「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」
は本当に至言です。著名人が座右の銘にしていたり様々なビジネス書で紹介されたりするのも分かるというものです。成功者の自伝や生活習慣に関する本なんか読んでいる暇があったら失敗談をもっともっとかき集めるべきなんです。
あまりにも名言なため別に説明なんかしなくても「確かにそうだよな」と分かる言葉ではあるのですが、若手の技術屋・エンジニアにもっと理解を深めてもらうため、エンジニアリングと絡めて話しましょう。
成功を得るよりも失敗を防ぐ
各組織には歴代の設計ノウハウや設計手法がありますが、ほとんどが「こうすれば絶対に上手くいく!」というものではなく、「これはやっちゃアカン!」の束になっていることが分かると思います。絶対的に正しい唯一の解法を示すものはほぼ無く、ほとんどが失敗を回避するための情報です。
そもそもが設計検証・信頼性評価で使われるツールだって「こうなっているからOK」ではなく、「こうなっていないからOK」という視点です。この故障モードは発生しないか、発生した場合は防止措置が取られているか、正しく不良を検出できるか、というように起きては困る事象を避けることに主眼が置かれています。
理由はまさに冒頭の至言にある通りです。
- 成功は確実ではなく、再現性が低い
- 失敗は確実であり、再現性が高い
過去の製品から流用設計をした場合でも不良が発生することはありますが、過去に不良が発生した設計と同じ設計をしたらほぼ確実に再発します。
我々は予知能力者ではありませんので、未来のトラブルを予測し切ることなんてできません。できることは確実な失敗を避けて可能な限り安全サイドに持っていくことなんです。
だから技術屋の若い子には自己啓発系の本ではなく、事故や故障について分析した本を優先して読んで欲しい次第です。いや、ほんと、技術屋が学ぶべきことは成功の方法ではなく失敗を避ける方法なんですよ・・・
参考事例
学ぶべきことがあまりにも多すぎる有名な事故として3つほどピックアップしてみましょう。(原発や航空、船舶、医療に自動車など本当は山のように挙げたいところですが、とりあえず3つ。)
1977年に起きたスペインのテネリフェ空港におけるジャンボジェット機同士の衝突事故で、世界最悪の死者数を出してしまった航空事故です。単独であれば日本航空123便墜落事故ですが、本事故は2機のジャンボ機がぶつかったために被害が大きくなりました。
この事故はありとあらゆる教訓が含まれています。技術的な欠点、非定常環境での管制、権威勾配によるコミュニケーションエラー、ヒューマンエラーや思い込みといったものです。誰でも起こり得るミスやちょっとした失敗が積み重なってスイスチーズを貫通してしまった事例であり、どのような分野の人でも学ぶべきところを見つけることができるでしょう。
2005年に日本で起きた鉄道事故です。まだ当時のことを記憶している方もいらっしゃるかと思います。直接的な原因は速度超過によるものですが、その背景には無理なダイヤの設定や懲罰的な社員教育、安全装置の設置不備というような組織体質の問題が隠れています。
JTSBが公開している事故調査報告書を日本語で読むことができます。少し、いやかなり長い報告書ですが、一読の価値はあります。
1986年のアメリカで起きたスペースシャトルの爆発事故です。これは設計不良が直接的な原因ですが、タコマナローズ橋落橋事故のように未知の事象による想定外の事故では無く、Oリングの欠陥という既知の事象による事故です。
チャレンジャー号爆発事故での最大の問題は、Oリングの欠陥という既知の問題を隠して計画を続行した意思決定プロセス、そして安全性や技術に対する首脳部の理解不足にあります。スケジュールの遅延を嫌った首脳部が安全性に関する現場の警告を無視して強行したために起きた事故であり、やはりどのような組織でも同様の問題は発生し得るでしょう。
まとめ
成功は煌びやかであり、そこから何かを学び取ろうとするのは悪いことではありません。しかしそれと同じくらい、いやそれ以上に失敗から学ぶことも必要です。成功の影には「致命的な失敗をしなかった」という現実があるのですから。