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及川
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【宇善♀】君色に惚れる【高校同級生】 - 及川の小説 - pixiv
【宇善♀】君色に惚れる【高校同級生】 - 及川の小説 - pixiv
10,336文字
君色に惚れる
【宇善♀】君色に惚れる【高校同級生】
とある企画に向けて書いていたのですが、文字数オーバーで没になったので供養させてください……。

仲良くしてくれている吾衛門さん‪@n_no_1221 ‬が表紙を描いてくれました〜!ありがとうございます!

!キャプション必読!
◯今回の宇善♀ハイライト
・同級生宇善♀
・宇:誰とでも分け隔てなく接するカースト上位の人気者
・善:髪の色で悪目立ちを避けたくて、カースト上位の人たちとは関わりたくない

◯注意事項
・善逸が女の子
・高校卒業してからだいぶ経つので、
・今の高校生ライフとは異なる可能性があります……
・ご了承ください
・見直し・付け足しはしたけど、誤字脱字あったらすみません…
・私の作風がでろあま仕様なので、宇善の性格が皆さんの思っているものと異なる場合があります

◯感想、ましゅまろ、待ってます!!ツイッターもやってますのでよろしければどうぞ!!
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2020年5月17日 14:55

 高校に入学し、中学校独特の差別的な階級制度から抜け出せるのだと思っていた善逸は、高校に入ったところで急に変わるものでもないのだということを入学初日から実感していた。別に高校デビューをしたくて髪を金色にしたわけではない。純日本人なのに、どうしてか地毛が金色なのだ。だから元居た中学でも悪目立ちして、あまりいいことがなかった。だからといって染めるのだってお金もかかるし、そもそもこれが地毛なのだ。何を隠す必要があるのだろうという自分の頑固な気質が勝って、染めるのだけは避けてきた。  それでもやはり、入学初日から金髪のやつがいれば自然と視線が集まる。もうすでに派手そうな子、地味そうな子でなんとなくのグループができていて、善逸はため息をついた。 髪の色は変えないと決めている。それならば、いかに自分が地味で無害な性格かをクラスメイトにインプットしていかなければならない。自分の周囲の席の子に自己紹介して、髪の毛の話題になれば「純日本人なのにこれが地毛なの、おかしいよね」とほとほと困っているという雰囲気を全面に押し出して話した。こういう地道な努力が今後の安心安全な高校生ライフを支えていくのだ、初期労力は嵩むが仕方ない。  しかしながら、そんな善逸にとって少しだけ良いことがあった。それは同じクラスに善逸と同じような奇抜な髪色をした生徒がいたからだ。その名を、宇髄天元という。イケメンで長身、ガタイも良く、性格は快活、豪胆な様子が初見でも見て取れたその生徒は、学校指定の鞄によくわからないジャラジャラとした派手なキーホルダーなどをつけ、制服は程よく着崩され、真面目過ぎず不良過ぎず、既にカーストのトップに躍り出るにふさわしい様相を呈していた。そしてそんな彼の髪が銀色。地毛だと言っているが自分と違って彼の言葉の信憑性は定かではない。にしても、銀髪を地毛だと言い張る自分より目立つ存在のおかげで、善逸の金髪は少しだけ悪目立ちせずに済んだ。  クラスメイトとして過ごしていれば、いつ見ても根元が黒くならない彼の髪が地毛なのかどうかは容易に判断することができた。彼の髪は本物の銀髪だった。  陰ながら少しの感謝はしていたものの、そんな宇髄と善逸が会話をすることはほとんどなかった。善逸の思っていた通り、宇髄はクラスでも発言力のある派手なグループに属していて、女子からも男子からも人気な宇髄はいつも誰かしらと話していて忙しそうだった。そもそも互いに関わる友人のグループが違うから、善逸と話すような機会が全くない。委員会のみに属し、部活には入らなかった善逸と、体格の良さと運動神経の良さを生かしてバスケ部に入部した宇髄では、放課後の時間でも接点はなかった。  悪目立ちすることを避ける上で関わって良いことなんてないと思っていた善逸にとっては、彼は違う世界の人だった。そうして、それぞれ金の髪と銀の髪をたずさえた二人の関係性は、挨拶されたら返す程度で一年目を終えた。



