であろうか。前項の状況証拠を踏まえつつ、先に結論を述べると以下の通りになる。

テンペスト用のEETエンジンにIHIを参加させ、日英技術の共同実証機としても兼用させたもの。
エンジン実証機=テンペスト向けの技術実証エンジン


次に、先の結論に至った根拠を挙げていく。


➀実証機のベース条件を満たす

 前項で「実証機は英国の設計を流用するかもしれない。」と導いた。また、発表から「実証機は両国技術の融合や共用化の見極めに資する。PFRTエンジンより先行して開発される。」という性質がある。即ち実証機は英国ベースで設計がある程度進んでいなければならない。
 そこで思い出されるのが、【経緯】で示した「英国側の試作エンジン構想」の存在である。基本構想図や3Dモデルはお披露目されており、EETエンジンの構想/基本設計は完了していると思われる。[14]


 イラストと3Dモデルで作業進捗度はわからないと言われそうだが、XF9-1では基本設計に応じ断面図や縮小模型が作られている。この辺の事情は各国とも似たようなものと考えた。
[24] 【経緯】での通り
燃焼器温度や流量といった基本設計レベルの事項は公表しているのも根拠の1つである。

②表裏一体な実証機と英国EETエンジン(new!)
 英国は事前協議から高温化コア技術を欲しているがその確立にはEETを経る必要がある。即ち、日英の共同実証機(高温化コアの実証含む)=英国のEETエンジン の図式が必須である。そして実証機とEETエンジンは必要な時期が似通う。
 また、日本も交換条件として英国技術を要求した可能性があり、エンジン協力に関連する機体設計へ英国を参加させるのは、これを裏付けるものと考える。英国EETエンジン(共同実証機)詳細設計への参加は、手早く英国技術と事前の擦り合せができるためリスク低減が図れる。さらに共用化の程度に関する技術的見極めにも繋がる。
 
➂英国主導の出資と開発
 日本の出資が報じられてない中、英国は実証機に303億円を投じ製造も行うなど英国主体の出資である。XF9-1の試作費が143億円なのを鑑みると、実証機事業としては金額的にも充分と思われる。実証機事業が英国のEETエンジン開発も兼ねるなら、出資面で主体となるのも頷ける。[1][25]


【実証機のまとめ】

・日英実証機は出資状況や必要な時期から、ある程度設計が進んでいる英国EETエンジンをベースとして兼用する可能性が高い。

・英国は高温コア技術をEETによって確立するために、日英実証機=英国EETエンジンの図式が必須である。
・日本は英国EETエンジンへの参加によって欲しい英国技術を事前に擦り合せられる。
・また共通化の程度に係る技術的成立性を確認できる

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実証機の正体とロジック・役割(new!)





第2部《F-Xとテンペストの共通化》

この部ではこれまでの情報やまとめを基に日英の協力内容について考察する。多分に管理人の私見を含むため留意されたい。


【日英エンジンの比較】(new!)
 
 この項では日英両国の持ち札を分析するためにXF9-1と英国EETエンジンの技術的特徴を挙げていく。

XF9-1[23]
-コアの高温化やファンや圧縮機の要素効率の向上によって、小型・大出力・低燃費なエンジンを実現する。合わせて大電力(180kw)の始動発電機1基も搭載する。

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XF9-1の断面図
全長 4.8m
ファン直径 0.97m
低圧タービン径 1m
圧縮機:低圧3段・高圧6段
-ハブ径の縮小による軸側の流路拡大と、全段ブリスク化、最新のCFDを取り入れたブレード設計で高流量化
-3次元翼設計や全段ブリスク化で高圧力比化し、軸長を短縮
-低圧3段と高圧3段はチタン合金製、残りの高圧3段はニッケル合金製
燃焼器
-改良された燃焼方法や複数の冷却法を組み合わせ、燃焼温度を高温化
タービン:高圧1段・低圧1段
-国産耐熱合金と冷却方式の最適化で高温を達成、Ni-Co基の鍛造タービンディスクの採用で低コスト化も実現
-低圧タービンを高圧タービンに対し逆回転させ、少ない段数で大きな負荷(低圧軸出力)を達成
-タービンシュラウドへのCMCの適用によって、軽量化と冷却空気量の低減を達成
フレームホルダ
-放射状フレームホルダによって良好な保炎性能と圧力損失の低減を実現
ノズル:通常のC/DノズルおよびXVN-3
-ノズルフラップに重量が従来比で1/3のCMCを適用
-XVN-3は全周20℃の推力偏向が可能
バイパス比:0.30前後(?)
推力:ドライ11t以上・AB15トン以上
タービン入口温度:1800℃
空気流量:120kg/s前後(?)
発電量:180kW級・外装式発電機x1

