若手の技術者に話したらさっぱり伝わらなくて焦ったので、今回は(今回も)どこに需要があるか分からない話を記録しておきます。
度量衡の意味
度量衡(どりょうこう)とは物を計ったり数えたりするのに用いる単位をまとめた制度のことで、人々が経済活動を行うのに必須である”計量”の土台となる概念です。
- 度は長さ
- 量は体積
- 衡は質量
を表しています。
日常的にはあまり使わない計量と単位ですが、実はありとあらゆる経済活動の基盤と言えます。適当な例を考えてみましょう。
買う人「リンゴジュースを売ってくれないか」
売る人「あいよ、俺の体重の1/3くらいでいいか?」
買う人「知らないよ君の体重なんか。それはどのくらいの大きさだよ」
売る人「俺の子どもがいつも使ってるあそこのコップ12杯分くらいだ」
買う人「分かりにくいな、あのコップの深さはどのくらいだ?」
売る人「俺の嫁の手のひらの1/2くらいだ」
買う人「ああ、もうそれでいいや。売ってくれ」
売る人「よし、値段はこの石2個分の金、銀ならあの石7個分の重さだ」
度量衡が統一されていない世界ではまともな商取引は成り立ちません。
度量衡の歴史
物々交換が行われていた原始的な取引の時代では目分量が許容されていましたが、経済規模が大きくなり貨幣(秤量貨幣)によって商取引が行われるようになるにつれてそれぞれの社会で度量衡が整えられてきました。度量衡は徴税や大規模建築による測量の統一、天文や気象、治水といった社会集団全体に関わる分野が多かったことから、国家によって定められることが一般的です。逆に言えば度量衡を定めることこそが権力者の権威を世に知らしむことだったとも言えます。
度量衡は国家と共にあったことからその歴史も長く、古いものであれば紀元前4000年以上前の古代バビロニアにまでさかのぼることができます。明確な記録がある例としては紀元前221年の始皇帝による古代中国の度量衡統一があります。
日本では西暦701年に唐を参考にして制定された大宝律令が最初の統一です。その後も様々な単位が生まれては消えていきました。
日本独自のもので最もメジャーな単位としては石高でしょうか。これは田畑や屋敷の面積に対して石盛という係数を掛けて米の生産力に換算した単位で、武士の収入や俸禄を表すのに用いられました。加賀百万石といえば十万石の所領の10倍の生産力があるというように比較しやすくなっています。これを明確にするため豊臣秀吉が行ったのがかの有名な太閤検地です。
石高のような日本固有の単位系を尺貫法といいます。近代に入り欧米とのやり取りが必要になったことから、明治24年には度量衡法が制定されてメートル法を取り入れました。その後1921年にメートル法への統一、1951年に計量法が制定されて尺貫法の使用禁止、1993年に国際単位系(SI)への統一、といったように変わっていきました。現在の日本では新計量法により国際単位系を基準としています。
単位系とは
単位系とは、度量衡のうち少数の基本単位とそれらを組わせて作られる組立単位から成る合理的な体系をいいます。単位系は何を基本単位とするかによって無限に定めることができますが、実際は有用性を考慮していくつかの単位系に統一されています。
いくつかの事例としては、
国際単位系(SI):
キログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)、アンペア(A)、ケルビン(K)、
モル(mol)、カンデラ(cd)
MKS単位系:
キログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)
CGS単位系:
センチメートル(cm)、グラム(g)、秒(s)
ヤードポンド法:
ヤード(yd)、ポンド(lb)、秒(s)、温度(℉)
プランク単位系:
プランク時間(tP)、プランク長(lP)、プランク質量(mP)、
プランク電荷(qP)、プランク温度(TP)
※プランク定数h(6.62607015×10-34Js)は理論物理学の物理定数
例えば時間をどんどん小さくしていって一番小さくなったところがプランク時間、長さを短く短くしていって一番短くなったところがプランク長です。物理学上プランク単位は物理的に何らかの意味あるものとして観測できる最小単位です。つまり人類はすでに世界の最小時間や最小長さなどに辿り着いているのです。
日本の計量法では国際単位系を用いるように指定されています。尺貫法の単位は合や匁、坪といった一部を除いて全て「物象の状態の量」を示す「取引又は証明」での使用が禁止されており、破れば50万円以下の罰金です。但し輸出入に関しては諸外国の都合があるため非法定計量単位の使用が許可されています。
各国の度量衡と単位換算
適切な商取引には統一された度量衡が必要ですが、度量衡が国家の権威に結びついてしまっている以上独自の度量衡を採用し続ける国家もあるのが実情です。顕著な例としてはイギリスとアメリカで、イギリスはメートル法を採用しつつもヤードポンド法を残しており、アメリカに至っては頑なにヤードポンド法を使い続けています。一応ミャンマーとかリベリアもメートル法を採用していませんが、あまり話題にはなりません。
よって彼らとの商取引に際しては異なる単位系を用いる必要があります。そのために必要なのが多数の単位への理解と単位換算です。
私の業界ではかなりの頻度でヤードポンド法にぶつかります。国際単位系を用いる日本の一技術者として、私はヤードポンド法を滅ぼそうとする世界中のエンジニアを全力で応援することをここに表明します。単位換算が面倒なんですよホント・・・