 今や高校全体での有名人、宇髄天元とは絡みもないまま二年生になり、しかし何の因果か、善逸は宇髄とまた同じクラスになった。女友達からは「善逸いいな〜!宇髄くんとクラス一緒じゃん!!」と羨ましがられたが、善逸としては何とも思ってなかった、というより厄介ごとに巻き込まれないと良いなと思っていたくらいだったし、とはいえ一年目にこれだけ関わりなく過ごしてきたのだから今年度も特に関わりなく、そのまま三年生になるのだろうと高を括っていた。  しかし、修学旅行の班決め兼席替えの際、事件が起きた。 善逸の高校では高校二年のときに修学旅行に行くのだが、善逸のクラスでは、その前に行われた席替えによって割り振られた班で修学旅行でも行動することになった。つまり、好きな子がいる男子女子は同じ班になるための腹の探り合いに躍起になるのだ。いつもの席替えのときにはないピリリとした異様な緊張感漂う中、その席替えは行われた。女子が先に席を決めることとなり、グループ単位で席を決めていく。善逸は仲の良い子たちに了承をとり、誰とも争わずに済む人気のない教卓の前の席を選んだ。女子が無事決め終わると、その後男子の番になり、それも無事終わったようだ。 「はい、では女子も男子も、選んだ席に机ごと移動して」  担任の教師の声で自分の机を運び、選んだ席に座ってみれば、その席の隣に移動してきたのは宇髄だった。  なぜこの人気のない席に宇髄が座っているのか。全く望んでもいなかったことが起きて混乱する善逸に対し、宇髄は「よろしくな、善逸」と今まで呼ばれたこともない下の名前で呼び出すものだからさらに困惑する。 ――今までずっと“我妻さん”だったよね? そんなことが聞けるはずもなく、善逸は「こ、こちらこそ……」と小さな声で答えるしかなかった。  修学旅行もこの席に則った班で行くことになる。つまり行動班まで宇髄と一緒ということだ。いつも宇髄がとっている席をわざわざ選択したカースト上位の女子の視線が痛いほど感じられて善逸は肩をすくませた。あまりに女子の本気が怖すぎて、善逸はなぜか嬉しそうにしている宇髄に尋ねる。 「な、なんでこの席……?」 「え、だめ……?たまには良いかなと思ったんだけど」 「い、いや、悪くはないけど、」 善逸が言い淀むと、宇髄の後ろに座ることになった煉獄が「確かに宇髄が前だと何も見えんな!」とよく通る声で言ってクラスを笑わせた。申し訳ないとは思いつつ、それどころではない善逸がその言葉に笑えるはずもない。善逸のそんな様子に気がついた宇髄から「もしかして、俺の隣、嫌だった……?」と、少し悲しそうに声をかけてくるものだから、善逸は急いで取り繕って「ううん、いつもと違う席にしたんだなってびっくりしただけ!」と返した。善逸のその反応に安心したような表情と音をさせて 「良かった……、これからよろしく、修学旅行も」と笑った宇髄に善逸は笑みをひとつだけこぼして、その後ばれないようにひっそりとため息をついた。 「宇髄なんであそこの席なの〜!いつもは後ろじゃん!」  宇髄狙いのカースト上位女子が休み時間に宇髄に文句を言っていて善逸はびくりと肩を震わせた。いや、その文句は最もだと思う。このクラスの誰しもがまさか宇髄が教卓の前の席に来るとは思ってもいなかっただろう。 「んだよ、たまには良いだろ、たまには」 「煉獄くんもかわいそう、黒板見えないし」 「うっせ、了承の上だよ!」 「了承の上ってなに?一番前がよかったわけ?」 善逸はその言葉にどきりとした。万が一にもないだろうが、宇髄がわざわざ一番前を選んだ理由が自分と関係があったら、このクラスでの自分の人権がなくなる。 「今まで一番後ろだったからじゃあ一番前かなって」 「はー?