ようこそ愛憎混じる学び舎へ   作:妄想癖のメアリー

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無限ループです


第7話 純愛

 ──水無瀬たちが入学して五日がたった頃──

 

 放課後、水無瀬と綾小路はカラオケルームに集まっていた。坂柳は『面白そうな人を見つけた』とのことで欠席らしい。

 

「カラオケに来たのは2回目だよね? 入学してから放課後は木曜を除いてずっと一緒にいたし」

 

「……うん。櫛田に誘われて一緒に行って以来、平田は良い子だし、櫛田は天使だと思う」

 

 水無瀬が前回の誘いを断った時の埋め合わせに、彼女もついてきていた。

 

「結構大人数で行ったからあんまり順番回ってこなかったけど結構楽しかっただろう?」

 

「ん、楽しかった。でも水無瀬は古い曲ばっかり歌ってた」

 

 当時周りの反応を思い出して水無瀬は苦笑いをしていた。

 

「まあ事情が事情なだけに勘弁してほしいね。それでも割とみんな知っているであろう曲を歌っていたはずなのにすっかり『水無瀬柊は新しい曲を全然知らない』っていうのが定着してしまったよ……っと今回誘ったのは歌うためじゃないんだ」

 

「……歌わないの?」

 

 少しがっかりした顔をする綾小路。それを見て彼は笑って答える。

 

「あははは、歌いたかったのかい? ごめんごめん、じゃあこの話が終わってからだ」

 

 真剣な顔になり語る水無瀬。

 

「僕らがこの学校に入学してから今日で五日目。その間僕たち三人は放課後生活用品を買うために様々なところを巡った。それは覚えてるね?」

 

「うん。水無瀬の布団と、みんなの洋服とかパジャマとか。いろいろ買った」

 

「そこで僕は疑問に思ったんだ。山菜定食をはじめとした食料、生活雑貨、衣服等の必要な商品の多くが()()()売られている事に。不思議だと思わないかい? 僕たちは先生の話によると毎月10万円相当のお小遣いがもらえるのにどうしてそんなに多くの商品が無料なのか?」

 

 新しいおもちゃが手に入った子供のような様子で水無瀬は続ける。

 

「そりゃあ僕たちはただの高校生だよ。娯楽に制限なくポイントをつぎ込んでしまってもおかしくは無い。そのための救済措置と表向きには書いているが、救済措置にしてはいささか疑問が残る。()()()()()()()、この救済措置に頼っている生徒が。肌着は半分以上購入されてたし、無料の洗剤とかもほとんど在庫切れだった。それにこれを見てくれ清楓ちゃん」

 

 そういって綾小路に三枚の小さな紙を渡す。

 

「これは……? 山菜定食の食券?」

 

「そう、見てほしいのはこの右下の番号、あの型番の食券販売機は毎日何枚そのメニューが注文されたかをここに書いている。数字にはそれぞれ31、30、29と書いている。つまり平均して約30人余りがあのマズ……微妙な味の定食を毎日食べていることになる。ここの学食は400円も出せばおいしい昼食が食べられるのにね」

 

「だからあんなに渋い顔をして毎日食べてたんだ」

 

「……注文だけして食べないわけにはいかないだろう? ……話を戻すよ。無料の定食をわざわざ食べる意味は一つしかない。()()()()()()()。しかしここで疑問が残る。どうして月10万円もらっているのに金欠になるのだろうか? それで思い出されるのは先生の発言だ。『ポイントは毎月一日に生徒全員に自動的に振り込まれることになっている』という発言。何も()()1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ? それどころか彼女は僕たちにヒントを残してくれたんだ。何か分かるかい?」

 

「……先生が言ってた『この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした時点のお前たちにはそれだけの価値と可能性がある』の実力のところ……()()()()()()()()()()って言ってる」

 

「正解。何十、何百倍の倍率を勝ち抜き学校の求める人材として入学を果たしたんだ。それだけで一定の評価をする価値はある」

 

 そして指を立てた水無瀬。続けて説明を続ける。

 

「だが入学できた事にかまけて遅刻や欠席を繰り返していたら? テストは毎回赤点だったら? そんな人間と同じ待遇の真面目な生徒はどう思うか? それを考えれば自ずと結論は出てくる」

 

 そして納得した様子の綾小路はこう呟いた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()。それも1万や2万ではなく、もっと多く」

 

「そういう事。そしてこれを読んでおいてくれ。あとで有栖ちゃんと話し合う予定だ」

 

 彼はおもむろに一つのメモをカバンから取り出す。

 そこには箇条書きでこの学校の情報が書かれていた。例を挙げると。

 

 毎月振り込まれるポイントは()()()()()()変動する。

 新入生はAからDクラスまで平等に1000クラスポイントが支給され、それに100を掛けた値の分のポイントが毎月振り込まれる。

 Aクラスが最も優秀でDクラスは不良品の集まりとされていて、クラスポイントが高いクラスから順にAクラスとなる。つまり一年のうちにクラスが変わる可能性もある。

 就職、進学先を保証する権利はAクラスにしか与えられていない。

 授業態度、規律違反等基本的な要素はもちろん。定期テストを含めた成績もクラスポイントに影響する。

 上記の要素のほかに、()()()()が開催されその結果も大きく反映される。

 この学校では文字通りポイントで買えないものはない。例として、欠席を帳消しにする権利、定期テストの点数、学校施設の使用権。そして退()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「これは?」

