ようこそ愛憎混じる学び舎へ   作:妄想癖のメアリー

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少し短めです!

個人的な堀北への解釈が含まれます。ご注意を


第12話 融解

 

 茶柱が言った通り水無瀬は静かに待っていた。程なくして指導室のドアが開く音が聞こえた。

 

「率直にお聞きします。何故私が、Dクラスに配属されたのでしょうか」

 

入ってきたのは堀北。心底納得がいかないという雰囲気を感じる。

 

「本当に率直だな」

 

「先生は本日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと仰いました。そしてDクラスは学校の落ちこぼれの最後の砦だと」

 

「私が言ったことは事実だ。どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな?」

 

「入学試験の問題は殆ど解けたと自負しておりますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

 指摘を受けた堀北は強気に反論する。どうやら自分が優秀な人間だと思っているタイプらしい。

 実際にその情報だけを聞いたら彼女は優秀だった。

 

「入試問題は殆ど解けた、か。本来なら入試問題の結果など個人に見せないが、お前には特別に見せてやろう。そう、偶然ここにお前の答案用紙がある」

 

「随分と用意周到ですね。……まるで私が抗議のために来ると分かっていたようにも感じます」

 

「これでも教師だ。生徒の性格はある程度理解しているつもりなんでな。堀北鈴音。お前の入試結果は自分の見立て通り、今年の一年の中では同率で4位の成績を収めている。満点の1位を除いて、2位3位とも僅差。十分過ぎる出来だな。そして面接でも、確かに特別注視される問題点は見つかっていない。むしろ高評価だったと思われる」

 

「ありがとうございます。では……何故?」

 

「その前に、お前はどうしてDクラスであることが不服なんだ?」

 

「正当に評価されていない状況を喜ぶ者などいません。ましてこの学校はクラスの差によって将来が大きく左右されます。当然のことです」

 

「正当な評価? おいおい、お前は随分と自己評価が高いんだな」

 

 嘲笑を込めた笑いを堀北に浴びせた茶柱は続ける。

 

「お前の学力が優れている点は認めよう。確かにお前は頭が良い。だけどな、学力に優れた者が優秀なクラスに入れると誰が決めた? そんなこと我々は一度も言っていない。お前がDクラスに配属されたのはこちらのミスではない。なるべくしてなったんだよ。お前は」

 

「……今日のところは、これで失礼します。ですが私が納得していないことだけは覚えておいてください」

 

 そう言って退出しようとした堀北を止める茶柱。

 彼女は何かバックの中をいじり、タブレットのようなものを取り出した。

 そしてそのまま続ける。

 

「少し待て、お前に良い情報をやろう。この映像を見てみろ」

 

 そう言って彼女は映像を流す。そこに映っているのはいつかの教室。監視カメラの映像だった。

 

『説明してくれないか? 水無瀬。なぜお前がこのシステム──』

『──あなたが無駄に広めたその交友関係でね』

『そうだそうだ!自分だけいい気になりやがって!』

 

「これは……」

 

 映像を見ながら堀北は呟く

 

「見ればわかるだろう? 随分と可哀そうなことをしたじゃないか。最終的に彼自身のおかげで収まったといえるが、事が発展して問題になる可能性だってあったぞ?」

 

「……確かに後に彼に謝ろうと思っています。ですが言い方は別にせよ私は間違ったことをした覚えはありません」

 

「本当にそう言えるか? ……これは何年か前の話だが、クラスポイントを決める試験の最中、とある生徒が重大なミスをし、そのせいで大きくポイントを下げる結果となった。その後彼はどうなったと思う?」

 

「……どうって、普通に学校生活を送ったんじゃないですか?」

 

 少し悩んだ後、堀北はそう返答した。

 当時を思い出したのか、嘆かわしい様子で茶柱は続ける。

 

()()退()()()()()、責任が重すぎて耐えられずにな。……今回は運が良かった。私の経験上の話だが、矛先が彼以外の生徒に向いていれば、良くて当該生徒の退学、悪くて学級崩壊だ。事の重大さがわかったか?」

 

「……」

 

 堀北はその状況を想像して顔を青ざめた。

 そんな堀北に対して茶柱は何かを思い出したかのように手を叩いてふと言った。

 

