「ツイフェミ」とは一体何なのか? ツイッターにおける女性差別に関する考察

文=後藤和智
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データで見る「ツイフェミ」ツイート

 私は2020年末から何回か、フリーの統計ソフト「R」のパッケージ「twitteR」と「rtweet」を用いて、「ツイフェミ」という言葉を検索ワードにしてツイートを取得しています。その中から、次のように期間を決めて集計したのが表1・2になります(twitteRの使い方については、拙著『Twitte Analysis Maniax』(後藤和智事務所OffLine、2019年)など、rtweetについては石田基広『実践 Rによるテキストマイニング』(森北出版、2020年)などを参照)。

 なお、twitteRもrtweetも、技術的な理由で、長いツイートを取得する際は最後のほうが「…」となり、ツイートへのリンクがつく形式になります。稿ではその取得されたデータを元に、Excelのマクロを使ってURLを「(メディア)」という文字列に置き換えております。あらかじめご了承ください。

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 第1期(2020年11月29日〜12月7日)は、群馬県草津町議の新井祥子が、町長からのセクシュアル・ハラスメントを告発したことで、報復のような形で町長主導による新井へのリコール投票が行われたことが民主主義国家として許されざることであるという批判がフェミニストならず様々な方面から巻き起こった時期です(詳しくは、選挙ウォッチャーちだい「群馬県草津町の「町議リコール」住民投票がはらむ、性被害の事実以前の大きな問題」ハーバービジネスオンライン、2020年12月7日配信記事を参照)。

 また第2期(2020年12月13日〜19日)については、人気漫画鬼滅の刃』について、エピソードの一つが「遊郭編」としてアニメ化されるということに触れ、遊郭が美化されるのではないかという疑念がある人のツイートを「ツイフェミ」によるものと決めつける言説が広がった時期になっています。集計期間が概ね同じである第1〜3期を比較すると、第2期における割合がかなり多く、漫画やアニメなどに関する疑念や懸念は「ツイフェミ」のものとして叩かれやすいという傾向が見て取れます。

 しかし、多くリツイートされた表2のツイート一覧を見ていくと、それとはまた違った様相を呈します。

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 まず第1期1位は、国際カジノ研究所所長の木曽崇によるものです。そもそも先に挙げた草津町でのリコール問題に関して、性犯罪に対する町議会のみならず町全体での姿勢への疑念から、草津温泉への旅行を取りやめる動きが相次ぎました。木曽は「うっかり草津温泉の件に手を出した」と述べていますが、性被害に対する告発に対して連帯の意志を示す運動は決して「うっかり」などというものではありません。

 第3期2位は、2019年10月に弁護士の太田啓子がツイートした、「(「性的に強調した描写ではない」という主張に対して)胸を大きく描写する必要はないのに敢えて大きく描くことの意味がないはずがない」という内容のツイートと、2020年6月にプラスサイズモデルの藤井美穂がツイートした「自分の小さい価値観で人様の外見をジャッジするな」という内容のツイートを「ファイッ!」という表現を使って「対決」するものと並立させているものです。

 太田はネット上においては「ツイフェミ」の首魁とよく見なされる人物で、他方で藤井もフェミニストですが、そもそも太田の発言は表象的な描写について述べているものであり、他方で藤井の発言は自分のような人間の容姿に対するものであり、指し示す対象は全く違うものです。にもかかわらず、さも二人が対立するように見せかけて、「ツイフェミ」と「フェミ」の対決であるかのように描いています。

 また第1期10位についても《性の自己決定権他の女性の主体性だの言ってきたツイフェミが女性ユーチューバーのセクシーな広告が気にわないと言う明らかに矛盾した事態》とありますがこれも前者と後者は全く別の問題です。このように主張の背景や構成要件をまったく無視して並立させて「ツイフェミの矛盾」「フェミ対ツイフェミ」みたいに見せるような主張も見られます。

