「何か弁明はありますでしょうか?」「……水無瀬、誰? この女」
「いや……その……」
一通り路上で語り合った後、朝に坂柳と交わした約束を思い出した水無瀬が部屋へと帰ってきたのは、約束に時間から一時間半が過ぎた後だった。
息を切らして部屋へと向かった水無瀬が見た光景は、明らかにキレているであろう坂柳が部屋の中で座っているところだった。
突然会話を終了して寮へと向かった水無瀬についてきた綾小路も、部屋に居た彼女の姿を見て目のハイライトが消えている。
──端的に言えば『修羅場』である。──
「ほら、朝僕は4年ぶりに会う幼馴染との会話を楽しみにしていただろう? やっぱり時間を忘れて楽しんでしま「言いたいことはそれだけですか?」……はい……すみません」
どうやって弁明をするか迷っていた彼だったが、彼女の有無を言わさない態度に正直に謝罪する。
ご丁寧に玄関に入ってすぐの位置に椅子を置いて待っていた坂柳、水無瀬は靴を脱がすらもらえなかった。
「三回……何の数字かお分かりですか? ……今日あなたが私を怒らせた回数ですよ水無瀬君?」
「いや、ほんとにごめんよ。有栖ちゃん……」
「(名前呼び!?)……」
「全く……まあいいでしょう。一つ借りにして許して差し上げます。……そしてそこの彼女が例の?」
坂柳の視線は彼の背中に隠れてこちらに顔半分を出している綾小路へと向かう。
「ああ、紹介するよ綾小路さん。彼女は坂柳有栖さん。僕がホワイトルームから抜け出した後お世話になったこの学校の理事長の娘さんだ。僕ら三人は同級生となる。仲良くしてやってくれ」
紹介は綾小路の番へと移る。
「そして彼女があの『ホワイトルーム最高傑作』の綾小路清楓さん。学校に通うのはここが初めてだから色々サポートしてあげてくれ」
やはり慣れているだけあって完璧な紹介であった。
……だが彼には一つ配慮が足りていなかった。
そう。彼女たち二人の間に走っているバチバチの空気を
「初めまして。いえ、お久しぶりというのが正しいでしょうか? 綾小路さん。紹介に会った通り彼とは深い関係です。毎日同じ屋根の元暮らし、同じご飯を食べてきました」
「……綾小路清楓。なんでホワイトルームについて知っているかは聞かない。不本意だけど、水無瀬が信用してるみたいだから。……それに私だって10年近く一緒に過ごして同じご飯を食べた。……だからあなたとは違う」
この女五歳になるまで存在すら認識していなかったのになんとも都合の良いことを言う。
「あら? 貴方と彼との付き合いは五年ほどだと聞いていますが? それに私は毎日彼の手料理を食べていました。あの部屋の給食とは比べ物になりません」
「……水無瀬の手料理? ……ずるい。ホワイトルームには家庭科の授業はなかった」
「(これ絶対一生続くやつだ……)綾小路さん、覚えていないかい? 僕らが七歳のころホワイトルームに見学しに来ていた子がいただろう? チェスをしていた時に、彼女だよ」
「覚えてない」
眼中にないというように彼女は告げる。
「……! 私は今でも鮮明に思い出せますよ。最高傑作と名高いあなたが彼にチェスでボコボコされて涙目を浮かべていたところを」
当時初めてチェスをやった事を知っておいてそれを指摘するあたり大概ショックだったのだろう。ライバル視していた相手に覚えてもらえていなかったのは。それにしたって意地が悪い坂柳であった。
それを聞いた彼女はプンプンと怒りを訴える。
「水無瀬。私この女嫌い」
あっけらかんと話す綾小路。
もう収拾がつかなくなってきた。
「(勘弁してくれ……ファーストコンタクトでこれかよ? 先が思いやられる……)……えっとこの荷物は何かな? 有栖ちゃん? 僕があっちで使っていたものもあるようだけど……」
露骨に話を逸らす水無瀬。もう協調性Aの面影は微塵も残っていなかった。しかしこの質問をしたことを彼は後悔することになる。
よくぞ聞いてくれたというように早口で答える坂柳。
「ああこれですか? これは父に頼んで家から持ってきてもらったものです。そして特別に広い部屋を用意してもらいました。今日から私たちは二人でここで三年間暮らします」
