世界が注目! ルミナス・プロダクションズクリエイターロングインタビュー
株式会社ルミナス・プロダクションズは、株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスの子会社として、『ファイナルファンタジーXV』シリーズの開発メンバーが中心となり発足したゲーム開発会社で、現在は完全新規ゲームタイトルの制作などを行っています。半ば、業界標準となっているミドルウェアではなく、自前の開発ツール「Luminous Engine(ルミナス・エンジン)」を使用するなど、他社とは一線を画すスタイルは業界の注目を浴びています。
今回は、同社を率いるスタジオヘッドの荒牧岳志氏をはじめ、キャラクターアーティストの後藤智彦氏、アニメーターの茂木美那氏に、ルミナス・プロダクションズでの仕事や求められる能力について聞きました。
新しいゲーム体験を届ける「ルミナス・エンジン」
写真 上:荒牧岳志さん
下/左:後藤智彦さん 下/右:茂木美那さん
――優れたミドルウェア(エンジン)が世にある中、あえて独自のエンジンを作られた理由を教えてください。
荒牧
私たちが作りたいゲームは、開発環境から作る必要があると考えています。オープンワールドを作るには、多くのツールやデータ管理のしくみが必要になりますし、高度なアクションを作るには、キャラクターやモーションをコントロールするしくみが必要になります。ただ単にマップを歩いてカットシーンを再生するだけであれば、ほかのツールでもいいかもしれませんが、私たちがお客様に届けたいゲームは、新しいゲーム体験です。
――Unreal EngineやUnityとは、何が大きく異なるのでしょう?
荒牧
ルミナス・エンジンは、ワークフローはもちろん、イテレーション(※1)設計当時からこだわりを持って作成しています。開発チームが大きくなると、作業を複数人で分割して行うことになりますが、複数人が効率良く作業する環境や、アーティストやゲームデザイナーが一人でゲームを試作するための機能などもあります。
プリレンダーのレンダリングソフトとの相性も良く、リアルタイム用のアセットデータをレンダリングして確認することも、その逆もできます。また、技術面においても、レイトレース(※2)や4K、HDRといった最新機能を率先して導入しています。※1 作業工程をまとめ、短期間に繰り返す開発手法のこと。
※2 光源や視点をもとに3DCGのレンダリングを行うこと。
――ルミナス・エンジンが優れているところは何ですか?
後藤
作業中に困ったり、使いにくい部分があったりしたとき、エンジンを作った人が社内にいるので相談するとすぐに対応してもらえるのが強いですね。さらに、我々が使っていて気付いたことも日々反映されていくので、どんどん使い勝手が良くなっています。他社のエンジンでの開発につまずいてしまった方でも、ルミナス・エンジンではスムーズに制作を行えた例がいくつもあるくらいです。そのくらい使い勝手のいいエンジンであると思います。快適な開発環境をどんどん作っていけることは、自社開発ならではの強みでしょう。
現在開発中のタイトルはオープンワールドの完全新規作
――ルミナス・プロダクションズが現在開発しているタイトルを教えてください。
荒牧
次世代機に向けて、完全新規のオープンワールドなAAAゲームを開発しています。これまでのスクウェア・エニックスのタイトルのように、ワールドワイドで展開する予定です。この作品以外にも、複数のラインが走っています。
――そのタイトルの詳細はまだ発表できない…ですよね。ですが、開発にはルミナス・エンジンが使われていると思います。これからプロジェクトに参加される人は、入社して初めてルミナス・エンジンにさわることになりますが、他社のエンジンでの経験は活きるのでしょうか?
後藤
ゲームを作る上で必要な知識や基本的な概念はほかのエンジンと変わらないので、ずっと違うエンジンを使っていた人でも大丈夫です。今まで(他社のエンジンで)培ってきた技術は、すぐにルミナス・エンジンで活かすことができます。 ルミナス・エンジンは、ノードベースでシーケンス(※3)を組んで何かを作り上げる方式で、他社のエンジンでも使用されているものとその概念はいっしょですから、ルミナス・エンジンだから作り方が難しいとか、覚え直すのに時間が必要ということはないでしょう。ほかのエンジンでの開発経験があれば、問題なく使いこなせると思います。
※3 時間軸(シーケンス)にノード(オブジェクトやイベント、サウンドや演出など)を配置すること。
――新規タイトルの開発で、やりがいやおもしろさを感じたり、こだわっていたりする部分を教えてもらえますか?