「ああそうだった。もう一人生徒指導室に呼んでいたんだった。お前にも関係のある人物だぞ」

 

「関係ある人物って……? まさか、兄さ──」

 

「出てきていいぞ水無瀬、出てこなかったら退学とする」

 

 そう言い放たれて指導室へと戻った水無瀬、その顔には苦笑いが浮かべられている。

 

「……水無瀬君。私の話を……聞いていたの?」

 

 先ほど映像のことを思い出してか気まずそうに聞く堀北。

 

「……ああ、すまないね」

 

「……先生、どうしてこのようなことを?」

 

 この仕組まれた流れに気が付いた堀北は怒りを隠し切れない様子で茶柱へと問う。

 

「必要なことと判断したからだ。さて水無瀬、お前を指導室に呼んだワケを話そう。「私はこれで失礼します」待て堀北。最後まで聞いておいた方がいいぞ? Aクラスに上がるために彼は必要不可欠な存在だ」

 

 そう言われて足を止める堀北。それを言われては弱いようだ。

 

「……手短にお願いします」

 

「お前は優秀な生徒だな? 本当に。……私は入試の結果を元に、毎回個別の指導方法を思案しているんだがお前には必要ないようにさえ感じるよ」

 

 彼女はクリップボードから見覚えのある問題の解答用紙を机に並べる。

 

「国語、数学、英語、社会、理科、全て満点。おまけに小テストも満点とはまあ恐ろしい生徒だよ。特に今回の小テストは大学数学の応用問題。問題作成担当の教師が絶対に100点を取らせないつもりで作ったと意気込んでいたよ。……話が逸れたな、そしてお前につけられた総合評価は()()()()()()()。あの最高の生徒会長と名高い現生徒会長よりも高い評価を得ている。随分と立派だな?」

 

「それって……」

 

 それを聞いた堀北は驚くように彼を見つめる。

 少し間をおいて彼は疲れたように答えた。

 

「……別に努力した結果ですよ。幼少期から厳しい環境に育てられたのでね。…用が終わったなら僕は帰りますよ」

 

そんな彼の様子を気に掛けることなく茶柱は返答した。

 

「ああ、そうしてくれたまえ」

 

「…では、さようなら」

 

 そう言って教室を出た水無瀬、慌てて堀北は追いかける。

 

 

 

 

 

「待って! ……その、さっきの点数は……いえ、何でもないわ。それよりあなたに言いたいことがあるの……」

 

 廊下を走って水無瀬を追いかけてきた堀北。

 彼女に対して彼は振り返って微笑んだ。

 

「ああ、どうしたんだい堀北さん?」

 

 申し訳ないように顔を俯かせ、震える声で答える彼女。

 

「さっきの話を聞いていたならわかるでしょう? ……私はあなたに取り返しのないことをしてしまったわ。私の数少ない友人であるあなたに」

 

「おや、友人だと思ってくれていたのかい? 嬉しいね」

 

 にこやかに語る水無瀬。それに対して恥ずかしそうに堀北は返す。

 

「からかわないで頂戴……その、ごめんなさい。今はそれしか言えないわ……」

 

 その言葉と同時に頭を下げる堀北、それを見た水無瀬は少し間をおいてこういった。

 

「……ここじゃなんだ、屋上へ行こうか?」

 

 

 

 そう言って屋上へと来た二人。下では生徒たちが下校をしている。

 両社に沈黙が流れる中、先に切り出したのは堀北だった。

 

「……その、あの話って本当なの? ……歴代最高の生徒っていう話」

 

「ああ、入試や小テストで満点だったのは事実だよ」

 

 水無瀬は静かに語る。

 その言葉を聞いた堀北は少し迷った後、ぽつぽつと語りだした。

 

「私が……私がこの学校に入学したのは現生徒会長の兄さんに追いつくためだったの。最後に二年前に会った時まで兄さんは私を認めてはくれなかったけれどね。そしてあなたから性格は全く違うけど、どことなく兄さんと同じような雰囲気を感じるわ。…そう思っていたから私はあなたを受け入れたのかもしれない。……ねえあなたはどうしてそこまで優秀になれたの?」

 