 第2期24位(匿名の個人への誹謗を含むため非公開)にて採り上げられている人は、ツイッター上でミゼットプロレス(小人プロレス)に関するデマ(人権団体によってミゼットプロレスが潰された、というもの)を逐次批判している人で、「ツイフェミ」という概念にも批判的です。このツイートでは、その人が、2021年2月に、自民党の女性活躍推進特別委員会(森雅子委員長)が、橋本聖子・女性活躍担当大臣に対してシングルマザーに対する現金給付を提言したことに対して、「これ自体は悪くないが、実際に運用されたら対象となるシングルマザーには、交際相手がいないことを証明するために高いハードルが課されるのでは」という趣旨のことを書いたことに対して、わざわざ「これ自体は悪くないが」というところに下線を引いて「ド直球の性差別にも関わらず、素晴らしいと絶賛する日頃は男叩き&オタク叩き大好きな「ツイフェミの腰巾着型」自称リベラル」という注釈を付けています。

 このように、フェミニストの「味方をする」どころか、そうでなくともネット上のアンチフェミニズムに対して疑念を呈するような男性は「フェミ騎士」「チンポ騎士」などと呼ばれ、女性に媚びるためにフェミニズムに肩入れしていると見られることがあります。

 第2期10位のように、ポリティカル・コレクトネス(直訳すると「政治的正しさ」だが、むしろ表現に求められるような「社会的望ましさ」と考えた方が望ましい——ハン・トンヒョン「ポリティカル・コレクトネス——社会的属性の描き方における「社会的な望ましさ」」(『月刊シナリオ』2020年5月号、pp.8-10)参照)について、欧米人や「ツイフェミ」が、日本人、特に日本の(男性向け)オタク文化を「野蛮」として攻撃するものだと捉えられています。

 さらに、第4期17位・19位・20位においては、歴史学者の呉座勇一による自身への度重なる差別を告発した北村紗衣に対して、北村が2016年の参議院議員選挙の時期に勃興した学生による平和運動「SEALDs」にジェンダー的な視点から疑念を呈したことについて、「ツイフェミによるSEALDsへのバッシングであり、ハラスメントに近い行為」としています。これらのツイートをした人物はすべて同一人物で、政治や経済については積極的にリベラルな発言をし、現政権に対して厳しく批判している人です。

 しかし、この書き手が北村によるSEALDsへのハラスメントと表した行為は、実際には北村が、SEALDsの女性のスピーチにおいて《「帰ったらご飯をつくって待ってくれているお母さん」がいることを平和な世界の象徴として訴えていた》ことに対して、「伝統的」な性別役割分担に対するノスタルジーが見られると批判するなど、SEALDsにおいてすらジェンダー的な問題があるのではないかと苦言を呈したことであり(北村紗衣「国会前抗議に行ってきた」)、明らかに北村の批判を、悪意をもって誇張しています。さらに、《戦後もっともリベラルな社会運動を潰したのは、ネトウヨでもオタクでもなく、ツイフェミとアカデミックフェミだった》などと根拠もなく述べています。

 他に目立つのは、ジェンダー的な観点から起った様々な問題を「ツイフェミによるバッシング」と単純化するようなものや、「ツイフェミ」に対して「人生を損している」「バッシングを生き甲斐にしている」というもの、及び馬鹿にするようなツイートや、また「自害しちゃいそう」「見てる〜ww」などといった嘲笑です。

 なお、第3期1位で採り上げられているものは、いわゆる「宮崎勤事件」にかこつけてオタクをバッシングするもの。それに対して差別と声を上げるのは正当ですが、ただ「ツイフェミ」をくさす必要はないはずです。

 表の中には少数ではありますが「ツイフェミ」という概念に対する批判(第1期11位・12位・13位、第3期13位、第4期22位。なお、第3期13位は筆者(後藤和智)によるものである)もあります。

 しかし、多くのツイートは、フェミニズムに対する誤った決めつけと偏見、そして嘲笑であり、「ツイフェミ」という概念がいかに恣意的で操作的な概念であるかということがわかるかと思います。

 この概念に関しては、第1期12位のような《「ツイフェミ」という語で像を結ぶのは、名指される者ではなく、名指す者だ》という指摘がまさに本質だと思います。ただし一言付け加えると、「ツイフェミ」という表現は女性にも使う人が見られます。

 こうして見ると、「暴走」しているのはむしろ「ツイフェミ」という概念及びそれを振りかざす人間のほうだというのがはっきりしてきます。それではこのような「暴走」の起る背景には何があるのでしょうか。後半では女性差別を「終わったこと」にしてきた政府やメディア、消費社会の動きと、アンチ・リベラルでつながるコミュニケーションのあり方を採り上げます

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