 

「昨日ボードゲーム部に殴り込みに行ったんだ。そこで先輩に『先輩が勝ったら5000ポイント払います。その代わり僕が勝ったら一つ僕が聞いた事を教えてください』って言ってね。平たく言えば情報とポイントの賭けだね。鴨がネギを背負ってきたとでも思ったのだろうが、ボッコボコにして色々教えてもらったのさ。そしたら教えられない情報は代わりにポイントで払うことになっちゃってほら、すごいだろ?」

 

 そういって端末を出す水無瀬、そこには昨日より約10万ほど増えたポイントが表示されていた。

 

「今日は良いお肉をかって焼肉にしようか。明日学校ないからね」

 

「やったー」

 

 そうして坂柳にチャットを送る水無瀬。返事はすぐに帰ってきた。

 

「……今度私とも二人でカラオケ行きましょうだってさ。そっちじゃなくてどんなお肉が食べたいかなんだけど……」

 

「ふっ、私は水無瀬と二人で初めてカラオケデートをした。坂柳はぜったい悔しがってる」

 

「ほら、ふざけてないで早く歌おう? 清楓ちゃん。時間いっぱい歌い終わったらモールに行って買い物するんだから。その頃になると部屋にお腹をすかせたお嬢様が待ってる。また遅れてドヤされたら大変だ」

 

「わかった……水無瀬は歌上手いんだからもっといろんな曲を覚えたほうがいい。それこの前も歌ってた」

 

 綾小路の言葉にムッとして答える水無瀬

 

「……別にいいじゃないか大体そんなたくさん曲覚えて何になるんだよ一体。清楓ちゃんも仲間だと思っていたら全然そんなこと無いし」

 

「私は水無瀬とカラオケ行くために昨日覚えた。私の見事なメロディーを聞くといい」

 

 ホワイトルームで鍛えた記憶力がカラオケに使われているなんて綾小路パッパは思いもしないだろう。

 

「……それは結構なことで。よし。このデュエットを歌おう。これは僕も知っている最新の曲だよね?」

 

「……水無瀬。いくら何でも三年前の曲を最新っていうのは擁護できない」

 

「……今度有栖ちゃんと来るときはしっかりリサーチして来よう」

 

 それを聞いた綾小路が遠い目をしていた彼の頬を両手で包み、こちらへと向けさせる。

 

「む、今は私と歌う。ほかの女の名前を出しちゃダメ。水無瀬は優しいのに女の子の扱いがわかってない」

 

「前も言ったけど、前世も含めて彼女なんて片手に数えられるくらいしかいないんだよ。そんなんで扱いとか言われてもね……」

 

 水無瀬は苦笑いで答えた。

 

「私もよくわかんない、だから同じ……ほら曲が始まる。コーンポタージュを飲むと喉の調子が良くなるとネットで書いてあった。もう用意してあるから一気飲み」

 

 渡されたコップを一気にあおった水無瀬。随分とぬるいコーンポタージュだった。

 

「んっ、よし。どうせなら100点目標に歌おっか!」「がんばれー」

 

 

 

 ────楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。二人がちょうど出てくるころには日が暮れていた。────

 

 

 

 買い物を終え、帰路に就く二人。一歩先を歩く綾小路がふと問いかける。

 

「……水無瀬は女慣れしていないと聞いた。つまり女の子とキスしたり……その……せ、性交渉とかはしたことないの?」

 

 唐突に童貞かどうか聞いてきた綾小路。恐ろしい女である。

 前から聞こえてきた問いかけに噴出して答える水無瀬。

 

「……ッゲホゲホ。……何てこと聞いてくるんだ清楓ちゃん。……恥ずかしながら()は前世を含めて女の子とキスをしたことも、性交渉もしたことないさ」

 

「本当に?」

 

「……ああ……本当さ」

 

「そっか…」

 

 

 

 

 

 

「──じゃあキスは私が最初だね──」

 

 そういうと微笑みながらこちらを振り返る綾小路。

 顔が赤く見えるのは西日のせいなのだろうか? それは神のみぞ知ることであろう。

 上目遣いでゆっくりと歩み寄る彼女に、水無瀬は何もできなかった。

 

 

 

 

 

 ────軽い、軽いキスだった。それこそ言われなければ気が付かないくらいに。ただその時感じたほのかに甘い香りと暖かさは、確かに本物だったといえるだろう。────

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

皆がこの小説に求める要素

  • 綾小路や坂柳とのイチャイチャ
  • 上記以外のヒロインの追加
  • 恋愛要素以外の日常パート
  • 本編を早く進めること
  • その他(感想で書いて頂けると助かります)

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