世界が懸念していたロシアによる侵攻が起こってしまいました。2008年の南オセチア紛争、2014年のクリミア危機で国際社会が何も出来なかった結果を見せつけられているようで嫌な気持ちですし、このような暴力的なニュースを見るとどうにも気が落ち込んでしまうのですが、とはいえ目を背けて見ない振りをしても消えて無くなるわけではないので情報収集は続けていきます。
専門家ではないためロシアとウクライナの戦争に関する未来予想についてブログで述べるほどの見識はありません。西側の外交的落ち度はあるにせよ、戦線拡大を防ぐためにウクライナの外交ラインを維持しつつ、ロシアに対して国際社会は早急に報復を行うべきだと考える程度です。いえ、まあ、ウクライナを見捨てたアメリカに対して失望感はありますが、なんにせよロシアが明確に悪いです。
今回はニュースに接する際の技術屋の視点を紹介していきます。
推測ではなく事実を元にする
軍事・政治・経済、いずれにおいてもひとたび騒乱が発生すると様々な情報がメディアやSNSで飛び交うことになります。基本的にほぼ全てが焼き直し・ノイズ・デマですので、シャットアウトしてしまったほうが良いです。デマをばら撒きかねないので引用や発信にも気を使わないといけません。
集めるべき情報は専門家の見解と、ジャーナリストが現地入りして情報を獲得しているメディアの情報です。
申し上げにくいことではありますが、日本語メディアは係争地にジャーナリストを派遣するような危険なことを控える傾向にあるため、国際情勢の報道が不得手、特に戦争・紛争については有益な情報をほとんど発信できません。今回のロシア侵攻についても同様で、日本語で情報を探すよりは英語で探したほうが良いです。
必要な情報とは推測ではなく事実です。一部のメディアは「プーチンの思惑」のように心理面の話を掲載していますが、それはただの推測に過ぎませんので不要です。重要なのは誰がどう動いて何がどうなったかという物理的な事実であり、誰がどう考えたかなんていうのは本人にしか分かり得ないのですから、そのような情報はどうでもいいノイズにしかなりません。
このように事実を重視する考え方を三現主義といいます。特に製造業で重視されている考えです。三現とは「現場」「現物」「現実」のことで、何か問題が起きたり新しいことを始める時には机上でアレコレ推測するのではなく実際に現場で現物を見て観察し、現実を認識すべきだという考えです。現場にある事実以上に正しい情報は存在しないため、頭でっかちにならず足と手を使って情報を得るべきだという含意があります。
情報収集の際はこの三現主義を意識して推測ではなく事実を集めるべきです。
リアリズム・プラグマティズム的観点を持つ
会社でのトラブルのような小さな事柄から、それこそ国際政治のような大きな事柄でもそうですが、そういうものを取り扱う際には前述したように心理的なものではなく物質的な事実を重視する考えが必要です。
今回のロシア侵攻を例とすれば、極論ですがロシア側の言い分や思想なんてどうでもいいのです。あるメディアの記事では「ロシアは経済制裁を恐れているだろうから戦争は起こらない」と述べていましたが、これはただの心理面の推測でしかありません。推理小説ではないのですから、動機なんて重要ではありません。
極端な話、心理的要因というのはいつでも変わり得るものです。脳の血管が切れて急に朝令暮改的なことをプーチンが指示するかもしれませんし、突然暗殺されてまったく違うことを言う大統領が就任するかもしれません。
それよりも重視すべきはロシアがウクライナを侵攻する「物理的な能力」があったか、「準備をしているか」どうかといった事実です。心理を読むのではなく事実に対応するべきであり、意思ではなく能力に備える必要があります。侵攻する能力や準備が無ければどんな心理的変化があっても侵攻することはできず、逆に侵攻する能力があるのであれば何を語っていようが備えなければいけません。
人は必ず間違いを犯します。だからこそ間違いを起こさないよう注意するだけではなく、もし起きたとしても危険にならないよう事前に準備をしておかなければいけません。
人の注意ではなく、間違えられるという能力に備える考えをフールプルーフ(fool proof)といいます。フールプルーフは安全工学の用語であり、「誤用されない設計」「間違えた使い方をしても危険な状態にならないようにする、もしくはそもそも間違えた使い方ができないようにする設計」という意味です。
他にも、間違いや故障が起きても安全な側になるような設計をフェイルセーフ、故障しても最低限機能を維持するような設計をフォールトトレラントといいます。これらの設計思想と同様、「起きたら困る事象」を避けるためには事前に様々な備えをしておくことが必要なのです。
失敗から学ぶ
今回のロシア侵攻を例とすれば、ロシアが間違いを犯さないよう心理的な交渉をするのは必要でしたが、そもそも侵攻できないような枠組み作りや軍事オプションの提示が不可欠だったということです。もちろんマキャベリズムが最適解では無いですし、侵攻したロシアが悪いことは論を待ちません。しかしそれはそれとして、準備不足であったのは西側外交にも失策があったといえます。
現時点で国際社会がすべきことは落としどころを早急に見つけることですが、それと並行して分析すべきは「なぜロシアの侵攻企図を挫くことに失敗したか」です。理由の分からない成功はありますが、理由の分からない失敗は存在しません。失敗には必ず理由があります。二度と同じ失敗をしないよう人は歴史と経験の双方から学ばなければいけません。
失敗から学ぶのはそう難しいことではなく、一番簡単な方法は失敗した人に直接聞いたり同じ目線で考えることです。失敗から生存した人の視点で物事を見ることを安全工学ではサバイバル・アスペクツ(生存者の見方)といいます。
「もしああしていたらこうなったかも」「あの時ああしていれば」
という、人によっては言い訳や弁解に捉えられない言葉こそ次の失敗を避けるための知見が多く含まれているのです。
日本には言い訳や弁解を恥として潔さを良しとする文化があります。これは厳密に言えば日本に限らず中国にも「敗軍の将、兵を語らず」という言葉があるように儒教圏の価値観です。
確かに美しい価値観ではあるのですが、問題解決や分析には不要どころか邪魔です。失敗した人は黙って潔く退場すべきだという価値観では失敗から知見を得ることが難しくなってしまいます。失敗を分析する時には自身の価値観と固定観念を一度横に置いておく必要があるでしょう。
まとめ
本質的な情報を的確に獲得するためには様々な視点が必要であり、今回は技術屋視点での例をあげました。感情的な情報に流されると心が疲れてしまいますので、情報収集の際にはこのような論理に頼るのも一つの手だと考えます。