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管理人さま、ゆんくさん
では、お言葉に甘え、思いついた範囲で書かせて頂きます。
文字数制限を心配しましたが、何とかいけそうですね。
前奏曲(11分ほど)
こちらでフェドセーエフ盤が全曲聴けますが、演奏が荒っぽいのと肝心な処をカットしてあるのが気になります。(ロジェストヴェンスキーのライブ全曲盤は、ノーカットで3時間近く。歌詞の英訳もついています)
http://www.youtube.com/watch?v=ocrNXYnVH6s
冒頭フルート♪休ミレミラソ|ミレミソソー
弦で「レ」に「♯」をつけてお膳立てした後、ピッコロ+フルート?
1:11から♪休{ミ♯レミド}シ が高さを変えて悲鳴のように繰り返されます。
1幕
クリスマス・イブの夕べ、Oksanaの父親は吹雪の中飲みに出かけてしまいました。Oksanaはそれを嘆き、独りの寂しさから憂鬱にとらわれます。
リボンをつけ新品の可愛いブラウスを着ていても自分は醜い、誰が私を愛してくれるのだろうかと。
そして、アリアの冒頭に「6音引用」です。
演技も分るのでこちらの動画を
http://www.youtube.com/watch?v=GSd53CP61BA&feature=related
♪ソ|レー{ドシドラ|シーソー}休ミソ|ラーラドシーミー・・・
「庭のりんごが花咲いた 咲いて しなびて……」で昔の幸せと今の憂鬱。
歌詞の「去ってしまった」 を 「怒りの日」で補ったのでしょう。
A little apple tree was blossoming in the garden,
it was in flower but it has withered;
The mother cuddled her daughter,
She prepared her dowry, but then she went away.
Where are you, mother, Look at me, look at me
※From the other side, at least a glimpse through a crack,
Look at your little girl, your dear daughter, look at her, mother!
Your daughter has a new blouse with pretty patterns,
on her white neck she wears a gold necklace,
But the daughter like this is so ugly,
Look mother, look how ugly she is!
Ah, who will ever fall in love with her? Who will caress her?
Look well at me, mother, who will caress me
-like I am, who will love me!
(※She sits down on a stool pensively and picks up her mirror.)
鏡を見て自信を取戻します。
And yet people say
that I’m as beautiful as a bright dawn,
as a white swan,
that none other is a beautiful as me!
Oh no, they tell the truth;
(※Vakula enters without Oksana’s noticing him)
Who has eyes like mine? Who has plaits like mine?
My eyes are stars, my plaits are sinuous..
Oh, how black my plaits are, how thick they are!
Who has eyes like mine? Who has plaits like mine?
My eyes are stars, my plaits are sinuous!
People tell the truth;
Such beauty is nowhere to be found!
4幕
Solochaが昨夜から戻らない息子Vakulaを探しにきました。
http://www.youtube.com/watch?v=LziSErLqa1s&feature=relmfu
♪ミーシシシーラド|シーミミミー| ―繰り返し―
歌詞は「ある人が『川に身を投げた』と言う、他は『首を吊った』と言う・・・私の息子!」
音符から衝撃が伝わってきて、今、噂を聞いたばかりと分ります。
つづいて
♪ドラレシドラ|シーラーラー| ―繰り返し―
ドラ レシ ドラ シラ ・・・行きつ戻りつ落ち着かなくて、意外に印象に残ります。
(1)Solochaの動揺
歌詞は「金のリンゴ、甘い砂糖のようなリンゴ!何処へ転がって行ったの?私の小さなリンゴ!」で、ここでも直接「死」は出てきません。
・・・が、(ラレ)を抜かして(ソ)を加えれば♪ドシドラシソララです。
「動揺」に「怒りの日」を重ねたと考えると、面白い解釈になります。
(2)魔女Solochaはキリスト教の枠外だから「怒りの日」そのまま使えなかった。
(3)Vakulaを絶望させたOksanaがSolochaとハモったり、旋律を交替していることから「死の不安」。
(4)清純そうなOksanaも「男を手玉にとる魔女」と言いたかった。
こうなると「一粒で4度おいしい」です。
さて、Oksanaも「魔女もどき?」と考えて、もう一つ出てきました。
1幕終わり、フェドセーエフ盤です。
Vakulaが怒って出て行き、Oksanaは後悔します。
http://www.youtube.com/watch?v=ocrNXYnVH6s
51:44から
What a bore, oh, what a bore, my spirit is heavy!
