極秘研究の正体は
千葉さんが紹介してくれたのは2人の研究者。實吉玄貴(さねよし もとたか)博士と、この研究の中心に立つ辻極秀次(つじぎわ ひでつぐ)博士だった。實吉さんは地層を調べ、恐竜の生息した古環境を調べている地質学者。私が2017年にモンゴル・ゴビ砂漠に行って恐竜化石発掘の様子をロケした時に、発掘隊のメンバーにいらっしゃった方だった。一方の辻極さんは全くの初対面。しかも古生物学者でも地質学者でもなく専門は人間の骨だという。組織学が専門で、骨の再生について研究しているとのことだった。
3人が進める極秘プロジェクトは自分の予想の範囲をはるかに超えたものだった。目的は「化石から恐竜の有機物を抽出する」こと。あの映画「ジュラシック・パーク」で琥珀に閉じ込められた虫から恐竜のDNAを取り出したように、化石から恐竜の有機物を取り出すというのだ。
きっかけは、ある時、辻極さんが、研究仲間から手渡されたモンゴルの化石のコンディションを見たことだったという。
「僕にはそれが石に思えなかった。僕が今までやってきた動物の骨とよく似ていて、だから、今まで使ってきた研究手法がこの恐竜の化石の骨に使えるのではないかと思った」(辻極さん)
ここで皆さんに、前提として知っておいてもらいたいことがある。恐竜学の常識でいうと恐竜の化石はそもそも「骨ではない」という点だ。「恐竜の骨の化石」は長い年月をかけて「従来の骨の成分が石に置き換わったもの」つまり、「骨の形をした石」なのだ。
その前提でいうとモンゴルの恐竜化石には奇妙な特徴があった。白っぽいものが多く、「死んで間もない動物の骨」と見分けがつかないものが多いというのだ。実際、これには私自身にも思い当たる点があった。
2017年夏、岡山理科大学の発掘隊に同行し、モンゴル・ゴビ砂漠で恐竜化石発掘の様子を撮影した時のことだ。
砂漠には、たくさん恐竜化石が転がっていたが、「自分も何かお宝を見つけたい」と思い、目ぼしいものを拾っては研究者に見せていた。すると「これは形から恐竜」、「こちらは形から羊」などと言われ、自分が化石と見立てて拾い上げたものに恐竜と今の動物の骨が混在していたのだ。私が素人だからという点は置いておけば、辻極さんの印象の通り、確かにモンゴルの恐竜化石は現生動物の骨の質感とよく似ており、形以外での判別がつきにくい傾向があるのだ。そんな経験が自身にもあったから、辻極さんの直感はすぐに合点がいくところがあった。