2018年4月27日の韓国・北朝鮮首脳会談において「板門店宣言文」が発出され、「南北は、休戦協定締結65周年となる今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米三者または南北米中四者の会談開催を積極的に推進していく」こととされました。
米軍を主体とする朝鮮国連軍と北朝鮮・中国が戦った朝鮮戦争は1953年に休戦となったものの法的には戦争状態は未だ続いています。朝鮮国連軍の司令部はソウルにあり、休戦が破られた場合には朝鮮国連軍が直ちに対応することになっています。この点についてはご存知の方も多いと思いますが、わが国に今なお朝鮮国連軍が存在していることを知っておられる方は少ないのではないでしょうか。
わが国の安全保障体制の骨格は朝鮮戦争を契機にできあがりました。陸上自衛隊の前身である警察予備隊が創設されたのも朝鮮戦争が起こったからです。朝鮮戦争が終結となった場合、わが国の安全保障体制にどのような影響があり得るのかについて考えてみたいと思います。
1950年6月25日、北緯38度線を越えて北朝鮮軍が韓国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発しました。6月27日にはソ連代表が欠席するなか国連安全保障理事会が開かれ、「国際連合加盟国が武力攻撃を撃退し、かつ、この地域における国際の平和および安全を回復するために必要と思われる援助を大韓民国に提供するよう勧告する」との決議が採択されました。
7月7日には「国連軍」統一司令部をつくるという決議が採択され、その翌日にマッカーサーが国連加盟国の軍隊の指揮官に任命されました。国連加盟国で朝鮮戦争に戦闘部隊を派遣した国は米国、英国、オーストラリア、カナダなど16カ国、医療部隊を派遣した国は5カ国でした。
朝鮮国連軍の司令部が最初に設置されたのは、当時マッカーサーが連合国軍総司令部を置いていた東京の日比谷にある第一生命ビルです。
朝鮮戦争の開戦直後から、占領下にあるわが国においてもめまぐるしい動きがありました。7月8日にはマッカーサーは吉田茂首相宛の書簡で、警察予備隊(7万5000人)の創設と、海上保安庁の拡充(8000人)を指令し、また、機雷除去のため海上保安庁の掃海部隊が朝鮮半島沖に派遣されることになりました。
朝鮮国連軍、北朝鮮・中国の間で一進一退の攻防となり、38度線付近で膠着状態に陥り、1953年7月27日に休戦協定が調印されました。朝鮮国連軍の司令部は1957年に東京からソウルに移転し、司令官は米韓連合軍司令官と在韓米軍司令官を兼ねる米陸軍大将が務めています。休戦が破られれば米韓両軍を含む国連軍すべてをその指揮下に入れ、国連旗の下に行動をとることになっています。
そして、わが国には米軍キャンプ座間に後方司令部が置かれることになりました。2007年には横田基地に移転し、現在は豪空軍大佐の司令官を含め4人の常勤勤務者のほか、8カ国の駐日武官が国連軍派遣国・連絡将校として非常勤で勤務しており、朝鮮半島での有事の際には後方支援業務に当たることになります。
在日米軍の権利を定める日米地位協定と同じように、「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)があります。日本国内にある7つの米軍基地(横田基地、キャンプ座間、横須賀基地、佐世保基地、嘉手納基地、普天間基地、ホワイトビーチ)が国連軍基地に指定され、基地内には国連旗が掲げられています。
海上で積み荷を移し替え北朝鮮に石油などを密輸する、いわゆる「瀬取り」に対する監視活動をオーストラリア軍やカナダ軍の航空機が行っていますが、これらの航空機は国連軍地位協定に基づき米軍嘉手納基地を利用しています。
文大統領は、「終戦宣言は敵対関係を終息させる政治宣言であり、平和協定を締結するまで休戦協定が維持され、国連軍司令部や在韓米軍の地位には何の影響もない」旨述べており、朝鮮戦争の終戦宣言により直ちに朝鮮国連軍が撤退するということにはなりませんが、次のステップとして朝鮮国連軍の撤退について議論が開始されるはずです。安保理決議において朝鮮国連軍の解散に関する特段の規定は整備されていませんので、この点についても併せて議論が行われることになります。
そして国連軍地位協定では、「すべての国際連合の軍隊は、すべての国際連合の軍隊が朝鮮から撤退していなければならない日の後90日以内に日本国から撤退しなければならない」と定めていますので、日本でも朝鮮国連軍の撤退に関する議論が行われることになります。
終戦宣言が行われた場合にわが国の安全保障体制にどのような影響が生じるでしょうか。
「終戦宣言は敵対関係を終息させる政治宣言であり、平和協定を締結するまで休戦協定が維持され、国連軍司令部や在韓米軍の地位には何の影響もない」(文大統領)とされていますが、国際社会及び日本社会に相当なインパクトを与えることは必至です。緊張緩和・和平機運が高まり、日本の安全保障政策についても様々な議論が巻き起こるはずです。
その際に大切なのは、北朝鮮の非核化や朝鮮半島の和平プロセスは緒に就いたばかりで、その実現には長期間を要し、その間北朝鮮は核兵器・弾道ミサイルを保有し、米朝間で危機が再燃する可能性も否定できないということです。そのことを頭に入れながら、朝鮮半島戦略、日米安保の方向性、防衛装備体系の在り方などわが国の安全保障体制の根幹について、真剣に、冷静に議論しておくことが重要だと考えます。