 縋るような視線を向けられる。

 それを受けた彼は屋上の柵を背に地面へと座り込んだ。

 

「……座りなよ。話すと長くなる」

 

 そう言って自分の隣の地面をポンポンと叩く水無瀬。いつもなら嫌がるであろう堀北だったが、素直に座った。

 そして彼は語りだす。その過去を

 

「僕は……小さい頃から何をしても褒められたことは一度もなかった、誰にもね。今思えばあれは虐待というものだったのかもしれない、何か気に入らなければ怒鳴られ、叩かれ、体中痣だらけで生活していた」

 

「それって……」

 

 思っていた以上に壮絶な過去を聞いた彼女は唖然として呟く。

 それをどうと思ったのか水無瀬は慌てて否定する

 

「いや、君の兄さんがそうと言っているわけではない。まあ最もそれは君が一番わかっているであろうけどね。……話を続けようか、教育方法としては間違っていなかったのだろう。僕は確かにその努力は様々な分野において数多の結果を残した。が、そんな努力をしてきた先にはコレ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。笑える話だろう? ……僕は少し疲れたよ、逃げてきた先でこんな事が起こるなんて」

 

 座りながら上を向く水無瀬。その瞳は、彼の言葉以上に哀しみを印していた。

 それを見た彼女は言い知れぬ激情に襲われ、大声を出していた

 

「あなたは…モンスターなんかじゃないわ! ……あなたは周りを思いやれる素晴らしい人よ……私とは違って」

 

「……君は優しいんだね。堀北さん」

 

 水無瀬は自分の肩より少し上、隣にある堀北の頭をなでながら、優しく言った。

 堀北はそれを払おうとはせずに、震える声でこう語る。その姿は、自分の罪を懺悔する罪人のようにも見えた。

 

「……私は優しくなんてないわ。私は、私はあなたにあんなにひどい事をしてしまったのだから」

 

 顔を下げながら語る堀北。その瞳には涙が浮かんでいた。

 続けて彼女は語る。

 

「ごめんなさい……! 謝って許されるべきことではないけど、私はあなたに悲しい想いをさせてしまった……! ごめんなさい…」

 

 もはや泣いていることを隠そうともせずしゃくり上げながら、堀北はひたすら謝罪する。

 その様子を見ていた水無瀬は彼女の前に座って両肩を優しく掴んで、少し間を置いてこう言った。

 

 

「……顔を上げてくれないかい? 堀北さん……ふふふ、きれいな顔が台無しじゃないか」

 

 吹き出す水無瀬。彼の言う通り、堀北の端正な顔と表情は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

「……」

 

 無言で顔をそらして泣き続ける堀北。その手を振り払う気は無いようだ。

 その顔を両手で包んで、目を合わせる水無瀬。その状態で彼は続けて語りかける。

 

「君がやった事は何一つ間違っていないんだよ? 堀北さん。確かに言い方はちょっとキツかったかもしれない。だがあんな状況だったら誰だってそうなるさ、誰でもね」

 

「だけど私がやった事は誰にも許されるべきではないわ! あなたは何も悪くなかったのに!」

 

 どうしても彼の話を受け入れない堀北。強く罵倒された方が楽なのだろう。そう言い放つ。

 だが彼はそれを許さない。座った状態で彼女を抱きしめた水無瀬は、優しく頭を撫でながらこう言った。

 

 

 

「────だったら僕が許そう。世界中のだれが君を責めたとて僕は君の味方さ。さぞかし辛かっただろう、大変だっただろう。……そして今までよく頑張ったね。今だけは思いっきり泣いてもいいんだよ? ────」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 ────堀北の鳴き声が屋上に響く。それには小さい頃からため込んでたであろう様々なモノが籠っていたように感じた。それを聞いた水無瀬は、何一つ話すことなくひたすら彼女の頭をなで続けたそうな────

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたかい? 堀北さん?」

「……早く離しなさい、そうしないと刺すわよ」

「はいはい。仰せのままに……まったく。かわいいお嬢さんだこと」

 

 

 

 ──その日を境に様子のおかしくなった堀北に気が付いた綾小路が教室で水無瀬に問い詰めるという事件があったが、それはまた別のお話──

 

 

 

 

 




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