なにそれ!」 「一番前ならド派手に真ん中の列だよなって」 「馬鹿なの?」 「お前よりは良いわ」 何事もなく終わった会話に善逸はほっとしていた。こんな毎日が続くと思うとやはり気が重くてたまらなかった。  しかしその後は、善逸が思った以上に騒がれることはなく、割と何の問題もない平穏な日々が続いた。カースト上位女子たちは宇髄が善逸を好きになることはないと思ったのだろう。ただ、誰にでも分け隔てなく接する宇髄が隣に来てしまった今、彼とくだらない世間話をする機会も増えてしまった。ただこれも善逸相手であればカースト上位女子たちの怒りには触れないようで、陰口を言われることもないようなので話には適当に付き合っている。  隣の席に座ってみてわかったことだったのだが、宇髄は割といつもしっかりしているにもかかわらず、たまに「それ忘れる?」というもの忘れてきたりすることがあった。 「ねえ善逸ごめん」 「………なに?」 「筆箱丸ごと忘れた」 「…………はい?」 「代わりにテレビのリモコン入ってた」 「ぶふっ、そんなことある?!」 「リビングのテーブルで宿題してたからだな……」 額に手を当てて悔やんでいる宇髄に、その日は仕方なくシャーペンと三色ボールペンと消しゴムを貸してあげた。  また別の日には、 「ねえ善逸、」 「なに……また忘れ物……?」 「古文の宿題……教科書ごと」 「しかも担任の授業の宿題じゃん……、あんなに昨日念押ししてたのに……」 「いや、今日部活のものとか多くて鞄入れ替えたんだよ、そしたら移し忘れたみたいで……、ほんとまじでごめんなんだけどノート見せてください」 「ちゃんとやってあったんでしょうね?」 「ちゃんとやりましたまじで忘れただけです見せてください……」  関わり合いたくなくてもこんなことを繰り返していれば少しは仲良くもなる。宇髄と話すことも増えて、それから修学旅行に突入した。  宇髄に対して、しっかりしているというより抜けている印象が強く残ってしまっていた善逸だったが、修学旅行では宇髄が類稀なるリーダーシップを発揮し、また認識を改めなくなってしまった。休憩の回数など女子に対する気遣いもばっちりだったし、そそっかしくて階段で転びそうになった善逸を支えたり、車が近くを通りそうになったときに道の内側に引っ張ってくれたり、その後は車道側を歩いてくれたりと、筆箱の代わりにリモコンを持ってきた人物と同じとは思えなくて、善逸はそのギャップにどきどきしてしまった。  しかし、間違ってはいけないのは、彼のことを好きになってはいけないということだ。宇髄は自分と釣り合うような人ではないのだから。感じた胸の高鳴りは封印してなかったことにする。時折宇髄から向けられる視線が熱っぽいような気がしたのは、自意識過剰な自分の気のせい。思いが育つ前に摘んでしまえば面倒なことは何もないのだ。そうして修学旅行も特に問題なく、無事楽しい思い出となった。  修学旅行が終わってさえしまえば、席替えがある。宇髄は以前と同じ、後ろの方の席に戻り、善逸は今度は窓際の真ん中あたりの席になった。席が離れれば宇髄と話すタイミングも減り、しばらくするとどうやって話していたのかも忘れてしまった。  午前授業だけの土曜授業の日、善逸は風紀委員の仕事で午後も居残っていた。たまたま体育館の横を通ったとき、宇髄の大きな身体を使ってディフェンスをしている姿が目に入る。全く違うジャージを着ている人たちがいるので、他校と練習試合なのかもしれない。部活をしている宇髄を初めて見た善逸は、思わず開いているドアから彼の姿を覗き込んでしまった。 「あれ……、善逸?」  休憩なのか、スポーツドリンクを飲みながら乱雑に汗を拭く宇髄に見つかり話しかけられる。 