その他
 XF9-1は比較対象としてF119を示唆し、ベンチマークとして意識してると思われる。設計思想も高高度・超音速巡航時の燃費削減を重視したもので、段数構成も含めF119の諸元(空気流量122kg/s・バイパス比0.30)に極めて近い。推力はほぼ同等・寸法はやや小型ながら、上記技術によって燃費は14%低減されている。[33][34]
 F-X搭載型は当機のコアをベースに推力や低圧系をカスタムすると思われ、滞空性能や搭載量の重視から大出力化と亜音速巡航時の燃費が求められる。そのためF135に近い中流速・大流量の味付けに調整されるだろう。大発電量に伴う軸出力の強化や、将来的な適応サイクル化を考えると小型・高流速・高速巡航向けであるXF9-1の構成は適合しにくいだろう。
 XF9-1の流量推測等はこちらを参照されたい。



英国EETエンジン[2][27][28][29]
-各部の要素効率の改善や小型高温化コアによって優れた推力重量比を発揮する。単なる推力発生装置ではなく、大発電量や統合熱制御といった統合動力システムとして設計する。

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テンペスト用試作エンジンの概要[2]

全長:N/A
ファン直径:N/A
低圧タービン径:N/A
圧縮機:低圧3段・高圧5段
-3次元流形状と先進複合材を適用した、流入空気の乱れに強い軽量ファン
燃焼器
-2000℃の燃焼器温度を目標
タービン:高圧1段・低圧2段
-先進材料による軽量/高温/高圧化でコアの小型化を実現
フレームホルダ
-放射式
ノズル:機体構造一体型
-従来式のC/Dノズルから脱却し、ステルス性に優れた機体構造一体型のものに変更
バイパス比:0.40程度(?)
推力:ドライ7-9t(?)・AB11-13t(?)
タービン入口温度:N/A
空気流量:100kg/s以上 
発電量:250kVa級(?)・内装式発電機x2
-本機最大の特徴として低圧圧縮機と高圧圧縮機の間に内装式発電機を2基備える。高圧軸と低圧軸に1基ずつ、高圧側は始動機も兼ねる。内装化でエンジン容積を削減しつつ大容量化を達成した。E2SGでは発電機2基の試作と協調動作試験まで実施している。
熱制御:統合熱制御用のパイプ数本
-ヒートシンク、排熱の再利用システムに用いられる。

その他
 現状、英国EETエンジンについて推力や規模といった性能は不明な点が多い。圧縮機やコアの段数構成はEJ200に準ずるが、大発電量に伴う軸負荷の増大からか低圧タービンが2段となっている。流量は100kg/s以上と判明してるため機速や流速をタイフーンと同程度とするとドライ7-9t・AB11-13tと見積もる。
 EETエンジンの段階で低圧系やバイパス比の拡張余地を消費しており、搭載エンジンでは試作機から大幅な推力向上はされない(ドライ7-9t・AB11-13t程度)と思われる。直感ではEJ200以上-F100未満の規模と考える。

 熱管理については、パイプ内を通る空気をエンジンの冷却及び機体各部の排熱先として利用する。回収した熱をエンジンノズルからまとめて排気することで、機体の熱シグネチャを局限する。
 テンペストでは通常のノズルは見られずエンジンにも装備されていないため、仕組みは不明だが機体構造の一部になってる可能性がある。なお、油圧動作ノズルを使わないC/Dと推力偏向技術としてフルイディックノズルが挙げられる。過去に日本でも特許が出願されている他、英国ではBAEシステムがflap free aircraftでその実証をしている。[31][32]
 テンペストの発電力については過去にB787(1000kVa/APU分は含まず)に匹敵すると報道された。テンペストはエンジン(発電機2基)を双発で装備するため、発電機1基あたりは250kVaと計算できる。

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BAEによる非空力舵面制御の実験機「マグマ」
フルイディックノズルの実証も行う

 
【エンジンでの協力】(new!)
 