後藤
私は、今までシリーズものに関わることが多かったので、今までのデザインの方向性や、決められたゲームデザインなどをいかに残しつつ、新しくすることを常に考えながら作ってきました。今回の新規タイトルでは、自分たちが「イチから作っていく」という部分を意識しています。新しいものを土台から作ることに対するモチベーションはとても高いです。職種に関係なくチーム皆でデザインやゲーム性から関わっていけるところに楽しさを感じています。
ゲーム開発の経験が豊富なメンバーも多く、特定のシリーズタイトルにずっと携わっていたりすると、凝り固まった脳になっているケースもあります。そうなると、今までの枠に囚われた考え方をしてしまい新しいものを創るのが非常に難しいのですが、経験豊富なメンバーだからこそ、その枠から出た時のアイディアの「尖り方」にはとても驚かされますね。そうした瞬間に立ち会うと、「経験があるからこその飛躍」であるということをすごく感じます。そうして生まれたアイディアを元にゲームを作り上げて、世に出たときのことを考えると、ものすごくワクワクしますね。
――他部門の人に自分の制作物の意見を求めるのでしょうか?
後藤
そういうことが多いですね。みんなでひとつのものを作ろうという意識がすごく強いので。自分が担当しているところをそれぞれが尖らせるだけではなく、みんなで意見を出し合って作っていく。弊社のメンバーは、その意識がすごく強いと思います。
「もっと良くなるのであればライティングを変えてみよう」「このモデルにはこういうアニメーションでどうだろう」という感じで、みんなが意見を言ってくれます。
――トライアルアンドエラーを繰り返す作り方ですと、制作時間が心配になります。
後藤
そうですね。もちろん闇雲に時間をかけているわけではなく、成果に見合った時間の使い方をしている感じですね。やはり充分に繰り返さないと品質が下がり、結果として自分たちもユーザーも望んでいないものになってしまうので、そこは事前にしっかりと進めています。もちろん、みんなの意見がすぐ一致して、一発で決まることもありますよ。
茂木
弊社では、指示された仕事をする、決められたものを作るのではなく、「何を作るか?」というところから決められますし、そこにきちんと時間をかけるための環境を用意しています。決定事項を伝えられるのではなく、みんなできちんと意見を出し合って決定していく環境なので楽しいですよ。
開発環境でいえば、会社全体でみても、定期的に全体の動きや各プロジェクトの進捗は共有されるようになっています。つまり、ほかのプロジェクトのメンバーも、今どのチームが何をやっているのかを知っているくらい透明化されていますね。
作り手自身が楽しむことが新しいゲームにつながる
――作品に最新技術を積極的に取り込むこともルミナス・プロダクションズの特徴ですが、習熟するまでの時間などを考えるとクリエイターにとって大変ではありませんか?
荒牧
先日リリースした、リアルタイムレイトレース(※4)の技術デモ「BackStage」もそうですが、新しいチャレンジをしながら作品を作っていくことを、弊社のクリエイターは大いに楽しんでいます。ゲームにおいても、お客様にワクワクしてもらえる要素を作るのは大変なこともありますが、作り手自身が楽しんでおり、とてもやりがいを感じますね。
次世代のハードウェアになって表現力が上がったとしても、新しい要素がゲームに入っていないとお客様は満足しないと考えています。それは技術に限らず、アートやゲームデザインも含まれます。常に新しいことにチャレンジして、新しいゲームを生み出していきたいです。※4 光線を追跡して、あるポイントにおける対象の反射や屈折といった処理をリアルタイムで行うこと。
――作り手として、ゲームで目指している表現はどのようなものですか?
後藤
ビジュアルとして格好いいものや、きれいなものだけを提供するのではなく、ゲームの中で遊んでいるときにキャラクターがどう見えるのか、操作していて気持ちの良い動作に見せる為にはどうしたらよいかなどを意識して作っています。例えば人物の手や足は実際には伸びたり関節が逆に曲がったりしませんが、ユーザーがキャラクターを操作して気持ち良く、躍動感を感じられるよう誇張して表現したりしています。これによりキャラクターを自然に感じ、操作に没入できる絵創りができるよう目指しています。
――アニメーションにおいて目指している表現はありますか?