「」
「」
────水無瀬が床にバックを落とした音が広い部屋にこだました────
一体あの言葉を聞いて何分経ったのだろう? もしかしたら数秒かもしれないが、水無瀬にとってその数秒は無限に長い時間に感じられた。
「水無瀬どいて! そいつ殺せない!」
「あらあら、恐ろしい。余裕のない女は嫌われてしまいますよ?」
「(マジでふざけんなよ理事長!? 職権乱用って言葉知らねえのか!?)ちょ、綾小路さん。落ち着いて……」
久しぶりに会った想い人がほかの女に取られそうになる綾小路。彼女は間違いなく生まれてきた中で一番キレていた。
ドタバタと音を鳴らし暴れる綾小路とそれを抑える水無瀬。
その様子を見て楽しそうに笑う坂柳、性格が悪い女である。
「(力強すぎだろ!? どうなってんだよ!)あ、危ない!」
バランスを崩して倒れこむ二人。その先には椅子に座っている坂柳がいた。
「えっ、きゃ!」
「あう……」
驚異的な身体能力で椅子から落ちる坂柳を抱きかかえる水無瀬。ホワイトルームでのキツイトレーニングが初めて役に立った。
坂柳に体重を乗せないように床に手をつく水無瀬、どこからどう見ても床ドンである。その上に倒れる綾小路。鼻がくっつくほどの距離で見つめ合う二人。たまらず目をそらす坂柳
「大丈夫?」
「……助かりました。ありがとうございます。その……ですので早くどいて頂いてもよろしいでしょうか……?」
「……うん、そうだね。傍から見たらかなりまずいことになってる」
傍から見たらサンドイッチのような状態になっている彼ら。何とか無事だったと安心する水無瀬だったが、今日は彼にとって、とことん厄日らしい。
「おい! うるせえぞ! 大体男子寮なのになんで女の子の声が聞こえるんだよ!? …………って、え? 何してんの水無瀬?」
「山内……?」
……扉が閉め切ってなかったのだろう。これではいくら部屋の防音性能が良くても廊下にダダ漏れだ。そして扉閉めればいいものを好奇心に負けてわざわざ部屋に入ってきたのは我らが山内春樹である。
彼は三人の顔を2、3回確認にしたと思えばおもむろにこう言いだした。
「……俺これ知ってるぞ! お取込み中ってやつだな! 大スクープだ! 池に教えてやんねえと!」
「ちょ! まっ……行っちゃった」
気まずい沈黙が流れる。いったい何秒経ったのかわからないが
水無瀬はため息をついてこう話す。
「……二人とも」
「……」
「……」
「飯抜きとお説教。どっちがいい?」
「……ごめん」
「……すみませんでした」
────その日は三人で鍋を作って談笑しながら食べた。三人とも楽しい時間だったと後に語っている。────
──その後──
思わぬハプニングもあったが、無事三人は入学初日を終えた。綾小路が泊まると言い出したがベッドが二つしかない為、水無瀬はソファーで睡眠をとり、綾小路は水無瀬の部屋になる予定のベットで寝た。
「一緒に寝ればいい」と言い出す綾小路だったが、また二人の小競り合いが起きそうな雰囲気だったので早々に断った水無瀬はいの一番にシャワーを浴びて一日の疲れをとるかの如く泥の様に眠りに落ちた。
その後彼の寝顔を端末の待ち受けにしていた綾小路が、堀北にドン引きされるという話もあるがそれは置いておくとしよう。
──次の日──
午前中の授業を終えた三人は、食堂にて集合、購入した学食を食べながらそれぞれクラスについて情報を交換していた。
「話を聞く限りやっぱりそっちのクラスは皆落ち着いている人が多い印象だね。やはり学校はクラス間で異なるタイプの生徒を集めているみたいだ。現状サンプルがAとDしかないからどのような基準かはわからないけど」
「そうですね。私のクラスは基本的には優秀そうな人が多いです。そしてそちらのクラスは中々癖のある人材が多いと。例えばどのような人なのでしょう?」
「まあそうだね、僕が目を付けたのは主に三人だ、一人は平田洋介。彼は総合的に非常に優秀といえるだろう。話し方からは確かに知性を感じるし、彼のコミュニケーション能力、ひいては周りをまとめ上げる力は目を見張るものがある」
