ラスベガスで開催中の CES 2014より。PlayStation Now デモ展示の試遊インプレッションをお届けします。ソニーが今年の CESキーノートで発表した PlayStation Now は、プレイステーション ブランドのストリーミングゲームサービス。
イベント会場では、すでに BRAVIAテレビ (+デュアルショック3コントローラ) や PS Vita で、リモートサーバ上のPS3ゲーム God of War:Ascension や The Last of US が遊べる状態になっています。
おさらいすると、PlayStation Now はゲームをインターネット上のサーバで実行して、画面を映像としてユーザーの手元の端末に送るストリーミングゲームサービス。仕組みとしてはクラウドゲームと呼ばれることもあります。(例:ドコモがタブレットに提供中のクラウド版ドラゴンクエストX)
クライアント側では映像のデコードと、あとはユーザーの入力をサーバに送り返すことさえできれば良いため、原理的には、数年前の非力なスマートフォンなどでも、たとえばプレイステーション4や、数十万円するようなゲーミングPCで動くゲームを遊べることが利点です。
Twitch や ニコニコ生放送などの動画配信サイトでゲームの実況中継を見ている人にとっては、「ゲームプレイ配信の自分で操作できるやつ」と考えれば間違いありません。
ソニーは PS3 と PSP の時代から、据え置き機の画面をネットワーク越しに転送して携帯機で操作できるリモートプレイ機能を提供してきました。PlayStation Now は、ソニーがインターネット上に親機と各種ゲームを用意して有料で使わせてくれるリモートプレイとも表現できます。
デバイスを問わず遊べる利点の一方で、映像もコントローラ入力もネットを介してやりとりするため、サーバとの物理的・ネットワーク的な距離が遠くなると、操作してから反応するまでの遅延も悪化する弱点もあります。また映像が送れる程度の下りネットワーク帯域も必要です。
格闘ゲームや音楽ゲーム、競技的なシューティングゲームやレースゲームなど、ゲームの種類によってはローカルで有線接続した液晶ディスプレイの遅延すら取り沙汰されることがありますが、クラウドゲームではたとえば相手の動きに反応して技を繰り出す、というようなシチュエーションでも、プレーヤーが目で見た時点ですでにネット越しの遅延があり、反応した入力もまたネットを通ってサーバに届いてから処理されるためによりシビアになります。
ソニーが300億円近くで買収した Gaikai は、クラウドゲームのパイオニアのひとつとして、こうした問題を軽減したサーバ展開のノウハウを持つ企業です。
今回のデモは、クライアントにテレビのBRAVIA および PS Vita を使い、プレイステーション3 ゲームをプレイできる内容でした。用意されていたタイトルは、God of War: Ascension、The Last of US など。いずれもアクションが激しく、The Last of US では三人称視点でカメラがぐりぐりと動きます。
短時間ながら試遊した印象は、ひとことで言ってしまえば「全然遊べる」。God of War で比較的忙しくないステージを遊んだかぎりでは、ほとんど違和感もなく、知らない人に遊ばせてもおそらく何も気づかないと思われる状態でした。
画面については、転送が720p 解像度で帯域が十分だったこともあり、圧縮による破綻もほとんど分かりません。強いて見つけるつもりで注視すると、大きく画面が切り替わった直後や、揺らめく炎、小さな粒子が大量に飛び交うような場面では、本来はないはずの圧縮ノイズがあることが分かります。
とはいえ、そうした激しい動きや複雑なエフェクト部分は、自分がプレイ中にはもともとはっきりと視認できないことが多いため、漠然と汚くなっている気がする程度です。
(あくまで感覚的なたとえ話として。ゲームの演出でよく使われてきた手法のひとつに、いわゆるイベントシーンの部分を、通常のプレイ中と同じモデルを使ったプリレンダムービーにさりげなく切り替えるやり方があります。
ありがちなのはボスキャラクターの登場や建造物の崩壊など、ゲームエンジン的にはリアルタイムに扱えない派手な場面を挿入しつつ、プレーヤーキャラクターはリアルタイムのゲーム中と同じ外見にして没入感を継続させるなど。
