マネージャーが見た! “おっさん芸人”錦鯉の“売れざま”【前編】
2021.03.12
ソニー・ミュージックアーティスツ
2021.01.20
ヒットした作品、ブレイクするアーティスト。その裏では、さまざまな人がそれぞれのやり方で導き、支えている。この連載では、そんな“裏方”に焦点を当て、どのように作品やアーティストと向き合ってきたのかを浮き彫りにする。
今回話を聞くのは、2020年にメディアへの露出が激増し、初の日本武道館公演も成功させたCreepy Nutsのマネージャー/A&R(アーティストの発掘、育成、楽曲制作など、幅広く担当する音楽業界特有の職種)、森重孝。メジャーデビュー前からともに歩んできた担当者の、アーティストとの向き合い方とは。
後編では、マネージャーの目から見たCreepy Nutsのふたりについてや、今後さらに飛躍するために見えてきた課題などを語る。
目次
森 重孝
Mori Shigetaka
ソニー・ミュージックエンタテインメント
次世代ロック研究開発室
(写真左から)R-指定/大阪府出身。MC、ラッパー。中学2年のときにリリックを書き始め、高校2年でフリースタイルラップでバトルやライブ活動を開始する。2012~2014年、日本最高峰のMCバトル『ULTIMATE MC BATTLE』の全国大会『UMB GRAND CHAMPIONSHIP』で3連覇する。DJ松永/新潟県出身。DJ、トラックメイカー、ターンテーブリスト。2019年、世界最大のDJ競技会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019』で優勝。
2017年、シングル『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』でメジャーデビュー。最新ミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』発売中。2021年1月9日から、『Creepy Nuts One Man Tour「かつて天才だった俺たちへ」』がスタートした。
――そうして、2017年11月リリースの『高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。』でメジャーデビューすることになるわけですが、Creepy Nutsの、いわゆる “カルトヒット”のような状況を見て契約したというわけではなかったと。
もちろんその状況も知ってたし、会社を説得する材料にはなりましたけど、個人的にはそれよりも音楽性と人柄、“人として”っていう部分が大きかったですね。ふたりとも自分と向き合う時間がすごく長かったんだろうな、と感じたし、そこから生まれる人間性や音楽性はほかにはないものを感じたから、僕自身も惹かれるものがあったんですよね。そういうアーティストを手掛けるのは面白いことになるんじゃないかなって。なんというか……“お化粧のできないふたり”なんですよね。
――ヒップホップは“その人そのまま”の部分を出すと同時に、自分を強く、大きく見せるような“化粧文化”の側面もありますよね。
そういう意味では、“その人そのまま”の方向に全振りしていて、すぐに裸になれるような格好良さをふたりに感じたんですよ。正直に言えば「彼らは金になる」とか「売れる」なんてことはまったく考えなかったし、勝算もなかった(笑)。売れるかどうかは運や時代とのフィット感もあるので。でもそこを度外視しても、“今までにはないアーティスト”だとは思ってました。
――メジャーデビューから3年で日本武道館というのは、ヒップホップ・アーティストとしてはかなりの速度です。それには作品やパフォーマンスの精度はもちろん、『オールナイトニッポン0』をひとつのきっかけとした、テレビやラジオへの進出も大きかったと思います。ただそれは、以前からYouTubeで『Creepy Nutsの“悩む”相談室』をやっていたように、蒔かれていた種がどんどん広がっていったからのようにも感じます。
『Creepy Nutsの“悩む”相談室』
そうなんですよね。本人たちは何も変わってない。メディア露出に関しても、タレントではなくやっぱりアーティストなので、よっぽどのことがない限り、本人たちがその仕事をやりたいかどうかで決めてもらってます。声を掛けてもらえてるうちが華っていうことは本人たちも自覚してるはずだし、楽しんでできてるうちはやっていいんじゃないかと思ってます。声を掛けてもらえるような“種”は、本人たちも、スタッフとしても、会社としてもいろんなところに蒔いていますね。