「平田は自己紹介の場を設けてくれた。いい人」
それを聞いた水無瀬は昨日の発言を思い出しゲッソリとするが話を続ける。
「そして櫛田桔梗。彼女は洋介のようなタイプとは少し違って、他人との距離を詰めることが非常に上手いと見受けられた。今後僕らが想定しているようなクラス間の闘争がある場合彼ら二人がクラスの中心になっていくことは間違いないだろう。最後は高円寺六助」
「確か日本有数の財閥の跡取りでしたっけ? どの程度優秀なのでしょうか?」
「そうだね……
「それはそれは……退屈しなさそうですね」
にこやかに坂柳は語る。
「……でもDクラスには私と水無瀬がいる。二人そろえば最強。間違いない」
「あら? 水無瀬君はクラス間の闘争には積極的に参加するおつもりで?」
「さあどうだろうね。現状僕の考えとしては積極的に戦うつもりはない。一歩身を引いた状態でいるつもりだよ。ただどうこう言っている暇もない可能性もある。うわさ話によれば退学の可能性のある試験があるらしいからね。そこをついてくる可能性は高いだろう」
「……綾小路さんの父親ですか」
「ああ。君のお父さんにも言ったがあの人は間違いなく干渉してくるだろう。早くても今年中。どんなに遅くても来年の新入生にホワイトルーム出身者が来るのは間違いないだろう。あの人はそういう人だ」
「……水無瀬はその時は守ってくれる?」
不安そうに俯いて綾小路は問いかける。
「当たり前じゃないか。君をあんな所に戻したりはしない……僕は愛する人をもう二度と目の前で不幸にさせるつもりはないんでね」
力の籠った瞳で彼は続ける。
「
────左手で頬杖を突き、笑いながら語る彼の目は、酷く昏く淀んで見えた────
「それにしたってこの無料の山菜定食って…なんと言うか…」
「あなたがポイントを大事にしようって言ったから皆で買ったのですが?」
「水無瀬、これいらない。あげる、あーん」
「…じゃあ私はこれですね。ほら、水無瀬君。口を開けてください。」
「坂柳、好き嫌いと大きくなれない。水無瀬はたぶんスケベだからおっぱいは大きいほうがいい」
「…いいえ、水無瀬君は紳士なのでそんなデカくて下品な胸ではなく私のような胸のほうが好みでしょう」
「…ふざけんなお前ら」
※?? 年
side:??
「柊、私の話をよく覚えていてね。私はあなたが人を愛し、人に愛される人になってほしいの。だから……」
「愛とは人の心が生み出した奇跡なの。そしてあなたも私たちの奇跡なのよ?」
「あなたの笑顔は私たちを幸せにしてくれるの。周りの人を幸せにしてこそ、愛される人になるのよ?」
「……そんな……お願い。ごめんなさい。いやだ! 聞きたくない! ……」
「こんな私でごめんね。愛してる。この先もずっと。……さようなら……」
────懐かしい夢を見た。ため息が出るほど甘く、私の脳にこびりついている。思い出したくもないのに、忘れてしまったら自分が許せなくなってしまう。嗚呼、僕はうまく笑えているのだろうか? ボクはちゃんと人を愛せているのだろうか? ぼくは……本当にあなたに愛されていたのだろうか? ────
──ヒイラギの花言葉──
用心深さ。先見の明。歓迎。
皆がこの小説に求める要素
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綾小路や坂柳とのイチャイチャ
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上記以外のヒロインの追加
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恋愛要素以外の日常パート
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本編を早く進めること
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その他(感想で書いて頂けると助かります)