こうした演出でも、完璧な画質ならばリアルタイム描画と見分けがつかないはずですが、実際には容量の都合で圧縮がかかるため、デモシーンに入った途端にモヤッとしたことに気づくことはよくあります。
ストリーミングゲームはリアルタイムに描画されるゲーム中も含めて、すべての映像が「一度圧縮したムービー」になるため、ある意味「全編プリレンダ動画」でプレイする感覚です。)
デモで遊べたのは、それほど入力タイミングや画面への反応が厳しくない場面でしたが、それでもかなり快適だったため、今回のデモではどこにサーバ (PS3)を置いているのか、いずれサービスが開始した時には、どの程度のネットワーク環境(サーバからの距離) があればこのレベルで楽しめるのか、とスタッフに尋ねてみました。
最初の回答は「あくまでデモなので、今回はサーバの場所についてはお話しません」。それでもしつこく各所にあたってみたところ、今回のデモでは、サーバはデモと同じ会場内に設置されていたとの回答を得ました。
要するにLAN経由の(ローカル)リモートプレイに限りなく近い環境だったわけで、遅延や画質の破綻が気にならなかったのも納得できます。
まずは「目の前にPS3がなくてもPS3ゲームができます」を体験してもらうことがデモの目的とすれば、リスクの多いクラウド経由ではなく確実なローカルサーバを使いました、と言われればまあ納得せざるを得ません。
しかしPlayStation Now はインターネット経由で提供されることそのものに意義があるサービスなので、肝心のネットワークレイテンシ etc についてはまるで参考にならないデモでした。
(今回のデモとは直接関係がない単なる参考情報ながら、PS4 と PS Vita、PS3 と PSP を使ったインターネット経由のリモートプレイでは、ネットワーク的に恵まれていないかぎり、タイミングがシビアなゲームはゲームになりません。
遅延が大きいときは、反応速度が重要なゲームジャンル以外でも意外なところで障害が出てきます。たとえばメニュー項目を選択するとき。普段無意識にしている「方向キーを押しっぱなしにして、望みの項目が選択状態になったら離す」では選びたい項目で止まらず、「いくつ先の項目なのか目で数えて、その回数だけ小刻みに方向を入れて、一瞬待って望みの項目で止まったことを確認してから決定」など。
前向きにいえば、「ゲームにならない」のではなく「別のゲームになる」と言えないこともありません。実際にオンライン対戦ゲームでは、遅延もゲームの要素として織り込んでプレイする文化があります。)
遅延以外の点について。クラウドゲームの魅力のひとつに、パッケージを買ってきてディスクを挿入する手間がないのはもちろん、ダウンロードやインストールの手間もなく、遊びたいゲームをすぐに試せることは良く挙げられます。
PS Now もこの点は変わらないはずですが、今回のデモで印象に残ったのは、PS Vita で The Last of US の新規ゲームを開始したら、非常に長いロード待ちも本当にPS3そのままだったこと。
PS3で動いているのだから当たり前すぎるほど当たり前ではありますが、ロード中を示すパーティクルアニメがPS Vita の小さな画面と会場の照明ではよく分からなかったこともあり、止まってしまったのかロード中なのか不安になりました。
エミュレータによる忠実な復刻版ゲームなどは、ゲーム性にかかわる処理落ちは残してローディングは一瞬になっていることがあり、クラウドゲームでも実機そのままに、かつ実機より快適にを求めたくなります。
アーキテクチャ的に独特で、今のところPCゲーム的な集積仮想化が難しいプレイステーション3、さらにサービスが拡大した暁にはPS2 については、Gaikaiチームがどんなサーバを構築するのか、想像するだけで胸がときめきます。
ソニーは今月末から、米国内でPS3を使った PlayStation Now の限定ベータテストを開始する予定。ネットワーク環境はユーザーによって異なるため、実際のサービスがどこまで快適なのか、どんなゲームならば許容範囲なのかは、居住する地域でサービスが提供されたあと、無料体験などで試してみるほかありません。