――それにしても、R-指定さんがNHKのドラマ(『閻魔堂沙羅の推理奇譚』)に俳優として出演しているのを見たときは驚きました(笑)。
昔を知っている人には想像はつかないですよね(笑)。R-指定が尊敬するMummy-D(RHYMESTER)だったり、般若のような先達が俳優をやってるのを見て、興味を持ったというのも大きいようですね。本人が映画好きなのもあるし。彼としては両手を上げて「俳優がやりたい!」ってわけではなかったんですけど、お声掛けをいただいたので、人生は一度きりだし、やりたいことをやってほしいなと。
――DJ松永さんもよくしゃべることは知っていましたが、あんなにバラエティ特性が高いとは思いませんでした。『オトナ』(2020年)という曲で、「おまえは人の顔色見ずに思った事をすぐに言う」と歌われているようなキャラクター性もバラエティ向きだったんだなと(笑)。
彼のそういう部分って、素直さからくるんだと思うんですよね。大人になるにつれて折り合いをつけてしまったり、子供のころに置いてきたような部分を、彼はいまだに持っていて、それが素直に出てるだけだと思うんです。それで困ることもあるんですけど(笑)、そこに悪意はないので愛されるんだと思いますね。
――これまではヒップホップ勢がバラエティ番組に出るときって、“不良強面キャラ”か“何でもラップにしてしまうキャラ”が求められることがほとんどだったと思うんですね。ただ、Creepy Nutsの場合は、番組上でフリースタイルやターンテーブリズムが求められる場合があっても、それが“オモシロ”ではなく、“リスペクト”という形で扱われているのが、これまでになかった大きな変化だと思うし、ヒップホップに対する誤解を解いたとも思います。それはそういった“オモシロ”で扱われることをNGにしたのか、それとも取り巻く状況がそうしたのか、どちらでしょうか?
彼らの活動が正当に評価されてるっていう部分があるのと同時に、テレビやラジオだったらディレクターや構成作家と、場合によっては直接話してもらってる部分が大きいと思いますね。彼らがそれを望むこともあるし、そのほうが思いが伝わったり、理解も深まるので。
そうすると、例えば現場で齟齬が出た場合でも、“その話は違う”とか“僕らはこうしたい”っていう話がスムーズにできると思うんですね。そこでさらにぶつかったら、双方を調整するのが僕やスタッフの役割になってきますね。
――2019年から2020年は、“Creepy Nutsがスターダムに上っていくさま”を多くの人が目撃した年になりました。
『かつて天才だった俺たちへ』MV
単純に人気が出たな、と思う反面、さまざまな数字を見るともっと伸びても良いんじゃないかなという歯痒さは感じますね。その部分ではもっとスタッフとしてできることはあるんじゃないかと思うし、数字に繋げないと本人たちにも悪いと思います。
人によっては、2020年の『NHK紅白歌合戦』に出場するんじゃないかと期待していたと思うんですが、やっぱり数字という部分をみると、まだまだ難しいとは思っていました。
――最もシビアな部分ですね。
僕は“紅白”の出場システムに詳しいわけじゃないけど、数字を見るとほかに出るべき人はいるな、と。ただ、2020年に出られなくて良かったと思う部分もあるんですよね。いずれは出てもらいたいし、出られる存在だと思ってる。だけど、ヒップホップやラップのアーティストが“紅白”に出るっていうのは、ほかのジャンルに比べると並外れたハードルがあると思うんですね。
――明確なヒップホップ勢として出演したのは、EAST END×YURI(1995年出演)やKICK THE CAN CREW(2002年出演)など数組ですね。
J-POPやロックに比べると、出演する意味合いが大きくなってしまうというか。2020年に出られなかったっていうことは2021年にやるべきことが見えたということだし、出場したときの意味合いを大きくすることができるようになったと思うんですね。だからポジティブにとらえています。
――確かに、誰もが知るヒット曲を出して、有無を言わさず“紅白”に出る姿を見てみたいですね。
既に代表曲はあると思うんですが、“老若男女が知っている曲”というのはまだ難しいと思うんですね。今はいろんな尺度があるのでヒット曲の定義っていうのがかなり難しくなったと思うし、上を見ればきりがないとは思うんですけど、それでも今より上に行けるように、マネージメントとしてはバックアップしていきたいと思います。実際問題として、マネージメントやA&R、レコード会社の機能が問われている時代だと思うんです。
――配信やYouTubeに発表の場を特化するアーティストのなかには、自分で会社を立ち上げたり、自分ですべての役割を担う人も少なくないですよね。
