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コロナ禍における女性の就労の実態に迫ります(写真:mits/PIXTA) © 東洋経済オンライン コロナ禍における女性の就労の実態に迫ります(写真:mits/PIXTA)

コロナ禍は「女性不況」と呼ばれるほど女性に深刻な影響を与えています。女性の非正規労働者は2021年11月で1415万人と、コロナの感染拡大前の2019年11月より68万人減少。路上に出たり炊き出しの列に並んだりする女性もなお目立ちます。また働く女性を中心に、2020年の女性の自殺者数も前年比で15%増えました。

ところが、女性の失業率は男性を下回り続けるなど打撃の大きさは表面化しておらず、「沈黙の雇用危機」の様相を示しています。いったいどういうことなのか。

貧困や非正規雇用の問題を報じてきたジャーナリストの竹信三恵子さんは、「働く女性の訴えを抑え込んでいく『社会の装置』がある」と言います。その「装置」の実態について、竹信さんが女性の働く現場からさぐっていきます。

コロナ禍では大量の女性たちが雇用を失い、女性への「就労支援」がようやく労働政策として掲げられはじめた。ただ、そこでは、就労してもすぐ退職に追い込まれ、「ベルトの上を回り続ける回転ずし」のように求職活動を続ける女性たちの現実が欠けている。

 背景にあるのは、不安定・低賃金の「半雇用」が多数を占める女性の労働市場であり、子育て無視の働かせ方であり、パワハラやDVなど、そうした構造への疑問を抑え込む「装置」としての女性への暴力だ。

休業手当を受給しても収入は激減

 西日本の地方都市に住む清水ちづる(仮名)は2016年、高校を卒業後、アパレル企業の店舗で正社員の販売担当として働いてきた。だが、コロナの感染拡大による2020年4月の緊急事態宣言で、店は休業となった。

 額面で月20万円程度の賃金だった清水に、休業手当は月8万円しか来なかった。休業手当は労働基準法で「休業前の平均賃金の6割」と規定されているが、実質4割程度しか支給されない仕組みだからだ。

 1カ月後に店は再開したものの、時短営業で賃金は月12万円に落ちた。生活費が足りなくなり、転職先を求めて出向いたハローワークで、コロナの影響を受けやすい販売ではなく物流会社の事務はどうかと助言された。パートだったが契約更新ができ、週5日勤務、手取り月18万円という条件に引かれ、2020年10月、再就職をはたした。

 だが、この会社も長引くコロナ禍でイベントや行事の激減に見舞われ、倉庫の利用度が大幅に減り始めた。シフトを減らされ、手取りは月14万円~11万円程度に落ち込んだ。

 1人暮らしの家賃と光熱費、食費に加え、地方では必需品の車のローンとガソリン代、さらに携帯電話代などを払うと、毎月赤字になった。親やきょうだいから食料を送ってもらってしのぎつつ、再びハローワークに通った。だが、女性を対象にした求人に、生活できる賃金の仕事はほとんどなかった。

 1年近く求職活動を続け、清水は2022年春、ようやく手取り月17万円の大手企業のシステム入力の仕事を見つけたが、待遇は不安定な派遣社員だ。「女性の事務はいま派遣社員しかみつからない。選択の余地はない」と清水は話す。

 2021年8月の野村総合研究所の調査(20歳から59歳の2060人対象)では、転職先を探すパート・アルバイト女性は3割に及び、うち約4人に1人が6カ月以上求職活動をするなど、求職活動の長期化が目立つ。

 (外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

「ベルトの上で回り続けているだけの回転ずしのよう」

 そんな中、2020年12月に公表された厚労省の雇用政策研究会報告書は、コロナ禍に直撃された女性非正規を「円滑な労働移動」によって支えることを目指し、次のような対策を打ち出している。