茂木
ゲームではキャラクターを背後から見る絵が多いので、あまり同じ絵が続かないようにすることが大事だと考えています。 例えばジャンプという動作に対し、普通にアニメーションをつけると、キャラクターはとても自然なジャンプを行います。ところが、ずっと後ろから見ている場合、構図の変化や動きがなければ、単に動いているだけのちょっとつまらない絵になってしまうことが多い。ですから、キャラクターが普通より大きく動いたり、何かアイコンになるような部分があったりすることが、特に大事であると感じています。
映像(ムービーシーン)であれば、カメラがいろいろと動くことでキャラクターの心情がわかりますが、キャラクター操作時のようにカメラがあまり動いていないときも、キャラクターの動作がはっきりわかる動き(アニメーション)が求められます。
――今まで仕事を続けてきて、「クリエイターをしていて良かった」という経験はありますか?
後藤
『ファイナルファンタジーXV』では、ヒロインのルーナ(ルナフレーナ・ノックス・フルーレ)をはじめ、女性キャラをおもに担当していました。このルーナというキャラクターは、髪の毛をヘアアーティストさんにマネキンを使用してヘアメイクをするところから作ってもらい、それをムービーデータにして、さらに実機データにするという作業工程で作られました。私は最後の実機データを担当していましたが、その制作技術を公開した際、ユーザーの皆さんにとても評価いただけたことを嬉しく思いました。
――ユーザーの好意的な反応はとてもうれしいですよね。アニメーションでは、良かった経験はありますか?
茂木
ゲームのアニメーションはMayaで作っていますが、そこで作ったものをゲームでもきちんと再生するには、ルミナス・エンジン上でもきれいに出るようにしなければいけません。ですから、Mayaだけでモーションを作るのではなく、半分はルミナス・エンジンで作業することになります。でも、私はこの会社に入ってからゲームエンジンの勉強を始めたので、まだわからないことが多いんです。Mayaではきれいなアニメーションになっているのに、ルミナス・エンジンではちゃんと再生されない。
そういうことが起きたら、すぐにプログラマーとディスカッションをして、意図どおりに再生されるために必要な技術を聞くようにしています。その結果、私の表現したかったモーションが、ゲーム上できれいに出たときはやっていて良かったと感じます。
――プログラマーさんとのコミュニケーションが結果につながる。
茂木
そうですね。プログラマーへの相談は日常茶飯事です。何かがうまくいかなかったとき、アニメーターである私たちはプログラマーに相談をして、原因を探る、検証をするという流れは、当たり前の光景といいますか、それなしではできないという感じですね。
ゲームを好きなだけでなく、遊ぶことを楽しめる人が重要
――新規タイトルの開発チームに加わる人に、求めるものは何ですか?
後藤
意見はすごく分かれると思いますが、日頃からゲームが好きで、触れている人に集まっていただきたいと思っています。やはり、実際にゲームを遊んでいないと良し悪しがわからないことがありますし、担当していないパートについて意見を求められることもよくあります。そういう場面でたくさんのアイディアや避けるべき事などを意見する方はゲームがすごく好きで、日頃からいろいろなゲームをプレイしている方が多いです。仕事を忘れて、遊びは遊びとして、純粋にゲームを楽しめる人がいいと思います。
――アニメーターとして求める能力はありますか?
茂木
ゲームに限らず、遊ぶことを楽しめることは大切だと思います。私たちは皆様を楽しませるものを作っているので、自分たちが楽しまないといいものはできません。
もうひとつ挙げるとしたら、コミュニケーションがとれる人ですね。「こういうものが作りたい」「こういうことがしたい」という場面において、きちんとコミュニケーションがとれないと、何にもつながらないと思っています。ですから、自分の思ったことを周りの人と共有できたり、行き詰った時は率先的に解決策を見つけに周りとディスカッションできたりすることは、とても大切だと思っています。
円滑な仕事を支える仕事外のコミュニケーション
――仕事以外のコミュニケーションもありますか?