 先の情報を整理すると、日英のPFRT用エンジンの協力に係る形態は以下の通りになると推察する。

日英共通:両エンジンとも全体インテグレーションは自国で行い、共同開発した主要構成品を組み込む。エンジン全体や主要空力要素の共用化はしない。努めて素材や発電機、部品レベルの共通化を目指す。共同開発する構成品はコアエンジンより後に詳細設計に着手して実証機の成果を反映させる。
日本:XF9のコアに、日英共同開発の主要構成品(複合材軽量ファン(?)+内装発電機+ステルスノズル)を組み込む
英国:日本と共同開発したコア(圧縮機+燃焼器+高圧タービン)に、前述の自国技術を組み込む。

 日英共通の事項として、自国主導のインテグレーションのもと、主要構成品は共同開発する形態となる。
 両国はEETエンジンの段階で規模や流量、タービン段数が根本的に違う可能性があるため、結論は構想設計の比較を待つ必要があるものの、エンジン全体や空力要素の共通化は難しいだろう。実機搭載型ではエンジン推力についてF135とF110並に差が出るかもしれない。また制空機たるF-Xと、OCAシステムの前線司令塔/中型FBたるテンペストでは機体特性が異なる問題もある。
 一方で主要構成品の共同開発は、英国側も望んでいるためこちらは実現するだろう。低コスト化も両国共通の課題であり、素材/部品レベルでの共通化は検討されると考える。
 23年3月までに日本側はPFRTエンジンの詳細設計に入るが、基本設計終了期間は24年度(25年3月)までである。よって既に仕様がある程度固まっているコアエンジン等から詳細設計に着手すると思われる。共同開発する構成品は実証機での設計試験結果を反映させるため、それらより後に詳細設計に移るだろう。[11][12]

 日本はエンジン協力と関連する機体設計の一部(インテークと排気口周辺)で英国を参加させると報じられた。逆に推測するとインテークに関連するのはエンジン空力要素であり、その中でも低圧圧縮機は密接な繋がりを持つ。英国は軽量複合材ファンを有しており、それによる軸負荷や重量の低減はメリットといえる。搭載型での低圧系の拡張や発電量に伴う軸負荷の増大を考えると尚更である。インテーク設計はファン設計に大きく影響するため両方に英国を参加させたと考える。ただし、インテーク設計への参加は、内装発電機の導入に伴う低圧圧縮機の改造所要による可能性もあり、英国製ファンを導入するとは限らないかもしれない。
 内装発電機の採用は今の所情報は無いが、過去のATLAシンポジウムではXF9搭載型で発電機の内装も検討してるとの証言もある。大電力技術は共通することや共用化のメリットを考えると採用しても不思議では無い。
 排気口周辺については、英国式ではノズル機能がエンジンシステムから機体構造の一部へと移管されたため、機体設計として参加させた可能性が考えられる。

 英国は事前報道からも日本の耐熱素材技術に注目しており、コアエンジン周辺での協力になるであろう。タービンディスクについて日本エアロフォージ等の大型鍛造設備もあるため、量産時には製造でも関与すると思われる。


【その他の共通化】(new!)

 この項目ではエンジン以外での協力について述べるが、現時点では不明な点が多いため共同分析結果を待つ必要があろう。よってほぼ管理人の予測になることは留意されたい。

全体方針
 OFP更新による性能向上や各種制約を鑑み、戦闘機能に直結するハード/ソフト全体は共通化せず一部除き国産する。
 設備投資等で割に合わない・戦闘機能による差別化が少ない箇所に重点を置き、共用化や開発生産の委託を検討する。

具体的な内容

①機体構造
・機体構造は共通化しない
・複合材等の原料調達先の統一
・キャノピーや機首レドーム、バルクヘッド等の生産設備を共用委託

②機体サブシステム(油圧/電気/冷却/環境系統等)
・一部末端装置の共通化(例: 前縁フラップ等のアクチュエータ、APU、空調装置等)
・国内調達が難しい構成品の外注