 「マザーズハローワーク等における子育て中の女性等を対象とした担当者制による職業相談・職業紹介等の支援に加え、子育て中の女性等が仕事と家庭の両立を図りやすいテレワークが可能な求人といったように、女性求職者の様々なニーズを踏まえた求人開拓を行う等、早期再就職を支援することで、不本意な非労働力人口化を防止」

 だが、コロナ前から非正規比率が5割を超えていた女性の労働市場では、「円滑な労働移動」ができたとしても、清水の例のように移動先は非正規となる確率が高い。

 にもかかわらず、「正社員化」の件数引き上げを求められ、ハローワークによっては「週20時間を越えた仕事に就けば正規就職」「ハローワークのいくつかの部署に重複登録した求職者が1つの企業に正規就職したら登録部署ごとに1人達成とする」といったカウント方法まで出ている。

 そうしたなかで聞かれるのは「努力して就職を達成しても非正規で雇い止めされやすく、すぐ舞い戻ってくる」という就職相談員の嘆きだ。

 なかでも目立つのは、パワハラによる逆戻りだ。夫のDVや上司のセクハラ、親の女の子軽視教育などの暴力に慣れ、パワハラされても自分を責めて対抗できない女性は多い。その結果、黙って退職してはハローワークへ、を繰り返す。「ベルトの上を回り続けているだけで一向に仕事にたどりつけない回転ずしみたい、と言う女性は多い」と、ある相談員は言う

 首都圏に住む40代の下川ちさと(仮名)も、そんな1人だ。専業主婦だった11年前、夫から離婚を求められ、パートや生活保護を支えに2人の子どもを育ててきた。2019年冬、知人の紹介で生命保険会社の営業として正社員就職した。仕事に慣れない3カ月間は税込みで16万円保障すると言われ、生活保護も抜け出せた。だが、その3カ月後、コロナ禍が始まった。

 4月の緊急事態宣言で1カ月の自宅待機となったが、賃金はその間も支給された。だが、仕事が再開するとパワハラが始まった。賃金保障の期間がすぎて顧客獲得ノルマが厳しくなり、それを達成できなかった。親戚や知人を必死で勧誘したが、それも尽きた。査定が下がり、手取りは月13万円に落ちこんだ。

 辞める同僚たちも目立った。補充のため、「採用デー」とされた日にコロナ失業の女性たちをハローワークなどの前で待ち受け、正社員に誘う当番もあった。たくさんの女性が正社員として採用され、そのなかで営業能力のある女性たちは残り、それ以外は周囲を保険に加入させて辞める。コロナ禍に女性の正社員が増えたという統計があるが、その一端を垣間見た思いだった。

 パワハラによるうつと生活費の不足で、下川は退職し、知人やハローワークの紹介で、コンビニや介護施設の調理など、短期契約の仕事を転々として、コロナ禍をしのいだ。どの職場も非正規が大半で、長時間労働やノルマ負担が重く、日常化するパワハラに、下川は、体調を崩し、退職に追い込まれては、ハローワークに駆け込んだ。

 「親に圧迫され、結婚後は夫から精神的なDVに遭い、何をされても自分がダメだからだと責める習慣がついていた。ハローワークの相談員のおかげで、それがパワハラと気づいた。その相談員の女性も非常勤で、3年で雇い止め。回転ずしですね」と下川は言う。

職業訓練や資格取得でも生活できる仕事につながらず

 政府は「円滑な労働移動の支援」に向け、非正規労働者への民間派遣会社を通じたトレーニングなどにも「人材投資」パッケージとして予算をつけている。だが、そうした職業訓練や資格取得が生活できる仕事につながるための土壌も用意されていない。

 首都圏に住む橋本一江(仮名)は50代。外資系企業の正社員だったが、大手企業に勤める夫と結婚し、「うちの会社では妻が働き続けるのは前例がない」と言われ、専業主婦になった。その後、経済的自立を図りたいと通信制の大学に入り、国家資格の社会福祉士や精神保健福祉士など3つの資格を取った。

