2022.04.02

「なぜ、恐竜は巨大化したのか」に“迫る”かもしれない驚きの「極秘研究」を大公開する

植田 和貴 プロフィール

“柔らかなもの”は恐竜のコラーゲンではないか?

辻極さんは今回骨から出てきた“タンパク質らしきもの”が本当にタンパク質であるなら、その正体は骨の主成分である“あのタンパク質”に違いないないだろう、と睨んでいた。それは「コラーゲン」。

もし本当に恐竜のコラーゲンを抽出できたなら、単に「化石から恐竜のタンパク質を取り出せた」という単純なニュースでは終わらないと言う。なぜならコラーゲンは“骨を成長させ頑丈にする”という役割だけでなく、発生や成長の段階でも重要な役割を果たしているタンパク質だからだ。

そのため、もし恐竜のコラーゲンの成分(アミノ酸配列)が分かれば、巨大化の秘密(種類によっては30mを超えて巨大化する)など、これまで長く研究者を悩ませてきた「恐竜だけが成し遂げた進化の謎」を一気に解明できるかもしれないのだ。

辻極さんは「恐竜が圧倒的に巨大化できた秘密は、恐竜の体を作っていたコラーゲンにも関係があったと思っている」と語る。そのためコラーゲンにアクセスできれば恐竜にまつわる数々の謎を生理学的な視点から迫っていくことができると期待しているのだ。

千葉さんも「恐竜化石の研究は長い歴史があるが、基本は骨の外部形態、“形から情報を引き出すこと”を終始やってきた。しかし引き出せる情報にどうしても限界がある。もしコラーゲンのデータが加われば、恐竜に関するデータが膨大に増えることになり、例えばそれぞれの恐竜の分類や進化、何を食べていたのか等が今までよりも精度良く分かる可能性がある」と期待を膨らませた。そして3人は近く、その真偽を確かめるある重要な実験を行う予定だ、と教えてくれたのだ。

 

超重要実験! 初の電気泳動実験に立ち会う!

東京に戻り、「ダーウィンが来た!」の足立泰啓プロデューサーに今回の取材成果を報告した。「面白い!ダーウィン向きの話題になるか分からないが、とにかく何かの番組にはなりそう。追跡取材をしよう」と、撮影のゴーサインが出た。

そして最初の取材から1ヵ月ほどたった2020年7月22日。この日、辻極さんたちが取り出した“柔らかなもの”の正体に迫る重要な実験が行われることになった。私たち撮影クルーも「他言無用。まずは記録として撮影させてもらう。放送のタイミングはこの先、先生達の状況を鑑みながら相談し進めていく」という約束で、その場に立ち会うことを許された。

辻極さんたちが行うのは電気泳動と呼ばれる実験。一般にはなじみのない実験だが、この方法を使うと、試料にバンドと呼ばれる線が沢山現れる。このバンドの位置からタンパク質の種類を特定できるありがたい実験だと言う。

例えばネズミの骨での実験結果を見ると、コラーゲン(I型)であれば、ある特定の場所に二本のバンドが出ると言う。そのため「恐竜化石から取り出したもの」でも電気泳動で“ネズミの骨の時と同じ場所に二本のバンドが出れば、恐竜のコラーゲンを抽出できた可能性が高まる”と考えているのだ。

辻極さんたちにとってこの日が史上初めての実験。辻極さんは実験室にある机を何回も移動させてみたりし、落ち着きがないのは明らかだった。実験に立ち会った千葉さんも「メチャクチャ重要な日。古生物学が抱えている問題を解消する大きなブレイクスルーになるかもしれない」と期待を語った。

実験に挑む3人/NHK提供

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