「あ、えっと、おつ、かれ?部活してるの初めて見たから、見、ちゃった、」 「そっか、確かに……、善逸、委員会ないと早く帰るしな、めずらしいか」 「う、うん、」 「……見惚れたり、してくれた?」 「え……?」 「いや、かっこいいって、思ってくれたらうれしい、な、って……、ごめん何言ってんだろ、俺、」  宇髄の髪から汗がぽたりと垂れた。先程まで極限まで動かしていて上気した顔が、また少し赤くなったように感じる。 「え、ぁ……、う、うん、かっこよかったよ?」 「え、ま、じ……?」 「う、ん、」 「やば、まじか、一人で百点くらい決められそう、ちょ、俺、頑張るから!もうちょっと見てて!」  宇髄!と先輩に声をかけられ意気揚々と次の試合に参加した宇髄は、百点とはいかなかったものの、それはそれは目を見張る活躍をした。善逸といえば、ルールにも明るくないのに思わず見入ってしまって、結局その試合が終わるまで見続け、やり残した仕事がまだあったことを思い出して宇髄に声だけかけるとその場を後にする。彼のきらきらと輝く姿がどうしてもかっこよく見えてしまって顔が熱くなったが、委員会の仕事に集中して気を紛らわせた。  結局帰る時間が遅くなってしまって、ため息をつきながら下駄箱に向かうと、丁度帰ろうとしていた宇髄がいた。「暗いし、一緒に帰らねえ?」と声をかけてくれて、その好意に甘えて一緒に帰ることにする。声をかけてくれたのは宇髄の方なのに、しきりに汗の臭いを気にするから善逸は笑ってしまったのだが、あんなに汗をかいていたのに汗臭い匂いなんて一切しないのでそれにも驚いてしまった。 「気にしすぎ」 「いや、気にするだろ、尋常じゃないほど汗かいてんだから」 「びっくりするくらい汗のにおいしないよ?むしろいい匂い」 「やめっ、嗅ぐなよ!」  そのやりとりを一通りすれば、その後は彼女でもないのに鞄を持ってくれた。未だわずかに滴る汗が綺麗で、善逸は輝きすぎている宇髄を直視できずにいた。  電車の中では宇髄の部活の話や、善逸の委員会の話などをしていたのだが、思いのほか盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていく。宇髄は同じ方向だからと、善逸の最寄り駅まで送ってくれた。 「家着いたらさ、メッセージ送ってよ、心配だから」 修学旅行のときにメッセージアプリのID交換は済ませているし、連絡は可能だが、そこまで必要だろうか。 「ええ?そんな大丈夫だよ、心配性すぎない?」 「善逸は女の子なんだから、それくらい心配したって罰当たんねえよ」  大きな手のひらで頭をぽんぽんとされながら言い聞かせるように言われてしまったら、従うしかなかった。家に帰ったら早急に宇髄にメッセージを送る。無事についたようでよかった、安心した、という返信が来て、取りあえず胸を撫でおろした。彼女でもない女にやさしすぎないかと疑問に思いつつ、ベッドの上で横たわりながら、じゃあまた学校でと返信をしてやり取りを終わらせた。  善逸の中では、これ以降メッセージのやりとりなんてないだろうと思っていたのに、この日を境に宇髄からメッセージが飛んでくるようになった。部活でどうだった、いい雰囲気のカフェが駅前にできたって聞いた、今日の数学の先生の髪形についてどう思うか、最近は委員会は忙しいのかなどなど内容は日々様々だったが宇髄のコミュニケーション能力の高さのおかげで、毎回なんでもないやりとりが楽しかった。しかしながらやはり善逸からは恐れ多くて送れない。それでも宇髄は気軽にメッセージをくれたし、そのせいかクラスでも少しだけ話すようになっていった。