 やがて夫と離婚し、資格を生かして再就職しようとした。だが、福祉の仕事の受け皿はほとんどが非正規の公務職だった。そのひとつ、自治体の相談事業にパートの会計年度任用職員として就職し、コロナ禍の2021年春、雇い止めになった。

 ハローワークに通い詰めたが、コロナ禍で求人は減り、1年たっても仕事は見つからず、「訪問ヘルパーなら就職口はある」と言われた。福祉は女性の低賃金を想定して仕組みができている、その結果、高度な福祉資格が逆に女性の就職の壁になっている、と思った。

 これまで就いていた会計年度任用職員なら、仕事がないわけではなかった。だが、「もう嫌だ」という思いが先に立った。

 そこでは、専門性が尊重されず、正規職員の昼食を買いに行くなどの雑用を引き受けさせられた。相談者から暴言やセクハラめいた電話がかかってきても、非正規は守ってもらえなかった。「ワークライフバランス」を合言葉に正規は土日に休み、その穴を埋める非正規は、週末出勤となった。

 「2級市民みたいな思いはもうしたくない。資格を女性の就労に結び付けたいなら、まず行政から、女性が多い福祉などの公的な分野での資格者に、安定雇用と生活できる賃金を保障する必要がある」と、橋本は言う。

 こうした土壌の改革なしでは、就職相談員も安心して支援できず、ハローワークは機能できない。ここでは「派遣会社の訓練」も、業界の増益には貢献するが、女性たちの安定雇用は保障しない。実際、訓練後も非正規しか見つからず、とりあえず「ウチで派遣になっては」と「就労支援」された末、派遣契約を打ち切られて困窮した例もある。

使い捨て的な「半雇用」が多い

 橋本も下川同様、職場のゆがみを感じながら、口にできずに来た。夫からのDVなどによって自信を失い、職場での仕打ちはパワハラではなく自分に問題があるせいと思い込んできたからだ。それを指摘できるようになったのは、当事者の立場からDV被害者を支えるプログラムに参加してからだ。

 女性の労働市場は、非正規など、使い捨て的な「半雇用」が多く、正規でも似たような低待遇は少なくない。こうした職場では、パワハラやセクハラ被害も多い。

 また、子育て中の女性は、コロナ禍で休校や保育園の休園がいつ来るかわからず、企業に気を遣って求職活動をあきらめてしまう例もある。公的職業訓練も、休まずに来ることが原則とされているため、「子どもの感染で休むかもしれないと思うと受講をためらう」という声も聞いた。

 橋本が参加するプログラムを主催する「エープラス」の吉祥眞佐緒・代表によると、暴力に遭った女性たちは、相手に服従して自分を責める態度に慣らされ、そんな悪条件の改善を求める声を飲み込んでしまいがちだ。同時に、被害女性たちは人権侵害には人一倍敏感で傷つきやすい。その結果、心が折れて自主退職に追い込まれる。

 働き続けるには、就労支援や労働相談にDV対応の学習プログラムを入れ、女性たち自身が対抗力をつけることが必要という。

 半雇用、DV被害、子育ての壁。これらの狭間で行き悩む女性たちに対し、「労働移動」の達成度を競うばかりの手法は、むしろ危うい。安定雇用を原則とする労働市場改革、女性や子どもを支える専門職の経済的自立策、DVなどの暴力への対抗研修といった、女性たちの現実に根差した根本的な就労支援策が問われている。

(文中敬称略)

第1回:「夫セーフティネット」崩壊が突きつける過酷現実

第2回:夜の街で働く女性襲う「個人事業主扱い」横行の罠

第3回:妊娠した技能実習生に「官製マタハラ」の冷酷現実

第4回:コロナ禍で社会支える「非正規公務員」悲惨な待遇

第5回:「女の仕事と軽視」保育士語るコロナ禍の異常労働

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