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「お疲れ様でした。いっつも撮影ありがとうございまーす」
スタッフ達にねぎらいの言葉をかけながら、かずさがパンパンと二回手を叩く。
それを合図に横に控えるキアラが顎を突き出し、眉間にシワを寄せて笑顔を造る。スタッフ達は曖昧に乾いた愛想笑いをし、それがキアラの羞恥心と惨めさをさらに刺激する。

明らかにかずさの傀儡と化したキアラに、スタッフ達は哀れみの視線を投げた。かずさももはやキアラを甚振っている事を周囲に隠さないようになり、キアラを貶める事は完全にスタッフ公認の行為となった。
「キアラ。撮影開始前はちゃんと皆さんにご挨拶しなさい」
「えっへへへ……よろしくおねがいしゃーっす」
数ヵ月前とは180度変わったキアラの性格も、もはやスタッフ達の間に定着していた。元々のキアラの凛とした態度や振る舞いは皆の記憶から薄れていき、かずさにイジられてへらへらするばかりの太鼓持ちという印象が強くなっていた。

キアラはたまに数ヵ月前の自分を思い出し、歯がゆさと惨めさに打ちひしがれそうになる。スタッフ達が自分を見る目も今とは全然違い、敬意と尊重があった。売れっ子モデルの卵として優雅に振舞う自分。そんな自分にスタッフ達が頭を下げ、丁寧にメイクを施しお世辞を言い、キアラを中心とした撮影の現場で皆が奔走する。
今やかずさがいない現場では半分放置され、半笑いでキョロキョロとスタッフの顔色を窺っている自分を、当時の自分は想像すらできなかっただろう。


キアラにとって何より辛いのは、同業者に今の姿を見られることだった。
狭い業界、同ランクで顔見知り程度のモデル達と廊下でたびたびすれ違う機会がある。
最近ではキアラ単独の仕事は減り、かずさに引き連れられてスタジオに来ることが多い。そのためかずさと自分、そしてモデル仲間の三者で顔を合わせる機会が増えた。
「かずささん。キアラさん。こんにちは」
「あ、レイさんお疲れ様です。キアラ。ご挨拶しなさい」
「こ、こんちゃ～っす……どうもレイさん、最近ご活躍っすね。えへへ……」
頭をポリポリかきながら卑屈な笑顔でお世辞を言うキアラの姿を見て、かつてキアラに一目置いていたモデル仲間は苦笑いとともに立ち去っていく。
かずさの手によってモデル業界におけるキアラの面子は完全に潰され、かつてのライバルたちも皆今や手の届かない雲の上の存在である。自分一人が地に堕ちる惨めさを、キアラは存分に噛み締めていた。


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