「ほんと先生嘘すぎじゃない……?なんで私にばっかり雑用押し付けんの……」  委員会の雑用を担当の教師に押し付けられて帰りが遅くなることが増えており、誰もいないことを良いことに善逸はひとり愚痴をこぼす。はあ、と大きなため息も追加して自分の教室のドアをくぐるとそこには帰り支度をする宇髄の姿があった。 「お疲れ。でかい独り言だな」 聞かれていたのは恥ずかしいが、思っていたことは事実だったので善逸は開き直った。 「だって……私にばっかり雑用押し付けるんだもん!ひどくない?ひどいよね?」 「ひどいのかもしれないけど、俺的にはラッキーかな」 「はあ……?」 「善逸と一緒に帰れるじゃん」 屈託なくこぼされる笑みに、胸が鳴って顔が熱くなる。彼女でもない自分にこんなことを言うのか。前々からうっすらとは思っていたが宇髄は自分の魅力というのを理解していないらしい。 「一緒に帰ろうぜ」 不意打ちにときめいてしまったせいで、善逸は気がつけば宇髄のその言葉にうなずいていた。自分から帰ろうと誘ったくせに、またもや汗の匂いを気にしている彼に笑ってしまえば、変な緊張はどこかへ行きいつも通りの距離感に戻る。 「なあ、善逸」 「んー?」 「委員会で遅くなりそうな日、教えてよ。無理にとは言わないけど、遅くなったらさ、一緒に帰らねえ?最近暗くなるの早いから」 「なにそれ?また心配?大丈夫だよ、私かわいくないし。襲われないって」 「襲われないなんてそんなのわかんないだろ。それに善逸はかわいいよ、だから心配なの」 ひえ、と善逸の口からは変な声が出た。宇髄は真剣な顔をしていたが、善逸の顔が赤くなっていることに気がついて彼自身も顔をわずかに赤らめる。 「と、とにかく!あぶねえから、途中まで送る」 その後は互いに気まずくなってあまり話せなかったものの、相変わらず宇髄は善逸の荷物を持ち、車道側を歩き、電車内でふらついたときも支えてくれた。その度にどきどきと胸を高鳴らせる羽目になった善逸はその日の別れ際の記憶が一切なかった。  そんな状態になってしまったにもかかわらず、秘密の邂逅は続いていた。その後も結局何度か委員会の仕事で遅くなってしまい、その度に宇髄と鉢合わせてしまったのだ。そのときは連絡をしていなくて、「連絡なかった」と少し膨れた頬で言われた。 「だ、って、無理にとは言わないけどって、言った、じゃん、」 「……言った、けど、……待ってた、から、連絡」 「なんで……?」 「心配だから。あと……頼ってほしくて、」 「な、なんなの、それぇ……」 「な、なんでもいいだろ!ほら、帰るぞ!」  荷物を奪われ、手をとられて引っ張られる。そのまま下駄箱に行けば手は離されたものの、靴さえ履いてしまったらまた手をとられた。緊張で手が汗ばむ。それがばれるのが嫌で手を離してと言うのに、逃げそうだからだめと言って宇髄は手を離してはくれなかった。  駅前近くになって人通りが多くなっても手はつながれたままで、通り過ぎる人たちに彼氏彼女だと勘違いされているのではと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。  その後、乗り込んだ電車が大きく揺れてふらついてからは宇髄の手が善逸を支えるように腰に回り、さらに距離が近くなる。宇髄のYシャツが目の前にあるせいか柔軟剤の香りが漂ってきた。それがいい匂いで思わず、すん、と嗅いでしまうと、それに気がついた宇髄がびくりと身体を震わせた。 「え、いま、嗅いだ……?」 「ぁ……、じゅ、柔軟剤のいい匂いが、して、」 「び、っくり、した、汗臭かったかなと、思って、」 「いつも言ってるけど、宇髄くんが汗臭かったことないよ……、そんなこと言ったら私だって体育とか、してるし、」 「いや善逸はいい匂いだから……っ、」 その言葉に今度は善逸が身体をぴくりと反応させた。 「え?」 「え……?」 「嗅がれてるの、わたし、」 「あ………、え、と、」 都合が悪いことでもあったかのように宇髄の視線が善逸から逸れていく。