事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「NEJMの論文で新型コロナウイルスの空気感染が証明」はデマ、medRxivでエアロゾル感染の指摘:JBpress堀田佳男

 

JBpressの堀田佳男の記事で「NEJMの論文で空気感染が証明」などというとんでもないデマを書いているので、元となった論文のソースとその中身を紹介します。

※NEJMにも17日に掲載されましたが、論文の中身は変わってません。

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JBpressの堀田佳男による新型コロナウイルスの空気感染デマ

JBpress堀田佳男によるデマ記事(   )の内容は以下です。

  • 3月9日に13人の研究者によって発表された論文では新型コロナウイルスが空気感染することが証明された
  • これは『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』の論文である
  • 「論文の概要(要旨)の重要部分」として「生きたコロナウイルスはエアロゾル化後、3時間まで生存することを突きとめた。銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」が紹介

さて、このような情報が記述されている論文は、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』=NEJMには存在していません。

※記事執筆時点の話です17日には掲載されました。

「NEJMの論文で空気感染が証明」はデマ

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで空気感染の論文というデマ

「NEJMの論文で空気感染が証明」は、論文名すらデマだったということです。

本当はmedRxiv=メドアーカイブというプレプリントサイトに投稿された論文を指します。

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medRxiv=メドアーカイブでエアロゾル感染の指摘

medRxivでエアロゾル感染の指摘

Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1 | medRxiv

「3月9日に」「13人の研究者によって発表された」「生きたコロナウイルスはエアロゾル化後、3時間まで生存することを突きとめた。」などの内容の論文として一致するのはこの論文しかありません。

medRxivはプレプリントサーバー

プレプリントというのは「論文査読前」、つまりは「予稿」を意味します。

同業者によるクロスチェックが行われておらず、信憑性が定まっていない代物です。

プレプリントサーバーにUPされた論文が騒がれた例が、つい最近もありましたよね。

以下の事例です。 

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エアロゾル感染は空気感染とは違う

エアロゾル感染は空気感染は明確に異なります。

日本における「エアロゾル」の用法については以下でまとめています。

また、世界では「エアロゾル伝播」についてどういう用語法があるのかについてまとめた論文があります。

論文中には"airborne infection"=空気感染の語は無い

論文中には"airborne infection"=空気感染の語はありません。

よって、「空気感染が証明」はデマです。

※論文の補足資料のSupplemental dataでは、"generated using a 3-jet Collison nebulizer and fed into a Goldberg drum to create an aerosolized environment."とあるため、「飛沫核」とは明らかに異なる状態。

なお、"Airborne"という用語が使われているグループに分類をされていても、空気感染を直ちに意味しない場合もあります。イギリス政府の公式HPでの分類がいい例です。

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COVID-19のSARSと比較した論文の結論

当該論文は新型コロナウイルス=SARS-Cov-2の親戚であるSARS=SARS-Cov-1との比較をしています。

Our results indicate that aerosol and fomite transmission of HCoV-19 are plausible, as the virus can remain viable and infectious in aerosols for multiple hours and on surfaces up to days.

我々の研究結果は、HCoV-19のエアロゾルおよび媒介物による伝播が確からしいことを示しています。すなわち、ウイルスはエアロゾル中で数時間、表面上で最大数日後まで生存し、感染性を保持できます。

この後に"This echoes the experience with SARS-CoV-1,"、つまり、この現象はSARSと似ていると言っているわけです。新型コロナに特異な現象ではないとしています。

「生きたコロナウイルスは…銅(製物質)の表面では4時間、段ボール上では24時間、プラスチックやステンレス・スチールの上では2、3日の間、同ウイルスは生存していた」ということが書いてる内容の原文は

"HCoV-19 was most stable on plastic and stainless steel and viable virus could be detected up to 72 hours post application (Figure 1A), though the virus titer was greatly reduced (plastic from 103.7 to 100.6 TCID50/mL after 72 hours, stainless steel from 103.7 to 100.6 TCID50/mL after 48 hours). SARS-CoV1 had similar stability kinetics (polypropylene from 103.4 to 100.7 TCID50/mL after 72 hours, stainless steel from 103.6 to 100.6 TCID50/mL after 48 hours). No viable virus could be measured after 4 hours on copper for HCoV-19 and 8 hours for SARS-CoV-1, or after 24 hours on cardboard for HCoV-19 and 8 hours for SARS-CoV-1 (Figure 1A)."という部分です。

Fomite transmission=媒介物感染=間接接触感染

なお、medRxivの論文では"Fomite transmission"という言葉も出てくるので意味を紹介します。

Fomite transmission、媒介物感染、間接接触感染の意味

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/kansen-manual_2018.files/general_remarks.pdf

東京都が公開しているこちらのページhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/kansen-manual_2018.files/general_remarks.pdfでは、Fomite transmissionの意味が書かれています。

Fomite transmission、媒介物感染、間接接触感染の意味

http://www.cfsph.iastate.edu/Infection_Control/Routes/fomite.php

また、Center for Food Secirity & Public Healthでは、Fomite exposure について図であらわしています。

要するにFomite transmission とは、媒介物感染=間接接触感染を意味します。

接触感染の類型です。

だから「〇〇の表面でウイルスが△△時間生存」という事に触れていたわけです。

まとめ:我々の考え方、行動は変える必要が無い

エアロゾル感染(伝播)が事実でも、我々の考え方や行動は変える必要は無いです。

ただ、このように論文の内容どころか出典まで捏造してデマを拡散する人間が世の中にはたくさん存在するんだということを学び、情報を受け取る場合は注意するという意味での考え方、行動は変える必要があるでしょう。

あの記事が論文のリンクを示していない時点で怪しむべきでしょう。

以上

  • 「論文中には"airborne infection"=空気感染の語はありません。よって、「空気感染が証明」はデマです。」

    さすがに、これはデマでしょう。

    事実、「空気感染 インフルエンザ」で検索すれば従前から日本では、インフルエンザの感染経路としてエアロゾル感染を指して「空気感染」との言葉で多くの専門家が説明している事が分かります。

    これは2020/2/10日経ビジネスに掲載された厚労省コメント「医療従事者の多くは、エアロゾル感染=空気感染だと考えているだろう」とも矛盾しません。

    全ての「空気感染」という語が「エアロゾル感染」を意味しないという事実があるならば、エアロゾルを空気感染と表現するのはデマですが、明らかにそんな事実はありません。

    またどちらの学説を取るにせよ「エアロゾル=or≒or⊂空気感染」とする説明が過去にされてきた以上、「空気感染しない」という説明は「エアロゾル感染しない」という誤解を招くので有害度が大きいです。

    安全デマは危険です。

  • Nathan(ねーさん) (id:Nathannate)

    日本における空気感染とエアロゾル感染の用語の混乱をベースにされても困ります。その記事は厚労省のオフィシャルではなく、一担当者のコメントに過ぎないでしょう。それを「厚労省」とだけ書くことは不誠実でしょう。

    標準的な用語法をベースに論じるのは当たり前です。WHOの用語法を見ても、aerosol transmissionがAirborne infection を意味しないというのは前提です。実際にテドロス2月11日の記者会見で"Corona is Airborne"と発言した後に訂正しています。

  • Nathan(ねーさん) (id:Nathannate)

    追記しましたけど、どういう実験環境だったのかを見れば、当該論文で言われているaerosolは、明らかに「飛沫核」を意味しません。

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