4回目接種は、オミクロンに有効なのか? 「中和抗体の量」という落とし穴!?

感染対策の基本も守ることが大切
宮坂 昌之 プロフィール

中和抗体の量だけで、効果が決まるわけではない

忽那先生はこれまでワクチン接種を推奨する積極的な情報発信を続けてこられたので、随分と弱気になっているように見受けられます。確かに、オミクロンについてワクチンの感染予防効果が落ちていることはそのとおりなのですが、私の見方は少し異なります。

これは最新刊『新型コロナの不安に答える』でも繰り返し書いてきたことですが、ワクチンの予防効果は、感染を阻害する中和抗体の量だけで決まるわけではありません。ウイルス防御にはB細胞が作る中和抗体だけではなく、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、T細胞などの活躍も必要で、いずれもワクチン接種によって十分に活性化されます。

残念なことに、日本のマスコミはこのことをよく理解しておらず、中和抗体の減少だけを取り上げて、「ワクチン効果が短命かもしれない」という報道をしばしば流しています。忽那先生はこの点はよくご存知なのですが、いささか中和抗体の量にこだわりすぎているように感じます。

確かに、中和抗体は感染の初期防御には大事なのですが、T細胞を主体とする細胞性免疫が感染の中期から後期にかけて働きます。そして、T細胞の場合、3回目接種までで反応性細胞の数が増え、メモリーも出来ているので、ワクチンとしてもっとも大事な重症化阻止に中心的役割を果たします。したがって、中和抗体の量だけではコロナに対する「免疫力」は判断できないのです。

もちろん、中和抗体が多ければ感染防御に役立ちますが、最低どのぐらいの値がないといけないのか、個人差があって、未だに決まっていません。ですから、中和抗体量だけを見てワクチンの効果を判定するのは無理があります。

各種データと比較してみる

イスラエルでは4回目接種を受けた人においてオミクロンに対する感染予防の有効率は11%と大きく下がっているように見えます。しかし、対照群と4回接種群ともにわずか100人ぐらいでの調査であり、イスラエルはあまり感染対策ができていず、オミクロン大流行している中での調査ですので、ワクチンの感染予防に関する有効率がかなり過小に評価されている可能性があります。

一方、ファイザーが3月15日に出した4回目接種のデータでは(会社発表なので、若干引いてみないといけませんが)、60歳以上の高齢者では、3回目接種者に比べて感染者が半減し、重症者は4分の1でした。つまり、それなりの効果が見られています。

【写真】新型コロナオミクロン系統の電鍵像SARS-CoV-2 B.1.1.529(オミクロン)系統(SARS-CoV-2 Variant of Concern, Lineage B.1.1.529, Omicron)の電子顕微鏡写真 photo by National Institute of Infectious Diseases, Japan)

これも『新型コロナの不安に答える』にも書いたことですが、感染予防効果は絶対的な指標ではなく、調査実施時期や調査実施地域での感染状況によって大きく変動します。感染爆発を起こして、膨大な量のウイルスが飛散している状況では、必然的にワクチンの感染予防効果は低下します。反対に社会のなかの感染者数が少なくなければ、ワクチン予防効果はあがります。

たとえばデルタ株の感染予防効果は、2021年7月のイスラエルの調査では64%でしたが、第5波を封じ込めた日本の場合は、2021年8月に、国立感染症研究所が、発熱熱などの症状で関東の7医療機関を受診した1353人を対象に調査を実施したところ、ワクチンを2回接種した人の予防効果は87%でした。マスク着用などの感染予防策が徹底しているところであれば、ワクチンの予防効果は高いレベルを維持できるのです。

確かに、mRNAワクチンの場合、オミクロンに対する効果が下がっていて、特に感染予防効果においてその低下度が顕著ですが、一方で重症化に対しては相変わらずよく抑えてくれるので、私は次世代ワクチンが出て来るまでは当面、使えると判断しています(=忽那先生ほど弱気ではありません)。

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