忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ワクチンの目的と免疫系のイメージ

 反ワクチン派の若い子に頑張って説明をした時のことを思い出しつつ…

ワクチンの副反応

 ワクチンも薬ですから、必ず副反応があります。副作用の無い薬は偽薬を除いて存在しません。ゼロリスク思考で考えればそのような危険を避けたくなる気持ちは分かります。

 しかし理解しなければいけないのは、ワクチンによって防ごうとしている病気の症状に比べれば、ワクチンの副反応はほぼ全てが軽いものだということです。病気のリスクをゼロにすることは絶対に不可能である以上、小さいリスクの方を選択するほうが賢明です。

免疫の仕組みとワクチンの目的 

 ワクチンについて理解するためには基本的な免疫の仕組みについて理解する必要がありそうです。簡単な免疫学の本を読むのもいいですし、漫画「はたらく細胞」でもイメージとしては充分だと思います。

 人体の免疫系は大きく分けて2種類、自然免疫と獲得免疫があります。

 自然免疫は人体に異物が侵入した際に即座に働く免疫機構で、血液中にいる好中球やマクロファージ、NK細胞などがあります。

 自然免疫の対応速度は速いですが、それほど強力ではないため倒し切れない細菌やウイルスも出てきます。そこで出てくるのがリンパ系中にいるT細胞やB細胞といった獲得免疫です。自然免疫が倒せない強敵に対してさらに強力な攻撃を行います。

 獲得免疫の攻撃はとても強く、暴走すれば人体など容易に破壊してしまうため、安全装置として「数日掛けても自然免疫が倒せない場合」のみ発動するようになっています。だからインフルエンザなどに掛かったときは治癒に数日掛かるのです。ちなみにHIVが恐ろしいのはこの獲得免疫の司令塔であるヘルパーT細胞を破壊してしまい、獲得免疫が動けなくなるためです。

 自然免疫は非特異的、つまり見つけた異物を手当たり次第に攻撃します。スピードに優れた優秀なシステムですが、臓器移植の際などはちょっと邪魔になることもあります。それに対して獲得免疫は特異的、つまり誤射しないように敵を選んで攻撃します。

 これは犯罪者の手配書のようなイメージです、自然免疫が倒せなかった敵は手配書が体の中で配られます。その手配書を獲得免疫が見て、敵を狙い撃ちするわけです。一度手配書が配られるとメモリーT細胞がそれを保管しておくため、二度目以降の侵入では自然免疫と同様に即座に攻撃をすることができます。おたふく風邪などが人生で一度しか掛からないのはこれが理由です。

 ワクチンはこの手配書を人為的に配ることが目的です。先手を打って敵の特徴を獲得免疫に教え込んでおくことで、もし侵入してきても即座に獲得免疫が動いて細菌やウイルスを倒してしまおうという算段です。

 注意が必要な点として、獲得免疫の作用は「感染」を防ぐことではありません。人体内に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃して増殖を防ぎ、「発症」することを防いでいます。侵入を防ぐこと自体はさすがに免疫系ではできません。(補体系の話とかをすると長くなるので止めましょう。)

 そのため、コロナやインフルエンザのワクチンを接種したとしてもウイルスは人体内に存在し得ます。増殖は防いでいるので量は少ないですがそれでも咳をすればウイルスが飛散しますので、ワクチンを接種したとしてもマスクはやはり有効です。

ワクチンの目的(集団免疫) 

 さて、ワクチンには抗体を作るという個々人レベルでの目的以外にも、公衆衛生上の目的があります。それが集団免疫です。

 健康な成人が適切なワクチン接種を受けていれば、危険な細菌やウイルスに負けることはそうそうありません。しかしまだ抗体が少ない乳幼児や老化によって獲得免疫の働きが弱っている高齢者にとって細菌やウイルスは大きな脅威となります。一般的なワクチンは当然ながら弱毒性を持っているため乳幼児に接種させるのは危険ですし、高齢者はワクチンを打っても抗体が形成されにくいです。

 ある社会集団において抗体保持者が少ない場合、感染症は瞬く間に蔓延していきます。しかし抗体保持者が一定の比率居ると感染症は増殖ができず抗体未保持者に到達しにくくなります。一般に80%の抗体保持者が集団を形成している場合、感染症をほぼ抑え込むことができるとされています。それによって乳幼児や高齢者への感染を防ぐ、というのが集団免疫の考え方です。

 つまりワクチンとは社会生活を行う上での大人のマナーだと考えられます。

 「ワクチンを打ったって感染するかもしれないわけじゃん?お金の無駄だよ。」という考えがあるのも分かりますが、皆でワクチンを接種することで乳幼児や高齢者の命を救えることを知っておく必要があります。ワクチンは自分の健康だけでなく他人の命を救うこともできるとても立派な行動なのです。

余談

 まあ、とはいえまだ新しいmRNAワクチンの有効性や安全性について疑う気持ちも分からないではないです。自身の健康に直結することですので、それがたとえ正常性バイアスだとしても「今の健康を維持したい」という気持ちは分かります。

 個人的にはワクチン賛成なんですけどね。mRNAワクチンの原理を見る限り、技術屋としては「凄い発想と技術だ、頭の良い人もいるもんだなぁ」と思う次第です。逆転写酵素がワクチンに含まれているという情報も見当たらないので一部で言われている遺伝子組み換え(DNAを書き換える)は起きないように思いますが、この辺りはお医者さんでも意見が割れているようなのでコメントに困ります。