僕が声を掛けたアーティストのなかにも、「自分たちでやるので大丈夫です」って断られた人たちもいます。自分たちだけでやろうと思えばできる時代になってきていると思うし、究極的に言えば、僕のような仕事はもう必要ないのかもしれない。でも、なくてもいい仕事なら、逆に何ができるかを考えないといけないと思いますね。
――アーティストが何を求めるかも千差万別ですからね。
そうですね。お金をいっぱい持ってきてほしい人、露出を増やしたい人、カバンを持ってほしいだけの人もいるわけで。だからA&Rやマネージメントに何が求められるかはアーティストによって変わるし、会社や、マネージャー個人の特性によっても違ってくると思います。
――Creepy Nutsは、CDをリリースして、メジャーレーベルに所属して、日本武道館公演を行ない、ファンクラブ『CLUB Creepy Nuts』を設立と、非常に旧来的な音楽業界の動きをしていますよね。そのやり方が今の時代にどこまで通用するのかは、非常に興味深いです。
そうですね。それも彼らが望んだことです。僕が思ってもいないようなことを考えるふたりではあるし、ヒップホップという最先端のカルチャーを担いながら、そういったある意味旧来的な形態で活動するのは僕としても興味深い。その上で自分としては、“Creepy Nutsにとって正しいA&R”であればいいのかなって思ってます。
――“正しいA&R”として考えると、短期的な目標はなんでしょうか?
先ほど定義が難しいとは言いましたが、それでもジャンルや年齢を超えた、国民的ヒットと呼ばれるような曲を作るふたりを間近で見たいし、それがリリースされて、また状況が変わる瞬間も見たいですね。短期的な部分ではそこですかね。今は武道館公演ができるぐらい目の前のお客さんは増えていってますが、それをどこまで増やせるのか、もっと具体的に言えば、今の時代のヒップホップ・アーティストとして、どれだけ購買層が掴めるのかっていうのはすごく興味があります。
ヒップホップというジャンルのなかで音楽を作るふたりが、ヒップホップでどこまで行けるのか、音楽シーンのなかでどんどん上がっていくさまをずっと見ていたい。そう思うのは、Creepy Nutsがヒップホップ・シーンのなかでも、今までに前例のなかったタイプのアーティストだからでもありますね。
――では長期的な目標は?
「できるだけ長く活動したい」っていうのが本人たちの希望であり、目標なんですね。だから、できるだけ長く活動するのが目標です。日本語ラップの歴史のなかで、ネガティブな意味で決着がついてしまった人はいると思いますが、ポジティブな意味で決着のついた、“上がった”人っていうのはまだいないと思うんです。
いまだに現役でステージに上っている先輩もたくさんいるし、若いアーティストを見ればまったく新しいアプローチで活動してる。音楽業界の状況的にもサブスクリプションやYouTubeのように、20年前だったらあり得ないことがスタンダードになっているし、肌感覚として「この先どうなっていくかわからない」っていう部分があると思うんですね。
でも逆に言えば、だからこそ何でもできるだろうし、本人たちの頑張りや才覚を頼りにしてるっていう部分が強いです。そして僕らは、その本人たちがやりたいことをできる環境を作る。もし東京ドーム公演がやりたいって言うんだったら、そこへ行くためのロードマップを考えるし、クラブサーキットがしたいなら、そのためのスケジュールを捻出しなくちゃいけない。もし休止したいっていうなら、ちゃんとお互いが納得いくまで話し合いたい。
進む先を決めるのはふたりだと思うので、僕らはふたりがやりたいことをスムーズに進められるように、また、やりたいことがなくならないように支えたり、刺激を与えるような動きはしたいと思いますね。
――牽引するというよりはバックアップするという。
そうですね。そのほうが彼らには相応しいのかなって。それこそラッパーやDJ、ヒップホップ・カルチャーを担う人は、スタッフに引っ張られたり、言いなりになってちゃダメだと思うんで。
長い期間活動していけば、年を取ったからこそできることも出てきます。だから伸びしろやポテンシャルはまだまだあると思うし、そのポテンシャルが花開いていくのを近くで見れたらうれしいですね。
文・取材:高木“JET”晋一郎
2021年1月9日~3月17日『Creepy Nuts One Man Tour「かつて天才だった俺たちへ」』
詳細はこちら
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