そんな宇髄の腹を善逸はばしばしと叩いた。 「宇髄くんのえっち……!変態……っ!」 「ぅぁ、その言葉は別の意味でやばいからやめて……」 変な緊張感と恥ずかしさに苛まれながら、同じく恥ずかしそうな宇髄がたどたどしくこぼす話や質問になんとか反応することでいつもより長く感じた乗車時間はどうにか過ぎていった。  帰宅後、ベッドに横たわりながら宇髄にちゃんと家に着いたことを連絡すれば、「遅くなる時はまじで連絡して」と念押しのメッセージが来た。変な緊張感の漂う今日のような時間をまた過ごさなければならないのかと思いつつ、少しだけ楽しみにしている自分がいることに善逸は焦っていた。 ――こんなこと続けられたら、好きになってしまう 段々誤魔化しが効かなくなっていることに善逸は気がついてはいなかった。  宇髄に言われたから仕方なく、という言い訳のもと、委員会で遅くなりそうなときには連絡を入れるようになり、もちろんそうすれば当然一緒に帰ることになる。独特の緊張感にも少しは慣れてくだらない話や家でのことなども話せるようにはなったのだが、宇髄はさらに距離を縮めてくるので、善逸はいつも緊張と恥ずかしさでめまいがしそうだった。電車の中でふらつけば腰に手を当てられるばかりか抱きとめられるようにまでなってしまったので、最近の善逸はふらつかないようにすることに命をかけている。しかし対策を練れば練ったで、宇髄は別の触れ方をしてきた。善逸の手をとり、ふにふにと手のひらのやわらかさを楽しむように握ってくるので善逸は赤面しないよう必死に堪えている。今日は今日で、「善逸の髪の毛、ほんと綺麗」と髪に触れてきた。すくい上げた一束をじっと見つめて、愛でるように親指で撫でるのだ。勘違いしそうになるからやめてくれと思うも、そんな自分の自意識過剰具合が宇髄にばれるのが嫌で「宇髄くんの髪も綺麗だよ」と視線を逸らしながら答えるしかなかった。  好きになってはいけないと思いながらも宇髄との帰り道を楽しみに過ごしていたらあっという間に時は過ぎた。  そうして、高校二年の最終日。一年間お世話になったクラスメイトたちに挨拶を済ませたそんな日も次年度への引継ぎだかなんだかで委員会の担当教師に引き留められ、仕事をするはめになってしまった。他の生徒よりも帰るのが遅くなってしまったため、教室にはもう誰もいない。三月になり太陽の上っている時間も少しだけ長くなった上に、いつも仕事で残っていたよりも大分早い時間に終わったので、まだ外は明るかった。 「委員会の仕事で残ったけど、外明るいし連絡も必要ないね……」  携帯を見ながら善逸はぽつりとつぶやいた。宇髄はきっとまだ部活をしていることだろう。来年同じクラスになるかわからないし、委員会だってこんなに忙しくないかもしれない。それに、来年は受験もある。宇髄と帰ることももうないのだろうと思って、教室を後にしようとした。しかし鞄を持ち上げたとき、やたらと激しい、おそらくかなりのスピードで走っているだろう足音が同じ階の廊下の先にある階段あたりから一気に近づいてきて、善逸の教室のドアががらりと開いた。 「よか、った、まだ、いた、」  ぜえぜえと息を切らした宇髄が、善逸を見て言う。 「う、ずい、くん……?」 「ずっと、ぜんいつに、言いたくて、言おうと思ってたことがあって……、はあっ、」 「ちょ、おち、おちついて、」 「言うタイミングなんて、いくらでもあったのに、でも、決心がつかなくて、言えなくて……っ、さすがに今日こそ、と思ってたのに、今日に限ってタイミング悪くて話しかけられなくて、」 「うずいく、」 「三年になる前に、直接、言いたかったから……、よかった、まだいてくれて、」  息を整えた宇髄の赤い目が善逸をとらえた。真剣で、誠実。音なんて聞かなくてもわかるくらいに、真っすぐに見つめられる。 「我妻善逸さん、一年のときからずっと好きです。もしよければ、俺と付き合ってください」 一瞬、宇髄の声以外の音が一切なくなった。 「え……?す、き……?」  