茂木
私たちのアニメーションチームは、週に1回、みんなでランチに行く曜日を決めています。こうした、仕事以外の場でコミュニケーションをとる機会も豊富だと思います。
また、社内にさまざまなサークルがありまして、ボウリングやビリヤードをやっているメンバーもいます。運動が苦手な人たちは、ボードゲームを持ち寄って遊んだりしています。所属するプロジェクトの枠を超えて集まる感じです。弊社は海外のアーティストも多く所属していますが、彼らもすごく自然に参加しています。
――仕事につながる勉強会などにも参加しやすい環境ですか?
後藤
セミナーなどの情報もコミュニケーションのツールで共有されますので、「これに行きたい」というものがあったら申請することができます。参加した後は持ち帰った情報やノウハウを共有する形となります。勉強会などには、積極的に参加するメンバーは多いですね。
新しい情報を入れることは、制作物に良い影響を与えたり、成果につながったりします。そして、それは本人だけではなく、全体の向上にもつながりますから、どんどん新しいものを吸収して、情報を入れていくことは大切です。
ルミナス・プロダクションズが目指す場所と求める人材とは?
――最後に、ルミナス・プロダクションズが目指す未来を教えてください。
荒牧
ゲームの開発期間は延びる傾向にあり、規模も昔に比べるとかなり大きくなって、開発難度も上がってきています。まずは、しっかりゲームを作っていける環境を作りつつ、私たちならではの要素を増やしていこうと思っています。
まだ発表していないことも多く、いろいろなことに内部で挑戦しながら開発している段階です。お客様をびっくりさせるような作品を作り、最終的に「ルミナス・プロダクションズが作ったゲームだから遊んでみたい」と期待される会社になりたいですね。
――これから応募される方へ、メッセージもお願いします。
後藤
自分が得意な部分だけでなく、本当にいろいろなことにチャレンジできるプロダクションであると思います。私もキャラクターモデルを十数年作ってきましたが、それ以外の作業を担当したり、プロジェクトマネージャーやアートディレクターという役割も経験しました。今もモデルの制作だけでなく、グラフィックのディレクションを行っています。自分から率先して作りたい方にどんどん集まってもらい、いっしょに楽しいゲームを作ってユーザーに届けていけたらうれしいですね。
茂木
弊社では、まさにこれからが楽しくなるタイミングだと思っています。何か新しいことにチャレンジしたいという方は、本当におもしろい体験ができると思います。「これができない」などとは考えず、興味を持ってくださった方にはまずご応募いただいて、ルミナス・プロダクションズがどういう会社かということを、面接などを通じて感じてほしいです。とにかくすごく「人がいい会社」であるということは、すぐに感じてもらえると思います。
- 株式会社Luminous Productions 荒牧岳志/スタジオヘッド
- 2002年、株式会社スクウェア(現・株式会社スクウェア・エニックス)に入社。『ファイナルファンタジーXV』およびゲームエンジン「ルミナス・エンジン」のリードプログラマーを務め、『ファイナルファンタジーXV WINDOWS EDITION』ではディレクターを務めた。2018年12月に株式会社ルミナス・プロダクションズのスタジオヘッドに就任。
- 株式会社Luminous Productions 後藤智彦/キャラクターアーティスト
- CGの勉強をするために、まずはパソコンショップで働くところからスタート。その後、独学でMayaを学び、CG制作会社を経て株式会社スクウェア・エニックスに転職。『クライシスコア ファイナルファンタジーⅦ』『The 3rd Birthday』などでキャラクターモデルディレクターを担当し、『ファイナルファンタジーXV』ではメインキャラクターのキャラクターアーティストを務めた。同作のPC版で開発マネージャーとモデルリードを兼任。現在は新規AAAタイトルを制作中。
- 株式会社Luminous Productions 茂木美那/アニメーター
- アメリカに留学中にデザインを専攻、帰国後にCGを学んで制作会社へ。2016年から株式会社スクウェア・エニックスでの業務に携わり、『ファイナルファンタジーXV』『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』にアニメーターとして参加。その際に関わった人や社内の雰囲気に惹かれ、2018年6月に株式会社ルミナス・プロダクションズに転職した。現在は、新規AAAタイトルのインゲームアニメーションを担当している。