I’m bored! I don't even know what's happening to me!
My spirit is heavy, I’m bored,
↓ここから最初のアリア「6音引用」の再現
I know I love him, but I torment him.
How I'd like to caress him, show him my fondness,
but I can't I love you, my dear!
Yes, I love you, you…
後奏は
♪ドード{シラシソ}|ラーラ{ソ♯ファソミ(=ドシドラ)}|ファーファ{ミレミド}|レミファソラシドッ です。
「変形怒りの日」と「怒りの日」のような気がしますが、どうでしょう。
前奏曲では♪ミ♯レミド で、どちらも繰り返しが特徴です。
また、後述のラヴェル「亡き王女のパヴァーヌ」もCherevichki前奏曲と同様、音程を変えて繰り返されます。
余談ですが、この作品の悪魔や魔女は魅力的なキャラです。
欲望や生の感情そのままで反キリスト教的ですが、川の精霊に死の世界に引き込まれそうなVakulaを助けただけでなく、最後まで面倒をみてハッピーエンドに導いたのは悪魔です。
幼馴染や村人はクリスマスに浮かれてVakulaの苦しみを分かち合うどころか、悄然と立ち去るのを見過ごしにし、また若者達の雪合戦の雪つぶてが当たってしまいます。
Vakulaにとって「石もて追われるがごとく」です。
その場面や、悪魔が宮殿でVakulaを助ける場面は作品の本質なのに、ロイヤルオペラのLDでは見事にカットされてしまいました。
その悪魔Besは1幕で、Vakulaが教会の壁に滑稽な姿に落書きしたせいで悪魔仲間の笑い物になったのを恨んで仕返しを考えました。
Vakulaの求愛を邪魔するには、Oksanaの父親が家を出られないようにすればいい、
大雪を降らせようという訳です。(それでも父親は出かけてしまったのですが)
呪文は全音階でゆっくりした3拍子系。
♪ドーソーレミ|ドラソーー|ドォドドファミレ|ミドレーー|ミィシシドシラ|レーラーー|レラーラシラ|ドシラソーー|・・・堂々として厭らしさは微塵もありません。
他にも寡婦Solochaに言い寄る男達・・地位があったり、真面目であるべき人の弱さ・滑稽を巧く表現し、キリスト教社会の偽善を浮き彫りにしています。
またOksanaのアリアやレチタティーボから、彼女がVakulaの愛を素直に受けられない理由として、幼いころに母を亡くし、今は父の愛を実感できないのが「愛の不信・否定」に繋がったのを想わせ、文学的な香り漂う作品です。
「6音引用」のフレーズはライトモチーフを拡大したようなもので、ワーグナーの影響でしょうか。
さて、ラフマニノフ研究家のサイト、ディエス・イレ引用で「禿山の一夜」について書かれていました。
原典版http://www.youtube.com/watch?v=9qScgAxgJyg
コルサコフ編http://www.youtube.com/watch?v=tp7seu4NBA8&feature=relmfu
冒頭の「怒りの日4音の音程を変形させたバスの動機」は原典版にはありません。
ともあれ、これが「怒りの日」と認められるなら、チャイコのcherevichkiも同レベルだと思います。
そして、引用リストにありませんが、ラヴェルの「亡き王女のパヴァーヌ」
http://www.youtube.com/watch?v=OqAlMItkV44&feature=fvst
中ほど 3:31から転調してフルートで音程を変えつつ4回繰り返される
♪休レファソラドー|{シラシソラー}も十分匂います。
★★「変形」となると判断は専門家でも難しいでしょうね。
作品全体から眺めたり作曲家の性格や人生を考慮する必要もあるでしょう。単純に結論が出せません。
ショスタコーヴィチ作品に「政治的背景を重視しすぎるのは良くない」でしょうが、無視する事もできません。
時代を懸命に生きた生身の人間であり、人の何倍も感性豊かな作曲家が芸術作品を遺したのですから。
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