真剣なのは百も承知ではあったが、善逸からするとあまりに予想の範囲外で信じられず、やはり罰ゲームか何かとなのではと耳を澄ませるも宇髄からはもちろんそんな音は一切しない。むしろ、緊張と、恥ずかしさと、不安の音、そしてなにやら聞き心地のいい、甘くてさわやかな、淡く響く風鈴のような音が聞こえた。 「気づいてほしくて、結構際どいことしてたと思うけど……、やっぱり気がついてなかった?」  まさか告白されるなんて思っていなくて困惑する。自分はカースト上位の女子たちみたいにかわいくないし、宇髄の隣に立っていいとは思っていなかったから、気がついてなかったというよりも、おかしいなとは思いつつ、距離感が近いのは他の人に対してもそうなのだろうと勝手に納得していて、期待しないようにしていたのだ。自分が徐々に宇髄に惹かれていっているのにも気づかないふりをしてきた。 ――でも結局それって、何も気にしていなかったら惚れてるってことでは……? 途端に顔が熱くなって、善逸は宇髄の顔が見れなくなった。 「ちょ、っと、まって……!なにその反応……、かわい……、抱きしめたい……、」 「だきっ!?はあ?!だ、だめ…!!」 「だめ……?善逸、いや……?」 「っ、ちょ、ちょっと、まってよぉ……」 「だってそんなかわいい顔してる……」 「ひぇ、ま、まってってば、!」  善逸は自分の気持ちを今自覚したばかりで色々追いつけずにいた。ただ、善逸の態度に好感触を感じた宇髄は、飼い主への好きの気持ちがあふれる犬のように途端に積極的になる。 「わかった、抱きしめるのは待つ……、でも、かわいい……、すき、善逸、」 「……っ、だ、だからっ、そういうのもまって……」 「いや、もう、好きすぎて……」 「……………、」 「善逸は、俺のこと、すき……?」  急に不安そうに聞いてくる宇髄にずるさを感じながら、顔をうつむけ、視線を泳がせたが、だからといって答えがどうこうなるわけではない。急な展開に胸がいっぱいで、言葉は掠れて出てこなかった。仕方なく、宇髄の言葉に小さくこくりとうなずく。  途端に包みこまれる身体。気づいたときには、善逸の身体は宇髄の大きな身体に抱きしめられていた。自分でも顔が真っ赤になっているのがわかるくらい顔が熱くて、抵抗もできずにとりあえず顔を隠す。 「あーもう、かわいい……、ぜん、顔見せて?」  ぜん、ぜーん?と甘い声で呼ぶから仕方なく少しだけ手を外してちろりと見上げると前髪を上げられて額に唇が降ってきた。びっくりして固まったところを見計らって、宇髄の手が善逸の手を外し、あごをやさしくもちあげて大きく屈んだ宇髄の唇と善逸の唇が触れる。 「ぜんのくちびる……、やわらけ、」  とろんとした顔でそんなことを言われたからにはもう、善逸の思考はショートするしかなかった。

【宇善♀】君色に惚れる【高校同級生】
とある企画に向けて書いていたのですが、文字数オーバーで没になったので供養させてください……。

仲良くしてくれている吾衛門さん‪@n_no_1221 ‬が表紙を描いてくれました〜!ありがとうございます!

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◯今回の宇善♀ハイライト
・同級生宇善♀
・宇:誰とでも分け隔てなく接するカースト上位の人気者
・善:髪の色で悪目立ちを避けたくて、カースト上位の人たちとは関わりたくない

◯注意事項
・善逸が女の子
・高校卒業してからだいぶ経つので、
・今の高校生ライフとは異なる可能性があります……
・ご了承ください
・見直し・付け足しはしたけど、誤字脱字あったらすみません…
・私の作風がでろあま仕様なので、宇善の性格が皆さんの思っているものと異なる場合があります

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2020年5月17日 14:55
及川

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