プーチンのウクライナ侵攻で見えてきたESG投資の「不都合な真実」

「プーチンの強気を誘った」ものとは

「プーチンの強気を誘った天然ガス依存」

「プーチン大統領は、EU(欧州連合)脱炭素政策の最大の受益者です」

キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は、こう述べる。そのうえで「ロシアのウクライナ侵攻の一要因となりました」と、明かすのだった。

「ドイツが顕著ですが、ノルドストリーム2というパイプライン(後述)が完成、ロシアへの天然ガス依存度が7割に達することになりました。そんな状態で、(ロシアが)ウクライナに侵攻したとしても経済制裁なんてできない、とプーチンはドイツの足元を見た。つまり『プーチンの強気』を誘ったのです」

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脱炭素を巡るEUとロシアの相関関係はシンプルだ。2015年、フランス・パリで開かれたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界の気温上昇を1.5度までに抑えることで合意。この「パリ協定」に基づき、EUは温室効果ガスの削減目標を1990年比で2020年に20%減、30年に40%減と決めた。ドイツはさらに厳格で、20年に40%減、30年に55%減とした。

これで潤うのがロシアである。

ロシアのエネルギー関連の輸出は輸出全体の7割以上を占め、その輸出収入はロシア政府の歳入の約4割に達する。

そうした状況のなか、国内消費量の約5割をロシア産天然ガスに頼るドイツに、ロシアはバルト海経由でガスを送る全長約1200キロのパイプラインを21年秋に完成させた。これがノルドストリーム2である。

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ウクライナは自国を経ないパイプラインに反発、「(ロシアがパイプラインを)危険な地政学的武器として使用する可能性がある」と、警告していた。それが現実のものとなった。

プーチン大統領は、天然ガスを歳入にも、ドイツを中心とするEU牽制の武器にも使った。ロシアにとっては、脱炭素政策が進展した方がやりやすい。EUのエネルギー問題に詳しい記者が語る。

「シェール(頁岩)層から採取される天然ガス(シェールガス)は、ドイツ、フランス、イギリスなどに豊富なんですが、採取すると地下水が汚染されるなどの理由で、まともに開発されていません。そうしたシェールガス開発の環境問題を盛んに放映していたのはロシアのテレビ局です」

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