③戦闘用アビオニクス(レーダ/EW/MWS/FLIR/CNI等)
・データ融合を行う統合処理装置のOFPは国産
・統合処理装置の計算機モジュールは共通化
・センサシステムのソフト/ハードも基本国産
・レーダ、EW、FLIR等のセンサ素子を共用化
・CNIのうちIFFやTACAN、Link16等の共通機能は共用化を伴う共同開発
・電子戦OFPは、CNIとの統合や一部機能について共同開発するかもしれない

④その他
・各部特殊部品の共用
・各システムの電源やコントローラの共用

 機体構造についてステルス性や運動性の高度なインテグレーションが求められる戦闘機では、主翼等の機体構造を共通化するのは困難と考える。剰え機体特性や規模からして異なる可能性もある。
 ただし、バルクヘッドやキャノピーといった大規模な設備投資が必要な特殊材料/部品は、相手方の既存設備を利用するのが考えられる。
 
 機体サブシステムではP-1とC-2で舵面用アクチュエータを一部共用化した事例もあり、戦闘機能に伴う差別化が少ない装置は共通化するかもしれない。また日本はダイセルが射出座席の製造から撤退するなど国内調達が困難な構成品もあり、そのような箇所を英国に委託するのも選択肢である。

 戦闘用アビオニクスはOFP更新による性能向上の重要性やセンサ配置・寸法等の制約を鑑みると、基本的に自国で賄うだろう。特にデータ融合を行う統合FCSのOFPは戦闘機能の中核を成すものであり、機能面の差異からも国産は必須である。また、各種センサのOFPも同様であり両国とも実績を有する。これら戦闘用OFPは両国ともFTBによって事前の統合を図る。
 今後の戦闘機はOAが適用された各センサやサブシステムのOFPを系統毎に集約された統合計算機で一括で処理する。よって、汎用品としての中央計算機モジュールは共通化の芽があると考える。艦船ではむらさめ型とバーク級が同じAN/UYK-43(当時の米海軍の標準的な計算機)で戦闘システムを動かしていた。当然両級の戦闘ソフトは全くの別物である。
 センサシステムは基本的に自前と述べたが、特殊部品たるセンサ素子は共用化でコスト低減を目指す可能性もある。またCNI装置ではデータリンク/航法/識別機能が両国である程度重複するためここは分担するかもしれない。
 電子戦は事前報道から協力候補として挙がっており、BAEの実績を考えると共用化せずとも一部機能での共同開発もあり得る。また、F-35ではEWとCNIの統合がBAEとノースロップ・グラマンと行われる予定であり、生存性からF-XでもBAEの協力のもと同様の作業が行われるかもしれない。





【今後の作業及びまとめ】 

 22年1月からはF-Xとテンペストの構想/基本設計を比較・部分的に参加し、22年末までに共用化の程度を見極める。
 並行してエンジン実証作業(英国EETエンジンの開発)を実施する。英国はコアエンジンの設計を確立し、日本は取り入れたい英国技術との擦り合せを行う。エンジンの共用化に係る技術的成立性も確認する。
 コアエンジン等から優先して詳細設計に着手し、共同開発する構成品は基本/詳細設計は実証機の成果を反映させるためそれらより後の開始となる。
 基本的に自国主導で開発し、相互の得意技術を取り入れる。戦闘機能への影響が小さい範囲では努めて共用化を行っていく。

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今後の作業線表


【おわりに】

 新記事という体で出したが、以前の記事を全面的に再利用した手抜き仕様で申し訳ない。共同実証機の正体やEETエンジンの仕様、共通化の内容は管理人の予測であり間違っている可能性も大いにあり得る。現在までの情報を管理人なりに繋ぎ合わせたものに過ぎないが、日英F-X協力の理解の一助になれば幸いである。



出典
[9]戦闘機用エンジンXF9の研究
[10]航空装備研究所
[11]調達予定品目(航空機調調達官)
[12]防衛力強化加速パッケージ -令和4年度予算の概要-
[13]英BAE、テンペスト開発予算獲得 380億円規模
[21]我が国の防衛と予算(案)~防衛力強化加速パッケージ~ -令和4年度予算(令和3年度補正を含む)の概要-
[22]我が国の防衛と予算 -令和4年度概算要求の概要-
[33]戦闘機用エンジンシステムの研究試作